「行政特区日本…か」
「とんでもないことになったね。ルルーシュ」
学園祭にてのユーフェミアが宣言した行政特区日本。これについての対策をライとはルルーシュとゼロの部屋で話合っていた。
「行政特区日本に加われば、黒の騎士団は存在する意味を無くす」
「かといって現時点では反対意見も日本人からは無く、行政特区日本に反対する訳にはいかない。全く厄介だね」
「ああ正直俺も悩んでる」
だが結局解決案が出ていないのが現在の状況だった。
「なあライ。お前個人として行政特区日本についてはどう思ってる?」
「『個人として』いうのは?」
「さっきのは黒の騎士団作戦補佐兼戦闘隊長としての意見だろ?だから今度はライ個人としての意見が聞きたい」
「僕は…僕は行政特区日本に参加することは悪くないと思ってる。もちろん参加したからといって、万事解決ってわけではないが、それでもいい方向に進むと思う」
「…そうか。少し1人で考えさせてくれ」
「なら僕は月下の調整に行ってくるよ」
そう言ってライはゼロの部屋から出て行った。ルルーシュの内心を慮るに、行政特区日本は喜ばしくない。だが、そうであっても迷わせるだけの力がユーフェミアの発言にはあった。ライが格納庫に向かうとそこにはカレンがいた。
「あなたは月下の整備?」
「ああ。カレンは紅蓮の整備かい?」
「命を預ける相棒ですもの。少しでも自分で手を加えておきたくて。それに…」
「それに…?」
「今は少しでも手を動かしておきたくて」
ユーフェミアの特区宣言に揺れているのはカレンも同じであった。
「カレンは、どう思う?」
ライのその問いかけに、カレンは手を止めてしばらく沈黙し、そして答えた。
「私は、正直行政特区日本はアリかなって思ってる」
「ありか」
「正直、ブリタニアへの憎しみが捨てられる訳じゃない。でも、もう何も失わないで済むなら、それもありかなって」
何も失わないで済む。その言葉の重みは、カレンの戦いを途中からしか知らないライでさえも分かるものであった。
「ライは?」
「僕もそう思うよ。何も失わないで済む。いいことだ」
「うんうん、そうよね!」
ライと意見が一致したことがうれしかったのか、カレンはにこっと笑う。
「…」
「ライ?どうかした?」
「いや、何でもない」
カレンの笑顔に見惚れていた。とは、恥ずかしくてライは言えなかった。
「ちょっとお二人さーん?そういう惚気は他所でやってほしいんだけどぉ?」
完全に二人の世界に入り切っていたところに水を差したのはラクシャータであった。
「いや、別に惚気とか…」
「そういのじゃ、ないですからっ!」
顔を真っ赤にして否定するカレンと、表情にこそでていないものの、恥ずかしそうなライの姿はどう見てもお似合いの二人であるが、当人たちは実のところ、恋心を伝えきれずにいる。だが、二人とも心に決めていた。すなわち、行政特区が上手くゆき、戦いが終わるその時には、自分の気持ちを素直に伝えようと。だが、
―たった一つの出来事が大きな影響を与えることがある。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが魔女C.C.に出会い、世界を変える魔王が誕生したように。
紅月カレンが兄の死によって戦い抜く覚悟を決めたように。
枢スザクが父を殺したことによって罪の意識を抱え生きていくようになったように。
ライが演説で言った一言のために全てを失ったように。
そして、行政特区日本の式典において冗談で言った一言が全てを混乱と悲しみの渦に巻き込んだ―
「スザク、C,C大丈夫か!?ーっ!?」
行政特区の会場にて、ライは突然倒れこんだC.C.とスザクに近づいたときに、それは起こった。ギアスの共振による強い衝撃がライの脳裏を走った。それは神根島で経験したものと同等の衝撃。ライの脳裏には衝撃と共に過去の光景が蘇る。ギアスの能力が暴走し、全てを失った過去が。
「なんでいまーまさか、ゼロに何か!?」
ライが視線を向けた先には、ユーフェミアの姿が映った。
「あら?あなたは黒の騎士団の人でしたよね?」
「ユーフェミア副総督、いったい何がー
「日本人は殺さないといけないんです。」
「ーえ?」
パンと、乾いた銃声がした。ユーフェミアの手に拳銃が握られていることに気付いた瞬間、ライは自分が撃たれたのだと理解した。
「ぐっ」
