混ざりモノの輪舞曲   作:ハチミツりんご

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浮かび上がる『証』

 

 

 

 

 

「______お待たせしましたですねー。御三方で最後なので、こちらに来て欲しいですよー」

 

 

 

 

へにゃん、と気の抜けるような口調が辺りに響く。大部屋に集まっていた候補生達を案内していた白衣の少女は、部屋の中に残った3人に向けて扉を開き手招きする。

 

 

500名余りが詰め込まれていた大部屋は、既に殆どが扉をくぐって行ったことでガラリとした閑散を見せている。といっても、所詮椅子と机が並べられただけの簡素な部屋。乱雑に置かれている椅子や、人がぶつかって所定の位置からずれ込んだ机以外には人の気配を感じさせるものなんてないのだが。

 

 

 

 

「やっとか!源、魂鋼、とっとと行こうぜ!」

 

「流石に、あれだけ人がいると待ち時間も長いな……」

 

「ホントだね。腰固まっちゃった……」

 

 

 

自ら最後まで待つのを選んだとはいえ、いくら何でも時間がかかり過ぎだ。疲れなど感じていないらしい海堂とは違い、魂鋼はゴキゴキと首を鳴らしながら小さく息をつく。その隣に座っていた源に至っては、長時間座っていたゆえに身体が固まってしまったらしく「うぬぬ……」と腰を伸ばしていた。

 

 

 

 

「あはー、申し訳ないですねー。今年は候補生一杯で大変だったですよー、許して欲しいですねー」

 

 

 

長いこと待たせたことを謝罪したいのか、例年よりも人が多かったと口にする白衣の少女。そんな彼女は源達に謝りながら、扉の奥からちょいちょい、と手招きをしてくる。

 

待たせるのも悪いと思った3人は、そのまま素直に扉をくぐった。彼女達が最後だったからか、白衣の少女が扉をばたりと閉める。

 

 

 

 

「お、おおっ……なんか雰囲気あるな……!」

 

 

 

扉の向こう側は、大部屋とは違い淡い光に照らされた無骨な通路。パイプなどが隠されることなく見えるその通路に、ゲームに登場するダンジョンを彷彿とさせる海堂。彼ほどでは無いが、源もおおー、と興味を示しており、反応を示さず変わらないのは魂鋼くらいなものであった。

 

 

 

「それじゃあ、そちらの女の子は私についてきて欲しいですねー」

 

「俺達はどうすれば?源が終わるのを待っておけばいいのか?」

 

 

 

そんな中、案内をしていた白衣の少女が源の手を引き通路の奥に進んでいこうとする。なすがままにされる源だったが、そんな少女に向けて魂鋼が待ったをかけた。源一人案内されるのは別にいいとして、彼ら二人はここで待てばいいのかを確認する為だ。

 

 

 

 

「おー、お二人は………んー?海尊(かいそん)、どこですー?かーいそーん………たっかなっしかーいそーん君やーい」

 

 

 

 

立ち止まった少女がふと指さしたので、そちらに視線を投げる。しかし誰もそこにはおらず、指を指した白衣の少女本人も首を傾げる。

 

そした少女はしきりに『海尊』という名を呼び始め、通路の奥に向けておーい、と呼び掛ける。

 

 

 

 

「………あっ、奥から誰か………」

 

 

 

少女の呼び掛けの中に混ざって、かんっかんっ、という足音が源に聴こえる。その音は次第に大きく、鮮明になっていっている為こちらに近づいてきているのだろう。源が目を凝らせば、暗い通路の中に人影がひとつ見えた。

 

 

 

 

「______呼ばなくても聞こえてるっての………」

 

「おー、海尊。サボりいけませんねー、お仕事ですよー?」

 

「サボりじゃねぇっての。案内してたクソガキが暗いとこ怖ぇって言ったから、ついてくはめになったんだよ」

 

 

 

