東方姫秋葉 〜 Recapture season lit with gold and red! 作:さわたり
二つ名の話ね。
この時間、昼過ぎは時刻的に最も暑いという。だが、そんなのがどうでもよくなる程今日という日は暑い。いや、夏ほどではないのだが…。強めの残暑がダラダラしてる感じだ。
「こんなに暑さが続くならエアコンとか置いとけばよかったかしら…」
「そうだなぁ。氷とかないのかこの家。あった、コレ冷蔵庫だろ。ただの氷でもありがたい」
「人の家を勝手に漁るものでは無いですよ…」
「仙人に指図される筋合いはないな!」
「そんなこと言うと実力行使に出ますよー…。竿打が」
「お前だってぐったりじゃないか」
だらーんと椅子に座る華扇に、私は氷を浮かべた麦茶を出してやった。華扇の家は外の世界のものもあって面白い。この冷凍庫と製氷皿もありがたいアイテムの一つだ。
「こんな中途半端な暑さが続けばそりゃ元気もなくなりますよ。本来なら気候に関わらずここは快適なはずなんですがね…」
「お前仙人だろう。心頭滅却すれば火も涼しいんじゃないのか」
「何だって日中ずっと心頭滅却しなきゃいけないんですか」
「…鬼なのに暑いのダメなのか?」
「もう鬼としての私は薄れてきてますしねぇ。あ、麦茶ありがとうございます」
飲み干した上氷をガリゴリ食べ、空いたコップを置いた。今日はこいつとあと死神と飲みに来たってのに。面白くないぞ。秋にまで乗っかかる残暑を乗り切れる、そういう涼しくできるものはないだろうか。それにこの華扇の屋敷まで暑いならもしかすれば何者かの企みというのもありうる。ひとまず私は汗を拭き、暇つぶしがてら華扇の家を後にした。
すぐ出た先の妖怪の山、そこで私は予想外の人物と出会った。
「こんなところに居たのか紫苑!」
「ありゃ?ほら姉さん、天人崩れが会いに来てるわよ」
「え!?ほんとだ!天人様〜!」
依神姉妹だ。お互い別々に生活していると聞いた…というかつい最近まで紫苑は一緒に生活していたが。どうやらまた集まって何かを企んでいるようだ。もともと薄っぺらい服の紫苑はともかく、女苑も上着は脱いで涼しげである。
「で、何だって妖怪の山なんかに?」
「ん〜?いやぁ、私達も神様くずれとはいえ神様なんでね。匂いで分かるんだよ、コレがどこぞかの神様が関わってるのは」
グラサンにきらんと光を反射させ、女苑は笑う。かっこいー、とおちょくる姉を恥ずかしげにぺしりと叩きながら、私へと近づいた。
「どうせならあんたも一緒にやるかい?」
「お前がそういうからには…儲け話か?」
「察しがいい。今回の首謀者の神様を利用して金持ちをゆすんのよ。面白そうでしょ?」
「天人様も是非一緒に!」
目を輝かせて近づく紫苑。さらに挟み込むようにすり寄る女苑。そんな二人を退ける。あいにく金に興味はない。そう告げると、小馬鹿にするように女苑はため息をついた。
「わーかってないなあ。金が欲しいからやってんじゃないのよ。金を使わせんのが楽しいだけ。正直贅沢はもう飽きたわ」
「その発言自体贅沢よねぇ」
「姉さんも天人様に食わせてもらってたんでしょ?私だってちゃんとした生活させてんじゃん」
「そーだけどー」
「で、どうするよ天人さん」
再びこちらへ視線を戻す女苑。サングラスの奥の目は、自身ありげなものである。まあ手伝ってやらんこともないのだが…。
「正直…異変の首謀者がいるなら、そいつをぶちのめした方が楽しそうだ!」
私が緋想の剣を向けたのに対し、女苑はしゃあねえなとでも言うような態度で、身構える。拳を強く握ったかと思えば、メリケンサックがわりにイミテーションの指輪をはめていく。
「いくよ姉さん」
「えっ、でも…」
「私が相手だからと躊躇うのはかえって失礼だぞ?」
「相手さんもああ言ってんだ。行くぞ!!」
