葉隠透の奇妙なアカデミア   作:ピーカブー

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オールマイトの授業を受けよう02

 屋内対人戦闘訓練第二戦、開始10秒にしてビル一棟が凍り付いた――!

 隣接したビル内のモニタールームの中も冷え切るほどの冷気に歯をガチガチ鳴らしながらオールマイトが解説する。

「仲間を巻き込まず核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵も弱体化!」

「最強じゃねエか!」

 布地の少ないコスチュームのせいで寒さに震える切島が叫び声を上げた後、手で顔を押さえた。

「でもよォ、この展開はなんつーか……」

「あ~、葉隠が嫌いそうな感じだよな」

「イケメンぶっ飛ばせー!」

 上鳴と峰田が切島に同意しつつモニターを眺めていた。

「ですがこの状況では何も出来ないのでは?」

「そうそう、凍らされちゃあさぁ」

 上鳴のチームメイト、耳郎と峰田のチームメイト、八百万が呟きながらモニターを眺める。モニターには足まで凍り付いた透と尾白、ビルの入り口付近の壁を右手で触る轟、外から凍り付いたビルを見ている障子が映っていた。

 

『はぁ~、気に入らないのよねぇ~』

 

「この程度で諦めるわけねぇと思ってたぜ」

「来た! 逆転BGM!」

「どうするんだ~」

 

 男3人、目を輝かせてモニターをじっと見ていた。

 

「透明化の個性で何を?」

 

 モニターの中で透の足元、何も見えない空中から血が滴り落ちた瞬間――!

 

「ビルが……ッ!」

 

 屋内対人戦闘訓練第二戦、開始20秒で起きたことを誰よりもよく見ていたのはビルの外にいた障子目蔵である。

 開始10秒でチームメイトの轟焦凍の個性に圧倒された。ビル一つを丸々凍らせるほどの威力、自分に出来ることは何もないと悟った。今回の戦闘訓練では相手チームの位置が分かる自分の個性が役に立つと思った。だがそんなもの必要ないとばかりの圧倒的力技で轟焦凍は一人で勝利した。

 ――勝利したと確信した。

 だがわずか10秒後に覆された。

 

「ビルが……消えたッ!?」

 

 屋内対人戦闘訓練第二戦、開始20秒。

 障子目蔵の目の前にあったはずのビルが消え失せていた――ッ!

 

「轟ィ! 戻れぇッ!」

 

 さっきまであったはずのビルの入り口で呆然と立ち尽くし、空を見ていた轟に向かって叫んだ。

 障子目蔵は思い出す。

 最初の異変は4階の窓ガラスが割れたこと。

 4階に目を向けたときには既に消え始めていた。複製した耳で尾白と葉隠の足音を捉えたフロアだ。次は屋上と3階がほぼ同時に消えた。空が広く見えて、2階から1階へと順にビルが消えた。

 体勢を低くし素早いバックステップで轟焦凍がビルから飛び出し、障子の近くに戻ってきた。

 スタート位置からやり直しとも言える。

 

「何が起きた? つっても……一つしかねぇか」

「葉隠がビルを透明にしたのは間違いない」

「少し驚いた。ただの馬鹿じゃなかったことにな」

 

 言っちゃったよ、と障子は思った。同時に同感だとも思った。口には出さなかったが。

 他に口に出すべきことがあったからだ。

 

「静かに、何か話してる」

 

 轟が戻ったときからヴィランチームの動向を探っていた複製腕の3つの耳が尾白と透の会話を捉えたのだ。残り1本の複製腕は轟と会話していた口である。

 

「俺にも聞かせろ」

「あぁ……冷静にな」

 

 複製腕の耳の一つが口に変化し、少し高い声で喋り始めた。

 

『ねぇねぇ見た見た? さっきの轟君の間抜け面』

 

 間違いなく喋ってるのは透の方だ。

 

「ブッ飛ばす……ッ!」

『いや笑い事じゃないよ……足は凍ったままだし』

 

 性格の良さが滲み出てる、間違いなく尾白だ。

 

『気に入らないスカしたポーカーフェイスとナチュラルボーンポーカーフェイスをぶっ飛ばしてやる予定だったけど、あの間抜け面が見れたからぶっ飛ばすのは許すことにした』

「あの女……ッ!」

「怒るな、冷静になれ」

『でも尾白君のことは許さないからねっ! この程度で諦めるなんてさっ!』

『ごめん』

『これから挽回してよねっ』

『もちろん……と言いたいけど、足がこれじゃあ』

『そう、じゃあ私が溶かしてあげる』

『出来るの!?』

『うん、よゆー』

「なん……だと……ッ!?」

 

