PS極振りが友達と最強ギルドを作りたいと思います。   作:五月時雨

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 よ な か 

 そして2日遅れのフラグ回収。

 


PS特化と深夜

 

「ん……んぅ……っ」

 

 目を覚ますと、夜の海底でありながら黄金の光が俄かに差し込んだ、幻想的な光景が広がっていた。

 

「あ……そっか。お昼食べて、疲れて寝ちゃったんだっけ。今は……って深夜一時?変に寝たからか、凄い時間に起きちゃったな……寝過ぎだけど」

 

 

 寝過ぎなのは、前日に満足に寝れなかったこと、ペインに絡まれたこと、クラーケンとの戦闘の三つが重なったのが原因だろう。

 

 ツキヨは周りを見渡し、幻想的な世界に身を漂わせて眠るミィを見つけると、クラーケンとの戦闘時に口走った様々なことを思い出した。

 

 

 ……思い、出してしまった。

 

「あ、あぁぁぁぁあああ……私すっごい恥ずかしいこと口走ってたよね……っ!?なにが『一人で傷つかないで』よ何が『一人で飛べない私を支えて』よぉ……っ!」

 

 これじゃあミィの黒歴史を笑えないではないかと、水中で器用に蹲る。

 確かに、あれはツキヨの本心だった。

 鬼気迫り、ゲームとはいえ自らを蔑ろにしているミィが見過ごせず、思わず口から出てしまった。所詮ゲームだからと無茶をする親友が、自分の知らない別の誰かになってしまいそうで、必死だった。

 だけど。

 でも。

 

「流石に恥ずかしすぎるでしょうが……っ」

 

 倒した直後は、まだ興奮が残っていたから考えていなかった。

 けれど、一度時間が経ち冷静になってみれば。

 

 

 ―――黒歴史入り確定案件である。

 

 寝る前に、最後の力を振り絞って【比翼連理】を解除していて良かったと、本当に思う。

 そうでなければ、ツキヨのこの思いも全てミィにダイレクトにお届けされ、二度とミィの顔を直視できなかっただろう。無論、恥ずかしくて。

 

 

 

 それから少しして、一応の落ち着きを取り戻したツキヨは、これ以上あの時のことを思い出さないためにも、別のことを確かめることにした。

 

「まず、【比翼連理】だよね。大まかなことは分かってるけど、詳しくは見れてないし」

 

―――

 

【比翼連理】

 同一スキル所有者の同意を得て発動。

 両者の距離が十メートル以上離れると強制解除される。

 使用者二名のHPとMP、その他の中で最も高いステータス一つを合計し、共有する。

 使用者二名は指定したスキル一つを一時的に譲渡・交換できる。スキルレベルは元の所有者の状態で固定され、譲渡中にスキル熟練度の上昇はしない。一度譲渡・交換したスキルは、スキルを解除するまで返還不可。

 装備中の装備を一時的に譲渡・交換できる。装備枠毎に譲渡可能。一度譲渡・交換した装備は、スキルを解除するまで返還不可。

 両者が直接接触している時、思考をリンクする。

取得条件

 両者が同じ存在であること。また、対を成す存在であること。

 二人だけでパーティーを組んでいた時間が一定時間を超えること。

 初ログイン日が同じであり、その日の内に一度以上パーティーを組んでいること。

 

―――

 

 まず思ったのは、取得条件の厳しさ。

 同じであり、対でもあるという文言の意味は分からないが、初ログイン日がスキル取得条件にあるというのがいやらしい。

 

「あのタイミングで取れたのは、パーティーを組んでる時間を満たしたからかな……まぁ、運が良かったのか」

 

 そして、一番このスキルでやばい部分は、使用上限や発動限界時間などが、一切無い点である。

 

「日に何度も……それこそずっと使用したり、再発動して交換するスキルや装備を変えても良い」

 

 デメリットとすれば、思考リンクをするには手を繫ぐ必要があることと、十メートル以上離れられない事だろう。逆に考えれば思考リンクさえ諦めれば、十メートル以内なら自由に動ける。

