見上げると、空に切れ目が見える。その間からは不気味な冷気が漂っていて、言葉にできないおぞましさを感じる。
「急ぎましょう、紫様の力もまだ万全ではありません」
冬眠から明けたばかりの紫様は、能力の半分も使うことができない。そのせいか、直接冥界にスキマを開くことが困難らしい。あの空の切れ目も、少し不安定に見える。
「...アイツ、まだ寝起きなの?」
「寒さのせいで、起きたのは数日前です」
「アレが入り口か?なーんか嫌な感じだぜ...」
私達は、迷い家を後にする。...橙になにか書き置きでもしておけば良かったか、まぁ仕方ない。多少の申し訳なさを感じつつも空の切れ目に向かった。
「さて、行きましょうか」
「あぁ、さっさと親玉ぶっ飛ばして神社で宴会だ!」
「できればウチ以外で騒いでくれないかしら...」
切れ目に入ると、そこが冥界に続いていると生存本能が告げる。どうやら私の魂が、まだ行きたくないと叫んでいるように思えた。元来人も妖怪も死ねば、魂は冥界へ行く。それが分かっているのだろう、まぁ今は身体も一緒だ。大丈夫だろう。
「なんて言うか、外とは別の寒さを感じるわね」
「だな、悪寒ってやつか?背筋がゾッとするぜ...」
他の二人も同じように感じるようで、魔理沙は箒に跨がりながら身体をぶるっ、と震わせていた。そんな時、
「ー、!これは...」
突如としてそれは目の前に現れた。途方もなく続く長い階段。その脇には一定の間隔で石灯籠が淡い紫色の炎を灯し、妖しく揺らめいている...恐らくこの上だろう。
「...明らかに空気が違うわね、嫌でも分かるわ」
「ここが、冥界か...」
いつか、藍に聞いた覚えがある。冥界には白玉楼という美しくも妖しい屋敷があると。
「行きましょうか、二人とも」
私は階段を上る。少しずつ、死がこちらに近づいて来るような、いや、私から出向いているような感覚。...長居は無用だろう。二人も着いてくる形で階段を上って来ている。...どれほどの時間が経っただろうか、ようやく階段に終わりが見え始める。
上り終えると、そこは庭園のようだった。いくつかの石灯籠が炎を揺らめかせている。辺りを見回していると、正面から足音が聞こえてきた。
「ここは、冥界。生者のお客様とは、珍しいですね」
腰に刀を一振り携えた少女。その周りにはふわりと白い...恐らく魂だろう、が漂っていた。
「アンタが、異変の黒幕?」
「いえ、私はただの庭師ですよ。ただ、少し主のお手伝いをしているだけ」
「だったら、そのご主人サマの所まで案内してもらおうか!」
「それはできませんね、幽々子様の邪魔はさせません」
恐らく首謀者である者の名前が出た。少女の後ろを見ると、そこには枯れ果てた大樹が目に映る。...そして、着物を纏った誰かがいるのが確認できた。十中八九、アレが黒幕で間違いない、かなり厄介な相手だろう。
となると私のやるべきことは...
「霊夢、魔理沙、奥に向かってください。ここは私一人で十分でしょうから」
あくまで助力、従者の相手位が丁度良い
戦闘描写がありそう、次ですけどね。苦手なりに練習の意味も込めて書きますか。とまぁ、こんな感じで、また読んで頂ければ幸いです