蒼の反逆   作:街灯

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続きです


Turn7.0 仮面の意味

『行政特区日本』

 

 太平洋での戦いの後、気絶したライは潜水艦の救護室のベッドの上でその話を扇と玉城から聞いた。この宣言をしたのはナナリーだ。彼女の見た目を利用したシュナイゼルの策なのだとすれば、ある抵当の効果はあったと考えるべきなのだろう。対称的に玉城は行政特区日本をブリタニアの罠だと決め込んで、相手にもしていないようだった。

 

「ブリキの新総督があんなお嬢ちゃんだからってよぉ、行政特区日本をもう一度なんて信じる馬鹿がいるわきゃねーだろ!」

「…」

 

 扇は少なからず動揺しているようだったが、玉城は幸いにも気付いていなかった。

 

「なあ、ライ。お前だってそう思うだろ?」

「…日本人は信じないでしょう。騎士団が何もしない限り、行政特区日本は確実に失敗する」

「何もしない限り、ってのはどういう意味なんだ?」

 

 話が見えていない玉城に反して扇さんは僕の言いたい事を理解したようだった。

 

「これは騎士団にとってチャンスなんです」

「はぁ!?この行政特区日本がかよ!?」

「ああ、これはブリタニア側からの一種の停戦条例と同じような物です」

 

 停戦条例という言葉にあからさまに玉城は反応した。

 

「ブリキと停戦条例だぁ?御手て繋いで仲良くしろってのかよ!?」

「ラウンズが出てきた以上、騎士団は選択肢の一つとしてそれも考え無くてはいけない」

「お前、太平洋でラウンズ三機相を手に勝ったじゃねぇか」

「ラッキーだった。正直な所、次戦うとしても一騎討ちですら勝てるかどうか怪しい」

 

 太平洋では万事が万事こちらに上手いこと転んだ。だが、同時にライは太平洋で理解していた。ラウンズはライを上回っている。蛍火という取って置きすら見せてしまったのだ。まだ僅かに一発きりの技はあるものの、ラウンズには通用しない可能性すらある。

 

「暁の量産が完了していない今、僕らがすべきは時間稼ぎだ。行政特区日本はそれにはうってつけとも言える」

 

 だが、それは結果としてナナリーの優しさを裏切る事になる。ルルーシュは紛れもなくナナリーの為に戦っているのだ。ルルーシュがナナリーの優しさを裏切る事はしないだろう。

 一つ、溜め息を付いた。長く、疲れたかのような溜め息。気持ちが急いているせいなのか。漸く掴んだカレンの行方。ライは急く気持ちを抑えられずにいた。

 

────────────────────────────────

 

ライ。

 

 誰なのかは知らない。ただあの時私の口から自然と零れた名前がそれだった。

 私が一年間探していたもの…あるいは憂鬱の種であろうか?

 ライ?Lie?嘘?

 

 まるで私を苦しめる魔法の呪文であるかの如くたった一つの単語が私の頭の中で探して駆け回る。たが生憎と私の記憶にはライという名前は登場しない。つまり私はライという人物を知らないという事だ。検索結果は何回やっても皆無だというのに私の心はその答えをよしとせず、再び脳に答えを探せと命令を出す。まるで私の心はライを知っているかのように。

 

カレン。

 

 これは奴がもらした名前。私は自分が呼ばれたのだと即座に理解した。そして多分今抱えているもやもやが私の憂鬱の種なのだろう。

 

「ライ…ね」

「えっ!?」

 

 エリア11の政庁にて、ナナリー総督に合う為にスザクと一緒に向かっている途中に私が思わず洩らした言葉なスザクは嫌に反応した。

 

「え?なんか私まずい事言った?」

「ライとカレンって…」

「ああ、何なのかは分からないんだけど青い奴のパイロットがそう言ったのよ」

 

 ライと言ったのは私だがスザクに言えば余計話がこじれる気がしたので止した。

 

「まさか…ライはもう気付いて…?いや、でもこれはチャンスかもしれない」

 

 スザクは私そっちのけで勝手に一人でぶつぶつ言っている。驚いた事に私の存在を完璧に忘れているようだった。

 

「スザク?」

「ライの事で何か分かる事は?」

「は?」

「ライについてだ!何か分かるのか!?」

 

 スザクの口調は強い。まるで尋問のようであったが私はスザクの気配に圧されて反論出来なかった。スザクは人が良すぎるぐらいの真人間であるというのに時より信じられないぐらい怖いと思う時がある。それは大抵ゼロや黒の騎士団が絡む時だ。

 

「…何も」

「本当に?」

「本当よ!」

 

