東方姫秋葉 〜 Recapture season lit with gold and red! 作:さわたり
もっとシンプルな感覚でいきましょう。
歩き回ってるうちに、濡れてしまった服は乾いてしまった。確実に夏の陽射しである。暑いのが苦手というわけではないが、今年は散々味わった。あきつと海に行った。あと水族館にも行った。もういい、夏はあと一年要らない。
「せっかく来たのに」
あきつの作戦に乗せられ、なんだかんだで移住することになった幻想郷。いきなり行ったというのに泊めてくれた天狗には、申し訳ない気もするが。
「ようやく秋を楽しめそうだと思ったのにねぇ」
そんな独り言を言ってしまう。仕方ないだろう。ようやく秋を堪能できると少し、いや結構楽しみにしてたのだから。
「…はぁ」
ため息さえ出てくる。ひとまず、この事態を解決するには調査が必要だろう。まさかあきつがやったとは思わないが、何かしら事情を知ってたり力になってくれそうな人達と彼女は手を組んでいた。旧友だと言っていたが…。
「あら、西山様のご友人でしたっけ。この神社の巫女です。東風谷早苗と申します」
「更科呉葉よ、よろしく」
「それにしても見てくださいよこの山…。朝はきれいな紅葉だと思ったんですけどねぇ」
「私もそれについて話があって来たのよ」
「でしょうね…なんたって貴女はこの件の首謀者の一人ですからね!」
予想外かついきなりの発言である。意味がわからず首を傾げる私だが、早苗にはとぼけているように映るらしい。
「往生際が悪いですよ!貴女から聞き出し…西山様も倒して見せましょう!」
「あのねぇ…。往生は仏教用語のはずだけど」
「うっ。…って、そんなのどうだっていいんですよ!」
私へと幣を向けてくる早苗。確かに客観的に見ると私達の企みにしか見えないのも当然と言えば当然。もっとよく考えればよかった。
「違うって言っても無駄でしょうね」
「今更言い逃れは不可能です!フフフ、今度は西山様に言いくるめられるつもりもないですからね!」
そうして構えを取りつつ空中へ。こうなっては面倒だが、戦う他ない。幸い殴り合いは嫌いじゃない。命名決闘を始めることにした。
「はっ!」
こちらへ向かってくる早苗へ、カウンターとしてパンチを叩き込んでやる。ギリギリで防御したらしく、すぐさま幣を構え直した。
「やっ!」
星形に並べられた弾幕達。私も妖力を鋭くして飛ばし、そいつを打ち消した。さらに蹴りを放つが、それもすんでで避けられてしまう。
「せいっ!」
「甘いわね!」
そして立て続けに幣での攻撃を放つ早苗。私はその腕を掴み、早苗を引き寄せキックとパンチをぶつけてやった。胸を押さえてよろめく彼女へ、さらに水の妖術で追撃をかける。
「あいだっ!…ちべたっ!」
「はぁ!!」
さらに、至近距離で炎の妖術を爆裂させる。吹っ飛びつつ体勢を立て直す早苗。同時にスペルカードを掲げた。
「いただきますよ!」
「…はいっ!?」
思わずめちゃくちゃ驚いてしまった。私から妖力を抜き出されて、そのまま弾幕にされたからだ。感覚としては私から弾が出てる感じか。早苗の方へと吸収されていき、その過程で私にもぶつけるようだ。
「…まったく。洒落たことしてくれるわね!」
「おっと」
私のパンチをスレスレでかわしながら、早苗は幣を叩きつけて来た。それに対して私は頭突きを繰り出す。角を突き刺さないだけ優しいというものだ。
「てやっ!!」
さらにかかと落としをくらい、そのまま守矢神社の石畳に落下。早苗はぼよんと跳ねるように空中へと戻り、そのままフラフラとそている。チャンスだ。
鬼呪「焼け時雨」
スペルカードを宣言。空に打ち上げた無数の火の玉が、雨のように早苗を襲う。ようやく体勢を立て直したようだが、そこへの追撃である。
