「中華連邦に行かれたスザクさん達は大丈夫でしょうか…」
「…大丈夫ですよ。ラウンズは強いですから」
ナナリーとのお茶会に誘われたカレンはナナリーの心配から発せられた疑問に一瞬間を置いて答えた。中華連邦での一件はどう考えても大人しく終わるとは思えなかったからである。そうなればスザクやジノやアーニャといったラウンズは間違いなく前線で戦うであろう。黒の騎士団に興味を惹かれて中華行きを志願したあの三人なら必ずそうする。
そうなれば太平洋での“蒼いやつ”とも戦うことになるだろう。激戦必至である。ともすればラウンズとて無事では済まないかもしれない。そんな気持ちがカレンの回答に遅れを生じさせた。もっとも、無事であって欲しいと願ったのはラウンズの仲間だけではなく“蒼いやつ”も含まれていることにカレンは気付いていないが。
「カレンさんは学園生活を送られたことはありますか?」
ナナリーは重くなってしまった雰囲気を振り払う為にもカレンに尋ねた。
「私は軍属の学園生活しかした事ないですね」
勿論皇帝の植え付けた偽の記憶である。
「でしたらアッシュフォード学園に転入してみるというのはどうでしょうか?」
「私が学園に?」
「ええ、カレンさんがよろしければ」
ナナリーのその提案はナナリーなりの行動である。自分との出会いをスザクに隠せと言った最愛の兄の言葉。それに何かを隠しているスザク。そして自分との記憶がないカレン。不信に思うのも無理はない。そんな中でカレンがアッシュフォードに向かえば何かが分かるのではないかとナナリーは考えたのだ。
「…そう、ですね。ラウンズの仕事に影響のない範囲でなら」
「では、そのように準備しておきますわね」
ナナリーは自分の周囲の環境を理解しておきたいのだ。
学園に居る兄は一度スザクに自分と会話したことは伏せろと言ったきり連絡をくれない。自分の騎士であるはずのスザクは自分に対して隠し事をしている。それに加えて自分の事を知らないというカレンの存在。
人を疑うことを嫌うナナリーでさえ自分が置かれているこの環境には疑問を抱かざるをえなかった。故に最低限の状況把握はしておきたかった。それがナナリーなりの身の守り方なのだ。ナナリーは考える。この状況の意味を。自分ができることは何なのかを。
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中華連邦の天子とブリタニア第一皇子オデュッセウスの結婚式で黒の騎士団は動いた。ゼロによる天子の拉致、及び暁による撤退戦。その中でライの仕事はC.C.の読み通り無かった。それは一重に暁を配備された藤堂達の奮戦によるものだ。そん中、ライの仕事はゼロが攫ってきた天子とお話しする事であった。
「天子様、こうして挨拶させて頂くのは初めてになります。日本皇族の皇ライと申します」
「…」
ゼロを収容したトレーラーの中でそう挨拶したライに対し、天子は言葉を返す事なく神楽耶の後ろに隠れて怯えるのみであった。
「天子さま、こちらは私の兄ですわ。怖くありませんよ」
「…本当?」
「ええ、本当ですとも」
拉致された身でありながら神楽耶の言葉には素直な反応を見せる辺り神楽耶が勝ち取った信頼感は確かなものであった。
「まずは我々の非礼を詫びさせて下さい。このような乱暴な手段を取って申し訳ありません」
「…」
「天子様、我々合衆国日本と中華連邦で同盟を結んで頂けませんか」
「難しい話は、その、分からなくて」
神楽耶の後ろからそう言う天子は心底怯えていた。こんな状況で政治的な判断をしろと言うのが酷な話であることはライも承知している。
「では天子様は何をしたいですか?」
「えっ?」
「天子様は朱禁城の外に出てみたいと妹から聞きました。今、その願いは叶ったのです」
「ここは朱禁城の外なの?」
それは、怯えていた天子が初めて見せた明るい反応だった。
「ええ。天子様の願いは一つ叶ったのです。では、次に天子様が何をしたいのか。それをお考え下さい」
天子はライの言葉に暫く考えて、答えこそ出なかったものの、うんと頷いてみせた。
