東方姫秋葉 〜 Recapture season lit with gold and red! 作:さわたり
「はぁ…いいネタが入らないわねぇ」
夕方、私は一人木のてっぺんでぼーっと考えていた。昨日秋姉妹から集めた情報や様々な観察から新聞を書いたものの、どうも根幹は掴みかねていた。
「庭渡様は全く質問に答えてくれないし…早苗さんに負けた手前守矢神社に行ったところで話はきけなさそうだし…。うーん、どうしましょうかねぇ」
ぽつぽつと呟く私。だが考えてばかりいてもネタは掴めない。今日の朝霊夢さんと久侘歌さんが一緒に帰っていくのを見た。異変解決の準備と見ていいだろう。そのネタも掴まねばならない。
「忙しいわ、我ながら」
翼を広げ、ゆっくり飛び降りる。霊夢さん達が来たことを考え、方面的に人里に降りるのがちょうどいいだろう。私は装いをいつものものから『社会派ルポライターあや』のものに変え、要はベージュのものに変え、キャスケットをかぶった。
「聞き込み開始…っと!」
降りる中で到着したのは大蝦蟇の池であった。天狗がするのも変な話だが、とりあえずお供物でもしておこう。
「よっこいせ…」
「ん?お前か。またネタ探しを?」
「あやや、天子さんではないですか。ええ、何を隠そう私今ネタに困ってまして」
「異変のことがあるじゃないか」
「その足取りが掴めてないんですよ。竜田姫様が一枚噛んでるとかは聞きましたが」
「そうらしいな。目的は外の世界へ秋を与えて秋を取り戻すとか」
よく知ってるわねコイツ。どこで知ったのだろうか。天子さんから、もう少し聞き出せそうな気がする。
「そのお話はどこから?」
「さあね」
「そうですか、天子さんから聞けるとなるとそれだけで十分付加価値があるというのに」
「む、そうか?」
やはりこの人はちょろい。ちょっとばかり乗せてしまえば、簡単に調子に乗ってくれる。そのまま聞き出せばいいだけのことである。
「うーむ、そうだなぁ」
とはいえ、調子に乗りやすいが頭は回る。出すべき情報を考えているようだ。基準はおおかた彼女が面白いか否かだろう。
「私から聞き出してハイそうですかでは面白味がないな。ひとつだけ言うとすれば…あいつには協力者がいる」
「私が知る人ですか?」
「かもな。だが知らないかもしれない」
「要領を得ませんね」
「私はお前の交友関係なぞ知らんからな」
何か煙に巻かれている気もする。他にもと聞き出せないだろうか。私は取材を続けることにした。
「それにしても…なんだってこんなところに」
「散歩さ。することもなくてね」
「…うーむ」
「そうさなぁ、私を倒せたらもっと教えてやらんこともない」
ついに本題である。こうなれば致し方ない。私は扇を彼女に向け、構える。天子さんはにっこりと笑っていた。
「たあ!」
「フン」
私の扇での攻撃をかわしながら、彼女は緋想の剣を振るった。どうにかかわしたが、相当至近距離だったのでギリギリだ。続いての連続攻撃に対し、私は距離を取った。
「やあっ!」
「おらっ!」
私の弾丸を、天子さんはいとも簡単にかき消す。近接を交えた命名決闘において、私は射撃が得意だとはあまりいえない。思い切った弾幕やスピードで魅せる演出ならお手の物だが、こういう環境では殴りかかるのが最良なのだ。
「最速はどうした、遅いぞ!」
彼女は遠慮なくレーザーをぶちかましてくる。1、2と防御するものの、最後の一発に直撃。結構痛いぞ。あんまりこれ以上食らえない。
「遅いと言ったが前言は撤回しようか。逃げ足が速いな!」
そう言いながらバンバン撃ってくる天子さん。さすがというかやはりというか、かなりの火力バカ的なやり方である。
「やれやれ…」
こうなってしまえば、無理やりペースを奪い返す他ない。
旋符「紅葉扇風」
「サぁ!!」
「うぉっ!」
私が前方に叩き込んだ旋風に、天子さんが怯んだ。…今だ!
「だぁ!はっ!はい!!」
一気に飛びより、連続攻撃を叩き込む。反撃の隙など与えるつもりはない。ガードしようとする予備動作があれば、それより早く扇をぶつければいいのだ。
「速い…!」
「それが自慢なもので!」
次の攻撃は連続キックだ。どうにか防御体制を取る天子さんだが、もう遅い。このままめくってやる。
「ぜあっ!はいっ!」
「うぐっ」
扇の柄で殴りつけ、そのまま扇と蹴りを叩き込む。大きく見せた隙にはそのまま竜巻をねじ込み、さらに蹴り上げをぶつけた。怯む天子さん。私は彼女を前に素早くスペルカードを投げつけた。
突符「天狗のマクロバースト」
彼女の頭上へ飛び、そのまま突風をぶつける。こちらを睨み、剣を振るう天子さんだが、もはや彼女のターンなどない!
