葉隠透の奇妙なアカデミア   作:ピーカブー

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障害物競走に出よう03

 

 障害物競走第二関門のスタート地点の崖の上で立ち尽くしていた者達がゴール地点から突如して生えた巨大な氷壁を仰ぎ見る。

「んだよ、あの威力」

「爆豪一人くらい落とせよなぁ~」

「綱渡りじゃ俺の個性使えねぇッ!」

 上鳴は氷壁を、峰田は空中を飛ぶ爆豪の背中を、切島は目の前のロープをそれぞれ見ている。

 上鳴電気は夢想する。ハンサムな俺は突如反撃のアイディアをひらめく。

 峰田実は妄想する。人望豊かなオイラのもとに仲間が来て助けてくれる。

 切島鋭児郎は前を見る。追いつけない。現実は非情である。

 言葉はどうあれ、心は同じ。トップまでが、遠い。

 3人とほぼ同着で第二関門まで来ていた物間は後ろを振り返って佇み、塩崎は手を組んで祈るように目を閉じている。鉄哲は切島と同じことを叫んでいた。

 

『さぁ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!』

 プレゼントマイクの実況にトップとの差をひしひしと感じていた。

 

「先行かせてもらうぜ」

 彼らの横を伸びていく白いテープが一番近い崖に張り付き、テープを巻き取りながら瀬呂が飛び出した。

「ダークシャドウ」

「アイヨ!」

 さらに瀬呂の後ろからダークシャドウと共に常闇が飛び出した。

 

『現在4位! 瀬呂範太、個性テープ! 肘からセロハンテープ的なものを射出! 5位常闇踏陰! 個性、ダークシャドウ! 伸縮自在で実体化する影っぽいモンスター!』

 

「空飛ぶの禁止だぞ!」

「オイラも連れてけ~」

 上鳴と峰田の野次が飛ぶ。切島は誰にも気付かれぬままロープの上を這いずって進み始めていた。

 塩崎が目を開き、組んでいた手を解いて走り出した。茨の髪が彼女の足よりも長く伸び始め、ロープに巻き付いていく。まともに歩くことすらままならない細いロープが太く、幅広く、より頑丈に、その上を走っても問題ないほどの橋へと姿を変え、塩崎茨が駆け抜ける。駆け抜けながら茨で手すりを作っていく親切設計だ。

 当然、橋は彼女が走り抜けても残ったまま。

「お? おおッ!」

「茨ちゃーん、今度デートしてくれぇ~!」

「この橋はB組のものだから君達は通らせないよぉぉぉッ!」

「俺今だけB組」

「オイラも今だけB組」

 胸を張りすぎて背中が折れそうに見えるほどのけ反って高笑いをする物間に上鳴と峰田が泣きついている。

 

『妨害上等、蹴落とし大歓迎だってのに! 塩崎茨ッ! 後続のために道を作ったァッ! まさにヒーロー! まさしくヒーロー! 強く、気高く、美しい茨姫! 聞こえるかこの大歓声がッ!? 担任のブラドキングが男泣きに泣いてるぜぇッ!』

『上鳴、峰田、お前ら』

 

「ひっ」

「ひーっ」

 静かに怒る担任の声に上鳴と峰田が物間から手を離し、別のロープの上を這いずった。

 

『イレイザーヘッドがイライライザーヘッドになっちまったァッ』

『つまんねーこと言うな』

『後続妨害で度肝を抜いたトップ3、塩崎の爪の垢を煎じて飲めぇッ!』

 

「クソガァァァァァッ!」

 俺は何もしてねぇだろうが! という叫びが空へと消えた。

 爆豪もまた第二関門を越え、轟の背中を追う。

 

 空を行く爆豪の下では透が爆笑しながら最後のロープを渡り切り、足を止めて振り返った。

 自分に集まる視線に微かな笑みを返しながら、右手を挙げ、しゃがみ込みながら地面に向かって振り下ろした。

 

「またかよッ!?」

 瀬呂がこれから見えなくなってしまうであろう数多の崖の位置を覚えようとした。

 ダークシャドウとともに飛行を続ける常闇は高度を上げた。

 塩崎はさらに速度を上げて走り続ける。

『1位轟早くも最終関門ッ! かくしてその実態は……一面地雷原ッ! 怒りのアフガンだッ!』

 プレゼントマイクの実況に透の拳が地面に触れる直前で止まった。

 ほんの少しだけ顔を上げ、プレゼントマイクの実況に耳を澄ましている。

『地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ! 目と脚酷使しろッ!』

 しゃがみ込んでいた透が立ち上がり、ゆっくりとサングラスに触れた。

 地面を殴りつけようとする前よりも楽しそうな笑顔を浮かべている。

 見た者の顔を青褪めさせる笑顔だ。

「葉隠を止めろォォォッ!」

 峰田の叫びよりも瀬呂が肘から射出したテープは速く、それ以上に塩崎の伸ばしたツルが速い。だがサングラスを指で弾き上げ軽やかなバックステップで後ろへ下がる透の方が速かった。

