葉隠透の奇妙なアカデミア   作:ピーカブー

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入学試験を受けに行こう02

「ドジャ~ン! 私登場、準備OK」

 

 実技試験会場にバスが着き、ゲートの前でやや大きめの独り言と共に奇妙なポーズをする少女――葉隠透だ。

 足を前後に大きく開き、上体を目一杯反らし、左腕は右わき腹へ伸ばし、右腕は後頭部から左側頭部を守るように。とりあえず、とてつもなく奇妙なポーズだった。

 

「なんだあのポーズ」

「何故倒れない……?」

「朝見かけたときと違う」

「相当鍛えられているな。不安定極まりない姿勢なのにぴくりとも動かない。体幹がしっかり鍛えられている証拠だ」

 

 透から距離を取りながらフィジカル論評を続ける受験生の姿を見て、心操人使は透からなるべく離れるようにゲートの前に陣取ることにした。

 

 ほどなくして、ゲートの上から掘削ヒーロー・パワーローダーが姿を現した。

 

「実技試験スタート」

 

 受験生達がパワーローダーを見上げながら唖然とする中、走り出した一人の少女。

 今さっきまで前衛彫刻のような恰好でポーズを取っていた、葉隠透だ。

 

「おっさきぃ~」

 

 走りながら両目を覆い隠すゴーグルのようなサングラスを指で弾き、頭の上に載せた瞬間。

 サングラスを起点に長い髪とドーランを塗りたくったような白い顔が透明になり、次いで首に巻いたマフラーと上半身、そしてスカートからタイツの履いた脚が消え、最後に地面を蹴って跳ねるように前へと進んでいくスニーカーが、消えた。

 

 透にとって突然現れたパワーローダーからのスタートの合図など慌てるほどのことではない。あの程度のことに引っかかるようでは狸爺と一緒に暮らすことなど出来なかったのだ。今でこそ少し耄碌しつつあるとは言え、若い頃から騙し騙される世界で大体騙す側に回っていたジョセフ・ジョースターが育ての親なのだ。

 

 そもそもスタンド使い同士のバトルにおいては騙される側に回った時点で負け。

 

 おじいちゃんは私をその辺りの特殊ないざこざに巻き込まないようにしていたけれど、根本的な心構えだけはしっかりと教えてくれたのだと思う。教える方法が祖父と孫のギャンブルで孫のお小遣いを巻き上げるという形だったのは今でもいつかぶっ飛ばしてやろうと思ってるけど。

 

「ラッキー、ワンチャンあった」

 

 電源が落ちて潰れるように倒れた1ポイントロボの上から飛び降りた透が呟いた。

 

 幸運、それは、ロボに非常停止ボタンが付いていたこと!

 そして、サーモセンサーが付いていなかったこと!

 

 これはスタンドとか使わなくてもいけそうだ、と笑顔を浮かべた。

 

 攻略法が分かれば、あとは数を稼ぐだけ――!

 

 順調にロボの電源を落としていた透だったが試験時間残り3分30秒を切ったとき、血相変えた心操人使がビル街の奥から走ってきたのを見て足を止めた。

 

「全員ここから離れろ! 0ポイントヴィランだ!」

 

 心操人使は必死で叫んでいた。

 だが誰も彼の言葉に耳を貸そうとしなかった。

 

 彼がそれを見つけたのは偶然だった。

 試験早々、1ポイントロボに手こずり勝つことも逃げることも出来ず試験を棄権しようと思ったそのとき、突如伸びていた茨がロボをずたずたに引き裂いた。

 助かったと安堵すると同時に俺は何も出来ないんだと思い知らされた。

 

「助かった」

「構いませんよ」

 

 そんな言葉で今日一の苦労人達は別れた。

 その後、心操人使はヴィランロボのいない方いない方へと移動を続け、見つけてしまった。

 立ち上がればビルよりも巨大であろうロボットの姿を。

 見た瞬間に確信した、こいつが0ポイントのロボットだ、と。

 そして、勝てるわけがない、と。 

 

「心操君! 何を見た……?」

「ビルよりでかいロボットがいる! 動き出す前に離れろ!」

「クレイジーだねぇ」

「いいから逃げろ! 葉隠だけじゃねぇ! 全員ここから離れろ!」

 

 透が困ったように頭を掻いて空を見上げた。。

 

「もうちょっと早く言って欲しかったよ~ん……出てきちゃったみたい」

 

 心操人使が振り返って見たもの、そして彼の言葉を本気にしていなかった周囲の受験生が見たもの、それは心操人使の言葉通り、周りに立つビルよりも巨大なロボットの姿だった――!

 

 漂う諦めムード、逃げようとする受験生達、溜息を吐いてから拳を握り込みロボットを見上げる葉隠透、誰も気づかない状況でまたも心操人使が一人だけ気付いた。

 立ち上がった巨大ロボが壊したビルに巻き込まれ、瓦礫に埋もれた誰かの姿を。

 

「が、瓦礫の下に誰かいるぞぉー! 誰でもいいから早く助けろぉっ!」

 

 心操人使の絶叫に返されるのは醒めた視線だった。

 

 なんで俺が。

 試験中なのにそんなことやってられるか。

 関係ないし。

 そもそもお前が助けろや。

 

「やれやれだわ。心操君、手を貸して」

 

 透が首を振る横で心操人使が目を見開いた。

 使うとしたら今、ここだ、と覚悟を決めた。

 間違いなく強個性、その自負があった。だが何一つ役に立たなかった。

 だが今なら!

