葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
開始と同時に走り出した騎馬は葉隠チームと鉄哲チームの2騎。どちらも1000万ポイントの緑谷チームに向かっている。
「実質1000万の争奪戦だッ!」
「はっはっは、緑谷くんッ! いっただくよーッ!」
「行くぞッ! 緑谷ッ!」
前のめりに塩崎の頭を掴んでバランスを取っている透とやる気に満ち溢れた顔で走る尾白に対して塩崎と心操は俯いてぶつぶつ話し合っている。
心操の顔は既に青い、足はもたついていて塩崎と尾白に半ば引きずられている様子だ。
「いきなりの襲来とはな……追われし者の宿命、選択しろ緑谷ッ! 葉隠に取られたら取り返すのは骨が折れるぞッ!」
「……サダメ……」
「……センタク……」
「もちろん逃げの一手ッ!」
凛々しい顔で緑谷が叫ぶ。
スタート直後から透の下でぶつぶつ話し合っていた二人はというと。
「……心操君?」
「……残り715」
「それで……?」
「お前らが殴り飛ばした奴と女子4人組」
「委員長と殴り飛ばしたって……どちらですか?」
「切島じゃない方」
じゃない方呼ばわりに塩崎が噴き出し、足を止めた。
突然止まった騎馬に前のめりだった透が慌てる。
「あーっ、落ちる落ちるッ!?」
「っと!」
「頭掴まれると痛いのですが」
「掴んでる私の方が痛いからねっ!」
「A組は脳筋の集まりかよ」
心操が息も荒く呟いた。
頭上を越えて飛んで行く緑谷チームを見ながら脳筋よりサポートアイテムの方が性に合ってたな、なんてことを考えていた。
「飛んだ!? サポート科のか! 追えェッ……って、切島じゃない方って俺かよォォッ!?」
液体化された地面から飛び上がって包囲網を抜け出した緑谷チームを見上げていた鉄哲が叫んでいた。
個性とキャラが被っていることは自覚していたが切島じゃない方呼ばわりされて思わずといった顔をしていた。
「鉄哲と、私って……ッ!? まさかあいつらッ!」
女子4人組と呼ばれた騎馬の騎手、拳藤はスクリーンを見上げた。各騎馬のポイント数を確認しつつ葉隠チームの狙いに思い至たり冷や汗を垂らした。
「普通科の彼がウラメシい。個性が分からないし頭もなかなか」
「あれっ!? ハチマキ取られてないッ!?」
「えっ? いつの間にィッ!?」
「……見た目程馬鹿じゃないね、茨の頭掴んでたのは最初から」
柳は心操を、小森はハチマキのない拳藤の額を見ていた。そして取蔭は目を細めながら透を見ていた。
「アァァァッ!? 俺のハチマキがねぇッ!?」
額を叩いてハチマキがないことに気付いた鉄哲がまたもや叫んでいた。
「……塩崎に取られたか」
「蔓に気付かないわけねぇよ……ってそうか!」
「中近距離操作可能な蔓と透明化。戦いにくい相手だ」
骨抜の言葉に泡瀬と庄田が気付いた。
やや遅れて鉄哲もまた、気付いた。
「塩崎ィッ! 殴られたことはゴール後の写真撮影で許したがコレは許さねぇッ!」
「あれで許したのか……?」
第一種目の障害物競走のゴール後、塩崎に一言だけ謝られ一緒にマスメディアから写真を撮られていた鉄哲の姿を思い出していた骨抜が呆れていた。
鉄哲チームと拳藤チームから離れるようにステージ外周付近まで下がっていた葉隠チーム、前騎馬の塩崎が顔を上げた。
口元には微かな笑みを浮かべて。
「取りましたよ」
「私には見えてるから大丈夫ッ!」
透が空中に腕を突き出し、見えない何かを握り締めた。
そして姿を現す2本のハチマキ、鉄哲チームの540ポイントと拳藤チーム210ポイントの2本だ。
ハチマキの端の方に塩崎の蔓が見え始めた。
鉄哲チームの面々も拳藤チームの面々もハチマキに巻き付いた蔓が見えるようになるまでもなく気付いていた。
当然だ。
