「はぁっ!」
朝もやの中、中華連邦領事館の庭でライが剣を振っている。これはライが日課としているトレーニングの一環である。
「ふう…」
目標回数の素振りを終え、ライが一息付くと、
「何か用ですか?ジロジロ見られるのは好きじゃないんですが」
柱の影からライを見ていた人物に話し掛けた。
「気付いていたか。流石は黒の騎士団NO.2だな」
「あなたは…」
「犂星刻だ。一度合っているはずだが忘れたか?」
「…いいえ」
柱の影から出てきたのは黎星刻。ライは星刻に初めて合った時から警戒していた。大宦官は国家や理念よりも自分の保身を第一に考える典型的な俗物。そんな俗物を利用するのは容易い事。だが星刻はその大宦官の配下にありながらも、その心は大宦官とは根本的に違う事をライは気付き、敵にするならば厄介な敵になるだろうと感じていた。
「それで?何か用ですか星刻さん」
「そう邪険にしないでくれ。私は君に興味があるだけだ」
「僕に―」
ライが言い終える前に星刻は腰に差していた剣を抜き、ライに斬りかかる。
「っ!」
ライはギリギリの所で刀を素振りしていた刀で止める。
「…どういうつもりですか?まさかこれが中華連邦での挨拶というわけではないでしょう」
ライは星刻とつばぜり合いをしながら、星刻の真意を探る。
「これより大宦官は黒の騎士団によって殺される。私はそれを止めようとしたが間に合わなかった。それがこれから起きる事件の事実だ」
「…大宦官を殺すつもりか?それを黒の騎士団の責任にすると?」
「ああ。そうだ。大宦官は此方で始末するから黙認さえしてくれればいい」
「簡単に言いますね…それを僕が断った場合は?」
「黒の騎士団にはここで壊滅してもらう」
「…」
ライは考える。この出来事によって考えられるメリットとデメリット。
「そう簡単に答えは出せないか」
「…」
「ならば我等がこのまま剣で殺し合いをし、勝った方の言う事を聞くか?私と君が殺し合えば、どちらが勝つかは時の運任せになるが…武人としてはそれも悪くはないかもしれないがな」
「…分かりました。この事件を黒の騎士団は黙認します」
「賢明な選択に感謝する」
星刻はそこまで言ってようやく刀を鞘に納める。
「あなたは…何の為に戦っているんですか?」
「全ては天子様の為に」
星刻は一言呟くと、待機していた部下を引き連れ帰っていった。ライは星刻がいなくなると、とてつもなく大きなため息をついた。
「何が『運に任せる』だ。…やっぱり完全に自分が勝てる状況を作り上げてるじゃないか…」
そう、星刻は最初から運に任せるつもりなどなく、ライが星刻と戦う選択をした時に、ライを殺せるよう部下を配置していたのだ。
「とはいえ…僕にも奥の手はあったから、お互い様か」
ライの瞳が赤色に妖しく光る。
「なんにせよ黎星刻、要注意だな」
ライはため息と共に、そう呟いた。
「おい、ライ大変だ!」
星刻と入れ替わりになる形で卜部が現れた。真剣な様子で普段の飄々とした雰囲気はない。
「卜部さん、何があったんです」
「いいから来てみろ。ブリタニアが動いた」
そう言って卜部はライを引っ張り中華連邦領事館の正面口へと向かう。
「あれは…」
「聞こえるかゼロよ。私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・GP・ギルフォードである。明日15時より国家反逆罪を犯した特一級犯罪者256名の処刑を行う!」
そこには藤堂と扇をはじめとする黒の騎士団幹部たちの捕らわれの姿と、数十機のKMFによる包囲網が見えた。
「ゼロよ!貴様が部下の命を惜しむなら、正々堂々と私と勝負せよ!」
「やってくれる…ここまで数の差を見せつけた上で正々堂々もあるものか」
現状、中華連邦の領事館で使えるKMFはライと卜部の月下2機と無頼が4機のみ。ゼロ専用無頼も外に1機隠してはあるが、まともに戦って無事人質を取り戻すなど到底不可能であることは目に見えている。
「どうする?」
「ゼロとプランを練ります。卜部さんは他の団員が下手に動かぬよう言い聞かせてもらえますか?」
「承知」
卜部と別れ、ライは総領事館の臨時本部へと向かう。
「随分と大変なことになったな」
「ああ、ギルフォードがここまで大胆に動くとは想定外だった」
部屋の中にいたC.C.は口調こそ変わらぬものの、表情には硬さがあった。
「ルルーシュと連絡は?」
「ギルフォードの宣言後すぐに外部から連絡があったら怪しまれる。少し待つつもりだ」
「お前としてはどう考える?」
「この一年間での『貯金』を割いてでも扇さん達を取り返すべきだろう」
ライのその言葉にC.C.はほう、と言葉を紡ぐ。
「『貯金』の前倒しか。しかし、あれほど入念に進めた物をか?」
「藤堂さん達にはそれだけの価値がある。それに、『貯金』の全てを使う訳じゃない」
「総帥代理殿の面目躍如か」
「…あまり、その呼び方は好きじゃないがね」
ライはそう言って『貯金』の前倒しについて準備を始める。
それから3時間後、ルルーシュにライは連絡を取った。
「随分と困った状況だね」
「悩みの種を追加するようで悪いが、俺の偽りの弟、ロロについても問題が発生した」
ルルーシュはライにロロのギアス能力についてと、C.C.を差し出すと嘘を付いた事を説明した。
「そこに加えてギルフォードの処刑宣言だ。全く、休む暇もない」
「ギルフォードについては『貯金』を前倒しで使おうと思う」
「…やむを得ないか。分かった。それについてはライに任せる」
「ああ、任せてくれ」
「となれば後はロロについてだが」
「殺すわけにもいかないか」
「ああ。偽りの弟役が死ぬとなると余計に俺の監視が厳しくなる。それでは本末転倒だ。まあ、本音を言えば今すぐにでも殺してやりたいがな…」
ルルーシュは忌々しそうに呟き、拳を強く握り締める。ルルーシュにとって何よりも大切な物はナナリーである。そのナナリーをルルーシュの記憶から消し去り、ナナリーの居場所に堂々と居座るロロの存在がルルーシュには許せない。
「殺すのでなく、こちらの仲間に引き入れる。と言っても利用するだけ利用したら切り捨てるがな」
「ギアスを使うのか?」
「いや、ギアスでは行動に不自然さが出る。それより俺に考えがある」
「それは藤堂さん達の奪還と同時に出来るのかい?」
「無論だ。お前にも手伝って貰う事もあるが、準備は俺の方で進める」
「決行は?」
「明日、15時だ」
絶対絶命の危機であればこそ、ゼロの力は輝く。
続く