「あちちちち!……やってくれましたねぇ…!」
連続でもらったようだ。体に舞う火の粉を落としながら、彼女はビシッと幣を横へ切った。
「…おわっ!!」
突然現れたカエルに驚いてしまう。しかしこのカエル、作り物である。殴って跳ね返そうとした。が、その途端大爆発。いくらなんでも爆弾は予想外だ。
「はいやー!」
さらにキックを放つ早苗。軽くだが食らってしまう。さらに腕をガッチリ掴まれ、至近距離で突風をぶつけられる。かなり吹っ飛ばされ、さらに迫ってくる早苗。こう戦ってみて思うが、多少苦手な相手かもしれない。
「この…!」
だが隙も多い。ほぼすれ違い様に膝蹴りを叩き込むことに成功した。さらに私はスペルカードを宣言する。
鬼呪「裾花の激流」
妖術で、後方から黒い濁流を呼び出す。早苗の放った光弾を飲み込み、彼女の目の前で高波に変わる。
「うぐっ!」
そのままぶっ飛ばされ、地面に墜落。起き上がる早苗に、戦意はもはや無いようだ。
「はぁー、負けちゃいました。しかしまたなんで秋を?」
「こっちが知りたいわよ。なんだって楽しみにしてた秋をこのタイミングで持っていくかな」
「…というと、貴方本当にやってないんですか?」
「今夜宴やるってのに肴を持ってく鬼が居るわけないでしょ…」
「まあ確かにそうですね…」
「幻想郷には大江山の鬼が居るって聞いてるわよ。それが萃香の事なら尚更わかるでしょ、鬼がどんな奴なのか」
それを聞き、早苗は目を見開いて驚いた。いちいちリアクションが大きい少女だ。
「萃香さんと知り合いでしたか!」
「別によく会うわけでも無いけどね。知り合いってだけよ」
「勇儀さんなんかも?」
「…星熊だっけ。一応会ったことはあるけど」
「ほへー、鬼は繋がりが広いんですねぇ。戸隠の鬼と聞いていたので。あっ、私諏訪なんですよ生まれ!長野市とはわりと離れてますけど」
「あら、長野…っていうかあなた外の世界の出身なのね。なら酒の席で話す事も多そうじゃないのよ」
「アルハラにはご注意ですよ」
「無理矢理飲ませるタチじゃないわよ」
それを聞くと、早苗は楽しそうに笑った。さて、ずっと喋ってるわけにもいかない。楽しい宴会のためにも秋を取り戻さねば。ひとまず私はもう一つの神社へと向かうことにした。
「あんたは…外から来たとかいう鬼じゃないのよ!確か呉葉とか言う」
「更科呉葉。あなたここの巫女よね」
「博麗霊夢よ。…何の用?」
「何か知ってたりしないかなって。秋がまた消えたこと」
それを聞き、霊夢は驚きと訝しみを混ぜ込んだような、いかんともしがたい表情をした。
「へぇ、紫が言った事が早速生かされる訳ねぇ」
「…?」
「偉そうな妖怪が居るのよ。そいつがあんたとあきつの企みじゃないって言ってたのよ。こんなものまで配るぐらいだし…ま、実際に楽しみにしてたって事ねぇ」
今朝天狗が印刷していた紙だ。あきつの字で、今夜の宴の予定が書かれている。にしても予想外だ。早苗と同じ展開を想像していたから。
「それに…魔理沙に先を越されて悔しいからいっぺん戦いたかったんだけどね。このザマだし」
今夜用に準備してたのだろうか。包丁で切ったであろう指先の傷に、小さく布を巻いている。ほんの少し赤いのが痛ましい。
「お祓い棒握るとちょーど痛い位置なのよね…」
「見せなさい、ソレ」
「え?何企んでのよ」
「いいから」
私は昔から何かを癒す力を持っていた。何故かは分からない。天魔様の御加護だと言われて来たが、それが本当なのかも知らない。だが、何にせよこの程度の傷は一瞬で消せるのだ。「癒す程度の能力」、幻想郷的にそう呼ぶことにした。
「…わっ!綺麗に治ってるじゃないのよ!」
「戦いたいのでしょ?私と。付き合ってあげるわよ」
「へぇ、あんた分かってるわね」