通路の奥、二股に分かれた道のうちの一つから現れた男。かったるげに頭を掻きながら、サボりはいけないとからかうように言ってきた白衣の少女に向けて肩を竦めていた。どうやら彼も、白衣の少女と同じく異界防衛軍関係者らしい。

 

 

 

 

「んで、ワンコロ。コイツらで最後?」

 

「ワンクゥーロ、ワンコロ違いますねー!ワンクゥーロですよー!………候補生はこの子達で最後ですねー。後は確認だけして終わりですよー」

 

「はいはい………んじゃ、そこのデカい野郎二人」

 

 

 

 

青い髪をした、海尊と呼ばれた背の高い男。彼が白衣の少女に向けて軽く確認を取ると、デカい野郎二人………魂鋼と海堂に呼び掛けた。

 

 

 

 

「お前らは俺が来た道そのまま行くから、離れず着いてこいよ」

 

 

 

短くそれだけ言った青い髪の男は、ふぁ〜ぁ、と面倒くさそうに欠伸をしながら来た道を戻っていく。おおよそ軍属の人間とは思えないような対応に源が面食らっていると、海堂が隣の魂鋼にコソッと話し掛ける。

 

 

 

 

「………なぁ、あれ大丈夫なのか……?」

 

「……ついていくしかないだろう」

 

「まぁ、それもそうかぁ……おーい、待ってくれよアンタ!!」

 

 

 

面倒くさそうにしているあの男について行ってもいいのだろうかと海堂が疑問を感じるが、どっちにしろついていくしか道は無い。魂鋼の言葉を聞いて、海堂もそれもそうかと納得。一足先に、通路の奥に消えていこうとしている青髪の男を追いかけていった。

 

 

その様子を眺めながらひとつ息を吐く魂鋼。後に続こうと歩き始めた彼は、源の近くに寄ると彼女を見下ろしながら口を開いた。

 

 

 

 

「………先に行ってるぞ」

 

「気をつけて……って言うのも変かな?」

 

 

 

態度はアレだが、白衣の少女が認めているので正式な軍の人に案内されるのだ。ただ検査をするだけらしいし、気を付けてと言うのも変だろう。だがこういう時はなんと言えばいいのだろうか、と苦笑しながら頬を掻く。

 

 

そんな源を見下ろしながら、魂鋼は小さくフッ、と笑みを覗かせた。

 

 

 

 

「……どちらにしろ、鳳賀が言っていたことが事実なら、俺達はこの後も待たされるらしいからな。そうなれば顔も合わせるだろう……またな、でいいんじゃないか?」

 

「そっか。それじゃまたね、魂鋼さん」

 

「あぁ、また。……それと、呼び捨てで構わない。どうせ同期だ」

 

 

 

鳳賀は確かに、『どうせこの後も待たされる』と言っていた。それが真実であるのなら、鳳賀が反応していた円形の痣を持つ源と魂鋼はどうせ後で出会うだろう。ならば再会を祈って、また会おうと言うのが正解か。

 

 

そんなふうに話す2人だったが、源よりも歳が上な魂鋼から呼び捨てでいいと許しを得る。表情変化に乏しい魂鋼の方からそう言われるとは思っていなかった源が少し目を丸くするが、にっ、と笑って小さくピースマーク。

 

 

 

「りょーかい。じゃね、魂鋼」

 

「あぁ。…………海堂、急ぎ過ぎるとコケるぞ」

 

 

 

 

短く返した魂鋼は、先に走っていった海堂にそう声を掛けながら通路の奥に進んでいき、暗闇の中に姿を消す。

 

 

表情筋は動かないし初対面の他の候補生達から全力で近寄られない程無愛想だし、ごつくてデカいという何とも圧迫感のある男ではあるが、話してみれば意外に気がよく気遣いもできる男だ。人は見かけによらないものだなぁ、なんて思いながらその背を見送る源だったが、不意にクイクイ、と裾を引っ張られる。