透明化という個性が使えたら誰だってそうする、俺だって、私だってそうする、そんな顔をしていた。
「茨ちゃんと私のコンビってかなりヤバくなぁ~い?」
「隠れろ葉隠!」
「任せときなって」
「いつになったら頭から手離してもらえます?」
「……え? えっ? ついていけないんだけど……どういうこと……? 塩崎さんの頭掴んでたのって……」
きょろきょろと仲間の顔を順繰りに見ている尾白の疑問符を浮かべた声とともに、騎馬の姿が消えた。
『開始20秒で葉隠チームハチマキ2本奪取ッ! そのまま騎馬ごと透明化ってオイッ!』
『……合理的だな』
『え? なにが?』
『決勝進出は4組、騎馬が限られている以上、決勝進出可能なポイント数のボーダーがある』
『緑谷チーム以外で合計……3990ポイント! なるほどなァッ! 1330ポイントがボーダーってわけかッ!』
『違うが』
『えっ、違うの!?』
「違うの!?」
透明になった誰かが叫んでいた。
「……違うってよ、心操君?」
「切島じゃない方だけで十分だ。もう一組はおまけだ」
透明になってひそひそ話していたが、当然周囲にも聞こえていた。
「おまけェッ!?」
拳藤が巨大な拳を振り上げて叫んでいた。
「……おまけじゃないよ、ダメ押しという奴だっ、たぶん。へっへーん、茨ちゃんのコントールがもっと上手ければ全員のポイント取れたもんねーっ! 見えないけどあっかんべーっだ!」
「私のせいにしないでもらえます?」
「煽りが子供だ」
「黙って隠れろよ」
『と、とにかく! 葉隠チーム既にボーダー超えの1365ポイント! たぶん超えてるだろ! でもってガン逃げ態勢バッチリだッ! 2位から4位狙いってのも悪くはねぇがクソつまらねーな! ……で、ボーダーって何ポイントなの? ねぇ?』
『はぁ、いいから実況しとけ』
「あいつらァッ!」
「1000万ポイント取れば関係ないって」
「塩崎達に比べれば緑谷チームはウラメシくない」
「きのこまみれにすればどこにいるか分かるよ? 湿気少ないから育たないかもタケど」
巨大化した拳を振り回し悔しさを隠さない拳藤を騎馬の面々が宥めていた。
「何が何でも1000万取るぞッ!」
「結局やること変わらないわけね」
騎馬の上で拳をカチ鳴らし気合を入れなおす鉄哲と騎手が単純な性格で良かったという顔をしている泡瀬。
「何故俺達のチームだったのか気になる……ボーダー超えが可能な組み合わせは他にもあったはずだ」
「塩崎さんがA組の個性を知らなかっただけでは」
「それはあるだろう。でもひょっとするといるんじゃないか……透明人間を探せる個性持ちがA組に。だから狙わなかったんじゃないか……?」
そして、読みの鋭さが冴える骨抜と庄田が怪訝な顔で周囲を見回していた。
「ったく、どいつもこいつもじゃない方じゃない方言いやがってよォッ!」
一方その頃、1000万ポイント保持者の緑谷チームはというと。
「何!? 取れへん!」
「峰田くんのっ!? 一体どこから……ッ!?」
峰田のモギモギを踏んづけた麗日が足止めを食らっていた。
開始直後からスタジアムの至る所で混戦状態の中、透明になった葉隠チームは。
「爆豪君空飛んでる……あれアリなんだ」
「ダークシャドウのガードが堅いね」
「ぜぇぜぇ……ポップコーンとコーラある?」
「ないです」
「状況が動くまでは待ちだね~。もう一手、今のうちに準備しよ」
混戦に巻き込まれないよう離れた場所に位置取り騎馬ごと座り込んで観戦に興じていた。開始20秒で既に息も絶え絶えの心操を気遣ってのことだ。
「おっ? 轟君達とゴーレムみたいな人がいるところがぶつかってるよ」
「最前列より前って見ごたえあるよなぁ」
「小大さん達ですか」
「……いやあの、俺達も競技に参加しない?」
「急いては事を仕損じますよ」