「はァ!!」
さらに彼女の首を掴み、ぶん投げてきりもみ回転キックを叩き込む。フラフラする彼女へ頭突きを打ち込む。そのまま墜落し、頭を押さえて立ち上がった。
「良くやるじゃないか天狗」
「いえいえ、ではお約束ですが」
「ああ、そうがっつくなよ。私は約束は違えないさ」
「そいつは失礼しました」
「…協力者の方は鬼だ」
鬼だと?言うことが本当ならば、コイツはかなり面倒な話である。しかも外の世界からきたとか言うのだ。あまりにも未知数である。
「名前は…たしか、呉葉だったな」
「呉葉、うーむ、とてもハイランクな鬼ってわけではなさそうね」
「それと、あいつは暇そうだった。どうやらまだすることがあるわけではないようだね」
「これからの作戦のために待機中って感じですかねぇ」
まあ、ある程度の情報は掴めた。竜田姫様は何かの目的のために異変を起こしたが、どうもそれは一人ではできないようだ。
「…目的は」
「汚染されて秋が消えゆく外の世界へ秋を解き放つらしい」
「なるほど、ありがとうございました」
なかなかイイ収穫だ。だがもう少し欲しい。そう聞くと、天子さんは何かを思い出したかのように言った。
「紫苑に渡されたものだ」
その紙の上には、異変を起こした鬼を倒せ!という、挑戦を煽る内容が書かれていた。戦い好きの実力者は食いつくはずだろう。天子さんは呉葉とやらと戦った後に渡されたそうだが。
「…ありがとうございました」
「いい新聞を期待してるよ。暇つぶしにはなる」
「あ、居ましたね」
目的の人は、聞いた通り寺にいた。庭をささっと掃除する女性こそ依神女苑。泣く子も黙る疫病神とのことだ。
「あー?あんた確かブン屋の…」
「ええ、社会派ルポライターの射命丸です。初めまして、お話は聞いてますよ女苑さん」
「そりゃどうも。で、なんの用かしら」
「この紙についてです」
私が出したのは天子さんからもらった紙。女苑さんの作った、挑戦者を呼ぶものだ。
「あー、それ?暇そうな鬼のために作ってあげたのよ。面白そうでしょ?」
「お金は取らないんですか?」
「別のことでここの住職に怒られたばっかりなもんでね」
「そうでしたか。…それにしても、作ってあげた。その鬼さんとご友人だったり?」
「違うわよ。ま、外の世界を知ってたから楽しい話が出来たってお礼だね」
天子さんも言っていたが、やはり外の世界の鬼。その素性はだいぶいいネタにできそうだ。
「お邪魔しまーす。ってあれ、女苑その人は?」
「ブン屋の射命丸だってさ」
「へー。よろしくね〜」
呑気に命蓮寺に入ってきたのは彼女の姉、紫苑である。話は遮られてしまったが、彼女も何か情報を持っていそうではある。取材を続けることにした。
「では…どこに居るのですか?その呉葉さんは」
「名前知ってんだ。山に居るよ。九天大橋に」
「分かりました。続いてですが…」
「待った。あんたばっかり答えててずるいわね」
「…?私に質問でも?」
「いいや。でもさ、なんか対価取りたくなってきちゃった」
そう言うタイプか。取材で情報を抜かれるのを警戒するタイプ。…いや、と言うよりは、それを引き換えに優位に立とうとしているのだろうか。どっちにせよこれ以上事を長引かせても面倒だ。
「では、失礼するとしましょうかね」
「逃すかよ!姉さん!」
「おっけー!」
がっしり掴まれてしまった。振り払えず、仕方なく私はゆっくり着地する。そんな私へ、サングラスをかけながら女苑さんは近づいた。
「そもそもあんたは命蓮寺では私達としか会ってないから…私が侵入者と言えば侵入者だしねぇ」
「そりゃまた強引な」
「それに、パパラッチってのも気分は良くないわね。これで口実としちゃ十分かな。あんたも呉葉の奴に挑むだけの力があるか試して貰えるのよ。ありがたく思いな!」
「そうだそうだー!勝ったらもうちょっと色々教えてもいいしねぇ」
私を前に構える依神姉妹。彼女達は確実にもっとネタを持っている。優位に立って聞き出すのも悪くはない。私も彼女達を前に扇を構えた。
「おら!」