 つまり、先程のツキヨの黒歴史直接配達は杞憂だったようだ。

 軽く胸を撫で下ろし、次に自分の状態を確かめることにした。

 

「…………うん。ステータス半減も終わってるし、日付けが変わってるから【殺刃】も使用可能。【魔力炉・負荷起動(アルキアティウス・オーバーロード)】のMP減少も無くなってるね……」

 

 この分ならば、明日の探索は問題ないと判断できた。ミィもデメリットは無くなっているだろうし、後はクラーケン戦中のあれこれを記憶の彼方に吹き飛ばしてくれていることを願うだけである。

 

 と、思っていたら。

 

「う……にゅ……んぅ……?……ツキヨ?」

 

 タイミングを図ったかのように、ミィが目を覚ました。

 

「ミ、ミィ……起きたんだ、ね」

「ぁふ……っ、そ、か。お昼食べた後、疲れて寝ちゃったんだ。今、何時ー?」

「ぷっ、ふふっ。夜中の一時。私も少し前に起きちゃったんだよね……なんだかんだ、疲れてたみたい。だ、だめ……くふふっ」

「ツキヨ、昨日もあんまり寝てないしね……まぁ、変な時間に起きちゃったのか……どぅしたのぉー……?」

「な、なんでもない……っ」

 

 寝ぼけ眼で起き上がろうとして、掴めない海水にバランスを崩してその場でグルグル。

 けど無重力状態なのと、まだ寝ぼけていることに三半規管が機能していないのか気付かない。ツキヨは笑いを噛み殺すのに必死だった。

 

 数秒後、完全に目を覚ましミィが焦るのを見て、ツキヨは我慢の限界を迎えた。

 

 

 

―――

 

 

 

「夜の探索をします!」

「はーい、ミィ先生!」

「バナナはおやつに入らないよ!」

「そうじゃなくて」

 

 夕ご飯も食べずに二人して爆睡していたので、時間も時間だったため摘めるものを少し食べた後、ミィから切り出した。

 

「なんでこの時間に?明日の朝、早くから探索しても良いんじゃ……」

「甘い!甘いよツキヨ!砂糖を蜂蜜で溶かし煮詰めるより甘いよ!」

「何その甘さの暴力……」

「明日……というか今日はもう三日目!明日は【炎帝ノ国】で集まらなきゃいけない!なら二人で探索できるのは少ない!移動も考えたら今から動かないと遅いんだよ!」

「ほうほう」

「私達が探索したのって、まだ浮島と森、あと海辺だけ!もっと別の所も探索したい!具体的には火山行きたい!」

「……絶対、それが理由だよね?」

 

 ツキヨが魔石を手に入れたのがそんなに悔しかったのか、あるいは自分も火属性が強化できるアイテムが欲しいのか。いや、多分どっちもだ。

 火山エリアがあるのかすら分からないというのに、信じて疑わずに行きたい行きたいと水中をグルングルンと回転する。駄々っ子か。

 

「まぁ、半日ぐっすり休めたから、疲れ自体はないし、魔方陣がどこに繋がってるかも分かんないしね……」

「浮島の時もだけど中央から遠かったら大変でしょ?火山探したいでしょ?昨日は夜の探索しなかったでしょ?やらなきゃっ!」

 

 疲れはないし、デメリットも消えたし、やらない理由はないのだ。もし転移後すぐ戦闘になっても、十分に動ける。

 

「だから二つ目は私欲でしょ……良いけど」

「ほんとっ!?」

「ん、良いよ。火山なら、卵も温まりそう」

「……むしろ、中で焼けちゃわない?」

「……大丈夫でしょ。曲がりなりにも、モンスターの卵だし」

 

 無責任すぎる………。とツキヨに白い目を向けつつ、魔方陣の近くまで泳いでいくミィ。

 

「それで、魔方陣三つあるけど、どれにする?」

「行き先がわかんないんじゃ、どれに入っても同じじゃない?」

「確かに……なら、これで良い?」

「良し悪しなんて無いしね」

 

 全部同じ見た目の転移魔方陣。

 

