R-15な異世界(仮)   作:KWNKN

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奴隷商人になった少年のお話

 ここは剣も魔法もあって勇者も魔王もいる世界。

 そんな世界に、俺は15の時分、転生……転移? を果たして降り立った。

 

 この世界には冒険がある。浪漫がある。なんでもある。

 残念ながら俺は転生チートは貰えなかったが(言語だけ通じるようにしてもらえた)、転生チート俺TUEE勇者も、それをのさばらせない緻密な軍略をとるガチ系魔王も存在して……命を燃やす戦いが日々繰り返さているのだが……実は何でもある=何でも手に入るということでは決して無く。

 

 俺は神様とやらにもらった路銀を使い果たしてからは、零細奴隷商として糊口をしのぐ日々を送っている。

 

 ○

 

 奴隷商と言うと、エロいことをまず想像すると思う。

 ケモ耳娘で酒池肉林(ハーレム)作ることを想像したかと問われれば、「否定しない」とだけ答えておこう。俺も狐耳娘に「嫌じゃ! 人間の子など孕みTonight!」って言わせるシチュエーションに憧れた。

 

 だが、俺がそれをやろうとしても叶わなかった。

 

 ワリと後先考えずに奴隷商から狐耳娘を買い取った俺はーーーこの時、路銀の半分が消し飛んだーーーその娘と連れ込み宿に一直線、抵抗しないその娘の服を剥ぎ取り……傷だらけで、やせ細り、肋骨が浮き出た上半身を見て絶句した。

 わかるか? 可愛そうなのは抜けないんだ。

 つかまされた……そう気がついて、自分の浅はかさを呪った。

 いや、この世界の常識とか知らなかったからつかまされたかは微妙なんだが。

 

 そこで俺は考えた。可愛そうなのが抜けないのならば。

 

 どうせ、逃げ出す力は残っていないだろうと判断し、奴隷少女に服をもう一度着せると、ベッドに押し込んでタオルケットをかぶせた。

 

 大人しく待っていろと命令し、出かける。

 水と食料と、塗り薬と新しい服とを買い揃え……手持ちの路銀はそれらを買い揃えても全然余裕があった。奴隷って結構な相場なんだなって考えながら宿に向かう。

 

 獣人って何喰うかわかんないのでとりあえず一通り適当に買った食料を宿のテーブルの上に並べる。

 パン、干し肉、りんご、アジの開き……etc。

 少女は、もの欲しそうにしながらも、怯えた目で俺を見てきて動こうとしない……さっきの服剥ごうとするアクションがまずかったんだろうな。

 仕方ないので、ご主人さまの強権発動で脅して喰わせることにした。

 答えろ、お前は何が好物なんだ?

 

「……お魚」

 

 狐耳少女はか細い声で答えた。あ、見た目まんまなんだな。

 

 テーブルまで来い、って命令したが……ベッドの上の少女にそこまでの元気は無いようだった。ため息を1つ。少女がビクッとした。

 

 仕方ないので、少女をテーブルまで運ぼうと近づいたら、「……ごめんなさい、ごめんなさい」と怯えて謝ってくる少女。やっぱさっきの服剥ぐムーブが効いてるな。いや、自業自得ではあるのだが。

 

 身体に触ると、ビクッと震えて……とくに抵抗しないで抱き上げられた。可哀想に……抵抗するだけの体力が無いのだろう。何か泣けてきた。

 イスに座らせ、テーブルにつかせる。「……え?」と疑問の声を漏らす少女。

 

 顎でしゃくって命令する。テーブルの上にあるものは可能な限り全部食え、と。

 俺もテーブルの向かい側に座り、パンを小さくちぎって口に放り込んだ……かってーな、これ。

 固まったままの少女に、「喰わねーとお仕置きするぞ」って言ったら、一瞬ビクッと震えて、恐る恐るアジの開きに手を伸ばす。何で異世界にもあるんだろうなアジの開き。

 ゆっくりと口に近づけて……一口噛んだと思ったら、すごい勢いで貪り始めた。

 

「けほっ、けほっ……けほっ」

 

 と思ったら、喉に詰まらせてむせった。慌てんな慌てんな。

 ボトルの水をコップにあける。

 飲め、少女。……名前訊かないと不便だな。

 