早速殴りかかってくる女苑さん。その攻撃をスレスレでかわし、私は蹴り上げを叩き込んだ。だがダメージは大したものではなさそうである。続けて紫苑さんからの弾幕が私を襲った。
「避けるじゃないの!」
さらに女苑さんまで。飛んできた『富』をかわして、私も反撃の竜巻を向ける。だが完全に防がれてしまった。
風符「天狗道の開風」
「やッ!」
早速ではあるがスペルを宣言した。前方に放つ超高速度の竜巻。ぶっ飛ばされた女苑さんを前に、私は一気に接近した。
「はっ!やあっ!おりゃりゃりゃ!でや!」
扇による連続攻撃を叩き込み、さらにキックを叩きつけて竜巻をぶつける。上方へへかちあげられた女苑さんを背に、今度は紫苑さんを柄で殴りつけ、体勢を立て直した女苑さんへとぶつけた。
「姉さんどいて!」
「はいはい」
苦笑いで避ける紫苑の後ろから、貧気を凝縮した巨大な弾を投げつけてくる。だが、視界を塞がれているのはあちらも同じ事である。私はスペルを掲げた。
風符「天狗報即日限」
本気でスピードを出す。ただ単にそれがこのスペルの内容である。一瞬で彼女らの後ろに回り込んだ私は、そのまま扇で殴りつけた。
「この…!!」
だがそのままやられる彼女達でもない。一瞬一瞬の隙を狙って殴りつけてくる。しかしそれで押されては幻想郷最速が廃ると言うもの。彼女のパンチへクロスカウンターを返した。
「…っ」
「いてて…」
こちらも食らっているがそれを気にしてはいられない。足は多少ながら私の方が長く、とっさに繰り出したヤクザキックをもろに喰らったのは彼女の方だった。
「ぐぐ…」
「お、おりゃー!」
「はっ!」
妹のピンチを見ていられなくなったのか、紫苑さんは拳を向けてきた。それをいなすのは簡単だ。そのまま扇からの小さな竜巻で吹っ飛ばし、彼女達を石床に跪かせるのだった。
「やるじゃん。これなら勝てるんじゃない。アイツに」
「呉葉さんにですか」
「そう、更科呉葉にね」
「…更科?」
「そうだよ。あいつの苗字」
「更科…姫?戸隠の!?」
前言撤回。更科という苗字が本当なら、彼女は紅葉狩に有名な更科姫である。呉葉、そんな名前をしていたのか。今になって自分の焦り方を後悔した。
「…ちなみに他に情報は」
「えっとね、人間に紛れて暮らしてたらしいわね。で、あいつの協力者の神様は西山あきつってさ」
「あーあとあと!外の世界はご飯が美味しい!あと年中快適な気温にできるカラクリがある!それにそれに…」
「姉さん羨ましいのはわかるけどそれアイツに関係ないでしょ」
「…あの、このあとご飯でも奢りましょうか?」
あっちが言ってきたとはいえ、ぼこぼこにした上話を絞り出すとなれば流石になんか申し訳なくなってくる。日も落ちて夕飯時だ。話の続きは飯屋ですることにした。今回は大会があるわけでもないし、異変後号外でもいいかもしれない。いずれにせよそこまで急ぐことでもない。
「あー、お腹いっぱい。ネタの方もお腹いっぱいだし…外の世界の情報を茨木様あたりからも集めて特集とか組んじゃおうかしらねぇ」
大成功である。夕陽の下で喧嘩をした者達は仲良くなる法則があるらしいが、それに近いのだろうか。依神姉妹は今後もいい取材相手かもしれない。時間はかなり遅くなっていた。
「あんまり夜に出歩くもんじゃないわ、特に女の子がね」
そんな中、私の方へと声がかかる。その辺の木箱に腰をかけ、笠を被ったきれいな着物の女性が私に背を向けていた。
「そのままお返しします。私はこわーい天狗ですよ。いいんですか?人間はさらっちゃいますけど」
「あら、できるのかしら。天狗ごときに」
笠を外す少女の朱色の髪。彼女の側頭部から生え、前へと向く二本の角。完全に鬼である。
「ま、私も昔は人間だったけどね」
「…貴女は、更科…様」
「かたっくるしいわね。呉葉でいいわよ呉葉で」
「めっそうもない!むしろ鬼の貴女に粗相を」
「そうねぇ、じゃあそれを口実に埋め合わせお願いしちゃおうかしら」
瓶子から盃に酒を注ぎ、ぐびっと飲む。なぜ人里に?九天の滝に居るという話だが。聞いてきた話が嘘だとは思えない。おそらく移動してきたのだ。
「…なぜ人里に?」