 完全にガチャ気分だが、二人はそれで良いと魔方陣の中に入り、光となって消えていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 不意に、二人はまた浮遊感を感じた。

 これで三度目、そろそろ呆れ、仕方ないと目を開くと。

 

「ちょっ!やだやだっ!?むりむりむりむりぃ―――っ!」

 

 そんなミィの叫び声も、()()()()()()()()()()()()で聞こえない。

 

「結局こうなるのぉ―――っ!?」

「ミィ!掴まって!」

「ツキヨっ!」

 

 二人は、空高くに投げ出されていた。

 海底からはるか上空。真上には大きな月が、二人を見下ろしている。

 こんなスカイダイビングは嫌だ。夜な上にパラシュートなしである。

 多分、転移先としても最悪だろう。

 

 高所恐怖症のミィにこの仕打ちはないだろうと、ツキヨはこんな転移先を設定した運営に恨みを募らせるが、今はそれよりもミィの焦りを解す方が先決。

 

「ミィ!【比翼連理】して!」

「わ、わかったぁぁぁ!」

「「【比翼連理】ッ!」」

 

 まともに聞き取ることすら困難な風切り音のため、耳元で大声で伝え、すぐにスキルを発動。

 せめてもの救いは、夜なので景色があまり見えず、ミィの動揺が比較的早く収まったことか。

 

(一瞬で良い!地上を照らして!)

(わかった!)

「【爆炎】!」

 

 ほぼ抱き合った状態で落下しているので、思考リンクの効果で会話する。

 ミィは【爆炎】で一瞬ではあるが、地上の広範囲を照らし出す。普通の人ならば、地上全域の認識など到底不可能な刹那の閃光。

 けれど、ツキヨはその類稀なる反射速度をフル活用し、降りられる地点が無いかと探す。

 しかし。

 

「まずっ!?」

 

 ツキヨが見たのは、霧に覆われた暗黒(夜闇)の渓谷。

 目算で百メートル以上離れた地点に崖が見え、【飛翼刃】でも届きそうにない。よしんば届いても、体重を支えられる保証もない。

 このまま、霧の渓谷に突っ込む事になる。

 

 地上は確認できず、霧の大地に垂直落下。

 雲上の島、海底、上空ときて、今度は地底。

 上と下の行ったり来たりはどうにかならないものか、などと考えている暇はない。

 最悪、浮島からのスカイダイビングの時にもツキヨ自身が言ったように、ミィだけでも確実に助けなければいけない。

 

「【飛翼刃】!」

(ちょ、ツキヨ!?)

「だまって!」

 

 伸長した【白翼の双刃】をミィの胴体に巻き付け、背中に移動させるツキヨ。

 こうすれば、最悪自分が地面に激突するのがクッションとなり、ミィへのダメージは最小限に済む。間に刀身を挟んでいる影響で思考リンクは途切れたが、仕方ない。後で謝ろうと決め、もう一方の【白翼の双刃】を真っ直ぐ下へ。

 三十メートルほど伸ばし、一切の弛みも無く長大な一本の剣とする。

 

(ホントは二本でやった方が安全だけど、重心がブレるよりは良い……)

 

 今の状態は、ミィの下にツキヨ。そこから三十メートルの剣が伸びている。

 ミィを保持する剣のバランスは手に取る用に分かり、ガッチリと固定しているため重心が取りやすい。だから、こうするしか無かった。

 

(よく、見ろ……っ!見るのは、慣れてる)

 

 真下に垂直に構え、近づく暗い霧の世界に怖気づきそうになる。

 けれど、この逼迫した状況下において、ツキヨにはこれしか思いつかなかった。

 だから、思いつかないのならその中で最善を尽くす。

 

 そして。

 

 長大な剣先が勢いよく地面に突き刺さり。

 

 

(ここっ!!)

