R-15な異世界(仮) 作:KWNKN
剣も魔法も……一応、エロいお店もある世界。
15歳の少年がそんなファンタジー世界に降り立つ時に考えることなんざ二つしか無い。……それは言い過ぎか? まぁ少なくとも、俺はそうだった。
一つはファンタジー世界で英雄になること。もう一つが可愛い女の子とキャッキャウフフすることだ。
全く、10年前の俺は可愛いもんだ。転生か転移といえばいいかはわからないが、特別な体験をしているのは「自分だけ」だと思いこんでいるのだから。
まぁ、最初にスキルを貰う時点でよく考えとくべきだった。派手な火力足り得るスキルを要求したら……「品切れじゃ」とか言われたからな。「そんなものはない」では無く「品切れ」って言われたんだ。勘の良いやつなら、そこで気がつくようなもんだが……。
仕方なく、俺は「英雄的活躍路線」を切り捨てて、「女の子とキャッキャウフフフ」するために使えそうなスキルを『在庫リスト』と書かれたファイルの中から探しだした。それが俺の特典スキル「ネガティブ
攻撃的感情か、仕掛けられた罠などの悪意の残滓の位置と種類を感じ取る第六感的スキル。
微妙に空気を読むのが下手な俺は、これがあれば女の子と楽しくお話をしているときに地雷を踏まずにすむ、と考えてこれを選択した。
で、なぜかそんな斜め上の選択が逆に功を奏して……火力持ちの日本人転生者がひしめく中、『貴重な探査スキル持ち』として、今日もパーティーメンバーとともにダンジョン攻略に精を出している。偶然、補助スキル選択で差別化する形になってしまったわけで。
それを悪い事とは思わないのだが……そうなるとわかっていたなら、他にもいろいろとスキルの選択肢はあったはずなのだ。味方の魔法スキルの威力に2倍がけするスキルとか、目の端にちらついていたし。
魔王との戦争で、戦線に立っている勇者は……マップ火力持ちらしい、とこの世界に降り立った後に知った。山消し飛ばしただの、海を割っただの、その火力の高さに関する逸話には事欠かない。そんなんだから、この世界の日本人達の間ではこっそり「人の形をした浪漫兵器」「特典ガチャの大勝者」「都市部に入れたくない男オブ・ザ・イヤー」と呼ばれていたりする。
それを知っていたらなぁ……2倍化スキル取って、どうにかして勇者と組むことを考えていただろう。今の状態で、人間側と魔王側の勢力は“拮抗”状態らしいから……人間側の切り札たる勇者の火力が2倍化すれば、あっという間に人間が勝って、俺は救世の英雄の仲間の一人として、名誉も女も欲しいだけ手に入ったんじゃ……なんて考えない日はない。取り逃がした魚が……でかすぎる。
○
ダンジョン深層から3日ぶりに帰ってきて、俺はマスターのバーで酒を飲んでいた。
「それでそれで? 今回はどんな収穫があったクマ?」
テーブル席で、横にはこの店のメイドの一人……常連の間では“三女ちゃん”と呼ばれている娘が、ジュース片手に俺の話を聞いてくれている。
「盗賊さんがドカンと一発当てて、私のこと早く買ってくれないと、私、他の誰かに買われちゃうクマー」
ケラケラと笑って冗談を言うこの三女さんは、熊耳族の女の子だ。俺が最初にこの店にやって来た時はこんな変語尾じゃなかったはずだが……酔った客に絡まれて変なことを吹き込まれたらしく……あざといキャラ付けを仕込まれたらしい。
正直、その酔った客とやらはグッジョブだ。
「お父様、ジュースをおかわりしてもよろしいですか?」
「……お客様にボトル入れてもらえ」
三女ちゃんのコップが空になったらしく、マスターと三女ちゃんがそんな遣り取りをする。
「盗賊さん、ボトル入れて欲しいけど……いいクマ?」
首を傾げておねだりしてくる三女ちゃん。
……ったく、いいところを攻めてくる。尊敬する相手には言葉遣いが丁寧になるというギャップもポイントが高い。ピンポイントで俺の好みを攻めてくるが、酔った客ってのは何者だったんだろうな。
俺は今回の稼ぎを頭の中で数えつつ、どれくらいの余裕があるかを考える。
まぁ、ここで数本ボトルを入れたところで……なぁ?