 スザクはしばらく私を疑っているかのような目でこちらを見、やがて何かを思い出したかのようにふっと止めた。

 

「…ごめん。強い言い方しちゃって」

「別に…それで、スザクはその、ライついて何か知ってるの?」

 

 スザクは何故か即座に私から目を反らした。物事にははっきりと正直に答えるのがスザクだというのに、今日のスザクはつくづく珍しい。

 

「…友達だった」

「友達?」

「ああ…」

 

 それだけ言うと後はもう言う気はないとばかりにスザクは総督の下へと足を進める。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!それでライは一体何なのよ!」

 

 スザクは足を止めずにスタスタと歩いて行く。私とスザクでは歩幅が違うので私は早歩きをさせられてなんだかムカッとした。

 

「スザク!」

 

 と、扉の前でスザクは歩みを止めた。

 

「ナナリー総督はこの先にいらっしゃる」

「は?」

「僕は総督には合わない。挨拶はしっかり済ませてくれ」

「ちょっと!」

 

 私が呼び止めるのも聞かずにスザクは去って行った。

 

「…何なのよ」

 

 スザクはこう言った。『友達』だった。過去形。昔の出来事。な、癖に言うのを渋るって事はまだ昔の事を引き摺ってるという事。

 

「馬鹿みたい」

 

 スザクも『ライ』と言う名の何も知らない単語に振り回されてる私も。

 

「って、総督への挨拶だってのにスザクの紹介なしか…」

 

 一瞬スザクを呼びに戻ろうかとも思って、止めた。戻るなんて無駄だし、何よりも癪だ。そうと決めたのはいいのだが、私はそう言った礼儀作法だとかが大の苦手なのだ。

 

「しょうがないか」

 

 諦めよう。どうせ私が失敗して総督にどうこう言われようと評判が下がるのはどうでもいい私の貴族における評価と本国の父さんなのだから。それによる私への貴族の“振る舞い講座”を考えると憂鬱にもなるというものだが。

 

「失礼します」

「はい。どうぞ」

 

 総督がまだ幼い事は知っていたが、その声は幼いだけではなく優しい人物像が連想された。典型的なお嬢様という事だろうか。政庁の総督室。と、言ってもナナリー総督は着任仕立てなのでただのデスクトップと変わりなかった。

 

「お初に御目に掛かります総督。私はラウンズ11―」

「カレンさん!」

「…はい?」

 

 またか。それが正直な感想。ナナリー総督も呼んだ正体不明のスザクの『昔の』友人。憂鬱の種であるというのはどうやら私の気のせいでは無いようだった。

 

────────────────────────────────

 

「C.C.ルルーシュの居場所に心当たりはないか」

「坊やの居場所など、本人に聞けばいいだろう」

 

 ライは潜水艦のゼロの部屋で仮面を放り上げて遊んでいるC.C.にそう問いかけた。

 

「先ほどからかけているが返事がない」

「放っておいてほしいということか?」

「…そうだとしても、今はゼロが必要だ」

 

 ライの口調は硬い。そんなライの様子を見て観念したようにC.C.は口を開いた。

 

「こういうとき、人は初心に帰りたくなるものだ」

「ゼロの始まり…シンジュクか」

「あり得る話だろう」

「ありがとう、感謝する」

「お前がこの仮面を被るつもりはないのか?」

 

 C.C.はゼロの仮面を刺指しながらそう言った。

 

「お前の能力とギアスの力があれば可能だろう?」

「…それはどうしようもなくなった時の話さ」

 

 ライは断言する。

 

「ゼロの仮面を僕が被る時はルルーシュから頼まれた時だけだ」

 

 ライはそう言って部屋を後にする。ゼロの仮面で遊びながらC.C.は思案する。王の力は孤独にする。だが、あの2人ならば或いはー

 

「全く、世話を焼かせる坊やたちだ」

 

 そう言うC.C.の瞳は穏やかなものだった。

 

────────────────────────────────

 

 ライが潜水艦を後にした後、シンジュクへと向かった。ライがまだバトレーの元に居たその頃、ルルーシュはここで彼の反逆を始めた。その始まりの地。あまり人が寄り付かず、再開発途中の工事現場にルルーシュは居た。

 

「ルルーシュ、探したよ」

「ライ…」

「辛いのは分かるが今は潜水艦にー」

 

 言葉の途中で、ライは見た。かつて自身が黒の騎士団に入りたての頃に焼却したその麻薬、リフレインがルルーシュの手に握られている姿を。

 

「…それは?」

「リフレインだ。知ってるだろう?これでー」

「ルルーシュ、喋るな」

「え?」

 