お祓い棒をこちらへ向ける霊夢。本来の目的からは逸れてしまうが、まあそれもいいだろう。私が空へ飛んだのに合わせ、霊夢も空中で構え直した。
「とあっ!」
早速蹴り込んでくる霊夢。かなりのスピードだが、拳で迎え撃つことには成功した。ばちんと双方弾かれ、構え直す。一瞬早く霊夢が弾幕を広げた。
「…っぶな」
「っち」
凄まじいペースで飛んでくる針たち。霊力とか対魔とかそういうの以前に、素直に痛そうである。食らうわけにはいかない…というより食らいたくない。
「あだっ!」
思ったそばから食らってしまった。鬼の体には刺さらないのだが、かなり痛い。やはり妖怪退治用にあつらえたのだろう。
「はっ!」
「っと」
あんまり食らってばかりでもいられない。彼女に対抗し、私は小さな火炎弾たちを放った。威力は抑えめだがスピードなら相当なモノのはずである。
「あっ……ついわね!」
苛立ちを見せ始める霊夢。そして、彼女はスペルカードを取り出して掲げた。一気に押すつもりだろうか。
陰陽玉を展開したかと思うと、いきなり蹴りかかって来た。素早くガードし、さらに彼女の肩をホールドするのに成功。そのままハンマー投げのようにぶん回して投げてやる。
「この…!」
「タフねぇ、あなた」
すぐさま突撃してくる彼女に感心してしまう。とはいえ、状況として感心してる場合ではない。彼女の攻撃を防がねば。
「せいやっ!」
だが、出が速すぎる。完全に防ぎ切るのはかなりの無茶である。しかし彼女が私を攻撃するたび陰陽玉が光るのが引っかかる。溜まったら巨大レーザーでも出すのだろうか。…それはまずい。
鬼女「紅き葉の伝説」
「たァ!!」
「…!活きが良くなったわねぇ…!」
肉体強化技で押し返す事にした。相手が殴ってくる前にぶん殴る。拳を握る前に二発目の拳をぶつける。殴ろうと相手が思う前に蹴り上げる。いわゆるゴリ押しだ。
「ぜぇい!!!」
吹っ飛んでくるくる回りつつも、眼光がこちらを向いている。そこから、霊夢が妖怪退治のプロであることがよく分かる。だが、今この瞬間、遊びの上でだがプロフェッショナルは負けるのだ。フィニッシュになったのは、私の右ストレートであった。
「いっったぁーい…全く……」
砂埃を払って立ち上がる霊夢。その表情には余裕らしき雰囲気がまだ見られる。私もそこまで疲弊したわけではないが、人間ならフツー立ってもいられない筈だ。
「やっぱイカれてるわね幻想郷って…」
「何よ藪から棒に」
「貴女とか最たるイカれ要素。そういうクレイジーなの、結構好きよ」
「ま、幻想郷を気に入ったなら悪い気はしないけど。…続きに向かったらどうかしら。犯人探しの。私あんたらが犯人じゃないこと以外何も知らないわよ。それも本当なんだか…」
そういうと、霊夢は神社の中へと入って行った。そう、私は当初の目的を忘れかけていた。背を伸ばし、私は空へ。秋を取り戻さねば。
「…あんたココで何してるのよ。首謀者がここに?」
「呉葉!…いや、まだ分かってないよ。探してるだけさ」
あれこれ考えながら飛んでいた人里上空から、あきつの姿が見えた。身長や髪の色、羽ですぐにわかる。だいぶ目立つというものだ。
「あっそう、にしても…皆目検討もつかないのだけど」
「同じく。私達幻想郷生活三日目だしねぇ。うち二日は同じ場所に居たし」
「そうねぇ…」
「でもなぁ、八雲女史の言い振りから察するに…どうも私達変に探し回る必要なさそうなんだよねぇ」
「じゃあ何、相手が来るのを待つって?」
「かも知れない」
「あんた…何か隠してる?」
「えっ?心外だなぁー…全く」
なんか白々しい。だがあきつはもともと胡散臭いというか、何かを隠してそうな話し方をする癖がある。分かりづらい友人を持ったものだ。