 

「あぁ、そうかい……ハッキリと今分かったぜ。てめぇらにヒーローの資格はない、助けられるのに助けねぇ奴らがヒーローになれるわけがねぇ! さっさと失せろ!」

 

 心操人使のあまりの物言いに怒号が飛び交う。

 自分に言い返してきた人数を確認して心操人使が口の端を吊り上げた。

 

「やってやるぜ! どこにいる!?」

「そこまで言われて引き下がる男はいない」

「オイラだって!」

 

「全員拒否権はねぇんだ。【早く助けろ】」

 

 心操人使の言葉を聞いた瞬間に周りにいた全員の目から光が消え、統率の取れた動きで人が下敷きになっているであろう瓦礫へと向かい始めた。

 

「葉隠も行けよ」

「…………」

 

 状況を一目見て心操人使の個性にあたりをつけた透は親指を上げて答えた。

 

 救助自体はものの数秒、増強系個性持ちが瓦礫を持ち上げてすぐに終わった。全国から集まった受験生、個性の質も高く、協力さえ出来ればそう難しいものではなかった。

 最後は瓦礫の隙間から伸びてきた茨の蔦を心操人使と葉隠透が掴んで引っ張り出した。

 

「ありがとう」

「俺は何もやってない」

「やってたよねぇ? 照れてるぅ?」

「話聞こえてましたから」

「借りは返した」

「忘れてるなら言っとくけどぉ、巨大ロボ行進中ですよぉ? 3ブロックくらい先にいるの見えてますよねぇ? ラブコメなら余所でやってくれる? ただし、私の見えるところで」

「はぁ……こいつら逃がすか」

「ちょっと待って、あのロボぶっ飛ばしたい奴だけ残してくれる?」

「はぁ? 正気か?」

 

 心操人使は葉隠透を見てため息を吐いた。

 正気かどうかは分からないが、とりあえず本気なのは見て分かった。

 

「【0ポイントロボに勝ちたい奴だけ残れ、他は安全なところまで逃げたら洗脳は勝手に解けろ】」

「残ったのは、チャラ男系、頭がボールだらけの子、地味な黒髪、小賢しそうな金髪」

「私もいます」

「俺は役に立たないけど、最後まで見届けるさ、とりあえず【洗脳解除】」

 

 目に光が戻り数回瞬きをした後で洗脳が解けた4人が首を傾げた。

 

「助けてくれてありがとうございます」

「女子だっ!」

「オイラは峰田実! LINEのID教えてくれー」

「んー?」

「おかしいねぇ、いつの間に助けたんだろう?」

「喜ぶのは後にして。あのデカブツぶっ飛ばすから力を貸して、私も貸すよ」

「おいおいおいおい、分かってるのかい? 巨大ロボは0ポイントだ、倒しても意味がないんだ。まさか算数も出来ないおめでたい頭ってわけじゃあないよな」

 

 小賢しそうな金髪があざけるような口調で葉隠透を指さした。

 透がぷっと噴き出した。

 偽悪的な振る舞いだが、そう言っている本人もデカブツを倒したい気持ちがあることを透達は知っているのだ。

 

「倒してもポイントにはならない、だから倒さなくていい。そう思ってくれるの? 本当にさ。倒せないから逃げた、そう思うんじゃないの? そう見えるんじゃないの? 気に入らない、気に入らないのよねぇ、そういう雄英高校の性根みたいなモンがさぁ。どっかからここを見てるヒーロー達がさぁ、『あぁ、あいつらは勝てない相手から逃げるような奴らなんだ』ってそう思われちまうのが気に入らない! だから、あのデカブツはぶっ飛ばす!」

 

 突然口調が荒くなった透に心操人使と塩崎茨が少しだけ驚いていた。そしてちょっと引いていた。

 透からすればどちらかというとこっちが素だった。

 杜王町では時代錯誤なリーゼントを貫く元不良の家で暮らしていたのだから、口調の一つや二つくらい移るというものだ。

 大体にして日本語の日常会話は東方家に居候中に覚えたようなもの、口調くらい荒くもなるというものだ。

 

「気に入った! 手を貸そう! 物間寧人だ」

「いいぜ! 熱くなってきたじゃんよー。俺は上鳴電気」

「切島鋭次郎だ。倒すのは賛成だが、どうやってたお……ぶっ飛ばす?」

 

 即席パーティーは葉隠透、心操人使、塩崎茨、上鳴電気、切島鋭次郎、峰田実、物間寧人の7人。

 心操人使が全員の顔を見回して何度か頷いていた。

 

「心操君、何か思いついた?」

 

 葉隠透の問いに心操人使が腕を組んだ。

 

「あぁ、勝てる」

 

 必死でヴィランロボから逃げ回ってて良かった、と心操人使は思った。

 逃げ続けて見てきたものはきっと無駄ではなかったと。

 良い動きするライバル達は自然と目に入っていた。

 だから、今ここにいる良い動きをしていた者達の個性を、俺は知っている――!

 どうせ元々俺が受かることは決してない試験だったのだ。

 だがここに来て見えてきた、勝利への道が――!

 

 勝ったところでポイントにならないのはちょっと締まらないけど。

 

→To Be Continued ...

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