蒼の反逆   作:街灯

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前回からの続きです



Turn0.5 一年の歳月

 あの夜、ブラックリベリオンから一週間が経過していた。黒の騎士団は今は各地に散っている。ライとその他幹部がいる散っていった騎士団の最大グループは今トウホクエリアにいた。

 

「ライ食事だぞ」

 

 ライの部屋に入ってきたのはC,C,。だがライからは何の反応もない。

 

「…まだ目覚めないか、いつまで眠っているつもりだ?」

 

 ライはブラックリベリオンの夜にカレンが捕まったことを知らされた途端気絶した。傷が塞がりきる前に月下でかなりの無茶をしたことが祟ったのか、死んだように眠り続けていた。あの夜からかれこれ一週間になる。

 

「お前を待っている者たちが沢山居るぞ」

 

 C.C.はそう言って机の上に持って来た食事を置いた。実際、ブラックリベリオンで多くの幹部が捕らえられた今、黒の騎士団の最高権力者はライとなる。そうでなくとも、多くの団員がゼロというカリスマを失った今、頼れる者が居て欲しかったのだ。

 

「ゼロを、ルルーシュを救い出すにはお前の力が必要なんだ」

 

 C.C.の独り言に応える者はなく、どこか寂しそうに彼女は肩を竦めた。

 

「C.C.、ライの様子はどうだ?」

「卜部か。まだ眠り姫のままだ」

 

 部屋にその長身を屈めながら入ってきたのは四聖剣の卜部であった。彼はゼロや藤堂を欠いた黒の騎士団にとって、要となる人物であり、彼がブラックリベリオンを生き延びたのは僥倖であった。

 

「そうか…起きてくれると俺としても助かるんだが」

「四聖剣と言えど、組織の上に立つのは慣れないか?」

「まあな。それにしてもアンタはえらく慣れたように人に指示を出すな」

「女には色々あるのだ」

「色々、か」

 

 卜部も軍人であったとはいえ、組織の運営の隅々までは経験したことが無い。特にブラックリベリオンの後で何もかも足りない黒の騎士団の現状に一番参っているのは卜部本人であった。一方、こんな状況だからこそ、C.C.は黒の騎士団の運営にあれこれ口を挟んでいた。最初はゼロの愛人が何を言うかと反目する者も多かったが、上に立つ人間が欠けている現状ではC.C.のはっきりした物言いに救われる者も多かった。

 

「だが、やはりゼロの後を継げるのはライだけだ」

「…そう、だろうな」

 

 卜部とC.C.の存在は現状の黒の騎士団において大きな役割を担っている。だが、そうであっても、失ったものが大き過ぎた。その穴を埋める存在。人々が再び黒の騎士団に期待を寄せる為にはゼロの代わりになる象徴が必要であった。それがゼロを取り戻すまでの仮の役割だとしても、ゼロの代わりが務まるのは黒の騎士団にはライしかいない。

 

「―っ?」

「いまのは、まさか」

「ライ?」

 

 その時であった。ライの瞼が僅かに動いたのは。

 

「卜部、ラクシャータを呼んで来い」

「承知」

 

 卜部が部屋を出ていくのと同時に、ライの瞳が完全に開いた。

 

「ライ、私が分かるか?」

「―C.C.」

 

 一週間ぶりに開いたその口は、弱弱しくもしっかりと言葉を紡いでみせた。

 

「あれから、どれだけ、僕は眠っていた?」

 

 ライ自身も混乱しながらも、部屋の様子からして自分が長い間眠っていたことを察していた。

 

「一週間だ。随分とまたせたな」

「それは、すまない」

 

 上半身を起こそうとするライだったが、全身に走る激痛がそれを阻止した。

 

「まだ傷は塞がっていない。無茶をするな」

「そうも言ってられないだろ」

「それは事実だが、せめてラクシャータの身体検査ぐらい受けろ」

 

 C.C.の呆れた口調からもわかるように、ライの傷は完全に癒えたわけではなかった。そも、瀕死の重傷を負いながら、痛み止めでそれをごまかし出撃したのだ。本来ならば死んでいてもおかしくない。

 