「まだ動くには早すぎる」
「楽して勝つのが一番だよっ」
「…………俺が変なのかなぁ……?」
釈然としない尾白の呟きが漏れ出していた。
葉隠チームの割と目と鼻の先で轟チームとゴーレムのような見た目の生徒がぶつかり合う。
凡戸固次郎、小大チームの前騎馬を務める漢だ。
彼の大きな口がガバリと開き、粘性の液体が大量に吐き出された。
「全国放送で吐くなよっ! ……この匂い」
上鳴が嫌そうな顔で叫び、吐き出された液体の正体に気付いて足元を見た。
「う、動けんッ!?」
飯田が地面にがっちりくっつきびくともしない己の足を見下ろした。
「飯田さんっ!?」
「凍っとけッ!」
飯田の肩に掴まり身を乗り出した轟が右手を振るう。
空中に出現した氷が伸びていき、ぶつかった。
空中に浮いている文字が轟の氷を溶かしていた。
「康一さんとおんなじだァッ!?」
轟チームからそう遠くない場所で叫び声が上がった。
「防がれたッ!? って今の声は葉隠君か……?」
轟の氷結攻撃が難なく防がれたことに愕然としつつ飯田が周囲を見回した。
確かあのあたりから声が聞こえたような。
「一筋縄じゃいかねぇか。つか葉隠の奴近くにいるぞ」
「ヤオモモ! 剥がし液作れぇっ!」
「剥がし液……ってなんですの?」
「接着剤の剥がし液だよっ! この匂い接着剤だろ!」
「そうだったのか!?」
「なら話は早ぇ、八百万頼んだ」
「えぇ、分かりました」
「いやいやお前らプラモとか作らねぇの? ……よく見りゃ作ったことなさそうなメンツだなッ! 楽しいのにッ!」
上鳴の問いに首を振る三人。育ちの違いが如実に現れた瞬間だった。
八百万が足から剥がし液を作り出し、飯田の足を止めていた接着剤を溶かす。
空中に浮かんでいた文字が轟の氷結を全て溶かし、姿が見えるようになった凡戸が上鳴に対して親指を立てていた。
「君とは分かり合えそうだ」
「んっ」
凡戸の肩からひょっこり顔を出した小大が轟を指さす。
「ドジュウゥゥゥッ!」
顔全体が漫画の一ページになっている小大チームの後騎馬、吹出が叫ぶと叫び声が実体化し轟に襲い掛かる。
「飯田、肩借りるぞ」
飯田の肩に足をかけた轟が右腕を大きく振るった。先の一撃が防がれた以上、さらなる強威力の範囲氷結。あわよくば近くで出歯亀している葉隠チームも凍っちまえと言わんばかりに無駄に範囲が広い。
氷と文字がぶつかり合う。
押しているのは氷だ。
溶かされるなら溶けるスピード以上に作ればいいという力押し、脳筋の理屈だ。
「すっげー、面白れぇなアイツの個性! コミックじゃん!」
「読んだことねぇから知らねぇよ!」
「私も」
「俺も」
「……何でお前らと騎馬組んでんだろうなッ! 育ち違いすぎだろっ! 読めよッ! 楽しいんだぞッ!」
「おススメは岸辺露伴ッ!」
上鳴のやけくそ気味な叫びにそう遠くない場所から誰かが叫び返した。
「分かるゥッ!」
「分かるッ!」
吹出と上鳴が声が聞こえた方を指さす。大体二人とも同じ方向だ。指さす先には誰もいない。だからこそ、誰が叫んでいたのかはっきり分かる。
あの頃から15年経っても売れっ子漫画家、岸辺露伴の人気は今でも健在だ。
「君達とは仲良くなれるッ!」
スマイルマークが空中に飛び出した。
「俺もそう思うッ! 10万ボルトッ!」
他の三人が八百万の作り出した防電シートを被ったことを確認した上鳴の身体から紫電が迸る。
「葉隠達どこにいんだよ……」
「さっきから茶々入れてきますけど……」
「岸辺露伴という漫画家がお薦めなのか。ヒーロー志望の皆も読んでいるということは俺も読まねば」
「真面目かよッ! 轟ッ後任せたッ!」
「あぁ、凍れッ!」
三度放たれた轟の氷結が凡戸と吹出の足を凍り付かせた。
「……はぁ?」