 テープとツルが空を切る。

 背景に溶け込むように透の姿が消えた。

 

「やべぇってコレ!? どうすんよ!?」

 射出したテープを戻しながら瀬呂が頭を抱えた。

 

 

 テープとツルを紙一重で躱していた透が最終関門のスタート地点まで来たところで透明化を解除した。

「ちょっとぉっ、難易度低すぎるんじゃあなぁ~い?」

 地雷原に足を踏み入れること一歩、足が触れた場所を中心に地面が消えていく。

 おおよそ1mくらいの深さまで地面が消え、当然のことのように埋まっていた地雷も消えた。

 さらにもう一歩、消えていく地面の蹴って小さく小刻みな軽いステップを踏みながら透が進む。彼女自身が境界線であるかのように、前には地面と埋まった地雷が確かに見え、彼女の後ろ側は地面も地雷も透明になり見えなくなっていた。

 

『どうせやると思ってたぜッ! 葉隠透2度目の大迷惑ッ! よく見りゃわかるようになってた地雷原が消えちまったァッ!』

『効果的で合理的だ』

『ヒーローとしちゃあどうかと思うぜ……とか言ってる間に後続も最終関門にたどり着き始めてるぞッ! 足止めちまってるがなッ!』

 

「葉隠君ッ! 君という人はッ!」

 大げさに腕をカクカク動かしながら叫んでいるのは飯田天哉。個性のエンジンを生かしてロープ上を滑走しいつの間にやら順位を上げてきた男。今はヒーローらしからぬ透の行動にわなわな震えている。

 飯田の隣には瀬呂、さらに隣に透の背中をじっと見てぶつぶつ呟いている峰田も最終関門のスタート地点で動けずに立ち尽くしている。瀬呂がいつの間に来てたんだという顔で峰田を見ていた。

 彼らの前を行く透が振り返った。

「私の個性じゃあ障害物競走は不利だからねっ! ハンデ10mもらうよっ!」

 そう透が言い捨てた直後、彼らの前に地面が現れ始めた。

 透が遠ざかるのと同じ速さで透明だったはずの地面が見えるようになってきていた。

「ぬぅッ! 確かに葉隠君の個性は本来こういうことには役に立たないハズ!」

「いや騙されんなって」

 瀬呂が呆れた顔で飯田の肩を叩いた。

「漢らしくねェなッ! 葉隠の奴ッ! ったく、俺がやってやるぜッ!」

 拳を鳴らした切島が気合の雄叫びとともに地雷原へと足を踏み入れ、一歩目で地雷を踏み抜いた。

「何見えてる地雷踏んでんだよォォォッ!?」

 スタート地点から既に3m程度は地面が見えているにも関わらず、爆発した切島を心配した鉄哲が叫ぶ。

 爆発時の閃光が消えた後、土埃の中に人影が見える。

 

 爆破に耐え、膝下まで地面に片足を突っ込んで立っている漢の後ろ姿だ。

「俺が道作っから付いて来いよォォォッ!」

 さらにもう一歩あえて地雷を踏み抜きながら切島がゆっくりと進み始めた。

『ド根性切島ァッ! 漢の中の漢! 言い忘れてたがァッ! 地雷は威力は大したことねぇが音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

『人によるだろ』

 それは先に言っとけよ、と瀬呂が呟いた。 

 

 恐る恐る地雷を避けて足を踏み出した瀬呂と飯田の間を細長い緑色の紐のような何かが通り抜けた。

 それは紛れもなく、植物のツル。

「B組の女子……?」

「彼女は……何を?」

「散れぇ~」

 前方に伸びていくツルに気を取られた二人の背中に峰田の呟きが届き、瀬呂は左へ、飯田は右へと跳んだ。

 ツルは地面に向かって突き刺さり、一瞬前まで瀬呂と飯田のいた場所の前で爆発した。

 爆風に煽られ体勢を崩すも持ち直した二人が呆然と爆発した場所を見る。

「ここに来て妨害とは……ッ!?」

 後ろを振り返った飯田の顔が硬直した。

 短距離走のフォームで疾走する塩崎茨が目に入る。止まる気など一切ない走り方だと飯田天哉は理解した。

 彼女の髪が前方へと伸び、飯田の背後から爆発音が鳴り響く。

 塩崎茨が駆け抜けていく姿を目で追いながらコースの先へと飯田の視線が戻る。

「かっこよすぎだろッ」

 瀬呂の言葉に飯田が大きく頷いた。

 前方に伸ばしたツルで見えない地雷を爆破させ、走り去っていく塩崎茨の後ろに道が出来ていた。

『ヒーローとはァァァッ! 斯くあるべしィッ! 後続に道を作る優しさが映えるッ! 塩崎茨ッ! スパートかけてきたァッ!』

 