 表情に乏しい轟が驚いているの初めて見たな、と障子は思った。同時に、この訓練意外と苦戦するかもしれないとも。流石は日本一と謳われる雄英高校、一筋縄ではいかない相手が多すぎる。

 第一戦は爆豪の超火力と緑谷の策。第二戦は現在のところ、轟の超威力と葉隠の超隠密。動きのない尾白が不気味だが、轟はそう思っていないらしい。

 

『はがくれ~んず!』

『なに、それ?』

『身体の屈折率を変えてレンズにして氷を溶かしてるの。どう? スゴイでしょ?』

『スゴイよ!』

『あとはねぇ、本当に世の中の文字は小さすぎて読めなぁぁっい! 凄いぜ、ハガクルーペ! みたいなことも出来るよっ!』

「……馬鹿なのか馬鹿じゃねーのかハッキリしろ」

「こちらも動かないとまずい。見えてない核を探すより、二人を捕まえる方が早いか」

「あぁ」

『あとはねっ、この状態なら鉄板の持ちネタがあるよ。今度食堂で見せてあげようか? 食品サンプルっていうネタなんだけど~』

『名前でもう分かったよ……あの、俺の氷も溶かして欲しいなぁ、なんて』

『ごめんごめん、氷は溶かすけど溶けても動かないでね』

『動けないフリを……?』

「馬鹿じゃねぇなぁ、あいつ」

「馬鹿では入れないぞ、雄英は」

「そりゃそうだ」

 

 障子と轟が頷きあってビルへと歩き出した。

 

『動いた……ッ!』

『ヒーローチームが見取り図持ってなかったら私達の勝ち確だったのにねぇ~』

『時間はかかるはず』

『その時間を使って私達は』

『うん?』

『障子君の個性を暴く――ッ!』

 

「……厚化粧に騙されたな」

「俺の個性を分かっていないと断言するとは」

 

『個性、阿修羅だと思ってたけど』

『私もそう思うけど……それだけかなぁ……? 生やせる腕は2対までかなぁ? 身体のどこからでも生やせたりしない?』

『身体以外にも生やせたり?』

『そう』

 

「出来るのか?」

「出来ない」

 

『腕以外も生やせたり?』

「……!?」

「見るなッ!」

『こっちを見たねぇ』

『当たりか……?』

『もしかして私達の話筒抜けだったりして』

『ははは……怖いこと言わないでよ』

『まっ、聞かれて困ること言ってないけどねっ』

『いや結構言ってたと思うよ……?』

『轟君の間抜け面とか?』

「ブッ飛ばす」

「挑発に乗るなって」

『轟の顔……俺達の話聞こえてるな』

『しーっ』

 

「あっちは高みの見物か」

「視覚情報との違和感が……一階にいたときは感じなかったが」

 

 今いる場所はビルの2階、そのはずなのに床が見えず立っているのは明らかに空中。

 

『2階まで上ってきたね』

『あぁ、来るか――ッ!』

『いや、追い出すよ。やっぱりこっちを見た――ッ! 聞こえてるなら躱してよねっ』

「何か来るぞッ!?」

『はがくれーザー!』

 

 空中から放たれる一条の光が障子と轟の間を通り抜けた。

 

「レーザーッ!?」

「クソッ!」

『まっすぐ走れば窓から外に出られるよーっ!』

 

 走り出す障子と轟の後ろに何発ものレーザーが通り過ぎていく。

 

「飛び降りるぞ」

「あの厚化粧ブッ飛ばす!」

 

 窓を粉々にして障子と轟がビルの2階から飛び降りた。

 

「残り5分で入り口からやり直しだ」

「レンズの次はレーザーかよ……」

「ルーペもあったが」

 

 ビルの外で話し合っていた障子と轟が決意を秘めた目で空中に立ったままの尾白を見上げた。透の姿は依然として見えないままだ。

 先に動いたのは轟、右手と右脚を前に出し、作り出したのは氷壁。はるかに高く聳え立ち尾白が思わず頂点を見上げるほどの巨大で向こう側が見えないほど厚い氷壁だ。

 

『来るか――ッ!』

『ここが正念場だよっ、尾白君!』

 

