鋼の錬金術師のSS詰め箱   作:カルディス

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キンブリーの男主夢。
キンブリーがどの段階、年齢で国家錬金術師になったのか分からないので、あくまで個人設定です。
原作終了、物語で退場するまでで大体31~5歳くらいだろうという想定で進めています。
計算したら彼、1879年か1883年生まれになるんですよねぇ……ロイよりも達観しているところを見るに恐らく年上だろうという想定です。一応。少なくとも同年代ではあると思います。
キンブリーは国家錬金術師である前に、軍人なので、こうなりました。
そんな彼の、殲滅戦前のお話。殲滅戦時点で25、国家錬金術師認定が20想定です。よろしければどうぞ。


『好き、とは‐1‐』ゾルフ・J・キンブリー

1903年、中央司令部

 

1903年。キング・ブラッドレイ大総統閣下が就任された1894年から早9年。

アメストリスの中央(セントラル)は多くの軍人で溢れていた。

多くの若者が志願し、軍人になるのはもはや当たり前の様になっている。

 

自分は、といえば。

中央(セントラル)に居を構える喫茶店に勤めていた。

中央(セントラル)にある店の例に漏れず、利用者の半分が軍人を占めている喫茶店だった。

勤め始めたのは、おおよそ2か月前。

ある理由があって、自分はここに勤めることになった。

 

コーヒーを淹れるのも、サンドイッチを作るのも、もはや日課のように自然にできる様になった。

そんな、ある日の事。

似たような青い軍服が店の大半を占めるようになる12時。

この喫茶店のマスターに、自分は配膳から呼ばれた。

「はい、なんでしょうマスター」

「いや、なに。まだお前には常連は教えてなかったな」

「常連さん、ですか」

殆どが軍人で、同じ軍服を着ているのにマスターには分かるのだろうか。

「あぁ、あそこの──────そう、一つ星のついた、腕章をつけた人だ」

三本線のラインの真ん中に一つのが付いた腕章、それをつけた人をマスターは指さした。

黒く長い髪を一纏めにした、軍人にしては少しやせ型の男性……男性?だった。

「あの人が、ですか?ほかの人もいつも見ますが……」

「彼は5年程前からこの店に来てくれていてね。よろしく頼む」

よろしく頼む、とは。恐らく挨拶しておけ、ということなのだろうが余りにもアバウトではないだろうか。

彼の注文品であろう盆を渡された自分は、いそいそと軍服の間を通り抜け、その男に近づいた。

 

「こちら、ご注文の品です」

そう口には出したが、自分はどう挨拶すべきかをずっと考えていた。

「あぁ、有難う御座います──────おや、初めて見ますね」

「え、あぁ、はい。2か月ほど前からここに勤めてます」

「そうだったのですか。初めまして、私はゾルフ・J・キンブリーといいます」

キンブリーは狭いながら優雅にそう言った。所作からして、軍人ではあるが良い生まれのように思えた。

「常連さん、だとか。いつも有難う御座います」

「いいえ、ここは立地がいいですから。……数年前まではここまで人は多くありませんでしたがね」

「あはは、最近は軍人さんのお陰で盛況なもので……」

自分は数年前の風景をしらないが、そうなのだろう、とは思った。

ここ数年で軍人は倍近く増えていた。その影響は中央(セントラル)が最も受けているだろう。

客数が増えるといえば、聞こえはいいだろう。だが、それによって治安が不安定化しているのもまた事実だった。

 

「おーい、すまない」

「!はい、かしこまりました!少々お待ちを!……すいません、キンブリーさん。これで失礼します。ごゆっくりどうぞ」

「えぇ、仕事中呼び止めてすみませんでした」

自分は急ぎながら、ぶつからない様に軍服の間をすり抜けた。

 

「まったく、時間が時間でしたか」

これが、ゾルフ・J・キンブリー──────“紅蓮”の名を持つ錬金術師との出会いであった。

 

幾度目かの遭遇

 

そんな出会いから数か月。

軍部の動きが活発化し、セントラル周辺の店から青い軍服の姿が減ってきた頃。

面と向かって話せるほどには、軍人の数が減ってきた頃。

「あぁ、お久しぶりです」

「あの時の。お久しぶりです、キンブリーさん」

何時もの、というより前と同じ席に座ったキンブリーさんは、前と違って大量の紙束を持っていた。

「お仕事ですか?」

「えぇ、まぁ。軍人ではありますが、またこれは別口で」

「軍人は大変ですね」

「仕事、ですから」

そういって、キンブリーさんはコーヒーに口をつけた。

まるで、仕事が恋人のような人だ。

「今日はお暇なようですね?」

「え、あぁ。最近お客様が少しだけ減りましたから。経営には、今の所影響はないですけど」

「そうですか、なによりです。潰れてもらっては、気分転換もままなりませんので」

気分、転換とは。ここにまで仕事を持ち込んで気分転換とはどういう事なのだろうか。

変わっている人だ、と思った。

 

