ヤザンがリガ・ミリティアにいる   作:さらさらへそヘアー

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野獣という男

カリーンの地下アジトに籠もり、

カミオン隊は戦力を少しずつではあるが確実に増強させていた。

そんな時に、カリーンにリガ・ミリティアのスパイ達からの暗号通信が入る。

その内容は良いニュースと悪いニュースの両方であった。

 

「ヤザン隊長、どちらから聞きたいですか?」

 

カリーンで合流した他のカミオン隊から来た若手スタッフ、クッフ・サロモンが言う。

彼のトレードマークのカウボーイハットを見たヤザンが顔をしかめたのは、

きっとその衣装にあまり良い思い出がないせいだろう。

 

「クッフ、貴様はメカニックだろう。通信士の真似事などしとらんで整備をしろ。

シャッコーは注文通り仕上がってるんだろうな?」

 

クッフは肩をすくめながら陽気な声でヤザンへ返事をよこす。

 

「勿論っすよ!俺とストライカーが精魂込めてやりました!

あのヤザン・ゲーブルからの注文なんですから!

今は、ネスが最後の仕上げしてくれます。俺は暇になっちゃって」

 

暇だからというかは、クッフはヤザンのファンなのでここに報告に来た次第だった。

ヤザンは男連中からの支持が厚いのだった。

歴史的戦争の生きた英雄とまで見る者もいる。

 

「なら結構だ。…良いニュースから聞かせろ」

 

やや怪訝な顔のヤザンは促した。

クッフが言うにはこうであった。

○ヨーロッパのリガ・ミリティアを悩ませてきたファラ・グリフォンの左遷。

○月のシュラク隊が秘かにアルジェの空港に降下成功。北上し近々合流予定。

○量産が早期に軌道にのり余剰があったガンイージ数機を受領した連邦のバグレ隊が、

衛星軌道上に集まり巨大施設を建築中だったザンスカールの艦隊と交戦。

敗退したもののある程度の戦力は維持しての戦略的撤退であり、

また巨大砲台と思しき大規模施設にも痛撃を浴びせて建設を遅延させることに成功した。

 

とのことであった。

 

「上出来じゃないか。ヴィクトリー計画は取り敢えずは成功だな。

ガンイージは良い値段がつくぞ。連邦のタカ派にじゃんじゃん売りつけたい所だがな」

 

「そんなアナハイムみたいな事言わないで下さいよ」

 

「俺達のバックにはそのアナハイムがいる。

奴らは商人だ…金にならん事には熱を入れんさ。

ガンイージもヴィクトリーも量産と販売が本当の目的だろうしな。

戦国時代なんだ…これはヒット商品になるかもしれんぞ」

 

「…俺達はアナハイムの広告塔ってことですか?」

 

「それでザンスカールに勝てるなら文句は言わんよ」

 

リガ・ミリティアがガンイージとヴィクトリーを売り捌けば、

それは何割かがリガ・ミリティアの活動資金として直接懐に入り、

そして残りはスポンサーのアナハイムとサナリィが取る。

両企業は商人で、彼らが慈善や善意だけで協力してくれるわけもない。

ザンスカールへの抵抗も、ガチ党のフォンセ・カガチが金持ち連中を

「金品の不正な受け渡しがあった」として

大量にギロチン送りにした事への警戒心がさせている事だ…というのがヤザンの予想だ。

 

リガ・ミリティアのMS運用計画ヴィクトリー・プロジェクトも、

スポンサーから見た真の目的は販売計画でもあるのだろう。

汚いことだと思えるが、

それでベスパのMSに対抗できる新型を貰えるなら構わなかった。

 

「それで、悪いニュースはなんだ」

 

「はい、えぇと…リガ派のアイルランド連邦基地からです。

衛星軌道上のザンスカール艦隊から、地球に降下した部隊がいます。

バグレ隊が艦隊といい勝負出来たのも、その部隊が直前に地球に行ったからだと…」

 

「ほぅ?つまり精鋭が抜けたのか」

 

「そうらしいっすね」

 

「そいつらの降下ポイントは特定できているのか」

 

「いえ、そこまでは…」

 

