ザラ姉さま
静かにあっけなく、すべてが終わった。
悲しくて、辛くて、もうどうにも耐えられなかった。
涙が止まらない。私は両手で顔を覆いその場にしゃがみこんでしまった。
同じじゃないか、私たちと同じじゃないか。死にゆく二人の仲睦まじい様子を目の当たりにして、私はわからなくなってしまった。あの二人の間には羨ましいほどに確かな愛情があった。私は死にゆく姫の姿に心を揺さぶられた。私もあんな風に愛してみたいと思った。私もあんな風に愛されてみたいと思った。人と艦娘と深海棲艦と、敵と味方と守るべきものと。愛すべきものと、そうでないものと。何がそれを分けるのか、もうわからない。私たちはなんで戦っているんだろう。私の心は、愛憎は、溶けてまじりあい涙となり溢れ続けた。
***
ザラ姉さまザラ姉さま、聞こえてますかー、おーいー。
耳元で囁き声がした。ポーラが私を呼んでいる。急いで涙を拭ってポーラを見れば、眠たそうなウインクを飛ばしながらこんなことを言うのだ。
「泣きたいときは泣いてー、飲みたいときはー飲む。それが一番ですー。」
いつも通りだ。
あんなことがあったのに、この子はまるでいつも通り。酒瓶を小脇に抱えているところまでいつも通り……。いや待って待って、思い出すのよザラ。出撃の時は提督に叱られ宥められお酒は降ろしていたはず。ならばこれはどこから…、と問い詰めればグラスとともに奥の応接に用意してあったのだという。まったくこの子は。
「そーれーにー。ほら、いーいワインですよぉ。これを私たちと飲みながら、どーんなお話したかったんでしょうねー。司令官さんは。」
そう言いながら瓶をそっと回し、私にラベルを見せてくる。
夜明けの空という言葉を冠するこのワインは、新たな門出を祝うときなどに贈られるとても縁起のよいもの。彼と彼女は、私たちにどんな夜明けを見せようとしていたのだろう。そう思うと切なさで胸がいっぱいになる。悲しくて、やりきれない。一度は止まった涙がまた零れ出した。
「今日ここであったこと。司令官さんとお姫様のこと。ザラ姉さまは、忘れちゃいたいですか?」
そう言いながらポーラが真っ赤に腫れた私の目を覗き込んでくる。
駄目、駄目よポーラ。あの二人のことは絶対に忘れてはいけないと思う。
「じゃーあー。飲むしかないです。帰ってー、飲んでー、ポーラと二人でいーっぱいお話ししましょう。ね、ザラ姉さまっ。」
ザラ艦隊のー、ご帰還だー、おー。なんておちゃらけながら私の手を引き前を進むポーラの背中が、いつもより少しだけ大きく見えた。
ただ飲みたいがため、詭弁を弄するポーラ
そういえばこの娘、ザラ姉さまに内緒でもうひとつ、何かをくすねていたとかなんとか