普段のライなら持ち前の身体能力を使って、弾丸を避けることができただろう。だがギアスの影響、突然のフラッシュバック、そして手を取り合い平和を作るはずだった相手からの発砲。ライの思考はフリーズした。結果としてライは弾丸ぎ避けることができず、弾丸は彼の脇腹に直撃した。
「私は日本人を殺さないといけないんです。」
「だめだ…待てユーフェミア…」
片膝を付いたライに向けて、ユーフェミアは2、3発と続けて発砲した。ライは弾を躱そうと半身を反らすが、1発腹にもらった状態では満足に回避できず、2発はライの腕と脚に直撃した。
「死にましたか?じゃあ私は日本人を殺さないといけないので」
「ま…待て、ユー…フェ…ミア」
もはや起き上がる事さえ叶わないライはそれでもユーフェミアを止めようとする。しかし、死にかけのライが発したその言葉はユーフェミアには届かなかった。
「ライ!?おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」
「…ゼ…ロ?」
遅れてやってきたのはゼロであった。仮面の上からでも分かるほど彼も動揺していた。
「すまないライ…俺のせいだ…全部俺の…」
「いったい何が…」
そこで再びライの意識は途絶えた。
「っ!?ライ!おい!くそっ!お前を死なせてたまるか!」
ルルーシュは回線を開き黒の騎士団に命令を出す。ルルーシュとしての悲しみを圧し殺し、黒の騎士団のリーダーであるゼロとして。
『黒の騎士団総員に告げる!行政特区日本は日本人を誘き寄せ虐殺するためのブリタニアの汚い罠だった!黒の騎士団総員は日本人を救い出せ!また戦闘隊長はユーフェミアに撃たれて重傷だ!救護班!ガウェインで帰投したらすぐに治療できるように準備しろ!』
「なんで…ライが重傷?」
そのゼロの報告を受けたカレンの心をうめつくした感情は何よりも怒り。彼女の人生において、感じたことのない程の大きな怒り。
「ユーフェミア!よくもライを!」
『そしてユーフェミアを見つけた場合は―』
「ユーフェミア!お前は私が―」
『―殺せ!』
「―私が必ず殺してやる!」
こうしてブラックリベリオンの原因となった行政特区日本の悲劇は誰の願いも届くことなく、多くの悲しみと怒りを残すだけだった。
―夢を見ていた。
嘗てライが王だったころ、家族と過ごした僅かなだが確かに幸せを感じていた時のことを。
行政特区日本が成立し、戦いがなくなり、誰も死ぬことがなく幸せに過ごす日々を。
だが、それらは一瞬で砕けてしまい結局残ったのは血塗れの自分とおびただしい数の死体。
そこでライの意識は目覚めた―
「ううっ…ここは?」
「ライ!」
「…カレン?痛っ!」
「傷が完全に塞がってないんだから、体を動かしちゃ駄目よ!」
ライが目が覚めると隣にはカレンがいた。
「ここは?」
「騎士団のアジトよ。あなたはユーフェミアに撃たれて運び込まれたの」
「そうか…カレン、行政特区日本はどうなった?」
「特区日本は日本人を誘き寄せる為のブリタニアの罠だったわ…でも安心して。ユーフェミアはゼロが殺したから」
「っ!?ゼロが!?」
「ええ」
「そんな…」
ライの心は悲しみの色に染まっていた。だが今は悲しんでいる暇などない。自分がすべきことを。これ以上悲劇を重ねない為に自分の出来ることを。ライは自分にそう言い聞かせて気持ちを切り替えようとする。
「これからトウキョウ祖界に攻め込むわ。いよいよ日本を取り戻す時が来たのよ」
「なら僕も出る」
「ダメよ!まだ傷も塞がってないのよ!?」
「僕が出ることで無駄な犠牲を少しでも減らせるはずだ。これ以上無駄な犠牲は出したくない」
ライの瞳には確かな覚悟があった。その覚悟を感じてまた、カレンもついにある覚悟を決める。
「…分かったわ。ならこの薬を飲んで。ラクシャータさんから貰った痛み止めよ」
「ありがとう」
ライが薬を飲んだ事をカレンは確認すると、カレンは覚悟を胸に一つの思いをライに告げる。ずっと胸に秘めていた思いを。
「こんな時にこんなことを言うのもおかしいかもしれないけど…私の想いを聞いて欲しいの」
「カレン?」
「私は、私紅月カレンはあなたのことが大好きです。あなたを愛しています」
ライはまず驚き、そしてカレンの気持ちに答えるべく、自分の気持ちを言う。
「僕もカレンのことが―!?」
カレンはライの言葉を遮るように、ライにキスをする。見よう見まねのぎこちないキス。