「じゃあ得られた情報教えなさいよ」
「えー、どうしようかなぁ」
こんな時意味もなく渋ったりするのが西山あきつだ。戯れのつもりだが、こういう時だと非常にめんどくさい。普段は何かいちゃもんでもつけて私が有利な状態を作って話を進めるのだが。
「面倒くさいからぶん殴っていいかしら?」
「随分おてんばになったもんだねぇ君も」
「あっそう?まあちょうどいいじゃない。良い遊びを知ったんだし」
「本日二回目ってこと?」
「そうなるわね」
「スペカジャンキーってか」
ケラケラ笑うあきつ。まあ正直言ってしまうと、久しぶりに戦いができるのは楽しい。我ながらテキトーな口実をつけてやりたいだけかも知れない。そういう遊びに、彼女は乗ってくれるタイプだ。
「んっん〜。ならオーディエンスもいるし…カッコつけよっか」
「演技好きよねぇ、あきつ。……貴様の態度には呆れ果てるというもの!鬼神が目の前にいることを忘れてもらっちゃ困るわね!」
「信仰もないのによく言う!秋の神が牙を向く…飢え死にの時間だ!喜べ鬼!」
彼女が宣言と同時に飛び上がり、私もそれを追う。人里空中戦の始まりだ。
「せい!!」
まず私が殴りかかるが、これを避けられるのは想定内。彼女のキックが反撃として飛んでくるのも想定内だ。
「ていっ!」
彼女のキックへと、私のキックがぶつかる。双方の足が激突する時、押し切るのは私のほうだ。生まれた隙に、さらにタックルをぶつけてやった。
「んのっ!」
「そんなのもう見たわよ!」
木の葉を固めたボールをぶん投げてくるあきつ。前回の戦いでも出して来た技だ。今度は炎の妖術で跳ね返し、ついでに燃えたボールを返却してやった。
「それぐらい予想済みさ!」
それに対し、あきつは風を巻き起こしてボールを返して来た。私がしているのはキャッチボールではない。それを分らせると言うわけでもないが、とにかく私はスペルカードを掲げた。
鬼呪「裾花の激流」
黒く暴れる激流が、私の背後から迫る。ボールは飲み込んで吹っ飛ばし、そのままあきつへと迫った。対し彼女はゆっくり後退しつつ上昇し、波をかわし切った。だいぶ
「たぁーー!!」
そして波が消えると同時に接近してくるあきつ。彼女を蹴り上げで迎え、さらに拳を振り下ろして追撃のプレゼントだ。
「せやっ!」
「きたぞ我らの秋神さま」
姿勢をすぐに回復しつつ、あきつはスペルカード宣言。腕をぶんと振り、L字に組んだ腕からビームを放った。腕で防御するが、それでも熱いものは熱い。耐えきれず吹っ飛んでしまった。大した威力ではないが。
「それなら!」
吹っ飛ばされたが、逆に距離を取ることはできた。ここから、私は弾幕を放って攻撃することにした。あきつもあきつで、紅葉型の弾幕を広げた。
「…っと、あぶない」
もともと弾幕だけで争うのが基本らしい。コレが普通ルールに近い遊びというわけだ。だが、私はやはり殴りかかる方が性に合う。
「ぜあーっ!!」
妖力をまとったダッシュで光弾をかき消しながら突っ込み、彼女の肩を掴む。靈夢にやったのと同じようにぶん回して投げ、さらに落ちてくる彼女へ強めの弾幕を叩き込んでやった。
「やってくれるねェ!」
あきつも黙ってはいない。私の後方から突風を発生させ、そのまま蹴り込むつもりのようだ。風に巻き込まれつつ、私はスペルカードを取り出した。
貴舞「神火聖水の千秋楽」
「やっ!はぁっ!せいやァ!!」
水しぶきをまとって一発回し蹴り。さらに火をつけた紙吹雪を舞わせながらもう一発。最後に再び水しぶきと同時に叩き込み、あきつを地面へと叩き出した。
「…あー、負けた負けた。なかなかやるねぇ」
のっそり起き上がる彼女へ手を貸すが、身長的に微妙な感じだ。楽しそうな人里の観客をよそに、私達は守矢神社へ向かうことにした。一旦開催場に行ってから考えるのだ。