報告を聞き終え、

ヤザンは今朝はまだ忙しくて剃っておらず少し生えてきていた無精髭を擦る。

暫し黙って己の顎を擦っていたが、それもすぐ終えてヤザンはクッフの肩を叩く。

 

「…近いうち戦闘になるな。クッフ、MSをいつでも出せるようにしておけよ。

こんなとこで油売ってないでさっさとストライカーとネスを手伝ってきな!」

 

「えっ、は、はい!」

 

追い出され、去っていくカウボーイハットの若者の背中を見つつヤザンは思う。

 

(この状況で地球に降りてくる連中だ。腕利きだろうが…さてどうする)

 

本当に重要な事項についての暗号通信は、

レジスタンスの他の連中すら通さずに幹部だけが受け取るようになっている。

今、この欧州でジン・ジャハナムの真の意図を知るのは伯爵とヤザンだけだ。

カリーンでVタイプの最終調整を終えた後、カミオン隊とシュラク隊、

そしてヤザン隊はポイントD.D.(ベチエン)で集結しラゲーン基地へ総攻撃を仕掛ける予定であるが、

しかし衛星軌道上の巨大砲要塞建設進捗具合次第ではそのまま戦力を宇宙に上げて、

宇宙のバグレ隊とも合流し巨大衛星砲の攻略をする事も考慮に入っていた。

 

(バグレ隊は当初の予想より頑張ってくれているからな。

こちらの戦力も思ったよりも整ってきた…、

これなら予定通りラゲーン潰しが出来るかもしれん)

 

カサレリアで手に入れた2つの戦力…

その内の一つである新兵(ウッソ)の上達具合も凄まじいし、

シャッコーの調整もヤザン好みになった。

Vタイプも、ヤザン、ウッソ、マーベットで仕上がったし、

シュラク隊もこちらに向かっている。

後は、ジン・ジャハナムのD.D.招集命令を待つばかりなのだ。

準備は出来上がりつつある…となればMS隊統括としての仕事はあらかた終わりである。

となると…、

 

「降下部隊…せいぜい楽しませてくれよ」

 

獰猛な戦士であり1人のパイロット、ヤザン・ゲーブルの顔がむくむくと鎌首をもたげてくる。

ヤザンは1人、部屋でほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

トラブルというのはいつでも起きる。

順調だと思っている時程起きると思えるのは不思議なことだ。

ザンスカールが順調だと思っていた地球侵攻がオクシタニーで躓いて、

エリート街道を歩んでいたファラ・グリフォンが失速したように、

順調だったリガ・ミリティア達にもそれは起こるものなのだ。

 

「なに?シュラク隊がベスパに捕捉されたというのか?」

 

執務室兼自室でカテジナと共に事務仕事を片付けていたヤザンの耳にトラブルが届く。

肩を揺らして息せき切るのはネス・ハッシャーだ。

短めのセミロングボブの金髪が活発な印象を与える女性で、

メカニックが主な仕事だが何でも熟す万能屋であり気の強さはシュラク隊にも負けていない。

リガ・ミリティアのスタッフの多数が曰く、「黙ってればイイ女」と言われるぐらいには美しい。

 

「はい!アルジェから北上中に、西南に進路をとっていたベスパと鉢合わせたみたいで!

現在、アヴィニョン近郊で戦闘中です!」

 

全力で走ってきたようで、ネス女史の息はまだ荒い。

 

「ベスパが西南に、だと?

オクシタニーで甚振ってやったのを忘れてまた出てきたのか。

アヴィニョンならオリファーに預けた旧モンペリエ隊は何をやっている!

俺があちらにいなくても、

ちょっとやそっとのベスパなら追い返せる程度には鍛えていた筈だが」

 

「オリファーさんもシュラク隊と合流して、戦闘をしつつカリーンには向かっているようです」

 

「オリファーもいながら、ガンイージを抱えるシュラク隊が北に逃げているのか!?

チッ、あいつら…何をやっていやがる!