「…C.C.なぜ君が紅蓮に乗ってあの場に現れたのか教えてくれないか」

「ガウェインで水没心中を図った後、脱出装置が流されて神根島に流れ着いた。偶々その場に紅蓮があったから拝借しただけだ」

 

 さらりと言うC.C.であったが、ガウェインとジークフリートを海中に没したのは相当な賭けであった。

 

「ではゼロとカレンがブリタニアに捕らわれたというのは…?」

「直接見たわけではない。だが、そうなったことは知っている」

「…やはり、寝ている場合じゃない」

 

 そう言ってライは激痛をねじ伏せて立ち上がってみせた。

 

「そんな死にかけの体で何をする?ブリタニアの施設に特攻するつもりか?」

「僕のギアスを使えば、可能性はある」

「…そう、かもしれないな。だが、余りにも危険過ぎる」

 

 部屋から出ていこうとするライを、C.C.は遮るようにして立ち塞がった。

 

「どいてくれ」

「お前をみすみす死なせるわけにはいかない」

「どいてくれ。僕は行かなきゃならない」

 

 ライにしては珍しく感情的にC.C.に掴みかかる。

 

「怒ったか?そうやって感情的になれる元気はあるようだな。だがお前は自分の状態が分かっていない」

 

 言うや否やC.C.はライの手を掴みライの手をひねり上げ、拘束する。

 

「ぐっ!?」

「一週間も寝たきりだったんだぞ。私に勝てない程に弱っていることは分かったか?」

「…」

「沈黙は肯定と取ろう。さて、少しは落ち着いたようだから本題を話すとしようか」

「本題?」

「ああ。つい先程確認が取れた。ルルーシュは生きてる」

「本当か!?」

 

 ライの瞳に希望の色が灯った。

 

「確認が取れたと言っただろう?」

「そうか…しかし何故?ブリタニアの法律ではテロリストは…」

「死刑になる。だがあいつはどうやら私を釣る為の餌らしい」

「餌?」

「ああ。ルルーシュの記憶を書き換えた上で、普通の学生として過ごさせる。そして私がルルーシュを救いにきた時に私を捕まえるつもりなのさ」

「待て、待ってくれ。記憶を書き換える?どうやって?まさか…」

「ギアスだ。しかもブリタニア皇帝自身のな」

「…どうして君がそんなことを知っているんだ?」

「私は魔女だからな」

 

 にやり、とC.C.は笑った。

 

「答える気はない。と?」

「ああ。それにそんなことより、お前もそろそろ分かってるんじゃないか?」

「『魔女』を釣る為の餌がルルーシュなら、同じように『狂王』を釣る為の餌がカレンであると?そんなことが…」

「可能性はある。皇帝はお前と、お前の契約者を欲している」

「僕と、契約者…あの『魔法使い』を?」

「ああ、間違いない」

 

 そこまで言って、C.C.はライの拘束を解いた。

 

「まだ希望はある。だから無駄にその命を使うな」

「…分かった。さっきはすまなかった」

「わかればいい。とりあえずはラクシャータが来るまで大人しくしてろ」

 

 ライがベットに戻ったことを確認したC.C.は部屋を出る。 

 

「…さあ始まったぞルルーシュ。あいつの反逆が」

 

 世界は再び動き出す。

 

 月夜のサイタマゲットーを鉄の騎馬が走る。正確に言うならば、鉄の騎馬、KMFは逃げるもの、追うものに別れている。逃げているのは日本解放を目指す反ブリタニア組織、富士桜のKMF無頼。追うのはブリタニア軍のKMFサザーランドである。戦力比は無頼3に対してサザーランド9。まともに戦って勝てる訳もない。だが彼らは決して当てもなく、逃走している訳ではなかった。

 

『おい!本当にこっちに逃げれば助かるのか!?』

『先程無線で連絡があった!必ず助けに来ると!』

『そんな、信用していいのか!?俺達を囮にして逃げてるかもしれないんだぞ!?』

『だが今の俺達はあの無線を信じるしか無いだろう!』

 