「お前は子供の扱いが上手いな」
「茶化すなC.C.」
そのやりとりを見つめていたゼロとC.C.の言葉もこんな状況ではあるが優しいものだった。
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朱禁城からの撤退戦で暁の初陣を飾った藤堂と四聖剣達は満族気な表情で斑鳩に合流した。ライたちも無事斑鳩に搭乗し、天子は神楽耶と共にレストルームに移動した。
「これでひと段落かな?」
「ああ。これからはインドの援軍を待ちながら動く事になる。が」
ライとゼロの会話でゼロは珍しく歯切れが悪くそう言った。
「星刻かい?」
「ああ、あいつが大人しくしているとは思えない」
「だが、彼らの計画は一先ず破綻した」
「天子を連れて行けなかった時点で目的を失ってはいる」
「或いは大宦官にもう殺されているかもしれない」
「そうかもしれん。だが、警戒に越した事はー」
ゼロがその言葉を言い掛けた時、斑鳩のアラートがけたたましく鳴り響いた。
『前方より、KMF接近中!もの凄い速さです!』
「もの凄い速さだと、ラウンズか?」
「藤堂さん達は補給中だ。僕が出よう」
「ライ!くれぐれも無理はするなよ」
「ああ、わかってるよ」
ゼロのその言葉はらしくない言葉であったが、ライにはその言葉が嬉しかった。
「皇ライ、月輪でるぞ!」
月輪を緊急発進させたライの目に飛び込んで来たのは、暁の弾幕を潜り抜け、スラッシュハーケンで次々と暁を撃破する神虎の姿だった。
「黒の騎士団に告げる!天子様を直ちに解放せよ!」
オープンチャンネルから聞こえるこの声にはライは聞き覚えがあった。
「星刻か!」
「その機体は皇ライだな」
こうして中華連邦の領土にて、2人の麒麟児は対峙した。ライと星刻の戦いは一対一、同じ七世代のKMF同士の戦いでありながらも状況も鑑みればイーブンにはほど遠い。星刻の目的は天子の奪還でありそのためには最低でも目の前に立ちふさがる月輪を倒さなくてはいけない。それに対してライの目的は時間稼ぎだ。ライにしてみれば星刻を倒す必要などない。状況からみれば圧倒的に優位にあるのはライだ。
「思えば領事館の時以来だな」
星刻には時間が少しでも惜しい。にもかかわらず星刻は落ち着いた口調で喋り始めた。
「…ええ、そうですね。こうして殺しあうなら、いっそあのときに決着をつけておくべきでしたか?」
ライは星刻の意図の見えないお喋りをいぶかしみながらも応えた。それは時間を稼ぐことができればそれでよかったからだ。星刻のKMF、神虎はまるで動く気配がない。
「いや、私は君と戦う必要を見出していない。あのとき戦わなかったことは正解だろう」
「はい?」
ライの口からはごく単純にその言葉がこぼれた。戦う必要がない?ならば何故この場にKMFに乗って現れたのか?単純にこちらを動揺させるためのブラフである可能性も十分に考慮しながら、いくつもの疑問がライの中に浮かんでは消えてゆく。
「僕とは?」
「ああ。黒の騎士団とは戦う必要があっても、君とは戦う必要はないと私は考えている」
何故ならーと星刻は言葉を繋いだ。ゼロがこの中華での争いを乗り切るために大宦官への楔の撃ち処をうかがっているように、星刻も騎士団への楔の撃ち処を伺っていた。それが今であると確信したから星刻は神虎で出撃した。もとよりこの出撃で天子を取り返せると考えるほど星刻は甘くない。星刻の狙いはライだ。
「君はブリタニアへ寝返るのだから。ならば私と戦う必要などないだろう」
一瞬、何を言われたのかライには分からなかった。この戦闘になる前にC.C.に打ち明けた自身の馬鹿げた考え。しかし、この男がそれをこのタイミングで言い出すということはもしや。ライが”最悪”の現状を想定した瞬間、星刻はその”最悪”をライに突きつけた。
「旧友に誘われたのだろう?紅月カレンに合うには騎士団を裏切り、ブリタニアに来いと」
あの会話を聞かれていた。警戒はしていた。あの場所に確かに僕とスザク以外の人間はいなかったはずなのにー?