ただの口実だが、約束は約束だ。私はあきつから何があったのか聞いていた。話しながら守矢神社に到着した、そんな時。
「いやいた、本日の主役達」
少しねっとりした声がかかり、いつのまにか目の前には浮かんだ椅子に座った女が現れていた。誰よあなたと言うより先に、あきつが口を開く。
「摩多羅女史…」
「ってことは…摩多羅隠岐奈とか言う神様ね」
「ああ、はじめまして戸隠の鬼。そして…久しぶりだね、竜田姫」
「久しぶり。前会った時もちょっとしか話してないけどさ」
隠岐奈へと手を振りながら、軽く笑ってあきつは言う。私もはじめましてと礼儀として返す。だが、なぜ我々の目の前に。…その答えは、なんとなくわかる気がした。
「…あなた?秋を持ってったのって」
「察しがいいじゃないか。私は秘神にして賢者。秋を書き換えるなど容易いのさ」
ニヤリと笑う隠岐奈。どうやら、このまま戦いに誘うつもりのようだ。夕方の神社にはすでに色々集まって来ており、あきつもさらっと秋姉妹の横に混ざっていた。
「やったれ呉葉ー!ほら静葉も」
「…こほん、やったれー!」
「ぶっころせー!秋を返せー!」
もう一回秋が消えたと言うのに威勢のいいことだ。目の前の隠岐奈も少しうずうずしている気がする。こうなれば戦わないわけにもいかない。私は空中で拳を構えた。
「行くわよ、秘神さん!」
「ああ、準備ならできている!」
私の殴りかかりを最小限の動きで避け、さらにコレまた最小限の動きで掌底をぶつけてくる。かなり無駄がない。なかなかの戦闘技術である。
「はっ!」
さらに魔力で作ったらしい弓から、連続で矢を放ってくる。かなり正確に追ってくるので、火の玉で撃墜することに。
「くらいなさい!」
そのまま火の玉を向けるが、彼女が放った青いオーラが完全にそれを飲み込んでしまった。立て続けに四色のオーラから弾幕を放ち、私を狙う。
「はっ!」
その全てをかわし、私は殴りかかった。しかし前面に紫の扉のような物を魔力で生み出し、盾にした。それならぶっ壊せばいい。私は頭突きをぶちかます。
「ほっほう、面白いことをするね…」
扉を砕かれ、さらに私からの拳を受け、胸を押さえながら隠岐奈は言う。そうして彼女はぬるりとスペルカードを取り出した。
私の後方から、隠岐奈の方へとオレンジの光弾が向かう。それを避け切るが、その光弾、今度は私を狙って突撃してくるではないか。どうにか防御しきったが、後ろから現れた第二陣はそのままにくらってしまう。
「はっ!」
「…っと、効くじゃないか」
痛む背中を多少かばいつつ、私はタックルをくらわせた。怯む隠岐奈。今がチャンスであろう。私はスペルカードを掲げる。
貴舞「神火聖水の千秋楽」
「せい!せい!せいや!!」
三連続で水、火、水の回し蹴り。全て命中し、吹っ飛びながら隠岐奈は態勢を立て直そうとしていた。そこに、水圧弾をぶつける。
「起き攻めと言うのかな、こういうの」
そう言って椅子にしっかり座り直したかと思うと、手に持った鼓をぽんと叩いた。同時に彼女の周りから衝撃波が放たれ、痛くはないものの突き飛ばされてしまう。さらに迫ってくる隠岐奈へ、素早くキックを叩き込む。
「とうっ!」
それをいなしながら、隠岐奈は魔力で手の上に剣を作り出した。連続での斬り付けをもらい、さらに再び鼓での攻撃。怯みながらも私は隠岐奈を見据え、さらに炎の妖術を目の前に叩き込んでやる。
「それなら…」
彼女がスペル発動を宣言すると同時に、空中に現れた扉を開け、牛の乗った少女二人が突撃して来た。被っている布で顔はよく分らないが、そんなことはどうでもいい、私は一人を避け、一人を受け止めた。
「行きなさい」