「俺は知ってたぜ」

 綱渡りを終えた上鳴が塩崎の作った道を走っていく。

 塩崎の背中に見惚れる瀬呂に親指を立てて。

 

 後方から鳴り響く爆発音に透が振り返る。

 後ろとの差が少しずつ詰まってきている。

 でもまだ追いつかれない。

 余裕があるこの辺でもう一手、前の2人を足止めしたい。

 先頭2人は地雷原残り30mくらい。

 爆豪君が轟君に追いつきそうな今がチャンス。

 手の届かない空を飛んで行けば1位は確実なのにわざわざ轟君に近づいている今がッ!

 

「てめェ! 宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよッ!」

 

『ここで先頭が変わったッ! 喜べマスメディア! おまえら好みの展開だァァッ!』 

 

 真横からの爆発を躱した轟が爆豪の腕を掴んで凍らせる。爆豪の手が轟の顔へと伸ばされる。

 地雷原を走りながら小競り合いを始めた後ろで透は二人の足元を見ている。

「ここだァッ!」

 轟と爆豪の足が地面から離れた瞬間を狙って発動した地面の透明化。

 小競り合いの中でも一瞬で地雷のない場所を探し出し走り続けていた二人の視線が消えた地面へ向き、浮いた足がなすすべもなく地に付いた。

 カチリ、と軽いスイッチを押したような音が二人の足の下から聞こえた。

「ッ!?」

「クソガァッ!」

 地雷の爆風に二人揃って飛ばされた。

『アァァァッ! 先頭2人がブッ飛ばされたァァァッ!』

『流石に立て直しが早いな』

 

 空中で姿勢を整え睨みつけてくる爆豪と、飛ばされた先の地面を地雷ごと凍らせて睨みつけてくる轟の顔に透が冷や汗を垂らす。

「うっそ~ん、全然追いつけないしっ!」

 しかも後ろの茨ちゃんには追いつかれそうだしっ!

 

 地雷原を走り続ける透を待ち構えるように爆豪と轟は動かない。

 だが次の瞬間、全員が視線を切って地雷原の入り口付近に目を向けた。

 地雷原後方で発生した大爆発に目を奪われた。

 

『後方で大爆発ッ! なんだあの威力ッ!? 偶然か故意かA組緑谷爆風で猛追ィィッ!?』

 

 そして、一枚の板に張り付いて頭上を超えてブッ飛んでいく緑谷に目を奪われていた。

 

『つーか抜いたァァァァッ!』

 爆豪が緑谷を追い、轟は地雷を凍らせ氷の道を作って走り出す。

「デクッ! 俺の前を行くんじゃねぇッ!」

「後ろ気にしてる場合じゃねぇッ」

 

『元・先頭の2人足の引っ張り合いを止め緑谷を追う! 共通の敵が現れれば人は争いを止める! 争いはなくならないがなッ!』

『何言ってんだお前』

 

 透は足を止め、右手を前に伸ばし、地雷原の先を指差していた。

「発想力しか取り柄のない私を軽々超えるその発想力は一番厄介……ここでリタイヤしてもらうよっ、緑谷君ッ」

 右手を握り込み大きく振り抜いた。

 透の右手の先から地面が透明になり始めた。透明になっていく地面の上を走っていく爆豪と轟の2人の姿も、地雷原の左右にあった柵も全て消えた。

 

 失速し始めたロボットの装甲の上にしがみ付いていた緑谷出久が絶句する。

 感じたのは恐怖、人間として誰もが生まれつき持つ根源的な恐怖に背筋が凍る。

 着地考えてなかったけどッ!

 地面が消えて着地のタイミングも分からないッ!

 周りの景色もかっちゃん達も消えて目印がないッ!?

 このまま落ちたら僕は――ッ!

