世界は変わらない変わりはしない。どれだけ人間が足掻こうとも、人間は所詮唯1人の人間なのだ。そして世界は1人の人間が抗うには余りにも大きく、残酷だ。ちょうど一年前にゼロという男、いやもしかしたら女かもしれないが。まあともかくゼロが世界を変えようとして、ゼロを信じた人間と一緒に戦いを挑んだ。
結果は惨敗。所詮そんな物だろう。現実御伽話ほど甘くない。弱者は永久に弱者なのだ。そんなことも分からずに挑んだゼロを俺は馬鹿だと思う。同時に羨ましいとも。俺だって今の世界は間違っていると思うし、変えたいと思う。
だが俺には誰にも負けない知力があっても所詮は学生。抗ったとしても、軍にすぐ捕まるのが落ちだろう。俺には力が足りない。何かを成し遂げるだけの力が。
俺の親友に俺と同レベルの思考が出来る人間がいた。同じ学園の同じクラスの同じ生徒会のメンバーだったが、なんとそいつは実はテロリストでゼロの腹心だったらしい。カラレス総督はゼロ亡き今、躍起になってあいつを捕まえようとさてあるが、未だに捕まったという情報は聞いたことがない。
生きて今度合えるのなら、俺は奴に聞いてみたい。どうして抗ったのかを。そんなことしても負ければ意味がないと言うのに。あいつならその程度の事分かっていただろうに。どうしてそれでもあいつは戦ったのだろうか?
「なあ、お前は今何をしているんだライ?」
空を見上げ、ルルーシュ・ランペルージは1人呟いた。
「全く、放課後ぐらい自由にさせてほしいよな」
「でも、兄さんが授業さぼってばかりいるから」
「かったるいじゃないか。あんなの」
ルルーシュ・ランペルージは体育の補習をさせようとするヴィレッタ先生から逃げ、弟のロロと一緒にバベルタワーへと賭けチェスにバベルタワーへと向かっていた。
「進路調査票は出した?」
「えっ?」
「ヴィレッタ先生が怒ってたから」
「ああ」
「大学に行くの?」
「まだ決めてないんだよ。学生って身分も飽きたし、とはいえ人に使われるってのもさ」
「兄さんらしいよ」
通り過ぎる街のテレビでは総督によるイレブンの処刑が公開され、カラレスがその意義を力説している。
『これはイレブンに対する差別ではない。区別だ!イレブンはゼロという詐欺師に踊らされ、日本人に戻ろうとした。好戦的な人種である。故に我らブリタニア人によって、管理教育されねばならない!』
そんなテレビの様子を気にも留めず、ルルーシュは読書中の本を読み進めた。
『こちら「梟」から「女王」へ。「王」が目的地に到着。「貴族」の警告通りに「鼠取り」が「王」を監視している模様。注意されたし』
『分かった。もう引き上げろ。その後、作戦通りに「蜻蛉」と合流しろ』
『了解しました。しかし…彼が本当に「王」なのですか「女王」?只の学生ではありませんか?』
『そのことについては、深く知ろうとするな。と「貴族」に言われているはずだろう?』
『それは…そうですが…』
『私や「王」のことは信じられないかもしれないが、「貴族」まで疑うつもりかお前は?』
『まさか!私はこの一年間「貴族」の姿を見続けて来ました。私は「貴族」に、彼に絶対の忠誠を持っています!彼の言葉を疑うなどと!』
『分かった、分かったから少し落ち着け。無線でどなるな。全く…まあ、そんなお前だからこそ「貴族」はお前に「梟」の名を与えたのだろうな。だか1つ忠告をするなら、「貴族」はお前に忠誠心などで動いてほしくないだろうさ』
『…「貴族」は私自身の意思で動けと?』