相当な規模のベスパが相手なのだろうな?」

 

「詳細はミノフスキー粒子のせいで何とも…。

でも、大規模なのは間違いないようです」

 

「わかった。ネス、俺のシャッコーを温めておけ。すぐに出る!」

 

「はいッ!」

 

息荒いネスは、また全力の駆け足で部屋を飛び出して整備場へと駆けていった。

ヤザンがカテジナを見る。

 

「そういうわけだ。

俺は出てくるが…お前は俺が帰ってくるまでにこいつらを終わらせておけよ」

 

カテジナは、じとりとした目つきでヤザンを見返して言った。

 

「あら、そう。いってらっしゃい。また人殺しに行くのよね、あなたは。

そんなに戦争が――って何をっ!?」

 

カテジナが精一杯の嫌味と正論をぶつけようとしている最中、

カテジナの目の前でヤザンはさも当然といった風に黄色い派手なツナギを脱ぎ始めていた。

 

「あァ?これから出撃なんだ、パイロットスーツに着替えるんだよ」

 

「そ、そんなの分かるけど!私の前で着替えることはないでしょう!!」

 

「ここは俺の部屋だ!ギャンギャン喚くなよ!」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

怒鳴りながら着替えを順調にすすめるヤザン。

とうとう淑女の前でパンツすら脱いで裸一貫となる。

 

「~~っ!」

 

赤くした顔を白い両手で覆い隠すカテジナだが、

指の隙間からはっきりとヤザンの股間にぶら下がる男のモツを見てしまった。

ゴクリと、乙女の喉がなる。

 

「…カテジナ・ルース!」

 

「な、なによ!!」

 

突然、でかい声で名を呼ばれて、

カテジナは自分がヤザンのモノを盗み見てたのがバレたのかと思った。

 

「戦闘前は男ってのは滾るんだ…!わかるか?」

 

鍛え抜かれた浅黒い筋肉と黒光りするオスそのものをぶらぶらさせて、

ほくそ笑んだヤザンがカテジナに近づく。

どうも、ヤザンは彼女が興味津々に己のモツを視界に収めたのを承知していそうだ。

乙女の盗み見はバレていた。

 

「あっ、そ、それが…なに!?わ、私をどうしようっていうの!

それ以上近づいたら…ひ、人を呼ぶからッ」

 

「呼べよ。貴様が俺に手篭めにされるのを皆に見てもらうか?」

 

ヤザンがどんどん近づいてくる。

今、カテジナはデスク仕事をしていた為に当然椅子に腰掛けているのだが、

長身で裸のヤザンが座っている彼女に近づくということは、

カテジナの顔のかなり側にオスそのものが近づいてくるという事だ。

 

「…っ、あ、あの…ちょっと!じょ、冗談、でしょ……、あっ!?」

 

喉まで真っ赤にして顔を背け、離れようと仰け反った拍子にカテジナは椅子から転げ落ちた。

尻をさすりながら見上げると、天井のライトを背に浴びてヤザンが見下ろしている。

 

「なに、もう出撃だからな。手早くすませてやるよ」

 

屈んだヤザンが、ぐいっと男臭い顔を近づけてくる。

 

(え、こ、これ…うそ……、ど、どうしよう…!どうすれば!?)

 

カテジナが思わず目を瞑る。

そういえばあの本にもこんな風に無理矢理唇を奪われるシーンがあった。

少女はそう思い、

と、同時に唇に固い弾力が当たっていた。

他人の体温が、柔らかで水気の多い唇でもろに感じられ、すぐにそれは離れて消えた。

 

「ふっ、ハッハッハ!なんだ、貴様も思ったより乗り気か」

 

「っ!あ、あなたは…!よ、よくも人の唇を汚して!!」

 

カテジナが真っ赤な顔でゴシゴシと自分の唇を腕で拭う。

 

「怒るなよ!たかだがキスだろうが!」

 

「たかだか!?人のファーストキスをッ!」

 

「お前が本気で嫌がれば止めてやるつもりだったんだがなァ。

からかうつもりがつい、な」

 

そう言って笑いながらヤザンはもうカテジナから離れていた。

唖然とするカテジナを置き去りにして、もうその体をパイロットスーツで覆っていた。

カテジナの顔が恥じらいでの赤から、怒りの赤に変わっていく。

華奢な肩が震える。

 