 装甲を握る手に力が籠る。

 恐怖に耐えるように目を閉じて歯を食いしばる。

 

「緑谷ァァァッ! 板だッ!」

 

 自分を呼ぶ叫び声に振り返る。

 必死の形相で叫んでいるのは今日一番頼りになる男だ。誰よりも早く透の企みに気付き止めようとした頼りになる男、そして緑谷出久にとっては共にUSJでの危機を乗り越えた友人、峰田実が叫んでいた。

「板を振り下ろせぇッ!」

 峰田の声に緑谷が動く。彼の言う通りに装甲と繋がる太い配線を握り、振り下ろした。

 いくつもの地雷のスイッチが入った音がした。

 自分をブッ飛ばす爆風を背中に浴びて緑谷が前へと飛んで行く。

 

「マジか……」

 緑谷が地雷原を抜けて転がっていくのを透が唖然とした顔で見ていた。

 ため息を吐いて、前方の透明化を解除すれば緑谷が起爆した地雷の土埃の中から爆豪と轟が飛び出していた。

 

「ありがとう峰田君ッ!」

 転がった勢いのまま走り出した緑谷が振り返って叫ぶ。

「轟と爆豪が勝つくらいならお前を勝たせるぜぇ~ッ! イケメンなんかくたばっちまえってんだァァァッ!」

 峰田実、心の叫びだった。

「それ逆に緑谷さんに失礼では?」

 地雷原を進み始めていた八百万が振り返って呆れて呟く。

 続々と第二関門を越えた者達が地雷原に足を踏み入れていた。

 

『緑谷ァァァッ! なんと地雷原即クリア! イレイザーヘッドおまえのクラスすげぇな! どういう教育してんだ!?』

『俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ点け合ってんだろう』

『いや教育が必要な奴何人かいるだろ。なんとかなったからいいようなものを緑谷あのまま落ちてたら結構危なかったぜ』

『個性使えば問題ねぇはずだ』

『そう! その個性の紹介といきたいがァッ! なんと緑谷ッ! ここまで個性使ってねぇってよッ! シヴィィィッ! 序盤の展開から誰がこの結末を予想できたァァァッ!? 今一番にスタジアムに還ってきたその男ォッ! 緑谷出久の存在をォォォォォォッ!』

 

 超満員のスタジアムが大歓声で緑谷を迎え入れる。

 緑谷はスタジアムの中央で目尻に涙を浮かべながらオールマイトに向かいガッツポーズしていた。

 

『そしてェッ! 2位轟焦凍ォッ! 3位爆豪勝己ィッ! 続々とゴールイン! 順位などは後でまとめるからとりあえずお疲れ! あれっ? その後ろが入ってこねぇな』

『なにやってんだ?』

 そしてスクリーンに最終関門が映し出される。

 地雷原を突破した透と塩崎の2人が走りながら殴り合いを繰り広げる姿が。

『キャットファイトォッ!? 4位争いの2人が壮絶な殴り合いだァッ!』

『なにやってんだ……』

 

 殴る手が痛い、と透が笑う。茨の髪に防がれるせいで殴った手の方が痛いのだ。

 呼吸が乱れる腹部への打撃だけは辛うじて躱し、捌きながらゴールを目指して走り続けるが、当然普通に走るよりも遥かに遅い歩みだ。

 事実後ろから、気合と根性で地雷原を突破した切島と鉄哲が迫っていた。

 

「強すぎだしっ!」

「ここまで出来るとは」

 殴り合いながら透が視線を切り、少しだけ笑う。楽しそうな顔を見て塩崎がため息を吐く。

 なんとなく、何をしようとしているのか分かってきた、その事実に堕落したような気分になる。でも気持ちは分かるのだ。

 二人の拳がぶつかりあって一歩ずつ離れて睨み合う。

 後ろから聞こえる二人分の足音にタイミングを計って、振りかぶった拳を打ち出す。これも同時だ。

 二人の拳はぶつかることなくすり抜け――

「邪魔すんなっての!」

「そういうことですので」

「「は?」」

 ――透の拳は塩崎の後ろを走り抜けようとしていた鉄哲の顔に、塩崎の拳は透の後ろを走り抜けようとしていた切島の顔に吸い込まれた。

 拳に気付いた瞬間の顔に噴き出しそうになった塩崎が口を結ぶ。透は爆笑中だ。

 

『アアアアアアァッ!? ド根性コンビ殴り飛ばされたァッ!? ウケるー!』

 

 切島を殴り飛ばした塩崎がさっきの続きと言わんばかりに透に飛び掛かり拳を振り抜く。

 爆笑中だった透が足元でピクピク痙攣している鉄哲の首根っこを掴んで持ち上げた。

「塩崎ィッ!? 俺だよ俺ッ!」

 顔面に向かってくる拳に鉄哲が焦った顔で叫び、顔の目の前で拳が止まったことに安堵のため息を吐く。

 