 少女が一心不乱に水を飲み、アジの開きの2尾目に手を出しているのを傍目に、俺は干し肉をかじってみた。かってーな、これ。

 

 結局、俺が食えなかったテーブルの上の肉類はほとんど少女の胃の中に消え、俺がパンと格闘している間に少女は食事を終えていた。

 

 ○

 

 その後のことはまぁ、想像に難くないだろう。

 少女を少し寝かせた後は、水浴びをさせ、傷に薬を塗り、安いが、そこそこ清潔な服を着せてやった。

 

 そして、路銀に余裕がある限りはそれからもしっかり食わせてやるようにした。

 光源氏計画……というわけじゃないが、「かわいそうなのが抜けないなら、かわいそうじゃなくすればいい」という発想で、少女を養いふくよかにすることにしたのだ。

 

 なお、娼館行け、そっちの方が安上がりだろっていうツッコミはあると思う。R-25らしくて無理だったんだよ……奴隷は買えるのになんでだ……あと、「この世界で身分証明を行っての25歳」だから、俺が娼館通いできるのは40かららしいと聞いて絶望した。

 

 ○

 

 2ヶ月くらい養っているうちに、最初の怯えている感じは消えてきたが、同時に何か俺を見る少女の視線に、父を慕うような色が見え始めて……やめろ、そんな目で俺を見るな。

 

 押し倒した時に、「信じていたのに」…みたいな感じで鬱な感じになるのもダメなんだよ俺。せめて、「ご主人さまのお望みならば……」って感じで。

 

 というか、最初に服剥いだこと忘れてないか?

 ああ、もう無理。上げて落とすとか俺にそんな外道な真似できるわけないだろ!

 

 ○

 

 すっかり少女が女の子らしい体つきになった頃、「あ、これ、本格的に抱ける空気じゃない」と悟った。奴隷少女ックスは良かったのかって? あれはテンションアゲアゲでちょっと自分を見失ってただけだし……傷だらけの身体を見てすぐ素面(シラフ)に戻ったし……。

 

 仕方ないので路銀が尽きる前後で狐耳メイド喫茶始めた。

 元は取り返さなきゃな。

 

 神様に貰った路銀はやっぱ結構な額だったらしく……ある意味これが俺の転生特典チートだったのかもしれない。最後に残った額を全部つぎ込んで、引退するという老爺から店を買い取った。

 立地はまぁまぁ。喫茶店というより、軽食と酒を出すわけだからバーなんだろうが、狐耳メイドいれば狐耳メイド喫茶でいいだろ。

 

 そうやって、ほそぼそと稼ぎつつ、紆余曲折あって、他にも奴隷少女を引き取って……やっぱり対応間違えて父親を見る目で見られるようになった。

 

 なお、この世界においての職業の肩書は「役人」「冒険者」「商人」「鍛冶屋」「農民」に分けられる。俺はバーで酒売ってるから「商人」の枠組みに入るらしいのだが、奴隷売買に手を付けているものは「奴隷商人」と特に区別されるらしい。買ってるだけで売ってないけどな!

 

 従業員の娘どもを買いたい……という輩がいないわけでもないが、金額を提示される度に鼻で笑って追い返している。

 俺が最初の少女を買った値段にも及ばん。そんな額で貴重な従業員どもを売れるものかよ。

 

「ふっかけてきてるのはそっちだろ! フザケてんのか!」

 

 そんな感じで凄んでくる輩も居たが……ここは冒険者のたまり場で、娘たちのファンも数多くできていた。

 交渉破綻したのに居座って喚こうとする輩は、他の客たちが有形無形の圧力をかけて追い出してくれる。

 

 そんなこんな、俺は「奴隷を売らない」奴隷商人……というかバーのマスターとして今日もこの世界で上手く……上手く? やっていけて……やれてもねーし、イくこともできてねーな。

 

 ◇

 

 Side:GIRL

 

 奴隷としては不幸なことに……私は教養とも言えない程度に文字を読み書きすることができました。

 以前のご主人さまの1人が、戯れに読み書きを教えてくれて、1冊の本を与えてくださったのです。

 多分、それまでで一番幸せだった時期。

 

 でも、そのご主人さまは他の貴族から養子を頂くことが決定すると、外聞が悪いからと言って、私を売り払われてしまいました。

 そして、私は虐げられる奴隷の日々に逆戻り。

 一度幸せを知ると、今の境遇が奴隷としては標準とわかっていても……心はすり減るものです。

 

