「さて、仕込みは上々、あとは出目次第か」
ライは藤堂らの公開処刑阻止の作戦に向けて『貯金』との確認を完了させていた。中華連邦の臨時作戦室では明日の展開図を完成させている。
「準備は済んだのか」
「ああ。完了している」
「藤堂の奪還が出来ればお前の肩の荷も少しは下りるか」
部屋のソファーでくつろぎつつ、C.C.はそう言った。
「…まだまだだよ。明日の作戦が上手くいってようやく黒の騎士団が復活したといえる。それでやっとスタートラインに立てるんだ」
「それはカレンへの道のりか?それとも日本の解放か?」
「どらちもだよ。まだまだ道の途中だ」
ライの表情は硬い。
「変に気負い過ぎると死ぬぞ?」
「分かっている」
「いいや、分かっていない」
C.C.はライの顔を両手で抑え、自分と向き合わせた。
「その目、死を恐れていない者の目だ」
「死を恐れていたら解放運動なんて出来やしない」
「そうかもしれん、だがお前はカレンを取り戻すのだろう?であれば死を恐れろ」
C.C.の真摯な瞳にライは答えを出せない。
「死にたがりも大概にしろ。今はお前が必要だ」
「すまない」
「分かればいい」
C.C.はそう言ってライの頭から手をどかし、ソファーに寝そべった。
「それと、ギアスはあまり使おうとするな。お前のギアスは既にお前自身の寿命をも蝕んでいる」
「…ああ、気を付けるよ」
「今日はもう休め。そんな様子じゃ明日まで持たないぞ」
「そうかー」
言葉を紡ごうとしたライの口からは、代わりに血が出た。思わず崩れかかるライをC.C.が即座に支える。
「言わんこっちゃない」
言葉こそ冷淡としていたが、C.C.はライの背中を優しくゆすり、さっきまで自分が眠っていたソファーに寝かせた。
「…楽になった。ありがとう」
「感謝は後にしろ」
C.C.は慣れた手つきでライの薬を出し、水と一緒に渡した。
「すまない」
「お前が謝ってどうする。今日はもう休め」
「…そうする」
そう言って瞳を閉じたライが眠りに就くまで3分とかからなかった。
「まったく、働きすぎだ。馬鹿者め」
辛辣な言葉とは反対にC.C.はライの頭を優しくなでる。その姿は魔女というより、聖母のそれであった。
「ルルーシュといい、お前といい、私の心を随分と揺さぶってくれるじゃないか」
そうして夜は更けていった。
翌日、処刑時間の15:00時を前に、多くの人間が中華連邦の前に集まっていた。軍の作戦行動であるため、接近はゆるされていないものの、メディアを始めとして多くの人間がその様子を知りたがっていた。
「かつて黒の騎士団を名乗り、エリア11を混乱させたテロリストの処刑が行われようとしています。果たしてゼロは部下を救いに現れるのでしょうか」
テレビの中継用にヘリコプターが飛ぶさまを、ライは月下のコックピットで眺めていた。
「作戦開始時刻まであと五分、各員準備はいいか?」
「承知。しかし、ゼロは本当に現れるのか?」
「間違いなく現れますよ卜部さん」
「そう信じてはいるが…」
ライの言葉に卜部は不安げにそう答えた。ゼロの正体がブリタニアの学生であること、ブラックリベリオンの際に戦線離脱したこと。卜部がゼロを信用しきれないのも無理はない。それは他の団員も同じである。この一年間、それでも戦ってこれたのはライがゼロを信用しているからだ。ゼロは信用できないが、ゼロを信用するライは信頼に値する存在であることを疑う者は黒の騎士団に居ない。
「さあ、いよいよ刑の執行時間です。黒の騎士団の残党に正義の裁きが下されます」
「ゼロ様どうか」
「奇跡を!」
観衆の中のイレブンから悲痛な願いが聞こえる。