 

 その爆発のような強い衝撃を感じた瞬間に、その勢いを逃がすようにツキヨは、握る柄に近い場所から思いっきり撓らせる。

 少しずつ少しずつ。けれど、コンマ一秒たりともズレなく。剣一本で、頑強な支柱とバンジーのゴムの双方を作り上げる。

 本当なら、二本の支柱で空中ブランコのようにしたかったが、

 

(伸、びろっ!)

 

 十メートルほど剣を撓らせると、それより下は頑強な支柱とし、柄に近い方はゴムの様にゆっくりと伸ばす。

 

 もし、バンジージャンプのゴムを金属の鎖に変えたら、鎖が伸び切った時の衝撃は何十Gという衝撃となる。そうなれば大ダメージは必至。

 だから、地に突き刺さる支柱(部分)と弛むゴム(部分)の接続地点から、手に伝わる感覚を頼りに。

 その一瞬一瞬を逃さず余さず。

 

(伸ばそうとするな……落下に合わせ、ゴムの様に重さで自然に伸びるように……)

 

 その意識を剣に伝播し、落下の威力を限りなく殺していく。落下速度はガクンと落ち、霧の中をゆっくりと降下する。

 

 事ここに至って、風切り音は止み、互いの声もハッキリと聞こえるようになった。

 

「ツキヨっ!何が起こったの!?」

「紐なしバンジー……即席のロープを創って生き残りましょう……みたいな」

「意味わかんないからね!?」

「ミ、ミィっ。暴れないで、バランス取れなくなるからっ?」

 

 背中でジタバタするミィに困惑しつつ、【飛翼刃】をロープに垂直降下する。

 既に速度はエレベーター程度にまで落ちているので、かなり安心できた。

 

「ミィ、周囲の警戒をお願い。この状態、思考操作で維持するの難しいから」

「うぅ……分かった」

 

 片方はではミィを保持するための。

 片方は支柱としてであり、ゴムとして。

 都合三つの形を同時に維持するのは、普通に頭の痛い所業だった。

 周囲の警戒はミィに任せ、霧の中を下る。

 

「あ、地表が見えたよ……って高っ!?怖い!ツキヨ早く早くっ!?」

「だから……はぁ……」

 

 高所恐怖症なのは分かるが、建物2階から見下ろした程度なんだから落ち着いてほしいツキヨ。

 『仕方ない。この程度ならダメージも無いでしょ』と割り切って、【飛翼刃】を解除した。

 

「わわっ!?……っと……こ、怖かった……」

「の、割にはちゃんと着地したね」

 

 ミィの高所恐怖症は軽度だ。高層ビルの屋上だったり、赤い電波塔だったり、武蔵の国(634メートル)の空の木だったりが無理なだけで、普段はこの程度なら問題ない。

 今回は、色々と重なりすぎたのが原因なのだ。

 だから、ミィも問題なく着地できた。

 

「ここは……」

「霧のせいで分かんないだろうけど、渓谷の底だよ。遠くに見えた崖もかなりの高さがあったから、登るのは大変そう」

「うわ……足元もかなり悪いね」

「この濃霧のせいで殆ど何も見えない……」

 

 渓谷の足元は傾斜が続いており、段差も酷い。

 濃霧のせいでモンスターからの奇襲も警戒する必要があるので、進むのは大変そうだ。

 

「どうする?適当に探索しても良いけど、ミィが行きたいエリアじゃないし、崖登る?」

「火山自体、あるか分かんないし……うん、このまま探索しようか。集合場所から遠ざかるわけにも行かないし……そもそも、ここがどの辺りか分かる?」

「ん、ちょっと待ってね」

 

 確認すれば、虫食いのように飛び地で探索されたマップが広がる。

 これまでの移動方法が、徒歩も多かったが魔方陣による転移もあったため、仕方ない。

 

「イベントエリアの東側だね……中央方向に向かうなら、渓谷の中を進むしか無さそう」

「崖を登るよりはマシだね」

「じゃあ、行きますか。私が前で警戒するから、ミィは後ろからついて来て」

 

 いつも通り、ツキヨが前衛でミィが後衛。

 

 濃霧の中でいつ奇襲が来るか分からず、二人共防御力は低い。だからこその提案だったのだが。

 

