「政略結婚とはいえ、親子ほど歳の離れてるだろうに…」
蓬莱島でライはゼロの部屋でのルルーシュとの協議で、此度の政略結婚について悪態をついた。
「ブリタニアだからな。無理もない」
そういうルルーシュであったがナナリーという大切な妹を持つ身である彼にとってもうんざりするようなやり方ではあった。気持ちを切り替えるようにため息とついてルルーシュは本題に入る。
「中華はこの婚姻で騎士団と手を切りブリタニアと共存関係を図るつもりだ」
「中華、というよりも大宦官の意図が強いかな」
大宦官。それは中華連邦における最高権力者である天子を操り人形にし、傀儡政権を敷く中華連邦の癌だ。
「ああいう俗物は動きが読み易くて助かる。それよりも厄介なのは」
「星刻か」
「ああ。奴が動かないとは考えにくい」
ルルーシュもライも星刻を高く評価している。その才能も、カリスマも。では中華の麒麟児はこの政略結婚をどう捉え、どう動くのか?それがこの中華の激動を切り開くカギとなる。二人はそう考えている。
「大宦官に対する策はほとんど固まっている。ディートハルトがその準備を進めているが…間に合うかどうかは半々といったところだな」
「相変わらず手が早いね」
「人民を餌に自分達だけ甘い汁を吸おうなんて奴らは正しくゼロの敵だからな」
そういって笑うルルーシュの笑みは恐ろしく、ゼロに相応しいものであった。
「後日この結婚を祝ってのパーティが開かれる。ご丁寧にシュナイゼル名義から招待状が届いた」
「帝国第二王子からとは恐れ入るね。でも行くんだろう?」
「ああ、何か掴めることがあるかもしれないからな。それと、お前の名前も招待状にあったぞ」
「僕の名前が?」
「ああ。どんな意図があるかは知らんがな」
ライは少々考えを巡らせる。シュナイゼルが自分を呼ぶ理由を。残念ながら心当たりはなかった。
「一応注意しておいてくれ」
「分かった」
中華連邦とブリタニアという巨大国家同士の政略結婚。それは大陸に訪れた嵐のように多くを巻き込み膨れ上がっていた。
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「いやーやっぱり美形は何をしても似合うわね!」
「ええ。さすが私のお兄様ですわ」
「神楽耶様の言う通り」
「ほんと、美形って得よね」
「うんうん」
「…」
井上を筆頭に、神楽耶、水無瀬むつき、双葉綾芽、日向いちじくのオペレーター三人娘。計5人にライは玩具にされていた。そも、本来は式に相応しい用にと井上に化粧を頼んだだけだったのだが、やいのやいのと女性陣が集まり、ライを玩具にして化粧遊びが始まった。
「ブリタニアの式とはいえ、日本人が嘗められるようなことがあっちゃいけないしね~気合入れなきゃ」
井上の発言はごもっともではあるが、本人達は単に美形の顔を好き勝手できることが楽しくてしょうがないだけであった。
「ライ、ちょっと用事が」
「扇さん」
その時、ライに助け舟が入りかかった。たまたま用事があった扇が近くを通りかかったのだ。
「例の式のことで話が―あったんだが、うん、今は忙しそうだな」
「…」
が、女性陣から放たれる空気読めのオーラを前に扇はあっさりと退散した。
「そうだ!折角なら前の潜入の時みたいに女装するとか!」
「いいですねそれ!」
「斬新!」
「ブリタニアも面食らいますよ!」
「いや、流石にそれは…」
冗談ではあると信じているが、今の井上ならば本気にしかねないと思い、ライは抗議の声を上げるが、テンションが上がり切っている女性陣にはあまり届いていなかった。
「お前は意外と女に弱いのだな」
「C.C.助けてくれないか」
ひょっこり顔を出したC.C.にライは素直に頼った。
「悪いが、私もお前で遊びたい年頃でな」
だが、残念ながら魔女を頼るべきではなかった。結局、それから3時間散々遊ばれてからライは盛り過ぎないレベルの化粧と共に解放された。
「…化粧の勉強もするべきか」
それが3時間遊ばれたライの感想であった。
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扇要は自分を凡人であると理解している。彼がテロリストのリーダーになったのも、彼の親友が戦死を遂げ、その後を継いだからであり本来ならば人に命令する立場の人間に自分が向いていないこともよくよく分かっている。
