北郷英雄譚(旧題:七天の御使い†一刀譚)   作:にゃあたいぷ。

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前話に加筆あります。
主に南郡に辿り着いてからにワンシーン、謁見直前にシーン追加。
あとは微調整です。


第六話.蜻蛉返り

 揚州九江郡から荊州に入り、江夏郡から南郡江陵県を経て、揚州へと蜻蛉返りになった。

 案内役の蘇飛には「帰るついでだから」と再び船に乗せて貰って今、江夏郡の邾県に入る。邾県とは、黄祖と謁見した西陵県から最も近い場所にある港と隣接した城都と云えば分かりやすいだろうか。劉表と謁見する為、江陵県に向かう時も邾県を経由していた。

 その邾県だが、物々しい雰囲気に包まれている。

 というのも戦闘用と思われる船が港に多く停泊していた。質量で敵船を押し潰すといった軍船の隙間を潜り抜けて、桟橋の近くまで到着した時、俺達を出迎えてくれたのはパンクな御姉様こと黄祖であった。

 彼女は船から降りた俺達を見やると、チッとおもむろに舌打ちしてみせる。

 

「黄叙、貴様まで来たのか」

 

 その言葉に周りを見返すと、幼子がちょこんと立っていた。

 

「えへへ、来ちゃった♪」

「猫を被るな、気持ちが悪い」

 

 人懐っこい笑顔を浮かべる幼子を黄祖が忌々しげに睨みつける。

 確か、この幼子は江陵県で会った事のある子で、妙に印象に残っている。

 

冬月(とうげつ)、どうしてこいつを乗せてきた?」

「は、はい! その……私も気付いた時には乗り込んでいて、姿を現したのが数日経ってからで放り出す訳にも行かず……」

 

 たじたじする蘇飛にチッと大きく舌打ちする。

 

「まあまあ怒ると皺が増えるよ?」

 

 うるさい。と黄祖は怒気を込めた声で幼子を睨みつけた後、ハッと思いついたように恐る恐ると問いかける。

 

「……まさか貴様までもが揚州に行くとか言うんじゃないだろうな?」

「行くつもりですよ、じゃなかったら此処に来る訳ないでしょ?」

「黄忠はどうした?」

「お母さんは南陽郡の袁術に対する備えで移動しました、ちなみに魏延は荊州南部の備えで屋敷は空っぽです」

「……鬱陶しい、貴様は蘇飛の船に乗れ。絶対に私の船には乗せないからな」

「えー、つれないですねえ」

 

 むうっと頰を膨らませる幼子に、ふんっと黄祖が鼻を鳴らして背を向けた。

 

「あー、機嫌損ねちゃいました。ほんっと素直じゃないですよね?」

 

 そんな調子で流し目で同意を求めてくる幼子に「えっと」と誤魔化すように頰を掻いた。

 黄叙と呼ばれた幼子、蜀漢の五虎将軍として有名な黄忠のことをお母さんと呼んでいた。関羽と張飛の息子はそれなりに有名だったので記憶にはある。しかし黄忠に子供なんて居ただろうか? いや、黄忠程の人物であれば、一人や二人、子供が居ない方がおかしいか。それが歴史的な偉業を成し遂げたかどうかはさておきとして、もしかすると純粋に娘である可能性もある。

 聞きたいことは色々とあるが、今の状況、どうすれば良いのだろうか?

 チラリと梨晏(太史慈)を横目に流し見ると困ったような笑みで返された。

 

「あ、そういえば、この軍船の数はどうしたのかな?」

 

 梨晏がこの空気をどうにかする為に蘇飛へ問いかけた。

 

「それは、この状況を黄祖が読んでいたからですね」

 

 しかし教鞭を振るうように人差し指を立てながら答えたのは黄叙だった。

 

「少し前までの劉表様であれば、日和る可能性もあったかも知れませんが――今は優秀な軍師様が付いていますからね、選択を間違えることはありません。そして袁術と荊州南部の豪族に備える為にお母さんと魏延を出すとなれば、必然、揚州に派遣されることになるのは江夏軍となる訳です。東に向かうのであれば、賊と異民族の心配もありませんしね」