「イレブンたちよ。お前たちが信じたゼロは現れなかった。全てはまやかし。奴は私の求める正々堂々の勝負から逃げたのだ」
「違うな、間違っているぞ、ギルフォード!」
「なるほど、後ろに回ったか、ゼロ!」
ギルフォードがKMFを180°回転させると、そこにはゼロ専用機の無頼と、コックピットを開けて姿を見せるゼロの姿が見えた。
「貴公が処刑しようとしているのはテロリストではない。我が合衆国軍、黒の騎士団の兵士だ」
「国際法にのっとり、捕虜として認めよと?」
ゼロが現れた様子を、ヴィンセントのコックピットでロロは眺めていた。その瞳には暗い炎が灯っている。
「出てきたね、やっぱり。でも、僕との約束を破ったら死んでもらうよ、ゼロ、いやルルーシュ・ランペルージ」
群衆はゼロの無頼を通すため、左右に分かれ道を作る。疑惑や希望、様々な人々の思いが交錯する中、ゼロは悠然とギルフォードに向かって進み始める。
「お久ぶりですねギルフォード卿、どうです?出てきて昔話でもいかがですか」
「折角のお誘いだが、お断りしておこう。過去の因縁にはナイトメアでお答えしたいが」
「ふん、君らしいな」
ギルフォードのグロースターから数メートルのところまで近づいてゼロの無頼は動きを止めた。
「ギルフォード卿は正々堂々の勝負をお望みでしたね?」
「ああ。私は君に正々堂々の勝負を望む」
「ではそのように、私の手の内を見せるとしましょう」
「手の内だと…?」
ギルフォードは訝しむ。
「ええ。貴方は軍の包囲網を先に見せた。ならば私も対応する陣を見せねばなるまい」
「君一人で陣と言い張るのか?それとも、領事館の仲間を含めるつもりかな」
「違うな」
「ではなんだと言うのだ!」
「お見せしよう、黒の騎士団総員、姿を見せよ!」
そのゼロの号令に合わせて、中華連邦の領事館を塞ぐように陣を曳いたブリタニア軍をさらに包囲するように黒の騎士団のKMFが一斉に起動し、その姿を現した。
「馬鹿な!これほどの数のKMFを奴らがどうして」
「ギルフォード卿、敵KMFの数は我らの倍以上かと…」
「ありえん!」
ギルフォードの焦りも無理はない。自分たちが完全に積みの陣形を敷いたはずが、今度は自分たちの積みの陣形を作られていたのだから。
「ライ!これが君の言う『貯金』か!」
「ええ、卜部さん。時間との勝負でしたが、何とか間に合いました」
これだけの戦力を黒の騎士団が極秘裏に用意できた理由。それはライの一年間の努力にある。ライはこの一年間でエリア11中の反抗勢力の元をめぐり、黒の騎士団への合流と、その戦力を地下に隠すことに努めてきた。全ては再び黒の騎士団がエリア11で大規模反抗作戦を執る際の下準備である。全国各地に潜めたその戦力をライは『貯金』と呼んでいた。
今回の作戦においてはトウキョウ租界に隠していた戦力を秘密裏に動かし、昨日からずっと敷かれていたブリタニアの陣を囲うように配置した。ギルフォード達は中華連邦領事館内部にこそ目を光らせていたが、外への意識は薄くなっていたのだ。ギルフォードに落ち度があるとすれば黒の騎士団に時間を与え過ぎた。ゼロへの指定の時間が一両日以内であれば今回の作戦は実行不可能であった。だが、騎士道を重んじるギルフォードはゼロへの時間を、ライへの時間を与えてしまった。その性格が裏目となった。
「さて、こちらも正々堂々と手の内を見せた。どうするギルフォード卿。正々堂々と戦うか?」
それは圧倒的に優位にあるからこその宣言であった。
「…私の負けだ。人質を解放する」
「ギルフォード卿!」
それはギルフォードにとって苦渋の選択であった。
「何故です!まだ我々は戦えます!」
「そうです!この程度の数の不利など、我らなら返せます!」
