「黒の騎士団は行政特区日本に参加せよ!」
ゼロの号令をライは月輪のコックピットで聞いていた。
「ルルーシュ、君は…」
ゼロがとったその策はライが最後の手段として考えたいたものであった。行政特区日本を利用すれば一旦はブリタニアの攻勢を凌ぐ事が出来る。しかし、それはナナリーの誘いを利用する事になる。
出来ることならば、ライはこの策を取りたくなかった。
「ライ、すまなかった」
ルルーシュはライに素直に謝った。あの後、生徒会のメンバーが思い出させてくれたルルーシュの幸せのカタチ。それをルルーシュは取り戻すと決めたのだ。
「…ゼロの仮面は君の物だよ」
「ああ、この仮面は俺の物だ」
ルルーシュとライは互いに笑みを浮かべる。2人の間にわだかまりはもうなかった。
「ライ、全て終わったら俺とカレンと一緒に学園に戻ろう」
「学園に?」
「ああ。会長も、みんな待ってる」
「そう、か…そうだね。全て終わったら学園に帰ろう」
ライは自身の体の事をよく知っている。自身の寿命が長くないことも。それはルルーシュも同じだ。だが、それでも2人は約束を交わした。いつか、全てが終わったその時の事を。
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「百万人のゼロか、ただの屁理屈だな」
C.C.はゼロの仮面を宙に放って遊びながらそう言った。
「ルルーシュらしいよ」
ライはそんなC.C.を大して咎める様子もなく、淡々と書類上の仕事をこなしていく。一応作戦で使う予定のゼロの仮面である為、本来ならば咎めるべきであるのだが、ライは大して気にしている様子もない。それはライの心に確かな支えが戻ったからであり、その支えが戻った理由も太平洋での一戦にある事を知っているC.C.としては少々面白く無いのだった。
行政特区日本への加入を表明したゼロはあの後、自分の策を説明した。ゼロは総督に密談を持ちかけ、ゼロを国外追放させる。そこで行政特区日本に参加するはずの百万人にゼロの格好をさせ、百万人のゼロで日本から離れるという剰りにもシンプルで馬鹿らしいとさえ思える作戦であった。朝比奈が百万人のゼロと言う言葉を聞き、その想定される光景の異様さにその場で笑い出したのは余談である。
「しかしまあ、堂々とナナリーを裏切るとはルルーシュもよく決断したものだ」
「…裏切る訳じゃないさ。元々が政治ゲームの駆け引きなんだから。裏を掻くのは当たり前だよ」
そう、政治ゲームに於いてはごく当たり前の事。しかしその当たり前の政治ゲームの勝負にナナリーと真っ向から裏を掻くというのはゼロにとっては当たり前で、ルルーシュにとっては辛い選択でもあった。
「お前は、これで良かったのか?」
C.C.だからこそ聞ける質問。蓬莱島に行くと言うのは、ライの第一目標であるカレンを取り戻すという目標からは、結果として一度遠ざかる事になる。
「黒の騎士団としての決断に反論はないよ」
C.C.はこのライの言葉に違和感を覚えた。焦燥を抑える為に言い聞かせるような言葉ではなく、何か躊躇いを含んだような言葉。
「まさか、お前―」
が、C.C.の言葉は突然の来訪者によって遮られた。
「よぉ!ライ、いるか?」
ノックもなしに部屋に入って来たのは玉城である。C.C.は変に喋るタイミングを玉城に奪われ、チーズ君の人形を抱き締めながら玉城に非難めいた視線をぶつける。が、玉城はこれに全く気付かない。玉城は別に空気が読めない人間ではないし、他人の感情に疎い訳でもない。ただ他人より自分の思った事をストレートに言う神経の持ち主なのだ。
この時の玉城は玉城にしては少々下手な態度で、妙に楽しそうであり、妙にそわそわしていた。ライは妙に楽しそうな玉城を見て、既に嫌な予感がしていた。この忙しい時に下らない要件に違いないと。
「下らない要件なら、見ての通り僕は忙しいんだけど」
「そんなに邪険にすんなよ!いやな、騎士団の士気を上げる重要な作戦を思い着いたんだよ!」
ああ、絶対下らない要件だ。そうC.C.とライは確信した。大体“騎士団の士気を上げる重要な作戦”がマトモな物なら最高権力者であるゼロの所に行くべきなのだ。ところが玉城はゼロに次ぐ権力者であるライの下に来た。それはつまり、“ゼロならダメだが、ライなら許可してくれるかもしれない要件”という事なのだ。
「次の作戦が成功したらよ、俺達は日本を離れる事になる訳だよな?と、なるとだ。俺達にとってごく重要な物が望めなくなるんだよな~」