『「貴族」は自分に忠誠を誓われることを嫌うのさ』
『覚えおきます…でも私の「貴族」への忠誠は変わりません』
『お前も頑固だな。まあ好きにするがいい』
『「貴族」と「蜻蛉」は今どうしておられますか?』
『予定通りだ。「貴族」は既に「王」と同じフロアにいる。「蜻蛉」も部隊と一緒に潜入に成功している。仕掛けも順調だ』
『了解しました。長々と申し訳ありませんでした「女王」つい感情的になってしまい…』
『私は気にしていない。私に謝る暇があったら「蜻蛉」とさっさと合流しろ』
『了解』
バベルタワーのカジノフロア。そこは貴族達が金を使ってありとあらゆる賭けをしている場所だ。そしてこの国、エリア11の姿が良く分かる場所でもある。
「兄さん…ここは止めといた方が…」
「別にいいだろ?それに良いじゃないか分かりやすくって。見ろよ、貴族の暇潰しの為に餌になるのは弱者であるイレブン。見ないふりをしたって結局は」
「だからって」
「わかってる。でもイレブンは2度負けたんだ」
そう冷淡に評するルルーシュであったが、その顔は納得していない表情であった。
「ん?妙に騒がしいな?」
賭けチェスのコーナーが妙に騒がしい。ルルーシュは興味を牽かれ近付いてみる。仮面を付けた典型的な貴族の様な男と、太った中年の貴族の男がチェスをしている。いや、盤面を見ると決着は既についていた。仮面を付けた貴族の圧勝。
太った中年の名前は黒のキング。今日ルルーシュが戦おうかと思っていた相手だ。
「そんな…黒のキングが負けるなんて…」
呆然としたような観客の声。
「くそっ!この私が若造ごときに!」
「その程度の腕前でキングを名乗るとはとんだお笑いですね?これ以上醜態をさらす前に去ることをオススメしますが?」
「くそっ!覚えておけ若造!」
男に侮辱された、黒のキングはそのまま去っていった。
「全く…あの程度では僕の敵にならない…そこの学生さん。僕と勝負しませんか?」
学生さんというのは、ルルーシュの事らしい。
「何故貴族のあなたが学生である俺なんかと?」
「純粋に強い相手と戦いたいからですよ。君でしょう?ここ最近貴族と賭けチェスをして連戦連勝と噂の学生は?」
「それは確かに俺の事だが…何を賭けるんだ?俺にはあなたが満足するような金は出せないぞ?」
「金ではなく、僕が勝ったなら君に1つ言う事を聞いてもらおう。別に命に関わったりすることじゃないから安心してくれ。そして君が勝ったなら君のありとあらゆる質問に答えよう。これでどうだい?」
「そんな条件で釣り合うはずがない。だいたい俺はあなたに質問したいことなんて―
「本当に?」
「えっ?」
「本当にそうそうかい?ルルーシュ・ランペルージ君?」
「どうして俺の名前を?」
「まだ分からないかい?ルルーシュ?」
その言い方でルルーシュはようやく気付いた。目の前の貴族がいったい誰なのかを。
「…本当に俺が勝ったら、どんな質問にも答えてくれるんだよな?」
「物分かりが速くて助かるよ。さあ勝負を始めようか」
『「蜻蛉」より「女王」へ。「梟」との合流に成功。「貴族」の仕掛けも順調だ』
『了解。こちらも順調。「貴族」が「王」と接触済みだ』
『承知。任務に戻る』
―コツン―コツン
チェスの駒を置く音がホーム全体に響く。今このフロアは静寂が支配している。先程まで周りが騒がしかったが、見入っているのが誰も余計な事は言わなくなった。だが、ここに居る何人がこの戦いを理解できているだろうか?