まだ若いバートやアルフレッドはギルフォードの決定に声を荒げる。しかし、ギルフォードには分かっていた。ゼロが手の内を見せるときにはまだ更なる手の内があることを。
「貴様らが!」
「アルフレッド、止せ!」
激高したアルフレッドがゼロの無頼に向けて前進し始める。
「愚かだな。ライ!」
「ああ、任された!」
アルフレッドのグロースターの前に、中華連邦領事内から飛び出たライの月下が立ち塞がる。
「この、亡霊がぁ!」
勢いに任せたランスの突きを月下が避けて懐に入った時点で、勝負は決した。
「これが、亡霊の力!?」
「悪いが、手加減は出来ないな」
月下の左腕、甲一型腕がグロースターの頭部をつかんだ。
「アルフレッド!」
「弾けろ、ブリタニア」
ギルフォードの叫びも空しく、アルフレッドのグロースターは爆散した。
「さて、これ以上無駄な犠牲は必要かねギルフォード卿」
「…必要ない。人質を解放する」
黒の騎士団の完勝であることは疑いようもなかった。
「卜部は人質を解放せよ!他、黒の騎士団全機は我が国土に―」
その時、まだ負けを認めていない唯一の存在が動いた。
「やはり動くか、ロロ!」
「キンメル卿!?」
ロロのヴィンセントは真っすぐにゼロの無頼向けて動き出す。
「ルルーシュ、プラン通りに」
「ああ、頼んだライ!」
ライの月下がロロのヴィンセントを阻むように、ゼロはライを盾にして中華連邦領事内に逃げるように動く。
「さて、どう時間を稼いだものか…」
ロロのヴィンセントの前進に合わせて、ライはハンドガンを放つ。だが、
「っ!やはり一人では無理か!」
ロロのギアスにより、気付けばヴィンセントに抜かれていた。
「全機、火力を黄色いKMFに集中させろ!」
「了解!」
ライの号令により、無頼達が逃げるゼロへと援護射撃を始めるが、第七世代の運動性とロロのギアスにより、有効打は生まれないままヴィンセントは尚加速する。
「来たか、来てしまったのかロロ!」
「やっぱり逃げるんですね。C.C.を差し出す約束は、ルルーシュ最初から僕に嘘を」
ゼロの無頼が中華連邦領事内にたどり着いてなお、ロロは追撃を止めない。
「まだ、まだ捕まる訳には」
「僕に未来をくれると言ったくせに」
「ここで死ぬわけには!」
「任務さえ果たせば未来は繋がるんだ!」
「今だ。撃て」
「了解」
ロロのヴィンセント目掛けて中華連邦領事内に待機していた無頼が狙撃を行う。その弾丸はロロのギアスでも止めることがかなわず、そして直撃コースだった。
「しまった!」
その弾丸を、ルルーシュの無頼がかばって見せた。
「な、なぜ?どうして、僕を」
「お前が弟だからだ」
ルルーシュはロロの心を篭絡すべく、言葉を繰り始める。
「これでよかったのか?」
「ああ、完璧だよ。お疲れ様C.C.」
無頼で狙撃を行ったのはC.C.であった。無論、最初からゼロが庇うことを想定しての弾丸であったし、全てはゼロの自作自演だ。だが、他人から見れば馬鹿らしいそれもロロの心には感動的な出来事に映った。
「全くお前といい、ルルーシュといい、私の扱いが酷いな」
「分かってるよ、あとでピザでお礼する」
「3枚だな」
「はいはい」
そんな風にライとC.C.がお道化て居る間、ゼロは見事にロロの心を絡めとって見せた。
「そこまでだブリタニアの諸君、これ以上は武力介入とみなす!」
星刻のその宣言により、ブリタニアは撤退を始める。その姿は誰が見ても黒の騎士団の勝利であった。
「ライ、そこのピザを取れ」
「はいはい…」