 この世界には勇者も魔王も居ます。でも、きっと神様は居ません。

 自分の中の知識で考えられる範囲で、そう結論づけました。

 

 やせ細る度に安く、労働力として使えなくなっていくとさらに安く売り払われて……最後に私を買った商人は、私をパン1斤と同じ値段で買って、雑にケージに放り込んで私を売っていました。

 

 多分、次に卸されることはありません。ここで売れなかったら、私は……。

 

 そんなときでした。「お父さん」が現れたのは。

 

 ◇

 

 ふらりと店に現れたその客は、とても大人には見えませんでした。

 

「奴隷を1()()買いたい」

 

 そして、そんな奇特なことを言い出しました。

 

 この世界においての獣人奴隷の扱いは人のそれではありません。

 ()()ための存在であり、1匹2匹と数えるのが普通です。

 だから、そんな数え方をするとまるで……奴隷を人間と同じに扱っているような錯覚を受けます。いえ、ただの言い間違いだとは思うのですが。

 

 商人さんも怪訝な顔をしていました。

 

「いらっしゃいませ、お客様。どのようなご用途で?」

 

 そのお客さんは商人さんの質問にしばらく考えて答えました。

 

「愛玩用だ」

 

 愛玩……? 「玩」ってなんだっけ? 「愛」? ……『愛』? 

 言葉の意味を思い返そうとしましたが、「愛」、それが「慈しむ」という意味の言葉だったことを思い出して、ちょっと驚きました。奴隷を……慈しむ?

 

「承りました。では、メスの獣人種でどうでしょう?」

 

「頼む、見せてくれ」

 

 そんな遣り取りをして、そのお客さんが私の入っているケージの前に歩いてきました。

 よくよく見れば、摩れた感じのない、どこか世間離れした雰囲気の少年でした。整った顔立ち、というわけではないですが、十人並み……でも、優しい雰囲気を纏っています。顔の彫りがちょっと浅い……日本からの転生者でしょうか? 

 

 少しの期待を込めてそのお客さんの顔を見つめます。

 お客さんが私の視線に気がついて見つめ返してきました。

 

 しばらく黙考し、お客さんが商人さんに声をかけます。

 

「この狐耳っ娘を引き取りたい。……額を教えてくれ」

 

 そんな変な質問をしました。額なら、ケージの下に値札が下げてあるはずなのに……。やっぱり転生者で文字が読めないのかな?

 今の私の値段は、300コール……この世界ではパン3斤分くらいです。

 

「へ? へぇ……では……300コルほどになりますが……あっ」

 

 商人さんが私の値段を言い間違えました。

 コルはコールの10万倍の単位です。

 

「わかった、買おう。……確か一束で100コルだったよな……」

 

「あ、いえ、今のは……へ?」

 

 内心、息を飲みました。商人さんも目を白黒させています。

 

 お客さんは、背中の雑嚢から雑に札束を取り出して、カウンターの上に置きました。

 

「足りているか?」

 

「へ、へい! まいどあり! お、お待ち下さい! すぐにお出しますので!」

 

 商人さんはケージの鍵をガチャガチャと音を立てながら上げると、私を丁寧にケージの外に出してくれました。そして、小さく耳元で「しっかりご奉仕してこい」と命令をしてきました。

 

「じゃ、付いてきてくれ」

 

 そう言って、お客さんは……私が『お父さん』と慕う男性は私を店の外に連れ出してくれました。

 

 店をちょっと出て振り返ると、商人さんは慌てて荷物を畳んでいるようでした。

 

 ◇

 

 その男性は、宿に私を連れ込むと、最初に商品の状態を検分……つまり、私の身体をまじまじと眺めて、何かを考えているようでした。

 

「大人しく待っていろ」

 

 そう言って、しばらく出かけて、手に一杯の荷物を持って帰ってきました。

 

「答えろ、お前は何が好物なんだ」

 

 テーブルに買ってきたごちそうを並べながら、そんなことを尋ねてきました。

 

 それを見て、以前のご主人さまの1人が私にしていた憂さ晴らしを思い出しました。

 お腹ペコペコの奴隷たちの前で、とても美味しそうにご飯を食べて……骨をこちらに投げてくるのを、奴隷の皆で奪い合うのです。

 惨めで、悔しい思い出。じわっと、涙が滲んできます。

 またいじめられるんだ。そう思うと、本当は答えたくなんかありません。でも、答えないとどんな酷い目に合わされるか。

 お魚、と答えを口にします。

 

「よしわかった。テーブルまで来い」

 

 男性の言葉に震え上がりました。

 そんな、ちゃんと質問に答えたのに!