お互いの一手一手が何手先をも見通している一手。迂闊な一手を打とうものなら、即座にやられてしまうだろう。頭をフルに使い、考えを巡らせる。目の前の敵に勝つ為の一手を。
だが、若干ではあるがルルーシュが押されている。
「相変わらずナイトの使い方が上手いな」
ほぼ独り言のようにポツンと呟いた一言。返事があるとは思っていなかった。だが予想に反して目の前の親友は返事を寄越した。
「そう言う君は少し打ち方が大人しくなったね」
どうやら返事はくれるらしい。指名手配中で目立ってはいけないはずなのに。全く相変わらず律儀な奴だとルルーシュは笑った。
「そうか?」
「ああ。前の君は時々信じられないような一手を打ってきた。僕はよく苦戦させられたから覚えてる。チェスの腕が鈍ったんじゃないか?」
確かにルルーシュのチェスの腕は鈍った。だが無理もない。ライという好敵手がいた一年前と、まともな相手がいなかった今を比べるならそれは今の方が劣るだろう。今のルルーシュとライには僅かだが、力の差があった。
「チェックメイト」
「俺の負け…か」
「残念だったねルルーシュ」
「俺に勝った相手の言う台詞か?」
「ふふっ、それもそうだ」
「それで?勝った特権で俺に何をさせるつもりだ?一年間姿を見せずに、今姿を表したからには何か俺に用があるんだろう?」
「どうってことはないよ。ただ僕らの反逆を始めようと思ってね」
「それはいったい―」
―どういう意味だ?ルルーシュがそう言い終える前に轟音が響く。そして同時にKMFが降下してくる。混乱に包まれるホール。その中でも冷静とライは微笑み言う。
「さあ、僕らの反逆を始めようかルルーシュ?」
気付けばルルーシュはライに引っ張られて走っていた。ライはさっきの貴族風の服を脱ぎ捨て、下に着ていた黒の騎士団の制服を着ている。
「ちょ、ちょっと待てライ!!いったいお前は何が目的なんだ!?」
「いいから今は走れルルーシュ!!」
「待て!!まだロロが逃げてない!俺の大切なたった1人の弟なんだ!」
ルルーシュは引っ張るライの手を振りほどき、ロロを探そうとする。
「待てルルーシュ!!」
ライは再びルルーシュを捕まえようとする。しかし。
「っ!?」
もの言えぬ殺気を感じ、殺気の発せられている方向へと本能的に顔を向ける。
「あれは…ルルーシュの偽りの弟…ロロ?」
殺気を発していたのはルルーシュの偽りの弟ロロだった。だがそのとき丁度ロロはルルーシュに見付けられたらしく手を引かれ人混みの中へと紛れていく。完全にルルーシュを見失ってしまったライは無線で指示を出す。
「こちら「貴族」すまない「王」を見失ってしまった。だが発信器は着けることに成功した。「女王」に連絡を頼む。僕はこれから月下で出る」
『了解しました』
ライは愛機月下の下へと向かい、月下に乗り込み指示を出す。
「作成の第一段階は終了した。これより第二段階に入る。「女王」以外の部隊は予定通り配置に着け。「淑女」の部隊は急いで設置を。さらに「鼠取り」が動いているようだ。各自警戒しろ。発見したら即座に報告もするように」
『『『了解!』』』
無線で部下への指示を出し、月下で出撃する。ホールの床を壊し、真下のホールに降りるとそこにはサザーランドが3騎。
「やはり居たか!だが遅い!!」
ライは月下が落下仕切る前に、動きの鈍い1騎を目掛けてハンドガンをフルオートで撃ち放ち撃破。
「まず1つ!」
月下に気付き、逃れようとするサザーランドに着地し、そのままコックピットにハンドガンを1発直に叩き込む。パイロットを失ったサザーランドは虚しく崩れ落ちる。
「これで2つ!」
最後に焦って逃げようとするサザーランドに廻転刃刀を投げ、撃破。
「3つ…と。しかしこんな所に3騎もいるとは…皇帝のやつC.C.を何としても捕まえるつもりか?…ルルーシュの所に急いだ方がいいか」
再び無線でライは指示を出す。
『「鼠取り」は予想以上の戦力がいる模様。正規軍の到着も近い。全騎警戒せよ』
『『『了解!』』』
「さて、ルルーシュは…下か」
ルルーシュに着けた発信器を元にライはルルーシュの元へと向かう。
「ロ、ロロ?」
ルルーシュはロロと走り出した先で彼をかばい、そしてタワーの中心部から落下した。幸いにも落下防止用のネットがクッションとなりケガ一つないが、あたりには誰もいなかった。
「くそっ、このままじゃロロが」
ルルーシュは必至にバベルタワーを駆け上がった。そしてその中でイレブンもブリタニア人も構わず殺されているところを見た。
「うっ」
思わず吐き気を堪える。
「っ!?黒の、騎士団」
気づけば、自身の目の前には角付きの無頼がいた。先ほど自分に向けて手を差し伸べたその期待のコックピットから女が下りてくる。
「ルルーシュ、迎えに来た。ルルーシュ私はお前の味方だ。お前の敵はブリタニア」
「え?」
「契約しただろう。私たちは共犯者だ」
「契約?共犯者?」
「私とライだけが知っている。本当のお前を」
「本当の、俺…?」
ルルーシュはなぜだか本能的にC.C.の元へと歩き出した。
―パン!
