私は嫌いだ
私を嫌う皆が嫌いだ
私は嫌いだ
こんな見てくれに産んだ神が嫌いだ
私は嫌いだ
忌み子だと嗤う奴らが嫌いだ
私は嫌いだ
私なんか嫌いだ
...今日も雨か。私は一人薄暗い洞穴の中でぼんやりと考える。もう里には帰る気もない、しばらくはここで過ごすことにしようか...
私は忌み子だ。妖狐としてあるまじき病的なまでに白い肌、毛並み。そこに爛々と妖しく鈍く光る紅い眼。私の周りにはそんなヤツは居なかった、居る訳が無かった。
私には名がない。お前だとか貴様だとか、その時々に応じて雑多に呼ばれてきた。...名前なんて有っても無くても変わらない。
ため息を一つ吐く。...白い息が見える、寒い...。まだ冬に入る前だと言うのに、雨のせいか凍えるようだが、今は狐火を出す妖力も惜しい...。
すると、外から音が聞こえた。雨が地面を叩く音とは違う。バシャバシャと、誰かが水溜まりを踏む音が近付いて来る。
私は咄嗟に隠れる。...人か?だとすると面倒だ。折角見つけた雨風を凌げる場所なのに...。
「うぅ~...ビショビショだぁ...」
...最悪だ。そこには雨宿りに来た同族、私と同じ位の妖狐が居た。尻尾は私と同じ様に一本、産まれてまだ数年程度だろう。
「なんでこんな急に降りだすかなぁ...はぁ」
妖狐の少女は雨を疎ましく見上げながら、衣服の袖やら裾やらを搾っている。...間が悪い、このままでは雨が降り止むまでここに居座られる。なんでこんな時に降るんだ、止む気配も一つもしない...
「「...早く止まないかなぁ...ーッ、!」...あれっ?」
口走っていた。何故?思っていたことが口をついて出た、全くの無意識。しかも同じことをそこの妖狐も言っていた、まずいバレた。
「...だれか居るの?」
こちらに声を掛けられる...どうしようもない。先程洞穴の奥を見に行ったが、程なくして行き止まりだった。奥から誰か来ても嫌だったので心底安心していたのだが、今は違う。逃場が無い。
...しょうがないか、私は少女の前に出る。
「わっ!...」
少女が少し驚いた顔をして止まる。...こんな見てくれに絶句しているんだろう、慣れたものだ。なんなら、罵詈雑言の一つや二つ飛び出して来ても珍しくないのに。
「...きっ」
汚い、か?聞き慣れた単語だ。もう少し捻れないのか、なんて考える...気持ち悪い、か?尚更だ、他に何か...
「綺麗...!」
「...は?」
驚愕と共に勝手に口が動いた。今、なんて言ったんだ?
「えっ、あ、ごめんなさい。急に...」
「いや、え、えーと...別に...」
私は困惑した。私が綺麗だ?意味が分からない。皆から忌み嫌われて来た忌々しいこの姿の何処が?
「...とっても綺麗な白だったから...つい」
...分からない、私はコイツが解らない。理解出来ない。こんな私を...綺麗、だなんて...
「あ、えっとね...私は藍って言うの。...貴女は?」
「ッ、...」
次から次へとなんなんだコイツ...藍とか言うヤツは...。
「...ない、名前なんて持っていない」
「...そっか、あ!じゃあ、私が付けてあげよっか!」
「...は?」
そう言うと困惑した私のことはいざ知らず、一人で名前を考えているようだ。...もう、訳が分からない...
「ん~...あ!そうだ!」
少しして、難しい顔をして唸っていた藍が声を上げた。私は考えるのも疲れてしまった。
「真っ白で、綺麗だから~...ハク!どう?いいでしょ!」
過去話でした。話数はそんなに気にしなくて大丈夫です。それでは、また読んで頂ければ幸いです