葉隠透の奇妙なアカデミア   作:ピーカブー

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 雄英高校入学試験から早1週間が経った――!

 

 葉隠透は東方家のリビングで雄英高校高校から届いた封筒とにらめっこ中だ。

 テーブルの上に置かれた封筒を前に、椅子に座り上半身だけは奇妙なポーズを取って目の前の封筒を睨んでいた。

 向かい側から突き刺さる二人分の視線を受け止めながら。

 居候先の家主、東方朋子と東方仗助だ。

 特に東方朋子が透に向ける視線は痛く、そして熱い。

 自分の中学校から雄英高校合格者が出るかどうかの瀬戸際、ややもすれば透本人よりも緊張していた。

 

「まだ見ねぇのかよぉー!」

「私のルーティーンの邪魔しないで」

 

 痺れを切らした東方仗助に冷たい言葉を返しながら透は考えていた。

 考えなければならなかった。思い出さなければならなかった。

 あまりにも苦い敗北の思い出だ。

 

 試験時間残り45秒間、私達は誰も動けなかった。

 私達は助かった。助けられた。

 心操君一人を犠牲にして、私達は生き延びた。実際には心操君は死んでないけど、そんなことはどうだっていい。

 力を合わせて巨大ロボをぶっ飛ばした喜びは秒で消えて、残ったのは心を重くする敗北感のみ。

 状況的にはあれが最善。俗に言うトロッコ問題、その亜種の一つの答えが出た瞬間だった。

 1人殺して6人助けるか、7人全員まとめて死ぬか。当然、6人助ける方が正しい、正しいに決まってる。

 でも、助かった6人の余った心はどこに行く?

 透の心はどこにも行けないまま1週間が経ち、結果が届いた。

 

 多分、心が余っているのは私だけだ。

 こういうとき男の子って羨ましい。

 

 試験が終わってすぐ、帰りのバスに乗る前に心操君は私と茨ちゃん以外の4人に囲まれた。

 男泣きで顔をぐしゃぐしゃにした切島君に腕を掴まれぶんぶん振られて痛そうに苦笑して、

 脚にしがみ付いてくる峰田君の頭を苦笑いしながら叩いて、

 今にも土下座しそうな上鳴君に困ったように笑っていて、

 物間君からは次は絶対に負けないと宣戦布告されて憑き物が落ちたような年相応の笑顔で受け入れていた。

 

 私も何か言わないと焦りながら、何も思いつかなくて、それでも何か言おうとしたところで茨ちゃんから肩を叩かれた。目を閉じたままゆっくり首を振る茨ちゃんを見て、今は邪魔しちゃダメなんだって分かった。

 結局私は心操君がちらりと私達を見たときに口を大きく開けて『ありがと』と動かすことしか出来なかった。それでも、伝わったと信じたい。

 茨ちゃんは私の隣で深々と頭を下げていた。

 

 いろいろ考えて分かったことは、今の私はヒーローとしての格の違いを見せつけられて落ち込んでるだけ!

 

「だったら次は私が助ければいいってこと。簡単簡単!」

 

 バチンと頬を叩いてから、封筒を破った。

 

『私が投影された!』

 

 封筒からテーブルに落ちたのは1枚のディスク、投影されたと喋っている割に何も出てきていなかった。

 

「なんだこれ?」

「さぁ? 壊れたのかな?」

 

 透は東方仗助と顔を見合わせた。

 

「コレ、裏なんじゃないの?」

 

 東方朋子がディスクをひっくり返すと、天井にごてごてした派手なスーツ姿のオールマイトが映っていた。

 

「裏だったな」

「そうだね」

「お、オールマイトよ!」

「見りゃあ分かるけどよぉ」

「なんでオールマイト?」

 

『何故私が映っているかというと、私が雄英高校に勤めることになったからだ!』

 

「へー」

「へー」

「教員免許持ってるのかしら?」

 

 東方朋子の呟くような言葉に透達は揃って首を傾げた。

 

『葉隠少女、筆記試験は合格! 国語の点数がやや低いが十分合格圏内だ。実技試験はヴィランポイント35点……そしてレスキューポイント……なに? 聞き覚えがないって? これは受験生には非公開の採点項目! 試験中、誰もが自分の合格を目指す中で浮き上がる他者を思いやる気持ち、いわゆる愛だ!』

 

「切島君2位だし、茨ちゃん4位じゃん……すげー」

 

 オールマイトの後ろのモニターに浮かぶ実技試験上位10人の中に見知った名前を見つけた透が呟いた。

 

「ダチか?」

「うん、多分そんな感じ」

「ちゃんと聞きなさいって」

 

『葉隠少女、君のレスキューポイントは15点! 瓦礫の下敷きになった塩崎少女を助けようとしたときも足の遅れた心操少年に手を伸ばしたときも君の動きは早かった。実際に助けたのは別の誰かだったとしても、手を伸ばそうとした意志を評価しよう! 実技試験合計50点。合格だよ、葉隠少女!』

 

「そりゃ、どうも」

「ご、合格だってよぉ! 静! おめーのことを信じてたぜー!」

 

 東方仗助に肩をバシバシと叩かれて痛そうに縮こまった。

 

『そう、レスキューポイントと言えば、君達が気にしているであろう彼のことだが――結果は変わらない、彼は不合格だ』

 

 ゴンという鈍い音がリビングに響く。

 テーブルに叩きつけられたのは透の拳だ。テーブルに拳の跡がくっきりと残るほどの力だ。

 食いしばった歯をむき出しに天井に投影されたオールマイトを睨みつけていた。 

 

『君達の気持ちはよく分かる、痛いほどにね! プロヒーローなら全員分かるとも! 自分は助かり、自分を助けた者が傷つく、時にそれは最悪な結末として人生に暗い影を落とす! だが! それを乗り越えてこそのヒーローだ。来いよ――ここが君のヒーローアカデミアだ!』

 

「行ってやろぉじゃあねーか!」

「言葉遣い!」

「いたっ!?」

 

 右腕を大きく振り上げた透が朋子に頭を叩かれた。

 

「おい、まだ続いてるんじゃーの、それ」

 

 仗助が天井を指さした。

 

『本来なら他の受験生の合否について教えることはないんだが、直接許可を取ってるから君達には特別に教えよう。彼――心操少年は併願していた普通科に合格しているぞ!』

 

「シャアオラァッ! 借りは返すぞぉ!」

「言葉遣い直しなさいって何度言ったら分かるのッ!」

 

 葉隠透、雄英高校ヒーロー科合格!

 この後、東方親子と仗助馴染みの仲間たちも交えてトラサルディーでパーティーを楽しんだ。

 

→To Be Continued ...




出張してくる予定はないと言ってながらあっさり出してしまった。スミマセン。
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