妙にもったえぶって言う玉城はまるで事件の真犯人を散々引っ張って言う名探偵のようであったが、玉城に名探偵ほどの風格はなく、またライにも容疑者達のように玉城の話をさして重要であるとは捉えていなかった。
「で?」
「つまり!俺達日本人にとって一番の労いであり、戦いの休養に欠かせないであろう超重要品!日本酒が飲め無くなるだろうが!」
「で?」
「今の内に日本酒をあるだけ確保しておきたいからその予算をくれ!」
「帰れ。仕事しろ」
「なんでだよぉ!?」
この忙しい時期に玉城の話を聞いたのが間違いだったと、ライは本気で後悔する事となるのだったが、そんなライの後悔を他所に玉城は引かない。玉城にとってはこの日本酒を確保するという作戦は、先日の太平洋での奇襲作戦にも並ぶ重要性を持つ。無論、玉城だけではあるが。
「団員の士気を上げるのは大切な事だろぉ!?お前も日本人なら日本酒の旨さは分かるだろうが!」
「僕は酒が飲めない」
「知るかっ!お前が飲めるか、飲めないかはどーでもいいんだよ!」
「…」
ライは一瞬自分のギアスが危険性と玉城をギアスを使って帰らせる事とを天秤にかけ、天秤がギアスを使う方に傾きかけた。
「なぁ?いいだろう、ちょっとぐらいさぁ~」
「悪いな」
ライに声を掛けられた玉城がライに反応する前に梟の綺麗な右ストレートが玉城の鳩尾を捉えていた。「ぐぇ」と何ともお約束な言葉を言う暇すらなく玉城の意識は刈り取られた。
多少やり過ぎなような気もしたが、相手が玉城だったのでそんなモラルはあえて無視するのだった。玉城の経緯を黙って見ていたC.C.だったが、ふと気付いたかのようにごく真面目な表情をし、至極重要事項を喋るかのようにに口を開いた。
「ライ。蓬莱島に行っては日本風のピザが食べれなくなる。今すぐ注文だ」
「却下」
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ゼロとエリア11総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニアとの間で交わされた密約。それは行政特区日本に騎士団と百万の日本人を参入させる代わりにゼロの国外追放を総督の名に於いて認めるという内容だった。ナナリー・ヴィ・ブリタニアはこのゼロからの密約を認め、ゼロの国外追放は行政特区日本の式典会社で行われる事になった。
この密約の場に於いてゼロを一番驚愕させた物は、またゼロをずっと睨み付けていたスザクでもなく、この場で最も政治の手腕に長けたローマイヤでもなく、ただラウンズであるというだけでその場に顔を出し、また政治に関して一切の口出しが出来ない為どんな表情をして良いのか分からずただ居心地が悪そうにしていたカレンだった。
何せゼロは良く知っていたのだカレンの事を。直情的であり、使い処を間違える事が無ければ確実に自分が欲する結果を出す最強の手駒であった彼女は、かつて心酔とまで呼べる程に忠誠を尽くした仮面を見ても大した反応は見せずただ気まずそうにしていた。そこに、自分が知る彼女らしさは見えなかった。
彼女が豹変とも呼べる変化を見せた理由ははっきりしている。憎むべき、自身も嘗てはその力に屈した、あの男の力に違いなかった。同時にゼロは悟った。彼女は、あれほど想っていた彼の事も覚えてはいないのだと。
彼女は自分の親友に明らかな恋心を抱いていたが、ゼロを守るという使命を絶対に自分に課していたが為に彼への恋心を素直に良しとはしていなかった。それでも尚傍目からも一目瞭然であるように彼女は彼の事を愛していた。
彼もまた彼女の事を確実に愛していたにも関わらず、普段の聡明さを思えば不思議な程に鈍いが故に自身のその恋心に気付くのに随分と時間が掛かった。二人はルルーシュにとってよき友であり、ゼロにとっても非常に優秀な部下だった。
それを奪われた。最悪の形で。彼は彼女の事を未だに強く思い、自分の体が壊れかけているというのに、それでも尚止まろうとはしない。彼女は彼の事を忘れ、あろう事か彼の強敵として彼の道を阻もうとしている。
屈辱以外の何物でもない。ゼロはその表情を見せない仮面の下で顔を歪ませるのだった。
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「…ん」
上体を起こし、辺りを見回す。視界がはっきりしないのは所謂寝惚けであろう。
「コーヒーでも淹れるか?」
「ああ、頼む」