「え、やだけど」

「………は?」

 

 ばっさりと、切り捨てられた。

 それも『何言ってるのこの子?』とアホの子を見る目を向けられる。

 

「待って?いつも通りだよね、この陣形?」

「うん、そうだね」

「えっと、なら、ミィが前衛やりたかった?私が後ろから……」

「それも却下」

「なんでっ!?」

 

 にべもなく断るミィ。

 

 頑なに首を縦に振らないので、ツキヨが理由を聞くと、ニヤニヤと笑いながら返ってきた。

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()?」

「っっ~~~~~!!お、覚えてたの!?」

「忘れるわけ無いじゃん」

 

 あんな真剣なツキヨも珍しいけど、あんな風に考えてくれてたんだー?へー?嬉しいなぁー?

 

 ニヤニヤ、ニヤニヤと。

 一歩、また一歩と距離を詰め、問いかけてくるミィ。これにはツキヨも堪らず顔を赤くした。

 

「わ、忘れてると思ったのに……」

「たまに私の黒歴史を掘り返すツキヨに仕返しだよ……でも、嬉しかったのは、本当。ありがとね、ツキヨ」

「うっ……」

 

 そう言われたら、もう何も言えなくなる。

 ツキヨは、ミィにだけは勝てそうになかった。

 

 

 

 

 

 この後、二人は仲良く手を繋ぎながら渓谷を探索することになる。

 

 その間、ツキヨはミィから伝わってくる、感謝の思念に何度も身悶えることになるのだが……。

 

 

 これは、割愛するとしよう。 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

ツキヨ

 Lv 51 HP35/35 MP221/221〈+90〉

 

【STR 15】 【VIT 0】

【AGI 670】 【DEX 1680】

【INT 60〈+30〉】

 

装備

 頭 【舞騎士のマント】体【比翼の戦乙女】

 右手【白翼の双刃】 左手【白翼の双刃】

 足 【比翼のロングブーツ】

 靴 【比翼のロングブーツ】

 装備品【赤いバンダナ】

    【毒竜の指輪】

    【空欄】

 

ステータスポイント0

スキル

 【連撃剣Ⅹ】【体術Ⅹ】【水魔法Ⅹ】

 【挑発】【連撃強化大】【器用強化大】

 【MP強化大】【MPカット大】

 【MP回復速度強化大】【採取速度強化中】

 【双剣の心得Ⅹ】【魔法の心得Ⅹ】

 【双剣の極意Ⅲ】【魔法の極意Ⅲ】

 【武器防御Ⅹ】【状態異常攻撃Ⅸ】

 【気配察知Ⅸ】【気配遮断Ⅸ】【気配識別】

 【遠見】【魔視】【耐久値上昇中】【跳躍Ⅹ】

 【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】

 【精密機械】【血塗レノ舞踏】【水君】

 【切断】【ウィークネス】【剣ノ舞】

 【刺突剣Ⅹ】【曲剣の心得十】

 【曲剣の極意Ⅱ】【属魔の極者】【空蝉】

 【殺刃】【最速】【殺戮衝動】

 【精緻ノ極】【速度狂い(スピードホリック)】【比翼連理】

 

―――

 

 

 自らのステータス画面を眺めて、ツキヨは苦笑した。クラーケン戦にて【白翼の双刃】が三回壊れた。【最速】クエストの時にも壊しているため、合計では四回。

 【白翼の双刃】は【DEX】と【AGI】を上昇させていたため、四回も壊れた今、その上昇値は図りしれず。

 お誂え向きに【精緻ノ極】【速度狂い】がそれらを二倍にしているため、馬鹿げたステータスにまで上昇してしまっている。

 【DEX】に関しては、ここから【血塗レノ舞踏】で更に二倍だ。本当に馬鹿げている。笑いすら出てこない。

 【AGI】もアクティブの【最速】を使えば、三分だけ二倍だ。頭がおかしい。

 

「今なら、メイプルちゃんの防御抜けそう……」

 