「最低ッ!!最低な男!」

 

立ち上がり、片腕を振り上げたカテジナがヤザンの頬目掛けてビンタを…

 

「おっと」

 

食らわせられなかった。

細いその腕はしっかりとヤザンの逞しい手に握られ止められた。

 

「くっ…離して!」

 

「貴様の反抗心は嫌いじゃない」

 

「なっ、なにを…――っ!むぅっ!?」

 

そのまま腕を引き寄せられて、またカテジナの柔らかい唇が獣のような口に覆われた。

今度はさっきのような軽いバードキスではない。

男の舌が、乙女の舌を巻き取って貪っていた。

カテジナは目を白黒させて、必死に暴れたがそれもすぐに終わった。

そのままの態勢で壁に押し付けられて、

10秒とも20秒とも思える時間、そのままなすがままだった。

息苦しさを覚えて鼻で必死に息をするカテジナの呼吸音が艶めかしい。

 

「…っ、はぁ、はぁ…う……な、なんてことするのよッ…!傷物にされるなんてッ!」

 

2人の顔が離れた時、互いの口から細い唾液の橋が引かれていた。

男の顔を見るのに異常な気恥ずかしさを覚えるが、

カテジナは顔を背けたいのを堪えながらヤザンの目を睨み返している。

その様をヤザンは鋭く男らしく笑い、愉快そうに見ていた。

 

「いい子に待ってたらまたご褒美をやるよ!

こいつらは全部片付けておけ!」

 

書類の山を指して言い、すぐにヤザンは走ってモビルスーツドックまで走っていってしまう。

全く振り返らず走り去る所がこの男らしいと言えばらしい。

 

「…げ、下品で下劣な男…!あんなヤツ…、さっさと死ねばいいんだわッ」

 

すぐに開けっ放しになった部屋の扉まで駆け寄って、走り去った獣のような男の背中を見る。

カテジナがその背中を視界におさめると、

慌ただしく走り回る他のスタッフに紛れていた目当ての背の持ち主は、

さっさと廊下を曲がってしまって見えなくなった。

 

「あなたのような野蛮人は戦争でさっさと死ぬべきなんだわ!」

 

見えなくなった背中に精一杯叫ぶ。

 

「………………そうよ、死ぬべきだわ」

 

次いで吐き出されたその言葉は小さくそっと呟くもの。

カテジナは、温もりが残る唇をそっと指でなぞっていた。

 

 

 

 

 

 

「ウッソ、調子はどうだ」

 

「はい、Vガンダムはいい調子ですよヤザンさん」

 

長得物を右腕で担いだシャッコーが複合複眼式マルチセンサーで右を飛ぶ白いMSを見る。

軌道は安定していてフォーメーションの崩れが無い事を確認したシャッコーの左肩には

ブルータートルのエンブレムがプリントされているが、

それ以外にはパッと見オリジナルのシャッコーと変わらない。

右を飛ぶVガンダム2番機からの元気な返事を聞いてヤザンは満足そうに目だけで笑う。

ついで左側を飛ぶVタイプ1番機にも通信を入れる。

 

「マーベット機はどうか」

 

「大丈夫です。ミノフスキー・フライトも順調です。

やっぱりジェムズガンとは違いますね…快適そのものですよ」

 

各地に潜むレジスタンスからの光信号を狼煙のように伝え続けて連絡をするという、

まるで旧世紀の中世のような伝達方式で北上するシュラク隊の情報は得ている。

ナンセンスに思えるがミノフスキー粒子の影響で、

今も戦闘をしていると思われる当事者達からの連絡は受け取れないのだから仕方がない。

大分、戦闘予定区域には近づいているがまだ暫くは間がある。

なのでウッソは、マーベットに雑談がてら前々から気になっていた事を尋ねる事にした。

 

「あの、マーベットさん」

 

「どうしたのウッソ。緊張してきた?」

 

「いえ、そういうわけじゃないんですが」

 

そういうわけじゃないのね、とマーベットは一瞬呆れたように天を仰いだ。

改めて通信機向こうの少年の逸材っぷりに恐れ入る。

普通はベテランになろうとパイロットは戦闘前は緊張するものだ。

自分のように。

 