 

 

 

 

「それではー、源さんはこちらですよー。ワンクゥーロについてきて欲しいですねー」

 

「あっ、はい!」

 

 

 

白衣の少女……魂鋼と海堂を案内して行った男性から【ワンクゥーロ】と呼ばれていた水色髪の少女は、源の手を引きながら通路の奥に進んでいく。魂鋼達男性陣とは別、二股に分かれた道のもう一方に向けて歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜♪」

 

「………………」

 

 

 

 

上機嫌に鼻歌交じりで歩みを進めていくワンクゥーロ。そんな自分より年下にすら見える小柄な女性に手を引かれながら、手持ち無沙汰な源は通路の壁や剥き出しになっているパイプや機械類などをキョロキョロと眺め始める。

 

 

 

 

「おー?何か気になるものでもあるですかー?」

 

「あっ、いいえ別に!なんというか、その………検査の場所ってこんな奥まで行かなきゃダメなんだなぁ、って………」

 

 

 

そんな源の様子を感じ取ったのか、くるりと振り返って首を傾げるワンクゥーロ。不意に振り向かれた源は、少し驚きながらも思っていたことを口にする。

 

 

 

この日、異界探査防衛軍で受けるように言われた検査は『異界関連のものに適性があるかどうか、及び次元の裂け目に弾かれないか』というもの。

 

わざわざミーナや猿飛が一受験生に過ぎない源の元に尋ねてくるほどだ。重要な検査なのだろうとは思っていたが、こんな奥深くまでやってこなければできない程大袈裟な検査だとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

「______おー、検査ですかー?」

 

 

 

しかし、ワンクゥーロはキョトンと首を傾げる。源の言ったことが察せない、といった様子。どうみても異界防衛軍の関係者であろう彼女が……というか検査の担当者であろうワンクゥーロが知らないわけはないだろうに。

 

 

 

 

「?だって、そうですよね?異界由来の道具や、次元の裂け目に対する適性がどうのって………」

 

「あー!その事ですかー!」

 

 

 

疑問を覚えながら源がそう話す。今日、彼女がここに呼ばれたのはその検査があるからだ。そう説明すれば、ワンクゥーロは納得したようにポンッと手を叩く。

 

 

 

そしてニッコリと笑いながら、その水色の髪を揺らして源の方を向き______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______それ、真っ赤ですねー」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

ガゴンッ!!と地面が揺れた。

 

 

 

「っ!?わわっ……!?」

 

 

 

揺れる地面にふらつきながらも、源はしっかりとバランスをとってその場に立っている。周りを見渡せば、通路の壁のパイプや機械類が上へと流れていっている………即ち、今彼女とワンクゥーロが立っているこの場所が、地面に向かって下降していっているのだろう。

 

 

 

 

「ホントは誤魔化さなきゃだけど、源さんは『ナチュラル』だからその必要無いですねー。ワンクゥーロ、嘘苦手だから助かるですよー」

 

 

「ちょっと、どういう______っ!?」

 

 

 

 

ニコニコと笑いながら、訳も分からぬことを言い始めるワンクゥーロ。いくらこれから世話になる防衛軍の人間であっても、いきなりこんな目に遭わされれば大人しい源でも反発する。

 

 

どういうつもりなのか、と食ってかかろうとした時、今一度ガゴンッと音がなり下降が止まった。その衝撃で身体が揺れるが、どうにかバランスをとる源。

 

 

 

「こちらですねー。すぐ済みますよー」

 

「っ!!待って!!」

 

 

 

下降を辞めた通路の先、手回し式のハンドルの着いた大きな鉄製の扉が見えた。そちらに向けて歩を進めたワンクゥーロは、笑みを絶やさぬままに源に手招きする。

 

しかし、彼女もそのままついて行くことはしない。焦りを滲ませながら呼び停めれば、目の前の少女に近い女性は「おー?」と気の抜ける声を発しながら源のほうに目を向けた。

 