 だが氷壁は数秒と経たず膨大な蒸気となって消え失せる。

 立ち込める蒸気が一筋流れ、拳大の穴へと吸い込まれていく。

 

「見えた――ッ!」

「おうッ!」

「やっば、空気まで凍らされないようにしてた空気穴――ッ!」

「ていうか、飛んでるーッ!?」

 

 蒸気に空いた巨大な穴からビルへと突っ込んでいくのは6本の腕を大きく広げて羽ばたく障子の姿。障子の背中には轟が掴まっている。

 窓ガラスが割れ、ビルの中に突っ込んで見えない床に着地した障子と轟が背中合わせになって見たものは――眼下に広がる市街地のみ。唯一見えていたはずの尾白の姿は忽然と消えていた。

 

「チィッ」

「待て、俺が探す!」

「任せる!」

 

 言うが早いか4本の複製腕の先を耳に変え、動かし始めた。自身の耳を加えた6つの耳が捉えたのは2人の足音、近い――ッ!

 

「左から尾白!」

「左かよッ!」

 

 忌々しそうに叫びながら打ち出した右腕は空を切り、見えない攻撃が轟の脇腹を穿つ。

 モロに入った衝撃に飛ばされる身体を感じながらも、間に合ったことを確信した。一瞬だったし、身体のどこだったかも分からないが、とにかく凍らせた。

 床も壁も見えない、広さが全く分からないとこで受け身なんて取れねぇ。耐えるしかねぇ――ッ!

 身体を襲う衝撃、運良く背中、まだ耐えられる。だが壁までブッ飛ばされたのは俺だけじゃねぇ、もう一人分ブッ飛ばされた音が聞こえた。俺とは反対側の壁。フロアの広さは概算6~7m。ブッ飛ばされた奴が見えないところを見ると尾白か葉隠のどちらか。

 

「うっそでしょ……ゲホッ! 何人かいると思ってたけど私を見つけられる人と初戦で当たるかフツー……ペッ。天敵じゃん……ペッ!」

 

 フロアの反対側にブッ飛ばされたのは葉隠か。

 血を吐いてるとこ見ると結構いいの入れたじゃねーか、障子。

 つーか、どっちかっつーと俺の台詞だけどな、それ。

 

「凍れッ!」

「はがくレーザー!」

 

 右手を床に当てた瞬間に手の甲に感じる痛み。手を押さえて転がって避けるが狙いは俺だけ。障子の方にレーザーが行かないように床を転がり続ける。

 

 

 轟に指示を出した障子は自分へと飛び掛かってくる透の位置がハッキリ分かっていた。どんな微かな音も聞き漏らさないと自負する6つの耳。狙いは自分の頭、右脚の回し蹴り、轟への指示と同時に踏み切った左脚、両手には細長い布を持っている。捕縛テープか。

 位置は10時の方向、1m25㎝先、胴体は1m40㎝の中空。

 

 左上腕を耳から拳へ変化させ、葉隠の右脚を迎え撃つ。

 中腕は右脚の膝裏へ、下腕は右脚太ももへと3連打。

 腰を大きく捻りながら右上腕は首、中腕は右肩、下腕は腹部へと続けて3発打ち込む。

 全て直撃、葉隠がどこにあるか見えない壁まで吹っ飛んでいくのが分かる。

 

「この手ごたえは……?」

「よそ見? 余裕だね」

「右手か? 凍り付いているぞ、尾白」

「構わないよ、しっぽがあるからね。葉隠さん、透明化はもう解いていいよ」

 

 現れた尾白の顔は静かなまま。怒りもなく、焦りもなく、穏やかな顔のまま、両目を閉じて薄く笑っている。

 一歩動けば打ち込める間合い。

 尾白が閉じていた目を開いた――ッ!

 

「強い――ッ!?」

「ありがとう」

 

 右上腕は上に捌かれ、中腕は左腕に受け止められ、下腕は肘と膝に上下から挟まれ止められている。

 左側3本は全て尾白の尻尾に受け止められている。

 尾白に接近戦を挑んだことがそもそもの間違いだった。

 蹴り飛ばされ、さらに尻尾でもう一発打たれ、見えない床の上を転がりながら障子はそう思った。

 

 戦闘訓練第二戦、残り時間4分。

 双方、見えない壁を背に仕切り直し――。

 