そんな思考の空回りは現実逃避にしかならなかった。
「…馬鹿を言わないでください。僕が騎士団を裏切るなんてー
「ない。と言い切れるのか?」
ーええ、もちろんです」
それは星刻への反論というよりも、自分自身に言い聞かせているような言葉だった。ライは自分自身ハッキリとしていない感情と向き合わされている。
「ならば君は紅月カレンよりも黒の騎士団が、日本が大切だとういうのだな?」
この通信はオープンチャンネルである。
戦闘の様子を少しでも把握しようとしている黒の騎士団に聞こえている。勿論、ゼロにも。ライの立場を考えれば、一人の人間よりも組織が、祖国が大切であると断言しなければいけない。
そこに僅かな思考の余地があってはならない。ましてやその人間の為に敵に寝返る意思があると言われた手前、絶対にそうでなくてはいけない。それでも、そんなことは分かりきっていても-
「-ッ」
ーライはその言葉を口にすることは出来なかった。
そんな姿は隙だらけで、ライは神虎の接近に気付くまでに時間がかかりすぎた。それは、星刻相手には致命的なミスであった。それからは一方的な戦いであった。
神虎の接近を許し、輻射波動機構を切り落とされた不利からどうにか立て直そうとするライに対して星刻は神虎の速度とフーチ型のスラッシュハーケンを生かして月輪を絡めとる。フーチ型のスラッシュハーケンを月輪に巻き付け、神虎は月輪を盾にして悠々と黒の騎士団の追撃を逃れた。あまりにも大きい、敗北であった。
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「皇ライは天子様との人質交換だ.一時間後に回答を聞こう」
星刻は端的に、一方的にその通信のみを寄越した。騎士団は藤堂などのKMF部隊を後退させた。現状は星刻ら反乱軍とにらみ合いのような形にこそなっているが、期限の時間までは動こうとしないことは明確である。正規の中華連邦軍はこの騎士団と反乱軍を囲うようにして大きく軍を展開したが,二つの軍が潰し合いをするまで待っているのか、動こうとはしない。それは騎士団に浚われた天子への執着のなさを意味するものだったが、大宦官は婚儀を台無しにされた第一皇児オデュッセウスの機嫌取りに必死でそれどころではなかった。
この存亡の危機において、騎士団は分裂の危機を迎えていた。すなわち、人質交換に応じるべきかどうか。である。これは騎士団の中でも意見が割れていた。あるいはライがただの腕のいいパイロットであったならば議論は起きなかったやもしれない。だがライは騎士団復活の立役者でもあり、日本の皇族だ。ブラックリベリオンの後、ゼロという指導者を失ってなお騎士団が烏合の衆と化さなかったのはライによるものだ。
すなわち、皇族の血筋という肩書と、ライの指導者としての能力である。ゼロのように人々を魅了し、一種の狂奔へと走らせる圧倒的なカリスマはなくとも、ライの血筋と指導者としての能力はそれを補うものであった。それゆえに、かつてディートハルトが恐れたようにライはゼロという大輪の華に惹かれた者たちの集まる騎士団において、また別の華を咲かせてしまった。
それがこの場においては騎士団を分裂の危機に晒していた。それは本来組織を統率する立場の幹部達でさえ、同じことであった。騎士団の新たな拠点、斑鳩の会議室で騎士団の幹部達は誰もが皆その雰囲気を察して口を開こうとしなかった。
「そんな顔をしていては騎士団の士気に障りますよ皆さん」
この男以外は
「そうでしょう?騎士団はまだこれからです。それとも、こんなところで終わるつもりですか?」
「つってもよぉディートハルト、ゼロだってあの調子だぜ?」
口火をきったディートハルトにいつもの威勢はなくとも、真っ先に反応したのはやはり玉城だった。玉城の言うようにゼロはライが星刻に連れ去られてから自室に籠ってしまい、出てこなかった。
「ゼロもショックだったでしょう。まさか騎士団のNo2,自らの片腕が自身を裏切ってなんて」
「ねえそれ、どう意味かな?」
ディートハルトのそのあからさまな発言に一番に反応したのは朝比奈だった。