そんな彼が今の騎士団の副指令という役職を得ているのも騎士団の母体となったテロリストのグループのリーダーだったからであり、能力で選ばれたわけではない。それゆえに『自分の器にあった役職でない』とゼロやライを見ていると彼は時々そう思うのである。とはいえ蓬莱島に来てからの騎士団は忙しく、副指令である彼もそんな漠然とした自覚を感じる暇さえないほどに忙しかったのだが今彼は久しぶりに自分が凡人であるということを痛感していた。
天子とブリタニア第一皇児オデュセウスの婚約を祝ってのパーティーは大々的に朱禁城で開催された。この婚約はつまり世界を三分割する巨大国家のうち二つが手を組むということであり、ブリタニアならびに中華連邦の権力者達が一度に集まる。皆口々にこの婚約を祝っているものの、その腹の中では強かにこれからの自分の利権を求め互いの腹を探りに来ている。それは見た目の華やかさとは裏腹に醜悪なものである。
そんな大人を見慣れているゼロやライや神楽耶は問題なかったのだが、扇にはそれらの姿が自分からはとても遠い存在に感じ、一人情けなく感じるのであった。
「騎士団の副指令がそんなに情けない顔をしていては困るぞ」
「そうは言ってもな、ゼロ。俺はこんなところに来た経験はないしだな…」
「堂々していればいればよいのです。我々は正式な招待を受けてこの場にいるのですから、何一つ恥じることはないのですよ」
ゼロの苦言も、神楽耶の励ましもやはり自分とは違うレベルの人間の発言であり、扇には何の助けにもならないことを理解していたライは扇を気の毒に思いながらも笑うしかなかった。
そもそもこの婚約祝いに呼ばれていたのはゼロとライと神楽耶の三人であり、あと一人護衛を連れてきても良いとの条件であったので扇が呼ばれたのだ。
本来ならば護衛としての腕に文句もなく、武功も高い藤堂の名前がこの護衛役に真っ先に上がったのだが、本人がこういう場に興味がなく政治的な事を嫌ってもいたので却下となり、同じような理由で四聖剣も却下。次に妥当な順番として扇に回っていたのであった。
そんな経緯である上に黒の騎士団は反ブリタニアの組織だ。この会場で彼らに向けられる視線は様々な感情を隠している。扇にはそれは強烈なものであった。元皇児や現皇族や元国王にして現皇族と比べて元教師な扇にはこの視線を耐え続ける根性がない。
「すまん、トイレに行って来る」
本来ならば護衛係が護衛対象を放ってトイレに行くことなどありえないのだが、今の扇にそんな思考をする余裕もなかった。しかもトイレに行く理由が生理的な現象ではなく、精神的なことが理由ならば尚のことである。
「頼りのない護衛だな」
「そもそもが人数合わせの面があるからね」
「だが、あれほどプレッシャーに弱いのも考え物だ」
ブリタニア側の人間の視線は様々な意図を持つ。それはこの場にシュナイゼルの護衛で来ていたラウンズ達も同じことであった。
「あいつが太平洋の時の蒼い奴のパイロットか」
「記録」
「ライ…」
この場に来ているラウンズは3人。カレンはエリア11に残っている。
「ラウンズは3人、か」
「カレンはエリア11の護衛が任務の様だ」
「…うまくいかないもんだね」
ブリタニアの人間のほとんどが敵意をもって視線を投げかけてくる中、一人そんな空気はお構いなしにライに手を振るブリタニア人の姿があった。ライのよく知る人間にして、ルルーシュもよく知っているそのブリタニア人はライを見て笑顔で手を振っている。純粋に再開が嬉しくて仕方がないように。
「ゼロ、すまないが」
「行ってこい」
「ありがとう」
ライはそのブリタニア人、ミレイに向けて歩みだす。ミレイは満面の笑みを浮かべているが、ライはどんな表情を浮かべていいのかわからなかった。
「お久しぶりですミレイさん」
「1年と少しぶりよ。まったく、保護者に行先も告げず居なくなるんだから」
「ブラックリベリオンのことは」
「もう済んだことよ。それよりちゃんと食べてる?少し痩せたんじゃない?」