「ごめんねライ。こんなの一方的で勝手過ぎるってことは私にも分かってる。でも今はライの答えを聞く訳にはいかない。ライの答えがなんでも、未練が残っちゃうから」
「カレン?」
「私はこの戦いに死ぬ気で挑む。日本解放のため、ゼロのために命を捨てるのも惜しくない。それが私の覚悟。でも未練が残ると覚悟がぶれそうだから」
「そんな―」
ライは言葉を続けようとするが、ライの視界が突然ぐにゃりと歪む。
「ごめんねライ…本当にごめんなさい…」
カレンは倒るライを優しく受け止め、再びベッドに寝かせる。先ほどカレンが飲ませた薬には睡眠薬が含まれていた。
「ごめんなさいライ…でもあなたには生きていて欲しいの…」
カレンは覚悟を胸に、ライの病室から出る。
「紅月隊長!出陣の準備整いました!」
「分かった!零番隊はそのままゼロの命令があるまで待機しろ!」
「了解です!」
「さあ覚悟しろブリタニア!ついに日本を取り戻す時が来た!」
カレンは自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、愛機、紅蓮の待つ格納庫へと駆けるのだった。
こうして、双璧の想いは通じ合うことなく、後にブラックリベリオンと呼ばれる死闘は幕を開けたのだった。
「…ううっ…」
ライはベッドの上で目覚めた。ぼんやりする頭で、何があったのかを思い出す。
「…確か…起きた時にはカレンがいて…っ!?そうだ戦いはどうなった!?」
カレンから貰った薬のおかげか、今は痛みを感じない。
「戦闘隊長!?まだ動いちゃだめです!」
団員がライが起きて動こうとしたことに気付き、ライを止めようとする。だがライにとっては、今は時間が惜しい。ライは心の中でスイッチを入れる。
「僕の邪魔をするな」
赤い鳥が羽ばたいた。
「…はい」
ライは愛馬、月下の下へと走った。
「現状を報告しろ」
「戦闘隊長!?体は大丈夫なのですか!?」
「僕の体のことは気にしなくていい。早く報告を」
ライは月下の起動準備をしながら、部下へと命令を下す。そしてライは知った。政庁を落とせず、むしろ今は反撃に出られて、藤堂がなんとか戦線を支えていること、ゼロの突然の戦線離脱、カレンがゼロを追って神根島に向かったことを。
「…そうか…」
「戦闘隊長、指示をお願いします!!」
「今すぐ撤退の準備をしてください」
「つまり…この戦いは…」
「ゼロが戦闘を離脱し、政庁も落とせていない。黒の騎士団の敗北です」
「…分かりました。戦闘隊長はこれからどうされますか?」
「月下で撤退の指揮を執る」
「御武運を」
「ああ。月下先行試作型出る!!」
月下を起動させ、戦場に出たライが始めにしたことは現状の確認だった。
「ここまで酷いとは…」
ライは戦況を確認すると黒の騎士団全軍に向けて命令を下す。
『黒の騎士団全軍へ告ぐ、こちらは戦闘隊長ライだ。この戦いはこれ以上続けても戦力を浪費するだけだ。よってこれより、全軍撤退を開始せよ!』
「っ!?」
無線でライからの撤退命令を聞いた藤堂は思う。自分は戦線を維持することに、集中しすぎた。結果、撤退の指揮を執ることが出来ず、無意味に仲間がやられるだけ。だがライなら多くの仲間を救えるだろう。ならば自分のすべきことはただ1つ。
「殿は任せてくれ、戦闘隊長」
『…すいません…必ず助けに行きます。例え捕まろうとも、生きてください』
ライとて、藤堂を今すぐ救援したい気持ちだったが、敵の主力部隊を藤堂の指揮している中央で防いでいるため、藤堂に殿を頼むしかないのだった。
「分かっている。ゼロを頼んだぞ」
『はい!』
「我らもお供しますぞ、中佐」
「僕の居場所は藤堂さんのいる所です」
「私も藤堂さんとと共に」
「援護しますよ中佐」
四聖剣からの心強い返事。
「お前達…わかった、だが卜部は戦闘隊長の撤退を手伝え。お前の月下が一番損傷が酷い」
「しかし!」
「頼む卜部!」
「…承知!」
卜部は藤堂の命令を受け、ライの援護に向かう。
「いくぞお前達!!」
「「「承知!」」」
「藤堂鏡士郎まかり通る!!」
そして藤堂と四聖剣の月下四騎は再び戦場へと駆け出した。
「弾薬を撃ち尽くしてもかまわない!伝えたポイントを爆破し、大軍が通行できないようにしろ!」