「そのままの意味ですよ」
「だったら取り消せ。ライ君が騎士団を裏切るなんてありえない」
朝比奈は敵意を欠片も隠さずにディートハルトを睨みつける。そんな朝比奈の態度を意にもせずディートハルトは言葉を紡ぐ。
「でしたら、組織のトップに知らせもせずに敵と密談することが裏切りではないというのですか?旧日本軍のあなたなら解るはずですが?」
「っ…」
思わず朝比奈は言葉を詰まらせる。そんなことは分かりきっている。言われるまでもないことだ。
「そうでしょう、藤堂さん?」
「…」
そうしてディートハルトはあえて沈黙を貫いていた藤堂へと白羽の矢を立てた。ディートハルトは初めからこれを狙っていた。騎士団の中で武闘派の一番のまとめ役たる藤堂にライが裏切り者であると認めさせてしまえばあとは容易い。ライを騎士団の裏切り者へと蹴落とすことによって騎士団に咲き始めたゼロ以外の芽を摘む。それが今回の一件でのディートハルトの画策だ。
その意図を理解していたからこそ藤堂は沈黙を貫き通した。
「だけどよぉ…あいつはただカレンのことを思ってやっただけじゃねぇのか?」
それは玉城なりに気を使ってのことだった。藤堂への助け舟を出そうとしての発言だったのだ。だがそれも、またディートハルトの狙いの一つだった。
「それが問題なのですよ。彼は皇の姓を継いだ日本の正当な皇族でありながらも日本よりも行方不明のガールフレンドの方を優先しようとしたのですから」
この言葉には、誰も返す言葉がなかった。一番反論したかった扇でさえ、この言葉の正当性を認めざるをえない。もともと、扇はライにそんな節があることは分かっていたのだ。しかし、カレンを大切に思うのは扇とて同じだ。組織を動かす上で、それは余計な親心が生まれてしまう。そしてそれは扇だけではなく―
「旧扇グループのみなさんも玉城さんと同じ気持ちなのでしょう。無理もありません。ですが組織を生かすためには時には非情な判断が必要なのではありませんか?」
そうしてディートハルトは幹部達の意見をまとめてみせた。すなわち、ライへの思い入れの強い旧扇グループと実働部隊を黙らせることによってライを見捨てることを幹部達の暗黙の了解としたのだ。ディートハルトにどんな思惑があるにせよ、組織を継続させねばならないという観点においてはディートハルトの言葉は全く正しい。反論の余地はない。だからこそ誰もが口を開こうとしない。せめて一言、ディートハルトの言葉に間違いがあるとすれば、ディートハルトに返す言葉はたった一つ。
「それでも決定を下すのはゼロだ。俺達じゃない」
扇のこの言葉に尽きる。
「ええ、勿論ですとも。騎士団の最終決定権はゼロにあります。私はただ状況を確認しただけですよ」
ディートハルトの余裕は揺るがない。彼は確信している。ゼロはライを見捨てると。一方で扇もまたゼロを信じている。ライを見捨てはしないと。もっとも、そうあって欲しいという希望的観測も多分にあるが。そうして幹部達はまた重い沈黙に包まれた。それは先ほどまでの不穏とは違い、ただゼロを待つ沈黙だ。ルルーシュは今回の一件でライの存在の大きさを再認識することとなった。だが結局は黒の騎士団という組織はゼロの決定によって動くのだ。それがどんな決断であったとしても。
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「そうか、彼は星刻に捕えられたか」
シュナイゼルは自身の部下であるカノンからライが星刻に敗れ、捕えられたとの知らせを受けて淡々とした反応を示した。今現在、シュナイゼルは黒の騎士団と星刻達の膠着状態を遠巻きに見守っている。ブリタニアとしては中華連邦の内輪もめを解決することによってその力を示す機会ではあったが、シュナイゼルは必要ないと判断し、待機させている。それは中華連邦の実質の指導者である大宦官をすでに抱え込んでしまっているからだ。
「殿下にはどうでもよいことでしたか?」
カノンはそのシュナイゼルのあまりに淡々とした反応が逆に気になった。そもそも普段からあまり感情を表に出さず、ただ頬笑むシュナイゼルではあったがあまりに落ち着いた反応であったため、カンンは少々興味を抱いた。