マスター、『蜂蜜と搾りたて黄金葡萄』の瓶をあけてくれ。
「やったー、盗賊さん大好きクマー!」
滅茶苦茶いい笑顔で三女ちゃんが腕を組んできてくれる……正確な年齢は知らないが、まだ見た目は12歳前後。胸とかは全然ないが、女の子に身体を押し付けられて、まぁ悪い気はしない。
特典スキルのおかげで、まわりの常連客から向けられた『嫉妬』と『敵意』の感情がビンビンと突き刺さるが、俺の優越感を増長させるスパイスにしかならない。
いや、いつも仕事終わりにはお話を聴いてもらっているからね……これくらい何でも無いよ。
「……えへへ。そう言われると照れるクマね」
……俺のセリフを三女ちゃんが「気障ったらしい」とか「ちょっとクサすぎる」とかって感じたら、俺のセンサーには引っ掛かる。反応は……ない。この照れた反応は本物だ。
あまり考えずにこのスキルを取って後悔もするが、女の子のマジ照れをそれとなく確認できるなら、このスキルでも良かったなと思う時もある。今とか。
その代わりに他の客からの敵意がいよいよ凄いことになっているが……他のメイドさん達がいる手前、ダサいことはできないと抑えているのが見なくてもわかる。
「……このロリコン野郎」
客の誰かが呟いた。ブーメランが頭に刺さっているのはわかっているか?
心の中で煽り返しつつ、気が大きくなってジュースの瓶をまたあけるようにマスターに注文する。
マスターがグラスを拭く手を止めて、ちょっと心配そうな目で俺を見て来たことに俺は気がつけなかった。……どうやら、『心配』とか『配慮』って感情は俺のセンサーに引っかからないらしい。
「……酔っているな。そこら辺で止めとけ」
全然酔ってねーよ! いいからマスタージャンジャンあけてくれ!
「お客さん太っ腹クマー! この調子で私も買うクマ?」
おう、ダンジョン攻略を終えた暁には、きっと……。
きっと……。
きっ、と……。
……。
○
気がついたら明け方だった。
俺はテーブルに突っ伏して寝ていて……身体が冷えないように肩から毛布がかけられている。
店の中には、もう誰もいなくて……テーブルの脇に並べられたボトルと、テーブルの上に昨晩の請求書が伏せられている。
あれ……俺、昨晩は何していたっけ……頭が痛い。
昨晩のことを思い出そうと記憶を巡らせる。
三女ちゃんにジュースを奢って……楽しく酒を飲んで……ネトリの波動を感じて……下手人のフェンサー使いを吊るそうとして……そこからの記憶がない。
……ちょっと悪酔いしてた気もするが、まぁメイドの子達に迷惑をかけたようじゃ無さそうだ。なら良しとするか。
立ち上がって帰り支度をする。さぁ、今回のお代は……と。
何気なく、伏せられた請求書をひっくり返す。
……そっと請求書を伏せ直した。おっと……マジで?
俺の今の手持ちをちょっと超えるくらいの額がそこには記されていて。
……メイドちゃんたちが誰もここにいなくて良かった。こんなクッソだせーとこ絶対に……特に三女ちゃんには見せられん。
俺は、
“ツケでお願いします……今度来た時にちゃんと払うので。このことはどうか三女ちゃんにはご内密に……”
店を出て、真っ直ぐパーティーメンバーの寝ている宿屋にメンバーを叩き起こしに行く。
よし、今日もひと稼ぎ頑張るか!
○
Side: “バーのマスター”
テーブルに残された日本語で書かれたメモをポケットにしまいつつ、ため息を一つつく。
だから止めておけと言ったのに。
確かに接待じみたことができるようにメイド達に教育してはいるが、三女のあれは少し行過ぎている。
それもそのはず……三女に接待の手ほどきをしたのは、自分ではなく、
自分のツボを三女に押し付けて、自分で泥沼にハマっていくのは……正直憐れとしか言いようがなく。
「フッフフーン♪ ジュース美味しかったクマー。またお仕事頑張るクマー」
ご機嫌に仕事に勤しむ三女の姿を見ていると、有り難くもあるのだが、ちょっと心配にもなる。あいつ、この子のせいで身を持ち崩すんじゃないか?
本人のたっての希望で、このことは三女には伝えていない。
おかげで、奴が見栄を張るたび、三女がそれを煽てて、それに気を大きくした盗賊がまた無茶な注文をして……。
店としては儲かるし、ちゃんと律儀に金は払ってくるから止めにくい。
でもいつか無茶して、もしかしなくても、ダンジョンの奥でくたばるんじゃないか?
ちょっと酒癖悪くても、
……まぁ、でも実際くっつけようとすると年齢差も二倍近くあるし、くたばってもらってた方が安心なのか?
※ダンジョン最奥の
※(ダンジョンを1人で攻略できれば)家族が増えるよ! やったね盗賊さん!