ニヒヒヒヒヒヒヒ!タノシカッタ!タノシカッタヨォォォ!
いつかどこかの海の上。天気晴朗にして波穏やか。
そのレ級はひとり歓喜雀躍していた。とても楽しかったのだ。生まれて初めてなくらいの楽しい戦いだったのだ。これがはしゃがずにいられようか。
生まれてこの方、自分の前ではどいつもこいつもすぐ沈む。すぐ逃げる。そんなのばっか。戦艦だろうが空母だろうが潜水艦だろうが艦娘だろうが深海棲艦だろうが、どうにもこうにも歯ごたえが足りぬ。だがアレは違った。沈まない。しつこく喰らいついてくる。この海にはあんな重巡もいるのか。いやいや、重巡サイコーじゃないっすか。とどめを刺すのがもったいないくらいの楽しめるヤツだった。
一人目は、先制雷撃、速攻轟沈、してやったり。
我ながら 惚れ惚れするよな 手際かな。 詠み人知らず。
二人目は…、楽しい!楽しいぃぃぃ!
見つけたときはただの昼行燈かと思ったが、どうしてどうしてさにあらず。
凍えるような冷たい眼差し。身に纏うはぞくぞくするほどの殺気。
灼熱の砲撃。
まさかの雷撃。
しまいにゃしょぼいが航空攻撃まで。
そうだ、そうだ!モットヤレ!もっとワタシを楽しませろ!
多彩な攻撃手段こそ重巡の真骨頂。オマエは重巡の鑑だ、本当に。
もっとワタシに見せてくれ。もっとワタシを魅せてくれ!
って、アレレ?
砲撃、雷撃、航空攻撃。ワタシも全部できるじゃん。ひょっとしてもしかして、ワタシって実は重巡だった?いやいやそんなことはあろうはずがない。見よ、この大口径砲を、燦然と光り輝く16inch三連装砲を。それドンドンドンと三連撃でもしてやれば、アハハ。吹っ飛んでった。
でも、まだだよねェ。まだこんなもんじゃないよねェ!
しまいにゃ取っ組み合いのキャットファイトまでしちゃったりして、遂に沈めてやったのがいまさっき。余韻に浸るレ級の右腕は肩口から吹き飛び失われ、立派だった尻尾はいまにも千切れそうで、風もないのにぶーらぶら。
それでも今、海上に立っているのは自分一人だ。
ニヒッ!
左手に握りしめるはひしゃげた連装砲がひとつばかり。アレから毟りとってやったのさ。最後にそれを眺めてひとしきり嗤うと、惜しげもなくぽいと投げ捨て面舵いっぱい。巣へ帰る。
ちょっと長めの入渠も今回ばかりは退屈せずに済みそうだ、と上機嫌のレ級はそのまま水平線の彼方へと消えていった。
戦は終わり、物騒な勝者は去り、静けさを取り戻した海。
そこに薄紫の光が、ちかりちかりとほんの一瞬。
瞬いたとか、瞬かなかったとか。
目撃者などあるはずもなく。真偽も定かではなく。ただただ知っているのは海ばかり。
そんな、いつかどこかの海の上のおはなし。
ほら、よくあるじゃないですか。
神様出てきて異世界転生、特典付きで無双だよ。みたいな?
ワンチャン、あるんじゃないかなあ。
私、このヒト好きですし。