「いや、そんなことはないよ。ただあまりにも予定通りすぎてね」
本来の目的であるはずのブリタニアと中華連邦の婚儀は台無しになったというのに、ブリタニアの宰相たる第2皇児は予定通りと、そう述べた。
「枢卿にテロリストと会うように命じられたことに何か関係が?」
「私はただ旧友と話し合うように勧めただけさ」
婚儀を祝ったあのパーティーでライとスザクが会話したことは偶然ではない。シュナイゼルはスザクにライと会うように勧め、そして他の人間にもゼロにも目を付けられないように自身でチェスの勝負を挑み二人きりの状況を作り出した。そのうえでスザクからライとの会話の内容を聞き出し、その情報を活かせるであろう星刻に情報を流したのだ。結果として、スザクをだしにシュナイゼルは騎士団に楔を打ち込むことに成功した。その結果が今の状況である。
「全ては殿下の掌中ですね」
「彼の身柄を確保できれば思う通りではあるね」
「確かに優秀な人材ではありましょうが殿下が気に掛けるほどですか?」
「彼を気に掛けるのは私ではなく父だよ」
そう、シュナイゼルは皇帝が直属の部隊を使ってライの様子を探っていることに気付いていた。EUや中華連邦への侵攻に興味のかけらも示さないあの皇帝が部隊を使ってまで探りを入れるテロリスト。その存在はシュナゼルの興味を惹きつけるのに十分であった。
「もちろん、私も興味はあるがね」
補足としてシュナイゼルがそう述べたのは、シュナイゼルはあの神根島にいたにも関わらず、あの場にいたはずのライのことを何一つ覚えていなかったからだ。それはライがあの時自分にかまうなとギアスを使ったためである。シュナイゼルはあの時のことはしっかりと覚えているのに何故かライのことだけを覚えていなかった矛盾に興味を惹かれた。あるいはこのテロリストはバトレーが死んだ弟の元で研究していた力に関係するのではないかと。
勘のいいシュナイゼルはギアスの力に気付きつつある。ゼロの起こす奇跡の裏にある力を皇帝が持っていることも、皇帝がその力で何かをしようとしていることも。カノンは自分の仕えるこの男が常々恐ろしいと思う。副官として仕え始めてからもう随分と経つが、それでもまだ自分には考えの全てを読み取ることはできない。それを恐ろしいと思いし、美しいとも思うからこそ彼はこの仕事を続けているわけだが.
「さて、そろそろかな」
「部隊の準備はすでに整っています」
シュナイゼルは最初から黒の騎士団と星刻が動き出した混乱に乗じてライの身柄を確保するつもりでいる。そうであれば無駄がない。正面きって黒の騎士団と対するよりもよほど消耗が少ない。万事が万事シュナイゼルの行動には無駄がない。星刻の定めた時間まで、残り30分。
───────────────────
「人質交換に応じる。ライをここで失う訳にはいかない」
ゼロがその判断を下した時の黒の騎士団の主だった反応は喜びであった。
「しかしゼロ、天子を逃しては合衆国日本は」
「分かっているディートハルト。故にお前にも動いて貰うぞ」
反論を見せたディートハルトを即座に諫める辺り、ゼロの調子も戻った様子であった。
「ありがとうゼロ」
「感謝される覚えはない。ただブリタニアに勝つ為の一手だ」
扇の感謝に何事もないかのように返すゼロの姿はとても心強く感じた。
「ではゼロ。あるのだな?策が」
「無論だ藤堂。私は負ける戦いはしない」
「その言葉、信じさせて貰おう」
「だが、次の戦いに必要になるのは君たちの力だ。君たちがどれだけ奮戦出来るかで作戦が成るか決まると言っていい」
ゼロは藤堂と四聖剣を見ながらそう言った。作戦内容も告げられず、奮戦を要求されるのは負担でもあるが、その程度でへこたれるような武人達ではなかった。
「言ってくれるね」
「事実だ。暁の性能に疑いはないが、その運用はまだ不慣れだ。そんな中では君たちのような現場の指揮官の力量が問われる」
「ならば安心するがいい」
「ああ、俺達は暁に遅れをとるような事はない」
「古兵の意地の見せ処だな」