 ――障子目蔵に肩を貸しながら轟焦凍は考える。

 葉隠に勝てないとは言わないが耐久戦に持ち込まれたら時間切れ。だが尾白には氷が通じる。

 ――葉隠透を心配しながら尾白猿夫は考える。

 轟の氷は俺には防げない。でも、障子には勝てる。

 ――障子目蔵は轟の右手の甲のやけど跡を見ながら考える。

 尾白には勝てない。葉隠のレーザーは複製腕で防げる、位置も分かる俺なら。

 ――葉隠透は血を吐きながら考える。

 透明人間であることが何の意味もない障子君とは戦いたくない。轟君とも戦いたくないけどどっちかって言ったらまだ。

 

「葉隠、頼む」

「尾白は任せた」

「障子は俺が」

「轟君は私が……ってやっぱそうなるよねぇ~。みんな決断はえぇ」

 

 4人同時に出した言葉は全員同じ結論に至ったことを表していた。

 この戦闘訓練、戦う相手を間違えた方の負け。

 訓練開始から初めて顔を合わせほんの数秒で掴んだ手ごたえは、

 轟焦凍は尾白猿夫に強く、葉隠透に弱い。

 尾白猿夫は障子目蔵に強く、轟焦凍に弱い。

 障子目蔵は葉隠透に強く、尾白猿夫に弱い。

 葉隠透は轟焦凍に強く、障子目蔵に弱い。

 

 ――だがそれは、1対1の場合に限った話。

 

「尾白を先に」

「レーザーどうすんだ?」

「我慢。出力は大したことない」

「脳筋って嫌いー」

「葉隠さん下がって。援護して」

「尾白君も脳筋だったこと忘れてたっ! もう男の子ってホントに――はがくレーザー乱れ撃ち!」

 

 狭い室内を走って向かってくる障子と轟に向かってレーザーを撃ちまくるが、氷の盾と複製腕に遮られて動きを止められないことに透は焦る。

 

「こんなもんならもう一発凍らせときゃ終わってたか」

「させないよっ」

 

 大きく踏み出した轟の右足に何条ものレーザーが集中した。

 

「……まさか、コイツ……気付いて……ッ!?」

「轟! 尾白に集中しろ! 俺だけでは勝てないッ!」

 

 目の前で繰り広げられるのは6本の腕によるラッシュ、迎え撃つのは両手と両足に尻尾を加えたラッシュ。

 パワー、スピード、手数は明らかに障子が上。だが、尾白の技術はそれを上回る。6本の腕を両腕だけで捌き切る達人じみた功夫、両脚と尻尾の攻撃は確実に障子の身体を打ち抜く堅実な攻め、個性抜きに単純に強い――ッ!

 

「足を止めさせりゃあいいのか」

 

 大柄な障子の後ろで障子だけに聞こえるように呟く。

 障子からは小さな頷きが返ってくる。

 俺、障子、尾白、葉隠までは同一線上、レーザーの狙いも甘い。障子の身体の影になって俺の動きは尾白にも葉隠にも見えてない。

 後ろに氷を生やし、右腕から氷の盾、障子の体重を支えるにはこのくらいか。

 

「跳べ。倒れねえから俺で踏ん張れよ」

 

 床を氷漬けにして尾白の足を止める――ッ!

 

「尾白君、足ィッ!!」

「やばっ」

「尾白ォォッ! 確保ォォォッ!」

 

 六本腕を使って捕縛テープで尾白をぐるぐる巻きにした障子が叫んでるが。

 

「重てぇから早く降りろ! あと葉隠探せッ!」

「あぁ! どこだ? 歩いてないな……呼吸音も聞こえない……心音は……ッ!?」

 

「ここだよ、ここ……いつの間にって顔してるね。ふぅー、本当はさぁ、喜んでる間に捕まえようと思ったんだけどねぇ」

 

 障子に釣られて振り返った先、わずか2mほどの場所に透は立っていた。

 その姿は障子と轟にもハッキリ見えた。

 

 喋るたびに口元から血を吐きながら、障子に殴られたであろう腹部を押さえて、腰を大きく折り曲げて満身創痍でありながら、立っていた。

 

「……葉隠さん? コスチューム着てたの?」

「もちろん。もしかして期待してたのかな、むっつりスケベさん達めっ! ゲホッ、ペッ」

「殴ったときの手ごたえで分かっていた」

「他の女子とグルか」

「違う。見られる前にコスチュームは透明にしてた、戦闘訓練の相手が分からなかったからねぇ。カッコいいでしょ?」

「ど、どこが?」

「レディースというものだったか」

「不良か?」

 