真っ先に女苑が飛びかかる。あいつらしく、一発目は激し目のパンチだ。後ろへかわしながら、緋想の剣で斬り払う。が、防御していた模様。体勢を立て直し、飛びかかる。
「いっけー!」
「どりゃ!!」
…かと思えば、そのまま女苑が踏みとどまり、紫苑が拳を構えてこちらに突っ込んできた。威力自体は大したことではないが、食らったことが問題だ。
「オラァ!!」
「ふぐっ…!」
「ふぐとか食べてみたいなあ」
「姉さん集中!!」
腹の奥に拳を叩き込まれたようだ。同時に自分の体がすうっと晴れていくのがわかる。この私に基本紫苑の不運の効果は及ばない。…だとすれば、このパンチは女苑が弱点を狙ってきたものということだ。
「いい拳をしてるじゃないか!」
「おっぶ…」
私は剣をしまい、顔へ拳を叩きつけた。グラグラと怯む女苑。だがその目は鋭く、そして笑っている。顔をとっさに逸らしてダメージはだいぶ抑えたようだ。
「でりゃああ!」
「甘いわよ天人もどき!」
「純粋無垢な天人だ私は!!」
あいつの拳と私の拳が同時に放たれ、クロスカウンターの姿勢に。私はとっさに頭突きを叩き込み、女苑を怯ませた。
「えーっと…おりゃあああ!!」
蚊帳の外になっていた紫苑が私へと掴みかかってきた。非力ではあるが、女苑からの攻撃をいなす最中でやられれば流石に困ると言うもの。さらに女苑が私の首を掴み、どかどかと殴りつけた。
「かったいなあんたは…」
「言ったろ、天人だってな!!」
女苑のジュリ扇ブーメランを剣で弾き飛ばし、後ろから迫る紫苑にはひじ鉄をたたき込んだ。そして女苑が放った弾幕を要石からのレーザーでかき消し、私は剣を構えた。
「全人類の緋想天」
「うっっそだろぉ…!」
私の手の平の前で剣がくるくる回る。全方位へとレーザーが散り、紫苑へヒット。へなへな落ちていく彼女を背に、私は女苑へ向く。剣に集まった気質を、凝縮してビームのように放つ。避けようもなく、女苑は諦め気味に笑った。
「…あー負け負け。さっすが天人」
ぷすぷすと煙を立てながらどさりと大地に座り込む女苑。負けたくせに清々しそうでもある。ぐでーんとした紫苑を立たせると、彼女は私に手を振って去っていった。剣に吸わせた女苑の持つ気質が、その首謀者とやらの居場所を教えてくれる。
「…もっと奥ねえ。この先は河で…それを超えれば谷ってとこかしら」
「ありゃ、天子さん?」
「ん、早苗か。この池の水を取りに?」
ここ、大蝦蟇の池の水は神事でも使われるという。それに誰のもんだか知らんが、祠もある。早苗がいるのは不自然ではない。
「…まあいい、私は急いでるんだ」
「ちょーっと待った!行かせはしませんよ!」
そう言ったかと思うと、私の前に早苗が立ちはだかった。剣を向けるも、彼女は退こうとはしない。
「行かせてもらうさ。基本的に寄り道はしない主義でね」
「ダメですってば。私だってわけも分からないうちに竜田姫様のお手伝いさせられてるんですから」
「ほーう?竜田姫ねぇ」
「ええ、神奈子様が『手伝ってあげろー』って言うんです。ほっといても良いって言ってたけどほんとなのかしら…」
頭をかりかりとかきながら、早苗はこちらを見た。仕方ないがやるっきゃない、という顔だ。私も受けて立つことにする。
「いやいや戦って勝てる比那名居天子だと思ってくれるなよ!」
「…まあ、神奈子様直々の命令でもありますし…貴女を全力でぶっ倒させて貰いますよ!!」
まず先に飛び出したのは早苗の方だった。振り下ろした幣を避け、弾幕を展開して牽制をかける。距離を置きながら、早苗の早苗で星形の弾幕と放った。
「だああああ!!」
ぐだぐだしているわけにも行かない。私は要石で道を切り開き、近接に持ち込むことにした。だが、彼女はほぼ同時にスペルカードを取り出す。
要石「カナメファンネル」