すれ違いざま騎手の小大からハチマキを取ろうと腕を伸ばした轟が呆然と間抜けな声を上げた。
凡戸の後ろに姿を隠し続けていた小大の額には何もなかった。
「ハチマキが消えた……ッ!?」
「葉隠さんと同じ個性……?」
「ハチマキねぇじゃん……つかめちゃめちゃ可愛くない!? 今度デート……って首のチョーカーじゃねぇの!? サイズ変わってっけどォッ!?」
上鳴が小大の首元に巻き付いている細いチョーカーを指差し叫ぶ。本来のハチマキよりかなり小さくなっているが。
「そういう個性か……取ったッ」
轟が小さくなったハチマキを取ると元のサイズに一瞬で戻った。
「間違いなく強敵だった」
「上鳴さんの機転がなければ」
「今度デートしようよ! 仲良くなれそうな気がする!」
上鳴の言葉に小大が嫌そうな顔で首を振っていた。
轟が握り締めたハチマキを首に掛ける。小大チームのポイント数は155ポイント。
「割に合わねぇ」
3回も氷出してたったの155ポイントかと轟の顔が曇る。
既に左半身には若干ではあるが霜が下り始めている。
「攻めるか、轟君?」
「上鳴さんの電撃も限度ありますから」
「まだ行けるって……でもさぁ、他の騎馬落とすより緑谷落とした方が楽じゃね?」
「あぁ、攻めるぞ」
轟が決意新たに緑谷チームに目を向けた。
轟チームが小大チームとぶつかっていた頃、耳郎チームもまたB組のチームと相対していた。
「堅いッ」
耳郎の耳から伸びるイヤホンジャックが鉄哲の身体へと伸び、接触した肩へ爆音を放つ。
「俺には効かねぇって!」
鋼鉄と化した鉄哲の身体が音を反響しぐわんぐわんという嫌な音を響かせる。
鉄哲自身へのダメージはないが、周囲には大ダメージを与えていた。
「うるせえぇッ!?」
「俺達の方がダメージ大きいな」
「僕を前に!」
人間スピーカーと化した鉄哲に向かって叫ぶ泡瀬と冷静な骨抜、そして騎馬を回転させ前に出た庄田が砂藤の膝を蹴り飛ばした。
「とにかく取るぞ」
庄田の蹴りをもろともせずに砂藤が突き進む。
「解放」
「なんだァッ!?」
砂藤の膝がかくんと折れ騎馬が崩れた。
「砂藤ッ!?」
体勢を崩し騎馬から崩れ落ちた耳郎のハチマキに鉄哲の手が伸ばされる。
「取ったァァァッ!」
「うるせえぇッ……あ、いつものことだった」
「次行こう」
「355ポイント、まだ足りない」
「1000万行くぞッ!」
騎馬を作り直す耳郎チームから離れ、鉄哲チームが緑谷チーム目指して走り出した。
「オイラのハチマキがねぇッ!?」
耳郎チームがハチマキを取られたのと同時期、峰田の叫び声も悲しく響き渡っていた。
「楽勝楽勝」
「ありがと!」
飛んでくる取蔭の右手から405ポイントのハチマキを受け取り、拳藤が額に巻いた。
ステージ外周付近で宍田チームが立ち止まる。宍田が鼻を鳴らしながら虚空を睨みつけていた。
「見つけましたぞッ! 塩崎氏!」
「黙示録の獣」
「ち、違いますぞ?」
「取らせてもらお──アアアアアッ!?」
「鱗氏ィッ!?」
宍田の背中から鱗が何かに引っ張られるように上へと飛んで行った。
「逆バンジーかよ……えげつねぇな」
「155ポイント、一応もらっておきましょう」
「あ、爆豪取られた……」
空中にぶっ飛んで行く鱗を宍田が追いかける。後ろに緊張感なくお喋りに興じる三人の声を聞きながら。
走りながら周囲に目を向け、ポイントの動きを見ていく。
今のところ、物間氏の采配に間違いはない。
B組全員で勝ちに行く、そのための采配は。
轟氏の氷にはB組で唯一対処可能な吹出氏を、飯田氏の機動力をを凡戸氏が足止め。惜しむらくは上鳴氏の閃きが計算外だったこと。
物間氏の策に乗らなかった鉄哲チームは常にA組の騎馬を間に置くことで戦闘を回避。うまく動いて耳郎氏とぶつからせた角取氏の機動力が光った一幕。