その時、一発の銃弾がC.C.の胸を貫いた。
「お、おい!」
コックピットから崩れ落ちるC.C.をルルーシュはなんとかキャッチした。
「ブリタニア…軍?」
C.C.を撃ったのはブリタニア軍であった。困惑するルルーシュを他所に、ブリタニア軍はルルーシュの周辺の死体を火炎放射器で焼き払う。
「おい!まだ生きる人がー」
ルルーシュの言葉も空しく、ブリタニア軍は生き残りを淡々と始末した。
「お役目ご苦労、ルルーシュランペルージ君」
「役目…?なんの話だ!」
「私たちはずっと観察していた」
そういうとサザーランドに乗った男はルルーシュの行動記録を事細かに読み上げる。それはルルーシュの起床から今までの全てであった。
「…今日の、俺だ」
「飼育日記といったところかな餌の」
「餌?」
サザーランドに乗った男は尚勝ち誇るように言葉を紡ぐ。
「罠といってもいい。魔女を、そのC.C.を誘いだすための」
「待ってくれ!何の話をしているんだ!」
「私は男爵だからね。これ以上餌と話すつもりはない。さ、処分の時間だ。これで目撃者はいなくなる」
一斉にブリタニア軍がルルーシュに銃口を向ける。
「処分?俺が終わる?何もわからずにこんな、簡単に?」
混乱するルルーシュ。その時、C.C.が半身を起こし、迷わずルルーシュにキスした。
『力が欲しいか?力ならお前はもう持っている。忘却の檻に閉じ込められているだけだ』
ルルーシュの視界に様々な情報が流れ込み、頭の中にはC.C.の声が響く。
『思い出せ。本当のお前を。王の力を!今こそ封印を解き放つ!』
ルルーシュが一年間感じ続けていた苛立ち。その答えが、ここにあった。
「いけるか?ライも近付いている」
「愚問だな。俺を誰だと思っている?」
にやり、とC.C.とルルーシュは笑った。
「私を処分する前に、質問に答えてほしい。無力が悪だというのなら、力は正義なのか?復讐は悪だろうか、友情は正義足りうるか?」
「悪も正義もない。餌にはただ死という事実が残るのみだ」
サザーランドに乗った男はまだ勝ち誇り、笑みを浮かべる。
「そうか、ならば君たちにも事実を残そう」
そんな姿を見てルルーシュは冷笑を浮かべる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様たちは死ね」
ギアスの力が羽ばたいた。
「「「イエス・ユア・ハイネス!」」」
皇帝直属部隊は自らを撃ち、全てが息絶えた。
丁度その時、ライの月下と卜部の月下が上の階層から到着した。
「ん?青の月下ライか?」
月下に気付き、ルルーシュは呟く。だがその瞳に先程のような弱々しさは微塵もない。むしろ、他を威圧する圧倒的な存在感を出している。見ると、ルルーシュの周りには皇帝直属の部隊、「鼠取り」の死体があった。そしてライは確信した。ついに魔神ゼロは復活したのだと。
ライは月下から降り、ルルーシュに話しかける。
「ああ。久しぶりだねルルーシュ。いや、今はゼロの方がいいかな?記憶を取り戻した気分はどうだい?」
「最高だよ。まあ、この一年間も餌に使われていたかと思うと屈辱の限りだがな」
「一年も待たせてしまってすまない」
「気にするな。それに一年間待たせたのにはそれなりの理由があるんだろう?」
「まあね。それについては後で話すよ。僕らの反逆を初めようかルルーシュ」
そう言ってライはルルーシュに手を差し出す。
「ああ。始めよう。俺達の反逆を」
二人は一年ぶりに握手を交わした。
続く