ええっと…ああそうだ。ひたすら書類を見ながら検案に目を通しながらひたすら可否の判を押してて…C.C.から仮眠するように勧められて、そこのソファーで横になったのだった。C.C.が言うからには余程疲れているように見えたのだろう。この潜水艦の実務には窓がないし、時間を忘れる程に働いていたのも事実だったが、我ながら情けない物だ。
「今の時間は?」
「四時だ」
C.C.に仮眠を勧められたのは二時だったから、寝ていたのは二時間。仮眠にしては長すぎる睡眠であった。蓬莱島には百万人もの日本人が移る事になるのだ。何にもない人工島にそれだけの規模の人間が移住するとなれば色んな物が必要となる。様々な検案が上がってくるのは道理であり、ゼロがブリタニアとの交渉でそちらに専念しなければならない今、僕に大量の検案が上がってくるのは当然の事だ。勿論扇さんの方にも相当数の検案が上がっているはずだが、扇さんだけでは決定できない検案は、ゼロに代理の権限を任された僕に回ってくるのだ。時間はいくらあっても足りない。
体は睡眠を望んでいるがそうにもいかない。今はC.Cの淹れてくれたコーヒーで目を醒ますとしよう。一口。たった一口ではあったが、僕にこのコーヒーの異変を知らせるには十分な破壊力があった。このコーヒーはそのインスタントコーヒーにすら劣る味だ。言うなれば、不味い。
コーヒーとは本来苦く、そこに深みやコクが活きる物だ。だが、あろう事かこのコーヒーの第一印象はコーヒーの苦味でも深みでもコクでもなく、ヌメッとしたその触感であった。可笑しな事に僕は普段のコーヒーをこのレベルに退化させられる魔法の調味料を知っていた。そして、その調味料をコーヒーに入れるようC.C.に言った犯人も。
「…醤油か」
「朝比奈がコーヒーにも合うと言っていたがな」
C.C.はいたずらっぽく笑った。
「お前が寝ていられる間に朝比奈が来て、醤油を入れてコーヒーは旨いと力説していってな」
朝比奈さん―
声にならない叫びを僕は心の中で叫んだ。腹立たしきはこれで僕の眠気は完全に吹き飛んだ事だった。
「…朝比奈さんはそれを言うためだけに?」
「お前が目を醒ましたらコーヒーを飲ませ、この検案を一番に見せるように。と」
そうしてC.C.が差し出した書類は玉城が言った日本酒確保への資金を割くようにと言う内容をしっかりと纏め、かつ賛同者の署名を記した完璧に近い書類であった。書類の責任者の欄には堂々と玉城。と書いてある。
「…………」
文面には問題なし。寧ろこれでもかと言わんばかりに日本酒についての重要性が処狭しと書き込んであり、それが前のように玉城だけの言葉なら何とも思わないのだが、賛同者の署名に四聖剣全員の署名があるのだからタチが悪い。
「………」
記されている確保に必要な金額は随分と多いように思われるが、今度は日本古来のゲン担ぎについて書かれており、曰く新たな日本の船出でケチっていては先が危ぶまれるとの事。日本人的な考えではあったが、一理あるのだろう。
「……」
日本酒を確保する人員は現在手持ちぶさたである四聖剣や、旧解放戦線のメンバーでやる。手間も掛からず、日本酒をよく知るメンバーである為、一任してくれれば間違いなく上物を揃えてみせるとの事。いつだったか四聖剣の酒盛りに参加した事を思い出す。全員が酒豪と呼ぶに相応しい。確かに、問題ないメンバーではあろう。
「…」
僕は書類に判を押す。赤く丸い円の中の文字は可。
「いいのか?」
「書類に文句の付けようがない以上、認めざるを得ない」
C.C.に書類を渡し、コーヒーに口を付けかけてコーヒーの中身を思い出す。
「淹れなおすか?」
「よろしく」
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行政特区日本の式典の前日、黒の騎士団は翌日の作戦の準備を完了させ、見張りを除いた多くの人間が
寝静まった頃、密に動く人影があった。
「…」
人影は周囲の様子を気にしながら、誰にも見つからないよう、慎重に行動している。幸いにも明日の準備で手一杯であった黒の騎士団の人間はほとんどが警戒心をもっておらず、見張りの人間もさほど張りつめている様子は無かった。
人影は黒の騎士団のアジトから外に向けて歩みを進める。その懐には拳銃と手榴弾が隠されており、この人影がしようとしている何かが穏やかではないことがうかがえる。
「しっかしよぉ、まさか黒の騎士団がここまで復活できとは正直思ってなかったぜ」
「お前は藤堂将軍と一緒に捕まってたもんな」