 現れた葉隠透の姿、一言で言えば改造セーラー服。紺色のスカートは足首まで、同色の上着の裾は膝まで伸びるほど。腹部には派手なベルトを3本も巻いていて、首元には私物のマフラーを、スカーフの代わりにチェーンを巻いている。顔は2日目にして皆が見慣れた厚化粧。唇には毒々しい緑色の厚いルージュ、チークは紫色。目元を覆い隠すサングラスには蜘蛛の巣状のヒビが入っている。金髪のウィッグには霜が下りている。

 木刀か釘バットが似合いそう、誰の影響か1980年代の不良ファッションを模したコスチュームだ。

 

「諦めたか?」

「いいえ、尾白君を解放して」

「はぁ?」

「解放しないなら核を爆破する――レーザーで」

 

 透が右腕を後ろに伸ばして、右腕を透明にした。

 

「最後の手段としては有効だな」

「核にダメージ与えたら負けだろうが」

「私達全員のね。市街地で核を爆破されといてヒーローの勝ちはあり得ないでしょ。ヒーロー巻き込んだ分ヴィランの勝ち。スカしたポーカーフェイスとナチュラルボーンポーカーフェイス、さぁ、今すぐ尾白君を解放しなさいよ!」

 

 障子と轟が顔を見合わせた。

 

「動かないで!」

「あとはリカバリーガールに任せる。人間一人凍らせるくらい1秒もかからねぇ。レーザー撃たれる前に氷像にしてやる」

「はぁ~」

 

 透がため息を吐いて、左手を前に突き出し、左腕も透明にした。

 

「出来ないねッ! 次に若白髪が動いたとき、右手と右足にレーザーを撃つ」

「わ、若白髪……つかコイツ……ッ」

「3回も見れば気付くよ。ビルを透明にしたとき見えた、あなたは右手で壁を触ってた。目くらましの氷壁はあなたの右足の下から生えてた」

「……」

「そして昨日、50m走のとき、あなたが作った氷の道も右足の下から出てた……外れてたら笑って」

「チッ……馬鹿じゃねぇのは分かってたが」

「分かったらさぁ」

 

 空中に透の左手を覆う薄手の手袋だけが現れ、轟の顔を指差した。

 

「核を爆破されたくなかったら今すぐ尾白君を解放しろォォッ!」

「尾白は解放しねぇ。核も回収する……それが何より正しい選択だ……ッ!」

「ヒーローとしては良い答えだねぇ……ただし! 不可能だという一点に目を瞑ればなァッ!」

 

 葉隠透が吼えた――!

 轟焦凍の気迫が周囲の氷を溶かした――!

 踏み出した一歩、全力で打ち出した右腕――ッ!

 轟焦凍の右腕が透の左半身を凍り付かせた――ッ!

 透の放ったレーザーは轟が左手に持っていた捕縛テープを焼いた。

 

『ヒーローチーム、WIIIINNNN!!』

「え?」

「は?」

 

 オールマイトの声がスピーカーから響き、状況が理解出来ていない透と轟の呆然とした声が続いた。

 

 ――オールマイトの宣言から遡ること3秒前。

 

「……あれ……? 動き回ってどこにいるか分からなかったけど……ここは、まさか――ッ!?」

 

 捕縛テープを巻かれ、床に転がっている尾白は周囲をきょろきょろ見ていた。

 尾白の様子に異変を感じた障子も周囲を6つの目で見回した。

 

「……これは――ッ!?」

 

 何故か溶け始めた周囲の氷、溶けた氷から流れ落ちた水滴、空中を垂れる水滴が――。

 透明になっている物体の表面を流れ落ちる水滴が、見えていた――ッ! 

 6つの目を持った障子目蔵にははっきりと見えた、核の位置ッ!

 核は、透が消した右腕の先ではなく、障子目蔵の斜め後ろにあった。

 わずか3m先に。

 全力で跳び、触れた――ッ!

 

『ヒーローチーム、WIIIINNNN!!』

 

 オールマイトの放送が流れ、核に触れている障子の姿を透が見た。

 

「やられた……バレていた……私の策が……ッ! 右手の先に核がないことなんてお見通しだった――ッ! 流石だ、流石だよ、轟君」

「………まぁな」

 

 轟は核を回収し5本の腕で親指を立てる障子と凍っていない顔の右半分を悔しそうに歪ませる透の姿を何度も交互に見て、小さく呟いた。

 

→To Be Continued ...




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