 

 その意地悪なご主人は、何か気に入らないことがあると、奴隷を呼びつけてムチで叩いて憂さ晴らしをする方でした。叩かれるためだけに呼びつけられるのが怖くて、すっかりご主人さまに呼ばれて近づいていくのが苦痛になってしまって……。

 

 足に力が入りませんでした。

 すると、男性がテーブルの方から近づいてきて……ごめんなさい、ごめんなさい……。

 

 男性の手が触れた時、ビクンと大きく震えてしまって……でも抵抗はしませんでした。したら、しただけ叩かれることを知っているから。

 

 男性は私に触れるとーーー優しく抱き上げて、私をテーブルに運びます。そして、やはり私を丁寧にイスに下ろすと……テーブルの向かい側に座ってパンをちぎり始めました。

 

「テーブルの上のものは可能な限り全部食え」

 

 小さく、「命令だ」と付け足して来ました。……え?

 どんな状況なのか把握できないでいると、「食わないとお仕置きだ」なんて脅かして(?)来たので、慌てて干し魚を手に取ります。

 

 え? え?

 

 毒味……という可能性はありません。獣人種は鼻がいいので、食べたら体に悪いものは顔に近づけただけで凄く嫌な感じがするのです。それに、先に男性が食べ物に手を付けるのでは意味がありませんし……。

 

 この人は何がしたいんだろう?

 警戒心を捨てることができず、なるべくゆっくりと魚を口に近づけていき……。

 

 一口かじったら、もう止まることができませんでした。

 

 

 

 私はこの日、お父さんに、愛玩奴隷として……『慈しまれるための奴隷』として買われました。

 

 

 

 後に知りましたが、300コルは貴族が貴族から養子を引き取る際の保証金額の相場だそうです。

 

 ◇

 

 私がお父さんに引き取られて数年が経ちました。

 紆余曲折あって、今現在、私にはたくさんの姉妹がいます。

 勿論、血の繋がった姉妹ではなく、お父さんが引き取ってきた元奴隷の少女たちです。 

 

 風の噂で聞きましたが、あれからお父さんに私を売った奴隷商人さんは隣国で大成功を収めたそうです。

 どうやら、私を取引した際のお金を元手に別の取引ルートを開拓したようで……今は奴隷商からは足を洗っているようです。

 何人かの少女は商人さんが奴隷商をやめて、本格的に拠点を隣国に移す時、お父さんの元に置いていった子たちで……「無料で奴隷を引き取れるか!」「引き取ってもらわないと困ります!」みたいな遣り取りがあったことを覚えています。

 結局、お父さんは月賦方式で姉妹たちの料金を支払う方向で話を付けたらしく、私を見かけると、耳元で「……良客すぎて良心が痛む」といって、商人さんは隣国へと旅立っていきました。

 

 名目上、お父さんは私達を「奴隷」として引きとっています。

 

 けれど。

 

「おい、ここのメイドは全員奴隷らしいな! 1コルで1匹売ってくれよ!」

 

 時折、お父さんのことをよく知らないでこの店に来る客が、下卑た野次を飛ばしてくることもあります。

 

「300コルだ。そこからはまからねぇ」

 

 お父さんはカウンターの内側から、グラスを拭く作業の手を止めずにそう返すのです。

 

「は、はぁ? 300コルだと!」

 

「1コルとか……ふっかけてくるな」

 

「ふっかけてきてるのはそっちだろ! フザケてんのか!」

 

「うちのメイドたちの価値がわからない奴は客じゃない」

 

 そう言って、会話を切ってしまいます。

 

「なめやがって! おい、嬢ちゃ……」

 

 怒りに任せて、近くに居た姉妹の1人に、その男が手を伸ばそうとして……

 近くの席についていた常連客さんの1人が足を引っ掛けて転ばせます。

 