アジトの外まであと少し、と来たところで見張りの団員二人が呑気に会話をしながら歩いてきた。人影は見張りに見つからないよう、近くの柱に姿を隠す。人影は柱の裏から男たちが会話している様子を眺めながら手元の時計で時間を確認する。見張りは暫く話すと、その場を離れ、次の持ち場に移動した。人影はそれを確認してから移動を始める。
「ライ、そこまでだ」
「…ゼロ」
人影、ライはアジトの外まであと少しといったところで先回りしていたゼロに止められた。
「分かっていたのか?この場所が」
「ああ。お前ならこのルートで外に出ようとする。そしてその考えは正しかった」
ゼロもライも互いに親友であるとは思えぬ迫力を出している。
「カレンを救いに行くつもりだろう。それも単身で」
「…」
そう、ライはカレンを救いに単身で政庁に忍び込むつもりでいた。確かにギアスを使えばカレンの記憶を取り戻すこともできるかもしれない。だが、あまりにも危険過ぎる。
「悪いが、今君を失うわけにはいかない」
「それは…ゼロとしての判断か?」
「ああ。これはゼロとしての判断だ」
「…だとしてもカレンのことで譲るつもりはない」
ライとて危険過ぎることは分かっていた。だが、そうであってもカレンの居場所が知れているのに大人しく日本を離れることはライにはできなかった。
「では勝負をしよう」
「勝負?」
「ああ、君が勝てば君の自由にしていい。だが、私が勝った場合は私に従ってもらう」
ゼロとて、ルルーシュとてライにカレンの救出を一旦諦めろというのが酷な話であることは重々承知している。そうであってもライを一人で行かせることはできないし、だからこそゼロの仮面を被って友の前に現れた。
「勝負の内容は?」
「チェスで勝負としよう。いつかの借りを君に返す」
「負けず嫌いだな」
ライはゼロのその提案に苦笑しながら答えた。
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行政特区日本。
一度はユーフェミアの名において施行されたこの制作は、それから1年の後にナナリーの名において二度施行される事となる。
1年前とはあまりにも違い過ぎる環境。日本人はブリタニアの罠だと考え、ブリタニア人にとても口に出す事さえ忌諱される忌まわしき出来事を何故再び施行するのか理解されない。
まさに誰にとっても得のない行動。たった一人、ゼロという例外を除けば。であるが。
奇策士と呼ぶにふさわしいゼロが選んだ策は「ゼロを国外追放させる」であった。ブリタニアからしてみれば一番のやっかいものであるゼロを国外追放に出来るのだから悪くない。どころか良いとすら感じられる提案であった。
騎士団のメンバーには内密で決定されたこの決め事。ブリタニア側からすれば、ゼロは騎士団を見捨てるのだと。そう思った。実にゼロらしいではないか。冷酷非道、不要となれば味方すらも切り捨てる保身のテロリスト。所詮はそういう男なのだと。
読みが甘かった。ゼロを過小評価していた。ゼロは国外追放のルールを守った。
参加する予定であった日本人すべてをゼロとして、ではあったが。
ゼロは言った。「ゼロとは符号にすぎない」
言うまでもなく屁理屈だ。
ブリタニア側には日本人を殺すという手段もあった。ミス・ローマイヤは見せつけるべきだと言った。ブリタニアに逆えばどうなるのかを。指揮官、枢スザクはこれをはね除け、彼らを見逃した。こうして、日本を離れた騎士団は中華連邦付近に浮かぶ人口島、蓬莱島へと住まう事となる。
そして行政特区の式典の間、ライはただ、ことの成り行きを見守っていた。
「これだけ大層な理由つけて集めた日本酒で酒盛りか。もう少し緊張感を持たせるべきだっか…?」
ルルーシュはそう言って先日玉城がライに通した日本酒収集に関する書類を眺めていた。実際、蓬莱島につく前から玉城を筆頭とする一部のメンバーは飲み始めており、蓬莱島に付いた今となっては騎士団全員でどんちゃん騒ぎを初めてしまっているのだから、書類を通したライとしては苦笑いするしかない。
「最近は忙しかったし、息抜きだと思えばリーダーとしては不服はないんじゃないか?」
「その忙しい時に玉城はこの書類を作ったかと思うとアイツの行動予測を修正しなくてはな…」
馬鹿は恐ろしい。そういってルルーシュとライは笑った。
「カレンのことは俺の作戦に任せてくれ。今ラクシャータが鹵獲用の兵器も開発させている」
「ああ、信じてるよ」
ライの心にはまだ焦燥感はある。だが、その焦燥感を上回る信ずる友が居てくれることはライにとって幸運だった。
つづく