『塩崎流石にクラスメートは殴れないッ!』

 

 直後、投げ捨てられるように首根っこを掴んでいた手が離れ、透の拳が塩崎へと打ち出された。

「葉隠ッ! 俺だよ俺ッ!」

 塩崎のツルに引っ張られた切島が透と塩崎の間に割り込むように入ってきて叫んでいた。そして青褪めている。

「知ってるよっ!」

「切島ァァァァッ!?」

 透の拳が止まることなく切島を殴り飛ばした。鉄哲の叫び声が木霊した。

 

『こっちは気にせず殴り飛ばしたァァッ!? 4位争いを邪魔する奴はクラスメートでも気にしねぇってか!?』

『……はぁ』

 

 飛んで行く切島を見ていた塩崎が視線を戻して透に殴りかかる。

「アアアッ! 待て待て塩崎ィッ! 俺だってッ!」

 またもや透に首根っこを掴まれ盾にされた鉄哲が叫ぶ。

 叫びながらも顔は青褪めている。

 迫る拳を前に鉄哲は考える。

 見えちまったんだよお前の顔が。

 切島がブッ飛ばされたときのお前の顔、目を丸くして笑ってたっつーか。

 あっ、殴って良いんだ、っつー顔してなかったか?

 クラスが認める聖人君子も、こんな生き生きした年相応の顔すんのかよ。

 あぁッ、止まるわけねェよなそりゃ!

 

『2度目は止まらないィィッ! 鉄哲ブッ飛ばされたァァァッ! ブラドキングが魂抜けた顔してんぞォッ!』

『……はぁ』

 

 ド根性コンビを殴り飛ばした2人が走り出す。

 スタジアムまで一直線の道、殴り合うこともなくゴール目指してひた走る。

 

 いや今の下りなんだったんだよ、と骨抜が倒れ伏す鉄哲を気にしながら先へ進む。知らず速度を緩めていたのは前の2人と関わりたくないという内心の現れだった。

 もしやそれが狙いだったのでは、と柔軟な思考力が冴えていた。

 

 単純な脚力では若干透が有利。波紋を使っている分単純な脚力ではないのだが。

 このまま走れば私の勝ちだけど、なにも仕掛けてこないのが気になるっ。

 スタジアムまで繋がるゲート残り半分で塩崎がツルを伸ばし壁へと突き刺した。

 顔を傾け伸びてきたツルを躱した透が焦る。

 ツルの張力を生かして自身を弾丸のように前へと飛ばす塩崎を横目に見れば爽やかな笑顔を浮かべていた。

「やられたッ!」

 

『4位塩崎茨ッ! 5位葉隠透ッ!』

 

 スタジアム中央で大きく息を吐き、振り返って微かな笑みを浮かべた塩崎茨の姿がスタジアムに映し出される。

 次に、やや遅れてスタジアムに走り込んできた葉隠透の姿が。

 大歓声というよりはややざわざわした戸惑いの篭った歓声と揃わない拍手に迎えられながら透は走り、膝に手を当てて息を整えている塩崎を抱えてさらに走る。

「……え?」 

 どんぐり眼が見開かれ、透に抱えられて着いたのはスタジアムの観客席前、カメラが並ぶマスメディア席の前だ。

「さっ、ポーズの時間だよっ」

 透の手が離れ、横を向いた塩崎が見たものは、奇妙なポーズでマスメディアから焚かれるフラッシュを浴び続ける透の姿だった。

「…………え? 私も……?」

「当然でしょっ」

 戸惑いつつ透と同じように顔の上下をピースサインで挟んで上体を捻りながら反らしていく塩崎にマイクが向けられた。

 

『ゴールそのままマスメディアの前で写真撮影会ッ!? インタビューまで始まったァッ!? トップ3そっちのけで何やってんだよッ!?』

『メディア意識の差だな。無理してやることもないぞ、まだ予選だしな』

『6位骨抜柔造ッ! 余裕あるんならインタビュー受けてこいよッ』

 

 ゴールした骨抜が困った顔で手招きしている塩崎に半笑いを返してマスメディア席へと歩き始めた。

 透がいい笑顔で緑谷、轟、爆豪を手招きしているが誰も近づかなかった。

 

 そして、その頃スタジアムの外では――。

「放せッ切島ッ!」

「ここまで来たら一蓮托生ッ! ゴールするぜッ!」

 

 切島鋭児郎が鉄哲徹鐵に肩を貸しながらスタジアムを目指して進んでいた。

 スクリーンに映し出された熱い友情に主審のミッドナイトが鼻血を垂らす顔がワイプで抜かれていた。

 

→To Be Continued ...

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