「こんにちは。お元気でしたか」

「キンブリーさんでしたか。そちらもお元気そうで何よりです」

また別の日。またキンブリーさんはうちの店に来ていた。

「おや、今日は何時もと仕事が違うのですね?」

「えぇ、まぁ。コーヒーにも種類がありまして」

「これは?なんというのです?」

「エスプレッソ、といいます。とても苦くで濃いものですが、根強い人気もあります」

「貴方は飲むんですか」

「いいえ、私は余り。……苦いの、苦手なんです」

「ほう、初耳でしたね。意外です」

「よく、言われます」

彼は偏見をあまりしない人だ。

何時もなら、喫茶店の店員なのに?と無茶苦茶な事を言われる。

が、彼はそれもそれぞれ、という様にいうのだから、本当に変わっている。

 

彼と自分は何度も顔を合わせた。

自分は人の顔を覚えるのは苦手なのだが、不思議と彼だけは正確に一発で覚えていた。

そんなことを親に言ったら、「そういう奇縁もあるだろう」と言われた。

それもそうか、と特段気にすることはなかった。

────────あの日、までは。

 

士官学校と、中途退校

 

自分は、人を傷つけるのは苦手だ。

親もそうだったが、暴力や喧嘩、というものが点でダメだった。

それというのも、士官学校に入れられたからだ。

 

自分の親戚に、少将や大佐ほどまで上り詰めた人がいた。

その人は存命で、よく自分の家に来ていた。当然、自分が大きくなればなるほど軍に入るように言った。

男である、というのがその人からすれば羨ましく映ったらしい。

その人自体は男だったが、娘ばかりの家族構成らしい。そのせいで余計に急き立てられたのだった。

 

両親はそのことに難色こそ示したが、結局自分を士官学校へ送った。

その人に恩があったのか、何かしてもらったのかはわからない。

結果自分は士官学校で学びたくもない“人を殺す術”を学ぶことになった。

 

自分が、決定的に暴力に嫌悪感を持つようになったのは、同級生がきっかけだった。

彼らは自分と馴れ馴れしくすることはなかったが、よく近くにいることが多かった。

話しかけられることも多くはあった。だから、そこまで彼らに嫌悪感はなかった。

 

────────なかった、のだ。

 

それは、訓練の後。

銃撃戦を想定した仮想訓練の後だった。

銃のメンテナンスを兼ねた分解をしていた時の事。彼らは物陰に居た自分に気付いていないようだった。

彼らはそのまま寄宿舎に戻ろうとしたのだろうその時に、こういったのだ。

 

「お前、軍人になった理由ってなんかあるか?」

「いんや。強いて言うなら金かな」

「だろうなぁ、ていうか最近の奴ってそういう奴ばかりじゃね?」

「家のメンツとかもあるだろ。彼奴とかそうじゃねぇか」

「あー、彼奴な。ま、どーせ大半が金だろ」

「ま、うちの国戦争とか戦いとかで負けたって聞かないしな」

「ははは、そうだったわ。いやぁこの国に産まれてよかったなぁ」

 

────────ゴン、と鈍い音が遠くで聞こえた、様な気がした。

それは、頭の奥の方から聞こえたようにも思える。

酷い衝撃だった。

こんな、こんな不純な、国を守るためだとかの崇高なものじゃない、こんな不純な理由で暴力が許されるのか。

こんな不純な理由で、人を、国を滅ぼしにいくというのか。

 

吐き気がした。

汚泥を固めたヘドロを吐き出しそうな、そんな吐き気だ。

この吐き気は、きっと、彼らだけに向けられたものじゃなかった。

 

────────似たような理由で[[rb:士官学校 > ココ]]に居る自分に向けられたものだったのだ。

 

それから、自分は三日三晩寝込むことになり、なし崩し的に士官学校を中退した。

自分が軍人になることに否定的だった両親は、そんな自分を受け入れてくれた。

それだけが、当時の自分の希望だった、ような気がする。

 

 

 

 




続きます

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