ヤザンがリガ・ミリティアにいる   作:さらさらへそヘアー

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置き去りにされた獣

反ザンスカール組織、リガ・ミリティア。

もともとは各コロニー群間で腐敗し弱体化した連邦政府に対抗する為、

或いは連邦の助力無しに宇宙戦国時代を乗り切る為の神聖軍事同盟だった。

しかしサイド2で興った新興宗教マリア教を核とした『ガチ党』が、

マリアの慈愛と『奇跡』…そしてギロチンの恐怖で勢力を伸ばすにつれて

神聖軍事同盟リガ・ミリティアはガチ党の脅威に対して機能しだす。

機能不全に陥っている地球連邦は、

もう歴史の表舞台に立って世界を主導する立場を永遠に失ってしまったが

それでも連邦に属する全ての者が腐敗しているわけではない。

一部の軍人、政治家、官僚は恐怖政治と横暴な侵略を繰り返すガチ党勢力に対抗する為、

リガ・ミリティアに対して資金援助、兵器・人員の横流し、

領域侵犯のお目溢し、アジト・工場の提供…etc…

独自に協力をしそれぞれの戦いを開始していた…。

 

そして、リガ・ミリティアの得た新たな助力の中に…

半ば忘れ去られ放置されていた連邦の軍事関連施設に、

過去のとある罪状から冷凍刑に処されていた

連邦軍人の提供というものがあった。

それが、これから始まるザンスカール戦争の運命をどう変えるのか…。

この時はまだ誰も知る由もないことだった。

 

 

 

―――

 

――

 

 

 

 

「オリファー!そこで引く奴があるか!

ビビるんじゃない!戦場ではビビった奴から死ぬぞ!」

 

「く…!すみません隊長!」

 

リガ・ミリティアのMS訓練場…辺境の小さな連邦軍基地から提供された演習場で、

2機のジェムズガンが低出力の模擬ビームライフルで戦っていて、

それを何機かの同型機が眺めている。

その戦いは一方的だ。

肩に亀の甲羅模様のエンブレムを刻んだジェムズガンが、

もう一方のジェムズガンの攻撃を誘う。

 

「もっと踏み込め。どうせ当たりゃあせん!

お前の攻撃などわけもなく捌けるんだ。心配せず本気で来い!」

 

「…いきます!」

 

隊長と呼ばれた男の野獣的な男臭い声には多分に挑発的な抑揚があった。

それを短くない付き合いになってきたオリファー・イノエは理解した。

ややカチンときて、それなら…とばかりに無遠慮にビームサーベルを抜刀した。

振りかざすことはせず突きの形でバーニアを吹かす。

 

「はっ!いいじゃないか。そうだ、殺気を漲らすぐらいで丁度いいんだよ貴様は!」

 

サーベルも模擬戦用に低出力になっていはいるが、

それでもコクピットに直撃すれば下手をすれば大火傷だ。

だが、隊長機の外部スピーカーから聞こえる男の声は嬉しそうですらある。

 

「隊長…お覚悟!」

 

「甘いってんだよ!」

 

オリファー機の刺突が空を突く。

バーニアの補助無しに関節をバネのようにし力学的に完璧なタイミングで跳躍した隊長機は、

MSの脚力だけでオリファー機の腕を踏み台にする。

 

「なんだってぇ!?」

 

そんな無茶苦茶な。

オリファー・イノエは思わずトレードマークのメガネをずり落っことしそうになりながら、

そして自機の頭部を思い切り蹴り上げられた衝撃で本当にメガネを落とした。

 

ドシィーンというけたたましい音を響かせてジェムズガンが倒れ、

そして蹴り上げた隊長機は見事に着地していた。

コクピットハッチを開けて2機の訓練を観ていたジェムズガン達…

その内の1機のパイロットが涼やかな女の声で叫んだ。

 

「隊長!ちょっと、やりすぎですよ!」

 

コクピットから乗り出した女の姿は長身で、パイロットスーツから覗く肌は浅黒い。

しかしその顔立ちやスタイルは十分に美女というに相応しいものだ。

 

「マーベット、なんだ彼氏の心配か」

 

隊長機から揶揄する返答がきて、

それを周りのジェムズガンもヒュー!等とわざとらしく乗っかってくる。

だがマーベットは慣れたものだった。

 

「違いますよ!ジェムズガンの頭がひしゃげたでしょう!