早苗の放った星を掻き消すようにレーザーがバンバン放たれていく。要石たちに射撃を任せて近づくが、星弾の拡散をくらい、どうも近づけない。お互い、スペルカードが終わったと同時に駆け出し、キックがぶつかり合った。
「だァ!!」
「フン!!」
早苗の放ったパンチを要石で受け止め、そのまま要石を投げつける。ガード体勢のまま弾き飛ばされ、その隙を私は見逃さない。一気に迫って振り下ろした緋想の剣に、ぐらんと早苗が揺らいだ。キックを叩き込むと、そのままふらふら後ろに下がっていく。
「おりゃあああ!」
方向を切り替え、弾幕で勝負する気のようだ。激しい雨はついには避けきることも潰しきることも面倒だ。私はスペルカードと、桃を取り出した。
桃符「堅牢堅固の仙桃」
しゃぐっ。桃を飲み込み、自分の天人としての力が満ち満ちるのを感じとる。こうなればもう怯まない。少しの間だが、痩せ我慢ができる。痛いのはまあ痛いのだが。
「ぜああああああああ!!!!!!」
弾幕を避けず、一気に接近する私に早苗は驚いたようだ。だが似た技は一度見ているためか、構え直すのに時間がかからなかった。
「やっ!」
「どりゃああ!」
早苗が放ったパンチをそのまま体で受け止め、緋想の剣をたたき込んだ。思いっきりくらったようで、早苗は降参のポーズを取っていた。
「では案内してもらおうか、竜田姫とやらのところにな!」
「…いえ、それ以上に面白い話をしましょうか」
「なんだと?」
「九天の滝、そこの大橋に向かってください。満足じゃなければ守谷神社においでください。我々が全力でお相手します」
早苗はそう言って、滝の方を幣で指差した。
「…いいだろう。期待するだけしてみるともさ」
手を振る早苗を背に、私は駆け出した。
大量、というほどではないが、橋には装飾として紅葉がついていた。それもだいぶ新しく、綺麗な。この天気故に、山は緑一色。どこから来た紅葉なのか、確かめたくもなってきた。警備の天狗が多いが、犬走だったかはいない。適当にぶっ飛ばして、私は橋を渡った。
「…誰だお前」
渡った先の崖は、何もない洞窟の入り口である。だがその風景は絶景と言って差し支えないものである。広がる緑と真っ直ぐに緑を貫く水。その風景を眺めながら、鬼らしき女はつまらなさそうだ。
「ああ、私?更科呉葉。まぁ、今回の事の関係者、かな」
「そうか。なら話は早い」
「そうねぇ、じゃあやればいいのね?命名決闘を」
「ああ、にしてもお前、面白くなさそうだな。天界に比べればちんけだが…いい風景じゃないか」
「あんた天人なのね。… まあ、私にとっちゃ旬な風景じゃないってことよ」
呉葉とかいう鬼は、盃の酒を飲み干して私の方を向いた。そうか、こいつは紅葉が見たいのだ。
「外の世界、どんなとこか知ってる?」
「急になんだ。知ってるさ、外来人の知り合いも少なからずいるからね。巨大な四角い建物に仕事をする空間がギチギチに詰まっているらしいな。ビルだったっけ?すし詰め状態で人間は日夜行き来をし、雷や炎で動く車が人間を運ぶと聞いた。電気の力がカラクリを大量に動かす、効率化の世界。遊びがなくてつまらんとも思うが興味は尽きない」
「おおむね正解。でも、効率化の悪い面をあんたは分かってないわ。つまらない、以上の問題がね」
「飯が不味いのか?」
「飯は最高よ。酒もね。でも肴はどんどん減っているの。季節っていう最高の肴が」
「季節って減るものか?…現に幻想郷には秋が奪われてるか」
「そういうのじゃなくて。機械のせいで空が汚染されてんのよ。おかげで秋もはっきりしない」
「だから幻想郷の秋を奪おう、と」
私の言葉に、ニヤッと笑ってあいつはうなずいた。両側に生えた前向きの角が、私へと向く。呉葉は盃を投げ捨て、構えた。私が改めて距離を取り、橋の上の飛行戦が始まる。…面白くなりそうだ!