1年前、ブラックリベリオンの際に黒の騎士団が生徒会のメンバーに銃を向けたことはライも承知している。だが、それを済んだことだと、まるで1年前に自分がライの保護者であると豪語したあの頃から変わらぬミレイの優しさがライにはうれしかった。
「そう…ですね、気を付けます」
ライは自身の体のことをミレイには言わなかった。言えば何をしてでもミレイはライをこの場で引き留めると理解していた。
「学園に戻ってくる気はないの?」
「…今はまだ、僕にはやるべきことがありますから」
「じゃあ、それが終わったら学園に戻ってくる気はあるのね?」
「ええ。いつか僕が成すべきを成したその日には」
ライの瞳は真摯なものだった。
「うん。じゃああの部屋はそのままにしておくわ」
「ありがとうございます」
「気にしない!ミレイさんは貴方の保護者なんだから!」
そう言って二人は笑いあった。
「もう一人、あなたと話したがっているみたいね」
「…」
「私の目の前で乱暴なことはしない。そうよね?」
「ええ。勿論です。ミレイさん」
ライの視線の先にはスザクの姿があった。
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「ゼロ、チェスで勝負をしよう」
シュナイゼルのその提案はこの婚儀のパーティで最も印象に残る出来事として参加者の記憶に残ることとなる。帝国一の軍師とも名高いシュナイゼルと騎士団総帥のゼロの勝負。それは正に他を圧倒するような知能戦であり、実に見ごたえのあるものであった。その為かその勝負の裏で本来ならば成り立たない会談が持たれていた事を知る者は少ない。騎士団の実質的なNo2とラウンズの二人が実に一年ぶりの会話の存在を。
「まともに話すのは特区日本以来かな。ライ」
「…そうだね、久しぶり。スザク」
それは一年前に彼らが友達であったことを鑑みるに実に虚しい挨拶からその会話は始まった。テラスに吹き込む夜風のせいだけではない冷たさを感じながらも会話は進む。
「ライ、ブリタニアに来るつもりはないか」
「僕が?ブリタニアに?」
冗談だろ。と言わんばかりにライはスザクに言葉を返した。実際にライにはスザクがどんな意図でその言葉を発しているのかわからなかったのだ。
「ああ、そうすれば君はまたカレンに会うことができる」
カレン。それがライにとってどれだけ酷い行いであるかスザクは理解して、その上でこの言葉を切り出した。ライは自分のうちから込み上げてくる感情を殺すことに必死であった。スザクはそんなライの内心を知りながらも無神経を装い言葉を続ける。
「君にとっても悪い話じゃないだろう?いや、それどころか君が何よりも求める物への最短の道だ」
「最短の道?」
「事実だろう?君が何よりもカレンを優先するなら俺と一緒に来い。それが君にとっても一番の選択だ」
命令口調で放ったその言葉がスザクの願いでもあることはライに気づかれることは無かった。ライはスザクの言葉に揺れる内心を隠そうとするのに必死だったのだ。ライとてスザクの言う可能性を考慮しなかったわけではない。皇帝にとっても自分はある程度の利用価値が望める。ならばカレンにまた会いたいと望むのであればそれは何よりも実現的な手段であるのではないのか?と。そんな自分の考えを愚かであると切り捨ててきたのだ。
それを今改めてスザクに突きつけられてライの心は大いに揺れていた。ありえない。馬鹿げた考えであると振る舞いながらもどうしてその道を選択しないのかと問い掛ける自分がいるのだ。おそらくはライに残されたほんの僅かな俗人らしさが。
「君もカレンもハーフだ。ブリタニアでだって何の不自由もなく生きていける。ブリタニアを敵に回して戦うよりもずっといいじゃないか。君もカレンもブリタニアで暮らす方が最善なんだよ」
「…何がカレンにとって最善であるかはカレンが決める事だ」
「じゃあ君にとっての最善とはなんだ?」
「僕にとっての最善は―」
零れ落ちかけた言葉を唇を噛むことで閉ざしたライはテラスを後にする。まるでスザクから逃れるように。何も言い返せない自分に動揺しながら。
「ライ、君と俺なら―」
ライが立ち去った後、スザクはその言葉をこぼした。ライがブリタニア側に寝返り、自分の味方になるならば、それはナイトオブワンへの道のりがぐっと近づくとスザクは考えていた。