人間の怪我は放っておいても治るんですからね!」

 

MSはそうはいかないでしょう!

そう続けたマーベットの剣幕に思わず周りの訓練生達も野次を止めた。

勿論、マーベットの発言が照れ隠しなのは言うまでもなく皆見抜いているが…

取り敢えずその剣幕のままに

野次を飛ばした者の所に来られてしまったら恐ろしいのだと男達は尻窄みだった。

それに、取り敢えずマーベットの言は的を得ている。

ゲリラ組織であるリガ・ミリティアは基本、貧乏だ。

世界に冠するあのアナハイム・エレクトロニクスもバックボーンについてくれているが、

それでも表立って堂々と資金を回せない以上豪勢に金は使えない。

現代では雑魚の代名詞たるジェムズガンだって修理費用は激安とまではいかない。

 

「そうカリカリするな。訓練はこういう実戦形式でないと体が覚えん。

貴様らの上達具合を見りゃジェムズガンの修理代くらい安いもんだ」

 

しかしヤザンはあくまで費用がかさむ訓練をバカスカ行う。

これまでもこうだし、多分今の発言から思うにこれからもこうだろう。

 

「しかしですね隊長…!」

 

「スポンサーを納得させるくらいの費用対効果は出してみせるさ。

いいから今は黙って訓練に集中しろ。…よし、余計な考えばかりしてる貴様だ!

次、マーベット!来い!」

 

「う…しまった…」

 

マーベットは小声で唸った。

 

「来ないなら俺から仕掛けさせて貰おうか!」

 

「うわっ…ちょ、ちょっと隊長!きゃあ!」

 

慌ててコクピットハッチを閉めたマーベット。

2分後、オリファー機の横に同じように倒れ伏すことになるのだった。

 

こうしてザンスカールが本格的に建国されるまでの期間、

リガ・ミリティアのパイロット候補生達はMS隊総隊長の地獄の訓練を潜り抜けることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

リガ・ミリティアの秘密工場兼アジトの一室で、

やや形式の古い据え置き型コンピューターとにらめっこしているメガネの男。

地獄の訓練を突破し今では立派なヤザンの右腕となったオリファー・イノエだ。

そんな彼の元に事務仕事を押し付けた

彼の敬愛し畏怖する上官がコーヒー片手にやってきた。

 

「どうだオリファー。人選は進んでいるか?」

 

「…ええ、お陰様で。隊長のお陰でデスクワークの訓練までこなせてます」

 

金髪のリーゼント頭の隊長からコーヒーを受け取りちびりと口をつけたオリファーが愚痴る。

 

「言うな。俺は他にもやらなきゃならんことがある。

MS隊統括なんて言えば聞こえはいいが…実態はただの尻拭いと雑用だ。

チッ、こんなゲリラ組織やってられん」

 

実際、彼の仕事は多い。

MS隊の訓練、パイロットの人材発掘、

リガ・ミリティアが独自に進めているMS開発計画のテストパイロットを多く務め、

技術部との意見交換にも忙しい。

過去、大小様々な規模の作戦に幾つも従事した経験から

何人ものジン・ジャハナム(リガ・ミリティアの首領。何人もの影武者がいる)とすら

作戦会議を共にしたこともある。

 

「隊長が昔いた組織…ティターンズでしたっけ?」

 

「あぁ」

 

「俺も歴史の授業で習いましたよ。連邦の精鋭部隊だったんでしょう?

やっぱリガ・ミリティアとは違うんですか?」

 

「当たり前だ。やってたことには多少問題があったが、腕っこきは集まっていた。

それをサポートする整備士も施設も一流…金も湯水のように使えたもんだ」

 

やや眉をしかめて隊長が金のオールバックを掻き上げた。

 

「へぇー…羨ましいですなぁ。あの連邦にそんな時代があったなんて、

テキストには載ってますがやっぱ本物を見ないと疑ってしまいます」

 

「その本物に訓練をつけてもらったんだ。泣いて喜ぶんだな!」

 

粗暴で獰猛な、だが男らしい笑い。

 

「ティターンズ大尉…ヤザン・ゲーブル、か。

教本にも載ってる歴史の生き証人に訓練つけてもらってるなんて…

未だに信じられませんよ」

 

「ハンッ!どうせ教本には30バンチ事件とかしか載っていないだろう?