 

 

 

「何、コレ……どういう事なの?鳳賀君も言ってたけど、『ナチュラル』ってどういう意味なんですか……?彼の呟いてた、【リンカーネイター】って言葉と関係あるの……!?」

 

 

 

突然の出来事に手探りになりながらも、少しでも状況を鮮明にしようと言葉を投げる。防衛軍に関係があるであろう少年、鳳賀が呟き、目の前のワンクゥーロも言っていた『ナチュラル』の意味。そして、源が聞き拾ってしまった【リンカーネイター】の意味。その関連性。

 

 

何もかもが不明なままでは、ついていけない。逃げ出そうにも、通路が下降したことにより戻り道は壁に塞がれてしまっている。

 

 

 

だったら、ここで見極めなければ。彼女を信じるか否かを。

 

 

 

 

「______私を、どうするつもりなんですか……?」

 

 

 

 

______どうやってこの場を切り抜けるかをだ。

 

 

 

 

 

「…………んー………」

 

 

 

 

源が、鋭く睨みつける中。頬に手を当てながら、気の抜ける様子を崩さずに考え込むワンクゥーロ。

 

 

 

 

「さっきも言ったけど、ワンクゥーロ、嘘苦手ですねー。その上、源さんにはまだ話せないことも沢山沢山あるですよー。それを踏まえた上で、いくつかお答えするですよ」

 

 

 

身構える源に向けて、ワンクゥーロはのほほんと間延びした口調でそう告げる。彼女は頬に当てていた手を崩すと、ピッ、と人差し指を立てた。

 

 

 

 

 

「一つ。こんな回りくどい形で連れてきたことは謝罪するですよー。でも、そうしないと行けないほど………嘘をついてまで連れてこなきゃいけないほど、大切なことだからですねー。万が一にも、外に情報漏らす訳にはいかないですよ」

 

 

 

 

事前に伝えていた検査の内容とは違うもの。嘘をついてまでこんな通路の奥深くまで連れてきたのは、絶対に他者にバレては行けないからだと言う。

 

 

ピッ、と2本目の指が立てられた。

 

 

 

 

「二つ。検査の内容は単純、『貴方が英雄であるかどうか』。その一点を確認させていただくだけですよー」

 

「………英、雄……?」

 

「はいー。本来ならこれは喋っちゃうとまずいですが、源さんは100%この検査をクリアするですねー。だから特別サービス、教えちゃいましたですよー」

 

 

 

 

【英雄】。

 

 

ワンクゥーロの言い放った言葉の意味が、理解出来ない。突然、確認するのは英雄かどうかなどという不可解なことを言い出したのだ。その定義も何も分からないと言うのに、ワンクゥーロは源は確実に英雄であるとにこにこ顔で断言する。

 

 

ピッ、と3本目の指が立てられた。

 

 

 

 

「そして、三つ。ワンクゥーロ達【異界探査地球防衛軍】は、この世界の人達を守ることがお仕事ですねー。従って、ワンクゥーロが源さんに危害を加えることは一切無いですよー。……なんなら今からワンクゥーロ、お洋服全部脱いで裸ん坊になっても良いですねー。武器も何も持ってないって、分かりやすく示せますですー」

 

 

 

笑みを絶やさぬまま、ワンクゥーロは敵意が無いことを証明する為に服を全部脱いでも良いと言ってのける。

 

じっ、と彼女の目を見る源。

 

 

ワンクゥーロは目を逸らす素振りも見せず、ただ単純に事実を言っているだけの様に見える。言っていることは理解の範疇を超えてはいるが、危害を加えないという言葉は本当だろう。こちらが要求すれば、本当に敵意がないことを示すために脱ぎ捨ててみせそうだ。

 

 

 

どうするか。どうせ逃げる道は無い、進むべきはそこの鉄製の扉の奥のみ。だったら、取れる選択肢は一つだけ。

 