そしてひっくり返し、牛の尻を蹴っ飛ばす。空を飛ぶあたり普通の牛じゃないが、態度は普通の牛だ。牛の上の緑の服の子は戸惑いっぱなしである。
「お師匠様!コレ、止まんなっ」
「あいでっ!逸らすぐらい出来る様に練習しておけ舞!」
女の子と激突したらしい顔を押さえる隠岐奈を前に、私はラストワードを宣言した。コレで決めてやる。
私の放った紅葉型の弾幕をくらい、隠岐奈が怯む。こうなればこっちのものだ。紅葉達があふれる中、私の手の上に風に舞った緑のカエデの葉が乗る。
「……」
振り向く姿勢で、半身隠岐奈を見つめる。どうにか避けようとしているがもう遅い。私の手を離れた葉は燃え上がり、同じように緑の葉たちは紅に染まっていく。
「…っ!!」
そして炎の山が、飲み込むように隠岐奈を襲う。こうなっては避けようはない。半分アフロのようになった隠岐奈が、地面に座りどこから持って来たかわからない白旗を振っていた。
「お見事!君は童子候補としても十分にありだねぇ」
「牛に乗って敵追い回すのは嫌よ」
「それも一理ある」
そう言いながら彼女が指を弾いたとたん、木々は炎の色に変わっていった。神々が居る酒の席でも、十分に興奮させるに足るものだ。私としてもテンションが上がってしまう。
「…しかしなんだってこんなことを?」
「君達を気に入ったからさ。宴を楽しみたい姿勢、実に良い。それに私は被差別民の神でもある。心当たりがあるだろう、戸隠の鬼、呉葉よ」
私を指差し、イマイチ答えになって答えと共に妖しく笑う隠岐奈。…かと思えば、吐息と同時に妖しさが一気に抜ける。体を伸ばす彼女からは、先ほどの威厳は感じない。オンオフ激しいタイプである。
「まあ何だ、楽園にようこそだ!ほら、来い舞に里乃。紫のとこに行くぞ」
聞き返す前に、隠岐奈はちょっと遠くに座ってしまった。まあ細かい事情はおいおい聞こう。今はみんな盛り上がってる、それが重要だ。
「あっはっは!呉葉さんってば分かってるー!」
「あなた飲んでなくてそれなのね…」
「早苗は空気に酔うタイプなんだろうね」
にかーっと笑顔を浮かべるあきつ。なんだかこっちまで楽しくなる。私が瓶子から注いであげた酒を、彼女はとても美味しそうに飲み干した。
「…来てよかったなぁ」
「まだ来たばっかりでしょ」
「だからこそだよ。来たばっかりなのにこんなにあったかい」
「あっはは!くさいこと言うのね」
「何をー!」
幻想郷、そこではゆっくり時が流れているような錯覚を覚える。
そこには現代社会では忘れ去られたものが、しっかり残っている気がした。
それが何かはわからない。
少なくとも、紅葉を肴に酒が飲める現代人は少ない。
何でもかんでも受け入れるカオスな楽園。そこでしか得られないものは多そうだ。
来てよかった、それは私だってずっと思っている。
これからは私達も、ようこそを言う側だ。
と、いうわけで。
全話終了いたしました。コレにて、隠秋異変は終わりました。これからは、彼女達も幻想郷の一員として暮らしていくのです。この場をお借りして、改めて皆さまありがとうございました〜!そして八百語の時姫秋葉に応募してくださった方々。ごめんなさいー!
呉葉とあきつのコンビが気に入りすぎた私が原因でございます。
今後も、細かいコマンド解説や幻想縁起風キャラ解説、さらに三月精や鈴奈庵、茨歌仙風のエピソードなど…。
色々考えています。
楽しいってだけでこんだけ書き上がるってのもすごいよね。ここまで読み終えた方は多分片手でカウントできるほどでしょうけどいいんです。そんなすっくねぇ読者の中で姫秋葉とコラボしたいよ!って方がいればばんばか言ってくださいねー!あとで活動報告とかも出しそうだけど。
改めて。
鏡面さんキャラ提供、自機選択、スペカ考案…本当にいろいろありがとーー!!大好きー!!!(唐突な告白は以下略