(やはり普通じゃない…スペシャルなのね。ヤザン隊長といいこの子といい…。

自分が弱いって錯覚しちゃうわよ、もうっ)

 

こう見えてもマーベットはヤザンの地獄の特訓を潜り抜けた猛者だ。

その自負もあるし、幾度かの実戦でジェムズガンでゾロを撃破した事もある。

もっとも…上司のように単機で撃破とはいかず、

パートナーのオリファー・イノエとタッグを組んでの撃破であったが、

それでも立派にエース級の働きだ。

ジェムズガン単機でゾロを巧みに1対1に持ち込んで次々に墜とすヤザンが化け物なのだ。

そして、今マーベットの隣にはもう1人、化け物候補がいる。

自信が無くなろうというものだ。

 

「なんでヤザンさんはシャッコーに乗るんでしょう?

Vガンダムと基本性能はどっこいどっこいでも、

ヴィクトリーは合体分離もできるし…

総合的に見ればこちらの方が性能は上って言えるんじゃないでしょうか?」

 

「あぁそれね。

…ウッソ、もし自分が苦労して作ったモノを嫌いな人に盗られて、

しかもそれを盗った人が見せつけるように使ってたら、あなたならどうする?」

 

「え?それは勿論…嫌な気分になります」

 

「それだけ?取り返したくない?」

 

ウッソは少し首を傾げた。

 

「そりゃあ、まぁ…取り返したいです。…そういうことなんですか?」

 

「そういうことよ、きっと。

隊長がシャッコーに乗ってベスパを派手に攻撃すると、

ベスパのイエロージャケットの意識は嫌でもシャッコーに向かう。

隊長に攻撃が集中すれば、私達の被弾率が下がる」

 

「ヤザンさんは…僕らのために?」

 

「さぁ?隊長はそういう事、何も言わないから。

でも、そんな気がしない?あの人なら黙ってそうしそうでしょ?

カラーリングも、ベスパの派手なオレンジイエローのままだしね」

 

マーベットはくすくす笑いながらウッソに同意を求めて、

 

「あはははっ、そうかもしれませんね。意外と優しい人ですし。

見た目は怖いですけど!」

 

少年も頷き、そして今度はマーベットは大きく笑う。

見た目が怖いのは誰もが同意することだった。

 

 

――

 

 

 

シャッコーと2機のVタイプは、太陽光降り注ぐ欧州の空を快調に飛ぶ。

今の時代、MSは輸送機を用いずとも推進剤を消費せずに延々と空を飛んで移動できる。

古いMSの常識を知るヤザンからすると、本当にこれは画期的な事なのだ。

今もその戦略的素晴らしさには感嘆を覚える。

 

「フフ…全く、艦や輸送機に命を預けなくていいとはな…これだけは良い時代だと思える」

 

カリーンから旧フランス領上空にまで変形も無しのMSだけで約2時間だ。

空の散歩レベルでこうなのだから、全く快適なサイクリングだとヤザンは思う。

 

「ヤザンさん、進行方向にミノフスキー反応です!」

 

Vタイプ2番機のウッソからだ。

 

「そうか。ならばもうすぐ光ぐらいは……ン?」

 

「あれは…」

 

Vタイプ1番機のマーベットも気付き、ヤザンが機体の速度を上げてウッソに言う。

 

「光が見えた。分かるか!」

 

「はい、戦闘中です!それもあれだけの光は…

少なくとも10機以上が入り乱れているんじゃないですか!?」

 

教え子の模範解答にヤザンは自然と口角が上がるのを感じた。

 

「そうだな、20はいる…良い判断だ、ウッソ。

ヤザン隊、行くぞ!太陽を背負って仕掛ける!」

 

丁度良い具合に太陽が高い。

ヤザンが叫びシャッコーを全速力で吹かすと、2機のVタイプもぴったりとそれに続いた。

ヤザン隊が獲物を求めて大空を飛翔していく。

長得物…フェダーインライフルⅡを構えたシャッコーの銃身が太陽光にきらりと光った。

 


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