「ゼロ。俺達はライ君に頼りっぱなしだった今までとは違う。暁という新たな力と舞台を得た我等の力。思う存分発揮してみせる」
藤堂のその言葉をもって四聖剣と藤堂はゼロに強い眼差しを向ける。そんな姿を見てわざわざ自覚させるまでもなかったかとゼロは仮面の下でほくそ笑んだ。
「では諸君、配置に着こう。勝利を掴みに行くぞ」
ゼロのその言葉を以って黒の騎士団は動き出す。
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「…わざわざこの為にスザクを使うとは、やってくれる」
中華連邦に捕らえられたライは星刻の言動を鑑みて、星刻の裏にブリタニア、恐らくはシュナイゼルの意図がある事を考えいた。
「しかし、何とも情け無い」
ライは現在中華連邦の戦艦、竜胆の捕虜室に捕らえららている。コンクリートで出来た部屋は椅子しかない簡素な部屋だが、今のライの感情を抑える事には一役買っていた。コツーコツーと一定のリズムで音が近付いて来て、部屋の前で止まった。
「大人しくて助かるよ」
「それは嫌味ですか?」
扉が開かれ、見えたのは部下を2人連れた星刻の姿であった。
「捕虜になると暴れ出す人間も居るのでな。君はなんというか、随分と落ち着いているようだが」
「あんな負け方をすれば嫌でも冷静になります」
「ふっ、そうだな」
星刻はライの自虐的な返しが面白かったのか、笑ってみせた。一方ライは思考をフルに働かせている。果たして今この状況でギアスを使ったとして、この場から脱することは出来るのかー?
「何も僕を笑いに来た訳ではないでしょう。何の用です?」
「天子様との人質交換に黒の騎士団が応じた」
「はー?」
あり得ない。と、人質の立場でありながらライはそう言い掛けた。或いはこの男が自分を揶揄う為に吐いた嘘ならどれだけよかったかと。
「素直に喜んだらどうだ?」
「生憎と素直に喜べる程単純に生きてませんので」
ゼロが、ルルーシュが自分と天子の人質交換に応じるなら一体何が理由でー?その思考をフルに走らせるライはやがて、一つの答えにたどり着く。
「星刻。黒の騎士団と同盟を結ぶつもりはありませんか?」
「…何を言い出す」
「天子様を黒の騎士団から取り戻したとして、それで何になる?また中華連邦の傀儡政権を許すのか?」
この問いかけは、星刻にとっても本質を突いている。黒の騎士団から天子を取り戻したとして、その先には大宦官とブリタニアとの政略結婚が待っている。そも、あの婚約式で天子の奪還が叶わなかった時点で星刻が用意してたプランから大幅な軌道修正をする必要があるのだ。
「黒の騎士団ならば天子様を大宦官やブリタニアから救えると?」
「知りませんか、黒の騎士団は『正義の味方』です」
「それは詭弁だろう」
「そうかもしれません。ですが、日本の代表として、皇族として約束します。黒の騎士団ならば天子様を強制に婚姻させる事はありません」
「だが、実際に貴様らがやった事は天子様の拉致だ」
「ですが結果としてはブリタニアの婚約から逃す事が出来た」
「…それは結果論だ」
「ゼロが常に優先するのは結果です。手段ではない」
星刻もライとの舌戦を交わしながら考える。天子にとって最善の一手とは何か。
「ではその結果として今現在ブリタニアと中華連邦に包囲されているぞ?このままでは殲滅されるだけだろう」
「確かにそうかもしれません。でも、僕と月輪、そして貴方とあのKMFがあればその戦局も変えれる」
「だから君を自由にせよと?」
「ええ。それが貴方にとって最良の選択肢です」
星刻はそもそもライの力を認めている。故に真っ先に潰しにかかったのだ。
「星刻様!ブリタニアと正規軍が動きました!」
「よりによって今動くか!」
「さあ、どうしますか?選んで下さい。貴方と天子様の未来を」
さて、中華連邦の神話に麒麟と云う神獣が存在する。神話曰く麒麟は極めて稀な存在であり、その登場は吉兆の前触れとされる。故に中華連邦では優れたる傑物を麒麟児と呼ぶ。この星刻は紛れもなく麒麟児であるが、今この場にはまだ2人の麒麟児が存在する。もし、この麒麟児達が手を組めばどうなるか。その答えはこれから明かされる。
続く