今日は雨だ、朝から降り続いている。私はこの洞穴を根城にして、生活している。初めは直ぐにここを離れるつもりだったが不思議と腰を落ち着けている。
そんなことを考えていると雨音ではなく、何かの足音が聞こえた。...この妖気は...
「よ、久方ぶりに会いに来てやったぞ、ハク」
「...」
番傘を畳み、洞穴にやって来たのはあの妖狐だった。...あの雨の日に会ってから時々、訪ねてくるようになったのは記憶に新しい。
「...私みたいなのに構うなんて、どれほど暇なんだか...」
「む、これでも将来有望なんだぞ...ほれ」
「!...お前、それ...」
振り返り誇らしげに三本の尻尾を見せてくる。また増えたのか。十数年でここまで増えるなんて...。
妖狐の尻尾はまさしくその者の力の象徴。生きた年月は勿論、修行や強い意思も関わり、増えていくと言われている。
「それよりも、ハク、昼はまだ済ませてないだろう?」
「...いや、もう食ったよ」
目をそらしながら言う。正直、早く帰って欲しい。居座られると色々と面倒だ。
「...お前、嘘つくとき目を合わせないよな...」
「......なんのことやらもがっ?!」
「観念して食え、久しぶりに作って来てやったんだから」
んぐっ。...とぼける間もなく口に握り飯を捩じ込まれた。しばらく帰りそうに無いか...はぁ
コイツは私が忌み嫌われていたことを知らない。私がいた里とは別の里に住んでいるからだが、そんな妖狐の噂の一つや二つくらい耳に入ってもおかしくないと思うが...
洞穴にやって来るのは決まっていつも雨が降っているときだけだ。初めて会ったのもこんな日だったか...。
「前に会ったのも、もう1年前くらいだな。...よっと」
そう言いながら私の隣に腰を降ろす。
「...今日は何の話だ?」
「おっ、そっちから聞いてくれるとはな、少しは素直になったか?」
「...無いなら寝るぞ」
「む、じゃあ聞いてもらおうか。...最近はなぁ...」
いつも通り、話し始める姿にため息が出た。自分の身の回りで起きたことやら、見聞を広めるために親と旅に出ただとか、今回は旅についてらしい...。
...本当に楽しそうに話す。笑顔を振り撒きながら、身振り手振りを交えて、この雨の間だけ...
「...それで、私は三尾になったんだ」
「...そうか...」
いつの間にか話は終わり、雲の合間から光が射し込んでくる。それに気付いたのか、立ち上がる。
「晴れてしまったし、抜け出して来たのがバレると面倒だからな。そろそろ帰るよ」
番傘と握り飯を包んでいた風呂敷を手に、振り返る。
「...またな、ハク」
「......また...」
「!...あぁ、またな」
私は日に照らされる背中を見送った。...妙に嬉しそうに帰っていくのが見えた。
そういえば〝また〟なんて、初めて言ったかな...
過去話でした。次回は日常の予定です。それでは、また読んで頂ければ幸いです