障子氏に隠れていた峰田氏のハチマキは取蔭氏が取る。
透明になった騎馬は鼻が利く私が受け持つ。
「単純なんだよ、A組」
そして、煽り耐性の低い爆豪氏は煽り力の高い物間氏が相手取る。事実今、物間氏に煽られて爆豪氏が怒り狂いかけている。
ここまでは完璧な采配。
『7分経過した現在のランクを見てみよう! ……あら? A組緑谷と葉隠チーム以外パッとしてねぇ……てか爆豪あれ……!?』
1位 緑谷チーム 10000315ポイント。
2位 葉隠チーム 1480ポイント。
3位 物間チーム 935ポイント。
4位 轟チーム 755ポイント。
5位 拳藤チーム 405ポイント。
6位 鉄哲チーム 355ポイント。
7位 角取チーム 60ポイント。
以下 0ポイント。
ステージ中を走り回っていた緑谷チームの前に、轟チームが立ち塞がる。
「そろそろ取るぞ」
「もう少々終盤で相対するものと思っていたが、随分と買われたな、緑谷」
闘志の燃えた瞳で緑谷を睨みつける轟をダークシャドウを出した常闇が牽制する。
「障子ッ! フルアタックモード! あの2組のポイント全力でかすめ取るぞッ!」
失うポイントは既にない峰田チームが緑谷チーム目指して動き出した。
「1000万取るぞオラァッ!」
拳をカチ鳴らして気合の雄叫びを上げた鉄哲チームもまた、緑谷チームに近づいていく。
「他の奴らに取られる前にッ!」
右手を巨大化させた拳藤もまた、他のチームに遅れないよう走り出した。
「鱗氏キャッチ! このまま緑谷氏落としますぞ!」
「あぁ!」
塩崎にブッ飛ばされていた鱗を受け止めた宍田もまた、緑谷目指して走っていた。
「飯田ッ! 前進ッ!」
「あぁ!」
「八百万! ガードと伝導棒準備!」
「えぇ!」
「上鳴は──」
「いいよ分かってる!」
いち早く仕掛けたのは轟チームだ。
「周囲に気を付けて! 仕掛けてくるのは1組だけじゃないッ!」
近づいてくる騎馬は計5騎、周囲を見回した緑谷が叫ぶ。
「しっかり防げよォッ! 無差別放電……」
身体中から火花を散らした上鳴が言葉を止めて下を見た。
何か今、足に違和感が──ッ!?
「上鳴さん、何を!?」
八百万の悲鳴にも似た叫び声に上鳴が顔を上げ、放電した。
「100万ボルトッ────不発ッ!?」
放電した、ハズだった。
だが、上鳴の電撃は不発に終わる。
「何やってんだよッ! 頼りにならねぇなッ!」
八百万の作った伝導棒を轟が握りしめた。
「駄目だッ! 轟ィッ! 引けッ! 何かがおかしいッ!」
「後に引く気は────氷が出ねぇだと!?」
轟の右手から伝導棒を伝う氷結が途中で止まっていた。
「轟と上鳴が不発……?」
「1000万取るぞッ!」
「攻めろッ!」
「余所見すんな宍田ァッ!」
峰田が突如連携を崩した轟チームを見て目を細める。鉄哲と拳藤は緑谷から目を離していない。鱗もまた緑谷チームから目を離していなかったが、宍田はあらぬ方向を見ていた。
彼らが見ている前で一本のハチマキが空を舞う。
「……え?」
呆然としたその声は緑谷出久の口から漏れた。
勝手にほどけて空を舞っているハチマキを目で追っていた。
ハチマキが勝手にほどけるはずはない。
風もないのにハチマキが空を飛ぶはずもない。
その証拠に現れる。ハチマキを掴んだ拳が、腕が、風にたなびく長い金髪が、白粉を塗ったような白い顔とトレードマークのサングラスが、雄英高校のジャージがハチマキを掴んで走る姿が、現れた。
スタジアムに響き渡る怒号のような大歓声。
腕を突き上げ、ハチマキを掴み、空中を走る葉隠透の姿が現れた──!
『1000万ポイント取ったのはァッ! 葉隠透だァッ! なんで空中走ってんのォォッ!? 空飛べんの!?』
『違うな』
イレイザーヘッドの言葉と同時に透の足元に現れる緑色の紐、それは塩崎茨の蔓!