くだらん嫌味を言ってる暇があったらさっさとリストを見せろ。

候補は絞れたんだろう?」

 

「はい、コチラです」

 

軽く頭をはたかれたオリファーはそんな事に意も介さない。慣れっこだ。

それにオリファーの言葉に嘘は無い。本当に信じられない程彼は嬉しいのだ。

70年程前、確かにティターンズは歴史に残る残虐事件を起こしたのは

後世の者たるオリファーは知っているし、ティターンズのホロコーストは許せない。

だが、今の世代の人間にとって

1年戦争やらグリプス戦役やらは過ぎ去った歴史の1ページでしかない。

冷凍睡眠から目覚めた若いままの当事者が目の前にいてもその罪を糾弾する気にはなれず、

寧ろ歴史に残る大戦争の経験者として一軍人として尊敬の念を抱いてしまう。

犠牲になった過去の人間には申し訳ないが…とオリファーは思いつつ、

やはりヤザンに尊敬と憧れを抱かずにはいられない。

それに、ヤザンの実年齢は

リガ・ミリティア最年長であるロメロ爺さんの84歳を超えて91歳なわけだが、

冷凍刑のお陰で老化の止まっていたヤザンの肉体年齢、精神年齢はオリファーと同年代だ。

戦い盛りの男が軒並み戦死してしまっている宇宙戦国時代の今、

二人は貴重な同性同年代のMSパイロットだ。馬が合う。

紙媒体にリストアップしていた最終候補生の一覧を隊長…ヤザンに見せた。

 

「ふむ……」

 

浅黒い顎を軽く擦り目を通す。

 

「リガ・ミリティアの秘密主義にはうんざりだな。

スコアは閲覧できても個人情報は全部閲覧不可とは。

これじゃあ男を集められん」

 

ヤザンの溜息にオリファーも苦笑する。

 

「そうですが仕方ありません。潜んでいる民兵組織ですからね、うちらは。

情報漏洩は普通の組織以上に死活問題なんですから。

それに今は女だって戦う時代なんですよ」

 

「女は腹がでかくなれば戦線離脱を余儀なくされる。

それに女の日なんざがあるのも面倒だ。

定期的にピルが必要になってちゃゲリラには尚更向かんだろうが。

MS戦が主流の現代じゃ、女の体を使う殺しも中世ほど役に立たんしな」

 

ヤザンは相変わらず女子供が戦場に出るのを嫌う。

特に、薬物の安定供給がなければ全日戦闘可能とならないという

女の月のものシステムにヤザンは不満があるらしい。

オリファーはまたも苦笑するしかない。

 

「抵抗組織のリガ・ミリティアでそんなこと言ってられませんって」

 

「まぁな。…仕方ないか…実際に会うまでのお楽しみにしておこう。

それに、確かにスコアは優秀だからな。

よし、上位20名に集合の通達をだしておけ。

明朝10時に集合。時間厳守。遅れた奴は落選だ」

 

翌日、時間通りに集まった新設予定の精鋭部隊、シュラク隊のメンバー候補を見て

ヤザンとオリファーが愕然としたのは言うまでもない。

 

「オリファー…貴様…」

 

「いやいや!ヤザン隊長もご存知でしょう!?

狙って女ばかり集めたわけじゃありませんよ!全部リガ・ミリティアの秘密主義が悪い!」

 

整列しているシュラク隊候補生から見えない物陰で、

ヤザンとオリファーは軽く言い争い状態に突入していた。

 

「俺は知っている。が、マーベットに勘ぐられても知らんぞ」

 

オリファーの肩が揺れる。

 

「じ、自分は隊長の指示で人選を行っただけであります!」

 

「なんだと?貴様、俺に責任転嫁しようというのかぁ!?」

 