「でやっ!!」
「活きがいいのね…!」
私の斬りかかった腕を掴み、キックを叩き込んだ。さすが鬼だけあり、その威力は凄まじい。しかも掴まれた上での拳だから、回避もままならない。無理に攻め込むのは得策ではない。
「離れりゃ勝てると思わないことね!」
そう言ったかと思えば、小さな火球をばばっと散らした。密度があるわけではないがスピードがある。そのせいで私はどんどん後退していき、奴のスペル発動を許してしまった。
奴の後方から、波が現れる。黒い濁流が凄まじい勢いで私へ接近。防ごうにも防げず、そのままぶっ飛ばされて木へと叩きつけられてしまった。
「ぐっ…!」
「だあっ!!」
迫ってくる呉葉。近接は避けられないようだ。あいつの勢いを利用する形で、そのまま要石を叩き込んでやった。ようやく怯んだ呉葉に、私は一気に切り込んだ。
「ぜあっ!」
「ぐっ…」
首を掴んで至近距離キックをぶつけ、さらに連続斬り。その攻撃にやっと怯んだ呉葉へ、私はスペルカードを見せつけた。
地符「一撃震乾坤」
「はっ!!!」
私が地面を叩き、同時に岩の柱が地面から飛び出る。ふっ飛ばされつつもすぐに体勢を立て直すあたり、だいぶダメージは受け流したのだろう。それとも単純に体が強いのか。
「そのまま食らえ!」
本来この技は牽制で使うようなものではないが、相手が相手だ。こちらへ向かって来る前に、私はさらなる大技で畳み掛けることにした。こちらも結構ギリギリなのだ。
私が緋想の剣から光を放ち、同時に上空が一気に曇っていく。防御体勢の呉葉を前に私は上昇し、奴を指差す。これが攻撃の合図だ!
叩き落とされた雷たちが一気に彼女を襲う。轟音と共にふっ飛ばされ、そのまま墜落。煙を上げながら呉葉は半身を起こした。
「負けだね、私の負け」
両手を上げて笑う呉葉。その態度はかなり余裕だ。私としても勝利は満足だが、消耗が激しいのはこちらである。
「どうする?私をとっ捕まえて叩きのめす?」
「いいや、十分に遊べたさ。暇つぶしとしては最高だったよ」
当初の目的なんぞもうどうでもいい。私は意気揚々と華扇の家に向かった。
「あ、帰ってきましたね。見てくださいよこれ!倉庫にあったんです!」
私が到着するなり、華扇はエアコンを机の上にどんと置いた。埃をぱぱっと払いながら、彼女は何やら仙術の準備を始めた。
「やめておけ」
「へ?貴女さっきは同意してたじゃないですか」
「空が汚染されるんだろ?」
「室外機は外の世界にありますよ」
「外の世界がもっと汚染されたら…アイツみたいなのがもっと現れるじゃないか」
私の言葉を聞き、華仙は首を傾げた。同じ頃、小町も窓から入ってくる。三人飲みの始まりに、私は今日の出来事を話してやることにした。