スタジアム内を縦横無尽に張り巡らされた茨の蔓はまさに結界のようにも蜘蛛の巣のようにも見えるほどだ。
「やられた……他の騎馬に気を取られすぎていた……ッ!」
緑谷が口惜しげに拳を握り締め、蔓の上から大きくジャンプした透の背中を睨みつけた。
「茨ちゃんの蔓がアースに……不発になるわけだ……ッ!」
足に巻き付いた蔓を苦々しい顔で見下ろした上鳴が呟く。
「伝導棒にも蔓……だがどうやって防いだ……?」
氷結が止まった位置にも蔓が巻き付き、蔓の先が透の腕に巻き付いていることに気付いた轟が眉根を寄せた。
「取ったよっ!」
蔓の上から飛び降りて騎馬に着地した透がハチマキを額に巻いた。
腕から轟の握る伝導棒まで伸びている蔓をほどく。
危なかった。賭けだった。ほっと一息、大きく息を吐き出した。
波紋は、太陽のエネルギー。蔓を通して流した波紋、ギリギリだったけど轟君の氷を溶かせた。得意の氷が不発に終わって動揺してくれて良かった。冷静に追加で氷を出されていたら溶かすより蔓が凍る方が早かったかもしれない。
スタジアム外周付近からスタジアム中央まで移動していた騎馬の上で拳を握り込んだ
「ここからが正念場ですよ」
「気合入れていこうッ!」
「心操君ッ!」
「あぁ!」
透の言葉に心操が力強く頷いた。
「またアイツらかよォォッ!?」
「取られたくないところに取られたけどッ!」
「オイラ達全員相手に隠れられるのかよぉ~、障子なら見えなくてもお前ら探せるんだぜぇ~!」
「宍田ッ! 探せるよな!? 気付いてたなら言えよッ!」
「任されましたぞ! それと言ったところで間に合いませんでしたぞッ!」
緑谷チームに向かっていた4騎が振り返り、姿を現した葉隠チームに向かっていく。
ワンテンポ遅れて緑谷チーム、轟チームもまた、葉隠チームを目指して動き出した。
小競り合いを続けていた爆豪チームと物間チームもまた、小競り合いを止めてスタジアム中央へ目を向けた。
争っていた耳郎チームと角取チームもまた、スタジアム中央へ1000万ポイント目指して走り出した。
『全騎馬が葉隠チーム目指して突き進むッ! 1000万ポイント守り切れるのかッ!? 逃げ切れるのかッ!? 隠れられるのかァァlッ!?』
透がため息を吐き、サングラスのフレームを押さえながら顔を上げた。
「守るとかさぁ、逃げるとかさぁ、隠れるとかさぁッ! そういうの性に合わないんだよねぇッ! アクトン・ベイビーッ!」
そして、右腕を振り抜いた。
「やべぇッ! 超必出しやがったァッ!? 何が起きるか分かんねーけどとにかく離れろぉぉぉっ!」
「離れろ障子ィッ!」
「距離取るぞ爆豪ッ!」
「離れるんだァッ!」
上鳴、峰田、切島、物間の絶叫がスタジアムに木霊する。
入試で一度見ていた者達だ。見えてはいなかったが確かに何かが起きていた、あの日に起きた奇妙な現象のトリガーとなっていた透の雄叫び。
何が起きるかは分からないが何かが起こるその予兆を感じ取った故、取った選択はまったく同じだった。
「全員まとめて透明になれッ!」
透の叫びに応えるように、全ての騎馬が姿を消した。
「なん……だと……!?」
「こ……これは……!?」
「やべぇよぉ……やべぇって」
誰が喋っているのか分からないがざわざわと同じような呟きが漏れていた。
スタジアムが沈黙に包まれる。
耳が痛くなるほどの沈黙に、唾を飲み込む音さえ響いてしまいそうなほどだ。
誰も喋れず、誰もいないステージを見つめるしかなかった。
選手たちが姿を消し、無人になったステージをただただ、見つめていた。
「ようこそ私の世界へ」
静まり返ったスタジアムに透の声が木霊する。
残り7分。
1位 葉隠チーム 10001795ポイント。
……
7位 緑谷チーム 0ポイント。
→To Be Continued ...
特殊タグ初めて使ってみました。
宍田氏喋るとムックさんみたいになります。