ヤザンが受け持った訓練生の中でもマーベットは一目置く女パイロットだ。

平時は気立ても良く温厚で良識的。

男を立ててくれる良い女だが、怒ると結構怖い。

ヤザンですら稀にたじろぐ迫力を発揮する。

オリファーとマーベットは、

ヤザンの訓練に参加して出会いそこで意気投合し恋人となったわけだが、

訓練生時代にオリファーに悋気を発揮するマーベットを多々見ている。

ヤザンとて巻き込まれなくてもいい夫婦喧嘩には巻き込まれたくないのだ。

 

二人は、あまり候補生を待たせてもイカン、

と言うことで言い争いも程々に皆の前に出る。渋々だが。

 

「…ようこそ地獄のキャンプへ。

貴様らは見事に俺のおメガネに適って新型で構成される新設部隊の候補生となった。

俺はMS隊統括のヤザン・ゲーブルだ。

さて…まだ貴様らの顔と名前も一致しておらんが…

全員、後ろを見ろ」

 

整列している美女達は、強面の上官に促され背後を見る。

そこには、彼女らと同じように並ぶジェムズガン達。

 

「全員、MSに搭乗。これより実機訓練に移る」

 

ヤザンの宣言に女達の端正な顔がギョッと歪む。

 

「えっ!?」

 

「いきなり、ですか?」

 

皆、顔を見合って口々に驚くがそれをヤザンの怒声が遮った。

 

「ごちゃごちゃ言っとらんで乗るんだ。

今からお前らの腕前を見せてもらうぞ…!

いいか、シュラク隊は普通の部隊じゃない。

精鋭部隊を期待されているんだ。だから新型も与えられる。

俺が創設と訓練を受け持つ限り、醜態は許さん!

貴様らしっぽりと扱きぬいてやるぜ。

俺より搭乗が遅れた奴はすぐに荷物をまとめて帰ってもらう」

 

言うや否や、ヤザンは走り出してさっさと自分の乗機へ駆けていく。

慌てたのは候補生達だ。

面くらいつつも上官同様走り出した。

 

「イキナリこういうことする男なのね!まったくもう!」

 

大人な女の雰囲気を持つジュンコ・ジェンコ。

 

「なにアイツ!あんなのが私達の上官になるわけ!?」

 

集った美女らの中で一番豊かなバストを誇るマヘリア・メリル。

 

「典型的なパワハラ男って感じじゃない!やな感じだわね!」

 

黒いおかっぱヘアが特徴的なコニー・フランシス。

 

「でも、ああいうタイプっていざとなると頼りになる系じゃない?」

 

赤みがかったオレンジ色のポニーテールを持つ褐色肌のケイト・ブッシュ。

 

「うそっ!あんたあんなのがタイプなの?」

 

ケイトよりも短く色もよりオレンジに近い髪のヘレン・ジャクソン。

 

「…まぁ好みは人それぞれだよ」

 

やや癖のあるブロンド美女、ペギー・リー。

他にも十数名の女性が彼女ら同様にMSに向かって駆けていた。

個人用ウィンチワイヤーで昇降し飛び乗った所でヤザンの声が響く。

 

「よぉし、どうやらこの時点で脱落する者はいないようだな。

さて…貴様らの訓練だが……俺の後ろに森が見えるな?

そこで実戦形式で揉んでやる。

禁じ手は何もない。森に着地した時点で開始だ。ついて来い!」

 

バーニアを吹かし背後の森へ滑空するヤザン機。

 

「ヤザン隊長!チーム編成は!」

 

後を追って同高度を滑空するジュンコが聞くが、それを聞いてヤザンはせせら笑う。

 

「貴様ら全員対、この俺だ」

 

その通信に候補生の女達は一瞬、何を言っているのか理解が追いつかない。

 

「お一人で、私達全員を相手にする、と?」

 

ジュンコに続いて、以前の現場でも一緒で彼女と付き合いの古いヘレンが

不機嫌を声にのせて言った。

やはりヤザンは嘲笑うかのように返事をする。

 

「そうだ。貴様らのようなろくに実戦経験もない女の相手など俺一人で充分だってんだよ」

 

男の傲慢がありありと見える。

男女差別的な思考を隠しもしない、侮蔑的な上官。

最悪だ。

候補生達は皆そう思った。

 

「お言葉ですけど、私達実戦経験あります。今は戦国時代なんですよ?」

 