 

 ふふん、と鼻を鳴らす黄叙に困り顔を見せる梨晏と蘇飛。近頃の子供は賢いなあ、古代中国だけど。

 

「それはそうと黄祖はもうちょっと愛嬌があれば良いと思います。まあ、そこが可愛いところでもあるのですが……」

 

 ね? と私達に振り返る黄叙に俺達三人は共に引き攣った笑みを浮かべた。

 

 

 船旅が続く……。

 長江を下って荊州に入って最初にある港の都市、豫章郡柴桑県。そこで早馬から報された情報のは、そのまま丹陽郡の救援に向かって欲しいと云うものだった。この情報を黄祖達と共有した時、よほど状況が悪いようだな、と黄祖は顎を摩りながら告げる。

 それから情報を聞いてからずっと落ち着きのない梨晏(太史慈)に向けて声をかけた。

 

「このまま向かうのは良いが、兵が使い物にならなくなるな」

 

 その試すような物言いに、梨晏(りあん)は目をギュッと閉じて考え込んだ後、黄祖に向けて頭を下げた。

 

「これが無理なことだというのは分かってる」

 

 けど、と梨晏が最後まで続ける前に、わかった。と黄祖が告げた。

 

「え……っ?」

「二度言うつもりはないからな」

 

 そう言うと再び舌打ちを零し、とある場所に視線を向けた。

 その先には、にまにまと笑顔を浮かべる黄叙の姿。いまいち二人の関係性がわからなかった。

 分かることは、黄叙は見た目通りの幼子ではないということだ。

 

 劉表軍の不穏分子、不確定要素の多さに不信感を募らせる中――今は仲間内を疑っている場面ではないと考えを改める。

 

 それから暫くして梨晏が黄祖から船室まで呼び出された。

 俺の隣には大鎌を携えた蘇飛と背中に弓を担いだ黄叙が居座る。蘇飛はさておき黄叙の方は、構って欲しいのかな、とも思ったけども、万が一の為の護衛だよ、と彼女はにかりと笑って告げられた。こんな幼い子が護衛か、と微笑ましく思っていると黄叙は背負っていた弓を構えて、ギリギリと頭上高くに狙いを定めて空高くに矢を射ち放った。バシッと弦が震える音、矢が風を切り裂く音が鳴り響いて、矢が空へと吸い込まれる――その十数秒後、ドサッと鳥が甲板に落ちてきた。そこには矢が突き刺さっており、彼女が背負っていた弓と矢が実戦用の本物であることを知る。

 思わず、黄叙を振り返れば、どうよ、と幼子が胸を張ってみせた。

 

「黄叙に関しては深く考えない方が良いと思うよ」

 

 若干の諦観が込められた声で蘇飛が告げる。

 

 そんなこんなで時間を潰すこと数十分、梨晏が甲板まで戻ってきた。

 話を聞くに、これからの方針を話していたようだ。とりあえず本隊は通常速度を維持し、少数の先行隊で丹陽郡を目指すことに決めたとのことだ。荊州の長江には江賊が蔓延っているが、これは黄祖と蘇飛が居れば追い払える。それに今回は何時もの紅夏郡に加えて、助っ人も来ているので錦帆賊が来ても安心とのことだ。

 錦帆賊? と問い返すと、長江で最も強い力を持つ江賊、と蘇飛が教えてくれた。

 

 先行隊を編成する途中、甲板で梨晏と二人きりになった際に「喜媚は大丈夫かな?」と呟いた。

 大丈夫だよ、と梨晏が答える。

 

「一刀が思っているほど喜媚は柔じゃないからね」

 

 山越に豫章郡を襲われた時も似た感じだったし、と笑ってみせる。

 その笑顔はなんとなしに強がっているように感じられた。

 

 

 




今回、短め。時系列的には呉√でいう虎と狐の直前辺りです。
プレイし直しながら書いており、数年前の記憶と違うのがあって、ちょいちょい修正を入れてるのは内緒の話。
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