 突然サザーランドが爆散する。神速のごとき動きで続けざまに2機を潰したKMFは月の明かりでようやく姿を表す。アンバランスな右腕、無頼とは大きく異なるそのフォルム、そして月夜に映える美しい蒼。そこでようやくブリタニアの兵士は気付く。自分達が何の相手をしているのかを。

 

『まさか…』

『こいつ何でここに!?』

『出た…出やがった…亡霊だ!!』

 

 ブリタニア軍が怯んだ隙を蒼いKMFは逃しはしない。一気にサザーランドとの距離を詰め、廻転刃刀で斬りつけて破壊する。

 

『撃て!撃て!撃つんだ!』

 

 仲間が撃墜されたことにより、我に帰ったブリタニア軍は指揮官の号令の下、アサルトライフルをフルオートで撃ち放つ。だが彼らは理解していなかった。何故今戦っている蒼いKMFが亡霊と呼ばれているのかを。亡霊というのはゼロが捕まり、処刑された後もブリタニアを相手に戦い続けているから。という意味も含まれている。だが亡霊と呼ばれる由縁は何よりもその動き。

 

『当たれぇ!当たれぇ!』

『やつは本当に亡霊か!?』

 

 弾が当たらずにすり抜けていく。実際はギリギリで避けているのだが、ブリタニアの兵士にとっては本当に亡霊と戦っているような恐怖に襲われる。戦場で平静さを欠いた兵士は生き残ることはできない。案の定、目の前に集中し過ぎるあまり、ブリタニア軍は背後からの伏兵によって全滅させられた。

 

『救援が遅れてすいません』

 

 言いながら蒼いKMF、月下から少年が降りてくる。機体と同じ蒼の瞳と、特徴的な銀髪。

 

「黒の騎士団臨時総帥、皇ライです」

 

 そう言ってライは優雅に微笑んだ。

 

 ブラックリベリオンから半年、ライは日本各地に散った黒の騎士団および反ブリタニア組織を救い、纏めるため各地を転々としていた。

 

「ふう…」

「毎回毎回ご苦労なことだな?」

「ゼロが復活するまでは少しでも戦力を蓄えなくちゃいけないからね。…いつも思うんだけ、どうやってピザを手にいれてるんだいC,C,?」

 

 ライが隠れ家について一息つくと、そこには当然の如くピザを食べているC,C,がいた。

 

「私は魔女だぞ?魔法を使っているに決まっているだろう」

「さいですか…」

「理解したなら結構だ。しかしここまですんなりと黒の騎士団の元に纏まりつつあるとはな…やはり皇の名を継いだのは正解だったな」

「皇の名は日本人にとって神輿だからね。身元がしっかりしてる分ゼロより信用されやすい。だからこそディートハルトが僕の血縁を気にしてた訳だし」

 

 この半年間で黒の騎士団はかなりのレベルまで復活しつつあり、中華連邦に渡ったメンバーとも連絡をとれるようになっていた。ライは中華連邦に渡った神楽耶と連絡をとり、正式に皇の姓を継ぐことにしたのだ。ブラックリベリオンの前からライに皇の姓を継いでもらう。という話はあったもののライが皇の姓を継ぐとゼロの邪魔になりかねない。という理由で断っていたのだ。

 だがそれはあくまでゼロがいた時の話。今はゼロもいなく、余裕もない。使えるものは全て使う。そう決めたライは、求心力のある皇の名を継ぐことにしたのだ。

 

「お前には言うまでもない事だと思うが、その姓の重みを分かっているな?」

「ああ。もちろんだ。僕はこの姓を継いだからには、必ず日本を解放してみせる。…それに日本の解放はカレンの願いでもある」

「…それだけではなく、お前はあの坊やの願いも叶えるつもりなのだろう?そしてお前自身のカレンを取り戻すという願いも」

「ああ」

「強欲だな」

「そうかな?」

「ああそうだとも。世界は1人の願いすらもまともに叶えてくれないのに、3つの願いを叶えようとするなど強欲以外の何物でもないさ」

「…確かに僕は強欲だ。でも僕は必ず叶えてみせる」

 

 そう言うライの瞳には確かな意思があった。

 ゼロの復活まで、あと半年。

 

 

続く

 

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