ライの思考力、政治力に戦闘能力。それが自分の右腕になるならば、どれだけの力になるか。スザクにもそれは分かっていた。ライはスザクの嫌悪するギアスの能力者だが、行政特区日本でライがユーフェミアを止めようとして撃たれたことを知った後にはスザクの心にライへの恨みはなかった。
自身の歩む道がどれほどねじまっがっていようと、スザクは自身の道を進む。それがどんなにいばらの道であろうとも。
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ブリタニア帝国第一皇児オデュセウスと天子の婚儀。その場で黒の騎士団は動く。ゼロが天子を人質にし、会場から抜け出して斑鳩まで引き上げる。いかにブリタニア自慢の高機動KMFであっても天子に危害を加えずに奪還するのは不可能に近い。つまりこの作戦の成功はそう難しいものではない。
だが、その結果が齎す状況は最悪である。何故なら中華連邦にもブリタニアにも騎士団を攻める口実を与えてしまうからだ。世界の三分の二を敵に回す自殺行為。いかに騎士団の再編成が終了していようとも如何ともしがたい数の差がある。
ではゼロは繰り出す策もなく自棄になったのか?テロリストらしく、自らの最後をせめて華々しく飾ろうというのか?それはもちろん違う。
ゼロにはあるのだ。逆転の策が。
故にゼロは迷わず策を実行するのみ。
ここに至ってゼロに、ルルーシュに迷いなどない。
ナナリーへと繋がる道の一つ。道の途中で何を迷うことがあるのか。
しかしライの心は大いに揺れていた。
スザクに言われた言葉に返す言葉が見つからなかったのだ。
自分にとっての最善とは?その問いかけによって今更になって自分の不鮮明な感情とライは向き合うことになった。
「また随分と深刻な顔だな」
婚儀の会場の外でゼロを乗せて逃げる手筈のトレーラーで待機しながらC.C.はライにそう言った。ライのこの作戦での役割は想定外の時の為に積んである月輪でトレーラーを護衛する予備戦力である。
本来ならば藤堂や四聖剣と共に撤退の時間稼ぎの担当なのだが、ルルーシュのライを前線出したくないという意思と藤堂達のプライドによって異常事態がなければ出番のない予備戦力という役割になっている。C.C.は比較的に土地勘があるのでナビゲーターの役割である。
「またつまらない悩み事か?」
「…そう、つまらない悩み事だよ」
皮肉めいたC.C.の言葉にさえ返す余裕がないライにC.C.はむっとした。また悪いクセがでたのかと。
「何があった?」
「…」
C.C.はライが自分を見るようにライの顔に手を当て見つめた。それでもライは口を噤んで目をそらすのみ。それは理解しようとするC.C.への拒否の反応だ。そんな反応をされてはC.C.は尚のこと気に入らない。
「言え」
そのC.C.の気迫に押されてかライはゆっくりと言葉を紡いだ。あの婚儀の祝いでスザクに言われた言葉を。その言葉を馬鹿らしいと否定しきれなかった自分がいることも。
「…確かに、つまらないことだな。そんなことで今更悩むのは大馬鹿者のすることだ」
ライは返す言葉もない。それもそのはず、こんなことで今更悩むのは余りにも的外れで場違いである。
「断言してやろう。お前は裏切らない」
「何故」
「本気で裏切る気なら私に話す前に私を拐ってブリタニアへと寝返る計画を立てるからだ。お前がその気なら誰も止められないだろうしな」
「…」
ライのギアス能力と騎士団での地位をもってすれば裏切るのは容易い。それはルルーシュでさえ止められないだろう。C.C.は優しくライの頭を抱き抱える。
「まだ作戦まで時間がある。こうしてやるからごちゃごちゃ考えないで少し休め」
「予備戦力が休むわけにはいかない」
「今日はお前の出番は暫くはないさ。藤堂にも新型が届いている。戦力面に不備はないのだろう?」
「…でも」
「未だここに至ってそんな事で悩むなら私が何を言っても無駄だろうからな。せめて少しは休め。じゃないと死ぬぞ」
ライは渋りながらも最終的にC.C.の助言を聞き入れた。今の自分の感情が整理出来ていなくとも、まだ死ねないということは判りきっていることだった。
続く