 軽く計算すれば、最大強化時は弱点を狙わなくても【STR 1600】相当を超える攻撃力を持っていた。これでは【薄明・霹靂】の出番はほぼ無いと言っていい。【刃性強化】は惜しいが、それ以上の強化上昇値を持っているし、【刺突剣】は【白翼の双刃】でも使える。

 

「ツキヨ、なにか言った?」

「んーん、何でもない」

 

 隣を歩くミィとの【比翼連理】は、既に切ってある。そういつもいつもする必要はない。

 

「何にもないねー」

「そうだね……モンスターも弱いし」

 

 時折出てくる蝙蝠などのモンスターは、クラーケンを相手にした後では物足りない。霧に覆われた森の中をミィの炎と【気配察知】を頼りに慎重に進んでいく。

 

 

 

 そして霧の中を彷徨うこと二時間。

 真っ暗闇の渓谷で、そろそろ変化が欲しかった頃だった。

 

「ねぇミィ?何か水の音がしない?」

「えっ?……本当だ!近くに川があるのかな?」

 

 夜の森に明かりはなく、こんな事ならランタンでも持ってくれば良かったと思うが、無い物ねだりはできない。

 

 

「おぉ、あった」

 

 目の前には、小さな川があった。

 【炎帝】の炎に照らされた川は、僅かな段差から水が流れ落ちて音を立てていたようだ。

 

「夜だけなら良いけど、流石にこの霧じゃ探索も厳しいし、この辺りで休める場所を探そっか」

「ミィがそれで良いなら、私も良いよ。どうせなら、卵の様子も見たいしね」

「ん、良いね。温めると孵化するってあるし、暫く温めてみよ!」

 

 夜の探索がしたい気持ちもあるにはある。しかし、この霧ではまともに真っ直ぐに歩けているかすら不透明なのだ。だからこそ夜の探索は諦めて、日が昇るまで休むことにした。

 

「一応、下流に進めば中央の方向みたいだから、下流に行きながら探そうか」

「……ツキヨ、こういう所はね?上流が怪しいってセオリーだよ?」

 

 きっと上流の方が何かあるし、時間もあるから上流に行ってみよう?と、ミィは言うが、ツキヨさんはセオリーなんて信じない。

 いや正確には。

 

「この運営がセオリーを守るとか思えない」

 

 色々と頭のおかしいことをしてくれる運営である。セオリー?何それ美味しいの?を地で行く彼らである。ミィそれ信じる?と。

 そう言われてしまえば、ぐうの音も出なかったミィ。大人しく下流に行くことにした。

 

 

 

 そうして下流に進むこと三十分。

 二人は岩肌に亀裂が入り、洞窟のようになっているのが見えた。

 

「あそことか良さそうじゃない?」

「……そうだね。奥行きもあんまり無くてダンジョンじゃなさそう。ただの大きな裂け目だね」

「なら、大丈夫だね。一旦日が昇るまで、ここを拠点にしようか」

 

 当初の予定とは違うが、この霧では満足に動けない。仕方ないと諦めて、日が昇るまではここで雑談に興じることにした。




 
 取り敢えず、落ちてみました!
 初日に言ったよね!『パラシュート無しのスカイダイビング』って!やらなきゃ!(使命感)
 転移先最大のハズレ枠で、普通なら死に戻る。

運営『俺たちの嫌がらせの集大成をくらえっ!』

 けどツキヨだからそれも何とかした。
 頭おかしい。

 海皇戦の最後で、AGI落ちてるのにツキヨが攻撃を全部躱せた理由は、【破壊成長】でAGIが爆発的に上がったから。基礎値が上がったから、減衰してもそれまで通りのパフォーマンスができました。
 こっちもハクヨウちゃんみたいになりつつある……まぁ今後AGIに振ることは無いと思うけど。

 そしてツキヨちゃん、無事に黒歴史生成完了。ミィを弄っていたしっぺ返しが来ましたw
 海皇戦書いてる時、ひょっこり出てきた昔の私からの特攻ダメージに耐えた甲斐がありました。
 ……今もだろって?
 書きたくなったんだから、是非もないよねっ!


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