 ルルーシュが俯いた視線を上げた時、ライが跳ねた。そんな風にルルーシュには見えた。直後、ルルーシュとライの間にあった距離は0になり、ライの全体重を乗せた右ストレートがルルーシュの顔面に直撃した。

 

「っがは!」

「君は、君は何やってんだ!」

 

 ライに殴られたルルーシュは綺麗に吹っ飛び、顔面から地面に着地した。口の中を切ったのか、吐き出される唾には血が混じって見える。ルルーシュのダメージは見るからに重かったが、ルルーシュという人間は殴られたら黙っているタチではなかった。

 

「このっ!」

 

 ルルーシュは立ち上がり、ライの顔面目掛けて右ストレートを放った。ライは避けなかった。ばしん、と乾いた音が響く。ルルーシュの怒りを込めた一撃を食らったライは数歩のけぞって、それでもルルーシュを見つめ続けた。

 

「お前に何が分かる!?」

「分かるさ、ナナリーの邪魔をしたくないんだろう?」

「ああ、そうだ!俺の作ったゼロの仮面がナナリーの邪魔になるなら、俺は仮面を捨てる!」

「それが君の望みなのか?」

 

 ライはルルーシュの瞳を見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「俺の、望みはっー!」

 

 ルルーシュは言葉を紡ごうとし、しかし出来なかった。

 

「ルルーシュ、君がゼロの仮面を棄てるというなら、僕が仮面を継ごう」

「ーっ!?」

「でも、それが君の望みだとは思わない。ゼロの仮面はそんなに軽いものじゃない」

「…」

「ブリタニアはそう遠くないうちに潜水艦の捜索に出るだろう。その時までに決めてくれ。君が、仮面を棄てるのかを」

 

 ライはそう言ってシンジュクを後にした。友に必要なのは言葉では無く、時間だとライは思った。

 

「俺は、俺は…!」

 

 ルルーシュの嘆きは虚空へと消えた。

 

────────────────────────────────

 

「その様子だとルルーシュは元気な様だな」

「殴り返す気力があったのには安心したよ」

 

 月輪のコックピットにて、蛍火の調整をしているライを眺めながらC.C.はそう言った。

 

「私は、黒の騎士団に付き合うつもりだ」

 

 C.C.のその発言に、ライは驚いた様な顔をした。

 

「なんだその顔は。私にだって情はあるぞ」

「…ありがとう。でも、まだその覚悟は必要ないよ」

 

 ほう?とC.C.は口角を上げた。

 

「まだ策があるのか?」

「…ある。でも、これはどうしようも無くなった時の策だ」

「今はまだ余裕があるとでも?」

「正直に言えばない。でも、この策は僕がルルーシュから仮面を託された時に漸く判断する事だ」

「お前はまだ、ルルーシュの事を信じてるんだな」

 

 その言葉にライはとても意外そうにC.C.を見た。

 

「当たり前だよ」

 

 C.C.はその言葉に満足そうに笑みを浮かべた。

 

『こちらはブリタニア軍だ。黒の騎士団に告ぐ。全員武装解除して降伏せよ』

「…来たか」

 

 通信から聞こえるその声は、ライにとってよく知る存在であった。

 

────────────────────────────────

 

「ゼロはまだなのかよ!?」

 

 玉城の悲鳴にも似た叫びが警戒音がけたたましく鳴り響く海中の潜水艦のブリッジに響き渡る。だが生憎とその叫びに答えを持つ人間は艦内には居なかった。太平洋であれほどの騒ぎを起こしたのだから潜水艦の位置が傍受されていてもおかしくは無かったが、それにしても海軍の一個師団を使った機雷とポートマンによる徹底的な炙り出しは騎士団にとって大きな危機であった。

 

「このままじゃマズイだろうけど、打てる手もない。運任せかな」

「運任せって朝比奈ぁ!」

「騒いだ所で仕方無し。日本男児らしくどっしりと構えたらどうだ?」

「だからってよぉ!?」

 

 ドン!と、近くで機雷が爆発し、ブリッジを大きく揺らした。玉城の情けない悲鳴に対し、朝比奈や卜部と言った四聖剣を初めとする旧解放戦線のメンバーは騒ぐ様子すら無かった。扇も副指令として落ち着こうとはしているものの、残念ながら落ち着いているとは言い難い様子であった。そんな中、藤堂はレーダーをじっと見ていた。

 

「歯痒いですな」

「仙波…」

「機体がないとはいえ、あのように有望な若者が単騎で奮戦していると言うのに古兵上がりの我らがこうして見ているしかないとは」

 