ライとC.C.は作戦室でくつろぎ中である。といっても、月下の整備に行きたいライをC.C.が無理やり押し留めて、どこから取り出したのか分からないピザをライの膝の上で頬張っているのが現状である。つまりライは今C.C.に膝枕をしている状況である。この膝枕はライがこの一年間でピザと並ぶぐらい、C.C.に逆らっても無駄な事の一つであると悟った事でもあった。
こんな状況に慣れつつあるせいか、ライはC.C.の事を気にせず騎士団の仕事を黙々とこなしている。
―コンコン
「皇臨時総帥、入ってもよろしいでしょうか?」
団員が報告に戻って来たらしく、ライはC.C.の頭を膝の上からどかし、団員の報告を聞く事にした。
「どうした?」
「ゼロがこれより皆の前で話されるので外に集合してくれ。との事です」
「分かった、すぐに向かおう。それとゼロが戻った今、僕はもう臨時総帥ではない」
「…了解しました」
しぶしぶ頷き、団員は出ていった。
「全く、大人気だな?皇臨時総帥殿は」
「…」
騎士団においてライの存在はゼロ以上になりつつある。一年間行動を共にしていたメンバーはもちろんの事、ブラックリベリオンの際に捕まったメンバーの中でも戦線離脱したゼロよりも最後まで友軍の救出に尽力したライを信じるメンバーがほとんどであった。
「僕の存在がゼロの邪魔になってはいけないのに…」
「それはお前が気にしてもしょうがない事だろう?ルルーシュが行動してゼロの信頼を取り戻すしかないさ」
「確かにそうだが…」
「それ以上気を遣ってどうする?騎士団が復活したのだからお前はカレンの奪還に専念すればいい」
その一言でC.C.はそれまでの会話を締め括った。
「さて、そろそろ行ってやれ、ゼロと騎士団メンバーの仲を繋ぎ直すためにはお前が必要だ」
「…了解」
ライにはライなりの考えがあったが、そこで一旦思考を停止し、ゼロや騎士団メンバーが待つ外へと向かった。
ライが外に出ると、そこにはもうゼロが到着しており、そのゼロに対して四聖剣の千葉と朝比奈が問責していた。
「お前があの時逃げなければ私達は勝利していた!」
「一言ぐらいあってもいいんじゃない?」
「私はその事に関して謝るつもりはない。あの場で私が戦線離脱したのも全ては勝つ為だ」
「真っ先に戦場を抜け出した者が何を言うか!お前が逃げなければ紅月も―」
「千葉!」
「…何だ朝比奈」
言葉を遮られた千葉は不服そうに朝比奈に視線を向け、朝比奈は顎で団員の外れにいながら唇を血が出るほど噛み締めているライを示す。その姿を見た千葉は何も言えなくなる。
「カレンの事に関しても私は謝るつもりはない」
「…それはどういう意味だいゼロ?場合によってはここに居る全員を敵に回す事になるけど?」
「簡単な事だ朝比奈。カレンは生きている」
この発言で団員達の間にざわめきが走る。
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「理由は言えないが、少なくとも私とライはカレンが生きていると確信している」
この発言には朝比奈も押し黙る。ライは騎士団のメンバーにとってそれだけね存在なのだ。
「…俺はゼロに付いて行こうと思う」
「扇?」
長い沈黙を破り、口を開いたのは扇だった。
「確かに一年間は敗れはしたが、黒の騎士団をここまで大きくしたのはゼロだ。俺はゼロとなら日本解放も実現出来ると信じている」
「ゼロ、勝つための一手だったんだな?」
藤堂も扇に続き、言葉を発する。
「私は常に結果を目指す」
「分かった。作戦内容は伏せねばならぬこともある。いまは彼の力が必要だ!」
団員達はお互いの顔を見合せ考え始める。そしてその内に玉城が主軸となり、ゼロコールが始まった。そのゼロコールを聞きながらルルーシュはゼロの仮面の下でほくそ笑み、ライは騎士団の復活を感じとったのだった。