聞く他ない。戸隠の鬼は正直情報が散っていてそのキャラと目的が掴みづらい。本人が何を考えてるか、それは予想できる段階ではない。
「別になんでってことはないわ。山奥が暇になっただけよ。私達の作戦のせいとはいえ、秋らしい風景もなくて面白味がないし。なら活気がある方がいいでしょ?」
「もともと人間だったから、ですか?」
「そうねぇ。…昔さ、私のためにいろんな人が死んじゃったんだ。たまたま魔の力をもって生まれただけの私を、いろんな人が妬み恐れ憎み…庇い守り見送り…。私の周りでいろんな人間のいろんな想いが渦巻いたの」
「…優しいんですね、更科様は」
「鬼になっても生まれは人間。結局はヒトの感性ってとこね。人間が元気に暮らしてるだけで嬉しいし。友達のためにこんな事の手伝いもするしねぇ」
クスクス笑いながら、酒を飲み干す更科様。木箱からゆっくり立ち上がると、盃を置いて、私の方を見た。
「でもね、鬼らしいところもあるのよ」
「ほほう」
「一つは酒好き」
「もう一つは?」
「戦闘狂ね」
そう言ったかと思えば、飛び上がりながらちょいちょいと指で招くポーズ。コレが『埋め合わせ』のようだ。代わりに差し出すようないい酒もない。乗る他なさそうである。
「だあっ!」
早速彼女の拳だ。ギリギリで避けるが、風圧でさえ痛いほど。ひとまず先手を取られてしまったので、一旦は避けるほかなさそうだ。
「…っと」
「さすが烏天狗。足が速いわね」
ギリギリで拳をかわし続ける私に、彼女は言う。続いてキックを繰り出した更科様であるが、どうにか防御は成功する。
「はっ!」
さらに連続キックが私へと向かう。数発もらってしまうが、コレも大きなダメージではない。
「やっ!」
「フン」
小さな竜巻をその隙に叩き込むが、怯まない。そのまま握った両手を振り下ろし。さらに肩をぶつけてきた。
「たァっ!」
怯んで後ろへ下がる私へ、今度は火の玉が飛ぶ。妖術だ。私が放った風はただ火を強くするのみ。避けることに専念した。
さらにスペルの宣言と同時に術を発動。火炎の球を空から大量に降らせてきた。避けきれない。私は扇を構えてガードするしかなかった。
「あいてて…」
「おりゃっ!」
さらに、終わるや否や急接近のパンチ。下方へ飛んでどうにか避けられたが、かなりギリギリだ。このまま防御し続けていても追い詰められていくだけだ。相手が鬼とあれば接待負けは絶対に許されない。私はスペルカードを宣言した。
鴉符「暗夜のデイメア」
接近する彼女を前に、カラス達を呼ぶ。思いっきり突撃してくるカラスに怯み、大きく隙を晒す。攻め込むなら今だ。
「どりゃ!」
「ぐっ」
首を掴み、上方へ投げる。姿勢を直そうとする彼女へきりもみキックを叩き込み、そのままねじ込んでいく。
「うぐっ!」
完全に食らわせた!そのまま扇を叩き込み、蹴りをぶち込む。私の一瞬の隙を狙うようだが、その隙だって与えない。チャンスを逃せばそのまま負けてしまう。
「はぁっ!!」
蹴り上げと同時に、私はさらにラストワードを用意した。このまま決めてしまおう。
「はっ!せいっ!」
高速で移動し、連続で突進を叩き込む。そのままかちあげられた彼女を前に。私はペンを差し向ける。お前を倒すという、ある種の挑発だ。
「だっ!」
私は再び突撃。彼女の目が私を捉えるのを追い抜いて、高速でぶつかり続ける。風そのものとなって斬り裂くのだ。何回当たったか数えるのも嫌になる程。
「…っと」
私が着地したのに続き、更科様は地面へと墜落した。すぐに起き上がって砂を払うのが、流石の体力だ。
「あんたすごいじゃないの」
「お褒めに預かるほどではございません」
「フフフ、そうかしら」
「覚悟しておいてください。巫女も魔法使いも私より遅いですが私より強いですからね」
「へぇ、あんたは異変解決ってわけじゃないのね」
「ええ、今回はネタになればいいんです。名付けるなら…谷底に隠す。
いいネタが入った。更科様に礼を言い、さらに話を聞くことに。どこからともなくおちょこを取り出し、私へと持たせた。酒を飲みながらの取材も悪くない。
文ちゃんの投げ技は天子と呉葉への首掴みぶん投げきりもみ回転キックです。