「またこう言う輩か」

 

「メイドの価値がわかってないな」

 

「マスター、昼飯代おごってくれ。裏で〆てくる」

 

「……まぁ仕方ない。その代わり徹底的にな」

 

「話がわかるマスターで助かるぜ!」

 

 常連客の冒険者の皆さん……日本からの転生者が4人ほどで組んで男を連行していき……裏からくぐもった悲鳴が聞こえてきます。

 

 お父さんは決して私達姉妹を売ろうとはしません。

 お父さんは私達を……愛玩奴隷として、『家族』として引き取ってくれています。

 

 お父さんの人徳のおかげかこの店は大繁盛していて、常連客の皆さんが用心棒代わりになってくれるので、身寄りの無い奴隷はこのお店を尋ねれば安心、ともっぱらの評判です。

 

 なので、時折こんなこともあります。

 

「……あの、ここに来ればごはんもらえるって聞きました」

 

 まだ開店前の店の入口に1人の猫耳族の少女が立っています。

 まだ、6~7歳くらい?

 ボロボロの身なりで……どこからか逃げ出してきたのか、体中傷だらけです。

 

「……おなかペコペコです。だれか……ごはんをください」

 

 そう言って、両目に涙を溜めていました。

 その後ろから、常連さんの1人が顔を出します。

 

「マスター、このガキを向こうの通りで拾った。

 ……わかっていると思うが俺は宿なし冒険者で、女のガキは連れて行くわけにはいかねぇ」

 

 お父さんの方を見ると、眉間に手を当て、「またか……」って呟いていました。

 

「うちは託児所じゃねぇ。大体、俺が何で奴隷を引き取っているかわかっているだろ……」

 

 ……愛玩する(慈しむ)ためですよね、お父さん?

 私の呟きが聞こえていたのか、お父さんがチラッとこちらを見やります。

 

「……そんな期待する目で見るな」

 

 お父さんはそう言って、常連客さんの方に向き直りました。

 

「次、男のガキが来たら引き取り手を責任持って探してくれ。貸し1だ」

 

 常連さんが手を叩いて喜びます。

 

「それでこそ男の中の男! DTの中のDT! KWNKN(カイソウナノハヌケナイ)だ!」

 

 KWNKN……よく意味はわかりませんが、この店の常連さん達はそう言ってよくお父さんのことを称えています。お父さんは嫌がっているみたいですが。二つ名は勇者ぐらいにならないと持っていないのが一般的なので……それだけ尊敬を集めている証拠なのですが、何が嫌なのかはよくわかりません。

 

「次その呼び方したら出禁食らわすぞ。悪い、長女。

 その女の子の面倒を頼む。俺は店の準備で忙しい」

 

 お父さんはそう言ってまたグラスを拭く作業に戻ってしまいます。

 

 ふふ、お父さんのそういう迂遠な優しさが大好きです。

 男性にトラウマを持っている少女も多い関係で、お父さんは自分から引き取った少女の面倒を見ることはこの数年でやらなくなってしまったのです。

 置いてけぼりにされていた女の子を手招きして、お店の中に入れます。

 かつて私がそうしてもらったように、テーブルに座らせてあげると、何が食べられるのか尋ねました。

 

「……お魚が食べたい」 

 

 女の子は俯いたままそう言って、涙をこぼしました。

 

 思わずギュッと抱きしめてしまいます。

 もう大丈夫。その悲しさも辛さも、きっと今日で最後だから。

 明日からはきっと全部いい日だから。

 今は神様なんていないなんて思っているかもしれないけど……神様がいて、助けてくれたんだってわかるはずです。

 

 これが今の私とお父さんの日常です。

 時折、家族を増やしながら……今の私と姉妹たちは、お父さんの愛を受けて幸せに暮らしています。

 

 末の妹を取り返しに来た悪徳貴族と店の常連さんたちが戦いを繰り広げたり、常連さんたちが持ち込んだトラブルにお父さんが頭を痛めたり……何故かお忍びで魔王と勇者が酒を飲みにこのバーに立ち寄ったりするんですが……そういう話はまた次の機会に。





※奴隷少年もやって来るが、店の女の子に悪い虫付くのを嫌がる常連客たちが「冒険者見習い」扱いで引き抜いていく模様。

※続かない。

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