 

 

 

 

 

「………分かり、ました。信じます、ワンクゥーロさん」

 

 

 

………ある程度、嘘をつかずに答えてくれた彼女を、信じよう。

 

 

 

 

「おー!嬉しいですねー、ホッとしたですねー!ささっ、それならこちらに来て欲しいですよー!」

 

 

 

ホッとしたのか、信用されて嬉しかったのか。ニコニコとした笑みを深めたワンクゥーロは、そのままちょいちょいと源を手招き。信じると決めた手前、逆らうつもりも無い。誘われるままに、源は扉の前まで近づいていった。

 

 

 

 

「その、英雄?とか何とかの検査って、この奥でやるんですか?」

 

「そうですよー。まぁでも、源さんはナチュラルだから機具は要らないですねー」

 

 

 

仰々しい扉の奥で、その英雄とやらの検査をするのかと源が問えば、その通りだとワンクゥーロが肯定する。

 

 

扉に取り付けられたハンドルを掴むと、んーしょ、んーしょと小さく掛け声しながら回していく。キャリキャリキャリ、とハンドルが回って金具と擦れる音が響く中で、ガコンっと音が響く。どうやら、開いたようだ。

 

 

 

 

「それでは、ごかいちょー!」

 

 

 

ワンクゥーロがぐぐぐっ…とハンドルを手前に引くと、鉄製の巨大な扉が次第に開かれていく。

 

 

人ひとりが十分通れる程の幅が開いたら、ワンクゥーロはハンドルから手を離して中に入っていく。彼女に手を引かれながら、源も後に続いて扉を潜った。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 

独りでに扉がガシャンっと音を立てて閉じると、自動的にハンドルが回されてロックが掛けられる。アナログチックなのに変なところで便利なんだな、なんて場違いな感想を抱く源だったが、部屋の中を見てそんな感想も吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「______うっわ、何これ………やば………」

 

 

 

 

部屋の中を覆い尽くしているのは、多種多様な機械達。謎の液体で満たされた2mはありそうなカプセルや、機械に繋がれたガラス張りの小部屋。それらを操作するメインの端末であろう、パネルが幾つも存在する巨大なコンピュータ。どれをとっても、源の常識の範疇を超えている。

 

 

 

「……漫画とかにありそうだなぁ」

 

「あはー、それ毎年言う子がいるですねー」

 

 

 

ポカーンとそんなことを呟いた源に、ケラケラとワンクゥーロが笑いかける。

 

白衣を脱ぎ、近くの椅子にポイッと投げ捨てる。そのまま鼻歌交じりにパネルを操作していくと、空中にホログラムによって形成されたウィンドが現れた。

 

 

 

 

「それじゃあ、手早く検査するですよー」

 

「この機械とか使うんですか?」

 

「普通ならそうですけど、源さんはナチュラルですからー。スキャンして確認する手間が省けて、ワンクゥーロ嬉しいですよー」

 

 

 

カタカタとパネルを打ち込みながら、ウィンドに源の個人データを映し出す。他の仰々しい機械達の出番は無いのかと首を傾げると、普段は必要だが源の検査には必要ないとの事。

 

そう告げられた彼女は、喉元の円形の痣に手を当て、ワンクゥーロへと尋ねる。

 

 

 

 

「………さっきから言ってる、ナチュラルってどういう事なんですか?鳳賀君の言い方だと、なんか珍しいみたいですけど……」

 

「んー………まぁ源さんはどうせこちら側に来るですし、言っちゃって大丈夫ですかねー」

 

 

 

パネルを操作していたワンクゥーロが手を止め、源の方へと振り向く。彼女が指を鳴らすと、目の前に源の個人データとは別のもの……地図らしきものが浮かび上がってきた。

 

 

 

 

「本来なら候補生の子達は、源さんの通ってきた道とは別のルートで身体検査のお部屋に案内されるですねー」

 