 仙波は正に藤堂の胸中を言い当てた。ライは今、単騎で再びラウンズと渡り合っている。奇襲の知らせがあり、誰が止める間もなく飛び出したのだ。日本にいる騎士団のKMFがライの月輪しかないといえ、余りにも無茶な出撃であった。

しかも無茶が祟ったせいか、その動きは太平洋でのそれよりも明らかに精彩を欠いていた。

 

「仙波、俺は今の自分が情けなくて仕方ない」

「儂もです。ですが、今はただ認め、次の糧とするしかありません」

 

 藤堂は自分より一回り歳上の仙波の存在を有り難く思うのであった。

 

────────────────────────────────

 

 一方海上ではライがモルドレッド相手に苦戦を強いられていた。

 

『あらその程度?ちょっとガッカリしちゃうわ』

 

 オープンチャンネルであからさまな挑発を受けようとも、ライはまともに言い返す事すら出来ない。月輪は幸いにも五体満足。たがライは先程から太平洋とはまるで別人のモルドレッドに困惑している。

 

『ほーら行くわよ?そんなに休んでて避けられるかしら!』

 

 モルドレッドは太平洋での距離をとる動きとは一変。まるでミサイルやハドロン砲などオマケであるかのように殴りに来る。モルドレッドの全体重を載せたとてつもなく重い一撃を。ただ重いだけならライはフェイントを入れるだけで避ける事が出来る。モルドレッドの拳に対し、ライは月輪の細かな挙動のフェイントを掛け避けようとする。が、

 

『ミエミエよっ!』

「ぐうっ!?」

 

 とてつもなく重いモルドレッドのパンチが月輪をしっかり捉えていた。

 

『ほーら一本釣り~』

 

 モルドレッドは片方の手で月輪の足を摘み上げ、宙吊りにする。

 

「このっ!」

 

 ライはその足を掴んだ手に速射砲を向ける。

 

『あーら危ない!!』

 

 月輪が速射砲を撃つ前にモルドレッドは月輪を海面目掛けて投げ付ける。とてつもない衝撃に加えて強烈なGで意識が飛び掛けるのを堪えたライがモルドレッドを見上げるとそこには、

 

『シュタルクハドローン』

 

 四枚羽が既に展開し、充電を終えている。

 

『避けて避けて!じゃないと死んじゃうわよ?』

 

 言葉を出す隙すらなく、ライはシュタルクハドロンの射線から逃れる。一瞬遅れでシュタルクハドロンの膨大なエネルギーの濁流が水面で大きな爆発を起こす。

 

『あーらやだ。もしかして海中のポートマンも巻き込んじゃった?でも射線上にいる方が悪いわよねぇ~あなたもそう思うでしょ?』

「…っ」

 

 ライは息を整えるのに必死だった。それほどにライは追い込まれている。

 

『使ってよ、アレ。じゃないともう少しで死んじゃうわよあなた?』

 

 蛍火を使えと。そう言っているのだ。確かにライもそれしか手が無いのは分かっている。が、

 

(視界が…歪む)

 

 ライの今のコンディションでは多忙な集中力を要する蛍火はまず使えない。

 

『ノーか。ふーんそう。じゃあ今殺すね』

「…これはヤバいか…」

 

 その時、海中から大きな爆発が起こった。

 

『何!?』

「この爆発は…メタンハイドレイドか?」

 

 ライは爆発の原因が分からず、しかし爆発の理由になりうる原因を考え、そして正解にたどり着いた。

 

────────────────────────────────

 

「ぬぉぉ!何じゃこりゃあ!?」

 

 潜水艦のブリッジでやはり一番五月蝿かったのは玉城だった。ゼロからの命令で魚雷を放った先にあったのはメタルハイドレイド、メタンガスの一種の採取場だ。これにより水中にいたポートマンはおろか海上の戦艦を含めたブリタニアの海軍は大損害を被った。

 ロロの繰るヴィンセントの手に乗りながらゼロは現れた。絶体絶命のこの状況にありながらも、その姿がぶれることはない。

 

『ゼロ。君を逮捕する』

 

 スザクからの通信。

 

「逮捕?悪がそれは出来ないな、枢卿」

『この戦力差があっても抵抗する気か』

 

 まだゼロの真意を掴めていないスザクをゼロは挑発するかのようにわざとらしく笑ってみせる。

 

「まさか、私は勝ち目のない戦いはしたくもない」

『だったら!』

「行政特区日本だよ」

『っ!?』

「まさか自分の主が求めた事を忘れた訳ではあるまい枢卿?」

 

 ゼロは殊更勝ち誇るかのように高らかと宣言する。

 

「黒の騎士団よ!行政特区日本に参加せよ!」

 

続く

 

 

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