ジュンコが言う。

 

「俺から見れば無いも同然だ。

素人(アマチュア)は黙って俺の言うことを聞いてりゃいい」

 

プロのプライドを持っているジュンコは何かを言いかけて黙った。

ヘレンがまた彼女に変わって返事を投げてよこす。

 

「…分かりました。そこまで仰るなら、精々隊長の相手を務めさせて頂きます…!」

 

荒々しい気性のヘレンは、レバーを潰すのかという程自分の手に力が籠もるのを感じた。

この第一印象最悪の上官を叩きのめしてやる。

候補生達の意識は早速統一されていた。

 

 

―――

 

――

 

 

 

結果を言えば、ヤザンの過信かと思われた大言壮語は自信過剰でもなんでもなかった。

純粋に現実の戦力差を言っていた。

彼女らが味わったのは『恐怖』だ。

死の恐怖を味わった。

森を巧みに利用したヤザンは10機以上の候補生達を手球にとった。

ミノフスキー粒子が濃くレーダーが効かないその森では有視界で戦闘をするしかない。

ダメージ判定を受けると機体のその部位は機能を停止する。

まず候補生達は足を徹底的に狙われた。

堪らずに飛んで空に逃げれば目立つその機を

ビームライフルが恐ろしいくらいの正確な射撃で襲う。

射線を見て仲間がヤザン機がいると思われる場にくれば既に姿はなく、

背後からジェムズガンの膝裏をビームサーベルで切り裂かれた。破損判定。機能停止。

ジェムズガンが膝から崩れ落ちてオートバランサーが辛うじて踏ん張った。

そして、

 

「ハッハッハッ!手篭めにしてやるよ!」

 

ヤザンは男の獣性を全開にして女に襲いかかる。

動けなくなった女の服を引きむしって犯すように、

ジェムズガンのコクピットハッチを敢えて徒手で殴りつける。

揺れる機体。

本当に訓練かと思うほどの殺気。

やがて眼前の全天周囲モニターが歪んでいき、装甲がひしゃげたことを視界から理解する。

 

「ひ、ひぃぃ!」

 

ガァン!という重低音と共にハッチを引っ剥がされたその候補生は、

迫るMSの鋼鉄の拳を見てそこで失禁して白目を剥いた。勿論、拳は寸止めされる。

ヤザンの戦いぶりは終始こんな有様で、

候補生達にわざとトラウマを植え付けるような非常に凶暴なものだった。

見る人が見れば非難の声があがるだろうことは確実だ。

 

「フン…MSの発展が操縦性を快適にしたが、

お陰でこんなヤワな奴らもMSを乗りこなせる。

耐G性能も向上し過ぎて…MSもまるでオモチャかシミュレーターだ」

 

1年戦争を知るパイロットから見れば、この技術の発展は快適であると同時に物足りない。

実戦での無茶な機動も吐きそうになるほどのGを感じないのは、

ある意味で戦いの中での命のやり取りを陳腐にしているとヤザンには感じられた。

それに、そのMSの発展が女達を容易にパイロットにしてしまう。

この女達の中に真の戦士と呼べる者が果たしてどれだけいるだろうか。

 

訓練開始から30分後、死屍累々といった有様の森の中で、

ヤザンはこの女達の中で何人が残ることが出来るのか、と苦々しい顔だった。

リガ・ミリティア全体として見れば残って欲しいが、

ヤザン個人としては全員さっさと脱落してもらいたい。

マーベット・フィンガーハットという存在があるが、あれはヤザンの中では稀有な例だった。

自分の扱きに付いてきたレアな女だ。

 

(戦場に女はいらん)

 

かつて、パプテマス・シロッコを取り巻いていた邪魔な女達を思い出し、

そして次に自分の部下を葬ってくれた女パイロットを思い出す。

 

(女が戦場の主役になる時代などと…。

よくも俺をこんな時代に取り残してくれたものだ…気に入らん。

しかも俺を凍らせた上層部連中は皆寿命でくたばっているときたもんだ…クソッ)

 

女子供が戦場にいるのが普通の宇宙戦国時代。

戦場を汚されたような気がしてヤザンは気が滅入ってくるのだった。

 


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