 

 

スススっ…とワンクゥーロが地図を指でなぞっていく。源達、候補生が待機していた大部屋から真っ直ぐ行った場所にある、別の大部屋を指さした。

 

 

 

「そこで身体検査をしてる間に、その子が『英雄の資質』を持つのかどうか、別室の教官達が判断して、資質ありと判断された子達はココ……今ワンクゥーロ達がいる部屋に通されますねー」

 

 

 

 

「この部屋で、普通なら機械を使って全身スキャンするですよー。英雄の証がどこに現れるのか、確定させる為ですねー。だけど………」

 

 

 

 

くるり、とワンクゥーロが振り向くと、ゆっくりと源の喉元……円形の痣へと、指を触れた。

 

 

 

 

()()()。これがある子は、発現する証との強い因果を持つ者の証左。………検査をかけなくても、確実に証を持つという証明なんですねー。1つの世代に、1人か2人いるかどうかの珍しいものですよー。ワンクゥーロ達【異界防衛軍】、その痣の持ち主の事、『ナチュラル』って呼んでますねー」

 

「?えっと、つまり………?」

 

「今は、検査無しでも分かる印だと思っておけば大丈夫ですねー。でも痣があった事、教官達以外には内緒にするのが無難ですねー」

 

 

 

 

今はあまり気にし過ぎなくても良いと笑うワンクゥーロ。1つの世代に1人か2人という珍しいもの、それが同じテーブルにいた2人ともが持っていたから、鳳賀は驚いていたのかとある意味で納得する。

 

 

そんなことを思う源。彼女の円形の痣に手を当てていたワンクゥーロは、左の手を自分の首の後ろに当てる。そして目を細めると、ふぅーっ、と息を吐いた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めるですよ。なるべく取り乱さず、落ち着いてくれてると嬉しいですねー」

 

「?始めるって______」

 

 

 

 

 

何を、と言おうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______っ!?かっ、あっ………っ!?」

 

 

 

 

源を突如として襲う、多大な熱量。

 

 

喉元を中心に広がる様な、焼けるような感覚………息をすることすら躊躇われるような息苦しさ。

 

彼女の脳が、肺が、生存本能が。空気を求め喉を開こうとする、それすら締め付けられるような熱さ。

 

 

 

ワンクゥーロはただ触れているだけ。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

突如として襲い来るその熱さの中で、朧気な視界が目の前の女性を収める。そして源は、熱さで朦朧とする意識の中、目が覚めるようか衝撃を今一度覚えた。

 

 

 

 

 

 

「______これは生命の象徴。繁栄の象徴。生きとし生けるものを導く証、神にすら等しいと崇められた人間の写し身であり、その姿______」

 

 

 

 

小さく、何かを唱えるように呟くワンクゥーロ。目を閉じ、集中している彼女の右の手は源の首元に。そして左の手は、彼女自身の首の後ろに添えられていた。

 

 

 

「………うぁ……っ!?」

 

 

 

 

その、彼女の首の後ろから。淡く、しかし確かに、()()()()()()()

 

 

 

彼女の背後を照らし出す光。その光の中に、源はあるものを見つける。

 

 

 

ワンクゥーロの背後に佇むように、彼女の背後を護るように。空中に浮かび上がるそれは、先程のコンピュータパネルによって映し出されたホログラムとは違っていて。確かな質量を、その存在感を、源の脳裏へと叩き付けてきた。

 

 

 

黄金色に輝く、全長1m程の巨大な十字架。上部がループ状の円形になっており、その輝きも相まって現実味の無い神秘さを、源へと感じさせていた。

 

 

 

 

 

 

「これが私自身に刻まれた印______刻み込まれた刻印の名は、【イムホテプのアンサタ十字】」

 

 

 

 

目を見開き、ワンクゥーロが告げる。彼女に刻まれた可能性の名を。彼女に与えられた資質を。導くべき標を、輝き抱くその象徴を。

 