今の戦況は、中央を藤堂率いる主力部隊が支えているが、両翼は部隊が形成できておらず、両翼からの追撃を受け、各個撃破されてある。そこでライはまず、撤退する部隊に大軍で通れるようなルートを塞ぐよう、指示した。するとブリタニア軍は部隊を分け、小隊で通れるルートを進み、追撃する。だがそのルートには、
「はぁっ!」
ライの月下が潜んでいる。ライと言えども、追撃部隊全てを相手にして勝つことはできない。だが、一個小隊、しかも奇襲とあればライにとっては、30秒とかからずに殲滅できる。
『キリベル隊LOST!』
『何!?伏兵がいるのか!?』
『続いてフォード隊もLOST!』
『くそっ!奴らにそれだけの戦力はもうないはずだぞ!?』
ブリタニア軍からすれば、全く予想していなかった展開。この時ライは単騎でブリタニア軍に奇襲を続けていた。本来なら、戦場を単騎で動くことはあり得ない。だが、続けて奇襲をする為には月下の機動力を最大限まで活かしきらねばならない。無頼では月下についてこれない。よってライは単騎で動くしかなかったのだ。
通常ではあり得ない月下による単騎の各個撃破による奇襲作戦。だが、ブリタニア軍が部隊を小隊に分けているこの状況がそれを可能としていた。無論ブリタニア軍の指揮官とて、部隊を小隊に分けた時点で、各個撃破される可能性を考えなかった訳ではない。だが、大隊が通れるルートが潰された以上、そう動くしかないのだ。敵に不利な動きを強要させる。その敵すらも自分の思い通りに動かさせる戦術こそが、ライの指揮官としての真骨頂であった。
結果ブリタニア軍は多くの損害を出し、追撃部隊の再編を迫られた。
「見事だ…」
その様子を月下のコックピットで見ていた卜部は感嘆の言葉をもらす。ライの行動により、黒の騎士団は幹部、杉山、井上、卜部の撤退に成功。また多くの団員の命が救われた。これらは、日本の各地方へと潜伏するため、散っていった。
一方その頃神根島では1つの決着が付こうとしていた。
「スザク!」
「ルルーシュ!」
―バン!
ルルーシュが放った弾丸はスザクのバイザーへ、スザクの弾丸はルルーシュの拳銃へと当たった。
「はぁっ!」
「ぐうっ!?」
スザクはルルーシュとの距離を詰め、ルルーシュを押さえ着ける。と、そこでスザクの視界に銃を構えたカレンが写る。
「カレン!君はまだこんな男を信じるのか!こいつは日本人をライを利用した男だぞ!」
「ふっはははっ!」
「何が可笑しい!?」
「ライを利用した?違うなスザク!あいつは俺をゼロと知ってなお、俺と共に戦ってくれたんだよ!」
「なっ!?」
「えっ!?」
この言葉にはカレンもスザクも驚く。カレンの心は、絶対的に信じていたゼロがルルーシュであった事を知って、壊れかけていた。それを繋ぎ止めていたのはライの存在。そして先程のルルーシュの言葉はカレンの心を再び揺り動かすには充分だった。
「ゼロを離せスザク!」
カレンはスザクに銃を向けて、ルルーシュを救おうとする。
「そうか…ならカレン。君も終わらせる」
だが復讐の為に戦うスザクと、壊れそうな心をライの存在で繋ぎ止めているカレンでは、あまりにも力の差がありすぎた。
「ゼロと黒の騎士団のエースこれだけあれば俺はナイトオブラウンズに…!!」
「ライ…ごめんなさい…ゼロを守れなかった…」
スザクとの戦いに敗れ、気絶させられたカレンは、意識が途絶える寸前そう呟いた。
『卜部さん、これから僕はカレンの合流予定ポイントに向かいます。後で回収艇を送ってきださい』
『分かった』
ライは黒の騎士団の撤退がほぼ完了した後、神根島から帰ってくるカレンとの合流予定ポイントに向かっていた。先程までは、撤退に専念していたが、ライが一番カレンの安否を心配していた。合流予定ポイントには紅蓮があった。だが、紅蓮から降りてきたのはカレンではなく、
「C.C.?」
「なんだ早い迎えだな」
紅蓮から降りてきたC.C.は悠然とそう言った。
「ゼロはカレンはどうしたんだC.C.!?」
「ゼロはブリタニア軍に捕まった…しかもあの枢とかいう小僧にだ」
「なっ!?スザクがルルーシュを!?…そんな…カレンは!?」
「…」
C.C.は答えることを一瞬ためらう。本来なら、ライに言うべきではないのかもしれない。だが今のライには誤魔化しは通用しない。C.C.は一息つくと、口を開く。
「カレンは…あいつもブリタニア軍に捕まった」
「そんな…僕はまた…守れなかった…」
こうして、ブラックリベリオンは黒の騎士団の敗北で幕を閉じた。
続く