 

 

 

 

背後の十字架が一際輝き、源が強く目を瞑る。

 

 

 

そしてその光が収まり、ワンクゥーロの背後からソレが霞のように掻き消えた瞬間。源の喉元を襲っていた焼けるような熱は、忽然と消えてしまった。

 

 

 

 

 

「っはぁっ!!はっ、はっ、っあぁっ!!」

 

 

 

ぽたぽたと、大粒の汗を流しながら地面に膝をつく源。喉を触るが、焼けているような感触は無い。指先から神経を通して源に伝えられるのは、普段と変わらぬ己の皮膚の感触のみ。あの泣きたくなるような、死にそうなほどの熱さも、今はもう感じない。

 

 

 

「大丈夫ですかー?個人差があるけど、源さんかーなり重いですねー。お水いりますー?」

 

「っあっ、あの………今の、って……?」

 

 

 

しゃがみこんで視線を合わせてきたワンクゥーロが、ペットボトルに入った水を差し出してくる。

 

しかし不思議と喉の渇きは感じない。あれほど熱かったというのに、本来だったら求めてやまないはずの水分が、今は別に要らないと感じてしまう。

 

 

それよりも、今のはなんなのか。それを問うた源に、ワンクゥーロが視線を真っ直ぐに向けてくる。

 

 

 

 

 

「………刻まれた証は、同じ証に反応する……源さんが見たのは、ワンクゥーロに刻まれてる刻印、その形そのものですよー」

 

「刻、印……?形そのものって……」

 

 

 

あの薄らぼんやりとした意識の中、視界に映りこんだ黄金色の十字架。あれが、ワンクゥーロに刻まれた形そのものだという言い分に疑問を覚えていると、彼女がポケットをゴソゴソと漁って小さい手鏡を取り出した。

 

 

 

「これ、見て欲しいですよー」

 

「?鏡……って、コレ………」

 

 

 

ワンクゥーロが差し出してきた鏡を覗き込む。そこに映り込んでいたのは、源の顔……ではなく、喉元。本来なら、幼少期から消えない円形の痣が存在するはずの場所。

 

 

しかし。源の目に入ったきたものは、そのあるべき姿ではなかった。

 

 

 

 

「それが、貴方に刻まれた証そのもの。貴方自身の運命の暗示、未来を指し示す道標にして、貴方が私達の求める英雄の一人であることの証左………極端な言い方すると、貴方自身ですねー」

 

 

 

 

 

 

映りこんだもの。それは円形の痣ではなく。

 

 

 

交錯するように描かれた、稲妻のような弓と矢。円形に収まるようにして描かれたその文様の周りに、等間隔に12の円が囲っている。源が目にしたことの無いはずの模様………触れれば仄かに暖かく、幾ら触っても消える気配は無い。

 

 

そして、その円形の下部。小さく、しかしハッキリと刻まれた文字。直感的に、これがこの証の名前なのだと察することが出来た。

 

 

 

 

 

「______【雷上動(らいしょうどう)】………」

 

 

 

 

雷上動。それが刻まれた証の名前。彼女の刻印の名前。

 

 

呆然と呟く源に、目の前の彼女は「そう言えば」、と言って立ち上がった。

 

 

 

 

 

「自己紹介、忘れてましたですねー」

 

 

 

ニッコリと笑いながら、彼女は地面に座り込む源へと手を差し伸べる。

 

源がその手を取ると、彼女は手を引いて源を立ち上がらせ。真っ直ぐに源の水色の瞳を見上げながら、後ろ手を組んで名を告げた。

 

 

 

 

 

「______【シィアン=ドグ=ワンクゥーロ】。異界探査地球防衛軍、第三士官学校、特別課所属の保険医ですよー。気軽にワンクゥーロ先生、呼んでくれると嬉しいですよー!」

 

 

 

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