R-15な異世界(仮) 作:KWNKN
Side: “バーのマスター”
いつものようにグラスを拭いていると、カウンター席前に誰かが座った。
「久方ぶりだな御主人。早速だが、ジュースのボトルを1本あけてくれ」
「今日は金入りが良かったからよ! “蜂蜜葡萄” な! 水で割らないやつ!」
ちらと確認すると、その客は日本人の男と獣人族の少女の組み合わせだった。
片や、革鎧姿に、腰にこの世界では珍しい部類に入る “刀” を差している青年冒険者。
片や、ヨレヨレだが、ある程度の清潔感を感じさせる衣服に身を包んだ、おそらく三女と同い年くらいの狼耳族の少女。
俺の知る中では唯一の、「日本人の冒険者が拾った子供を連れ回している組み合わせ」だ。
その注文に応えようとして……数日前の盗賊と三女のことが頭を
すまん蜂蜜葡萄は在庫切れだ。来月頭の入荷を待ってくれ。
「はぁ!? そんなわけ無いだろ、蜂蜜葡萄だぞ! 誰があんなたけーの頼むっていうんだよ!」
狼耳族の少女の方がカウンターをバンバンと叩く。よしてくれ。子供の力でも壊れるときは壊れる。
常連の盗賊。そう教えてやると、ゲンナリした顔で「ああ……うん」と答えて、テーブルを叩く手を止めた。
「止めなよ」
止めたよ。止めたに決まってんだろ。
そのご機嫌な値段にかかわらず、ご機嫌な頻度でその瓶をあけていく客がいるせいで、この店での『蜂蜜と搾りたて黄金葡萄』の競争率はかなり高い。
今頃、蜂蜜葡萄指名率1位は、ご機嫌にダンジョンに潜って稼ぎに精を出していることだろう。
無理して死んでなきゃいいけど。
「……はぁ。シロップとリンゴのやつで」
少女は、呆れてため息をこぼし、この店の品揃えの中では中堅どころのボトルを注文してきた。
○
実を言えば、この少女は青年剣士からこの店に預けられていたことがある。
ほんの3週間くらいの話だが。
かと言って、俺がこの少女の面倒を見ていたかと言えば……そうでもない。商談で隣の国に出かけていて、俺が店に居ない時期と被っていたからだ。
そんときは、少女を受け入れた直後に店を空けて……俺が商談終えて店に帰ってときには、少女はもうこの店を飛び出していた。
「それが……こんなヒラヒラした服装なんて死んでもゴメンだ、って言ってて」
長女からそう聞かされる。どうやら、俺の趣味のメイド服がお気に召さなかったらしい。
店を飛び出してどこに行ったのかと思ったら、預けに来た青年剣士の元に戻っていたらしく、後日二人して謝りに来た。
「厚意を無駄にして申し訳ない」
「……勝手に飛び出してすみませんでした」
少女の方は渋々と行った様子だったが、ちゃんと二人で頭を下げて謝ってくる。
俺の監督責任不行届だから、お互い様ってことにしておいてくれ、と頭を上げてもらった。
強いて言うなら俺が留守の間、番を頼んでいた日本人冒険者どもも悪い。
それで、少女の預かりについては今後どうするかを尋ねてみた。
「俺が連れて行くことにします。多人数の目を掻い潜って、俺の元に帰ってきたことから……多分、この子は何らかのギフト持ちです。長じれば、俺なんかメじゃない剣士になりますよ」
青年剣士はカラッとした笑顔でそう答えた。
「……ふん。別にアタシは剣術なんかに興味はないけどな。腰の刀でも盗んで売り飛ばせば、こんなところでチマチマと稼ぐ必要も無いからついていくだけさ」
憮然とした様子でーーー狼の耳をピクピクさせていて「連れて行く」と言われたことに喜びを隠しきれていなかったがーーー皮肉を言う少女。
「それでかまわないさ。四六時中仕掛けてこい。俺の修行にもお前の修行にもなる。
ーーーこんなところ、と言ったことだけ御主人に謝りなさい」
「はーい、ごめんなさーい」
「すみません、今はこれで許してやってください」
丁寧に頭を下げる青年剣士。
俺より先にこの世界に来ているから、俺より年上のはずなんだが……何か妙に俺に対して腰が低い。
どうも、江戸の終わりから明治前後の日本から来た人物らしく、喫茶店とはいえ家持ちの俺を「屋敷持ち」みたいに扱っている節がある。多分、冒険者の自分は浪人、屋敷持ちの俺は長者様、みたいな感覚なんだろう。
常連連中と俺はこっそり、「ラストサムライ」と呼んでいるが……本人は「一角の人物になった折にそう呼んで頂ければ」と、取り合いはしなかった。何でも、「サムライ」には、「武士の中でも立派な人物」みたいな意味があるらしく、自分はまだその称号に見合う人間ではないから……と謙遜していた。
だが。
腰の刀は、確か「特典」だったはず。銘は「村雨丸
「サムライと言うならば……御主人がまさしくそうでござらんか?」
ラスト・サムライがそんな馬鹿げた返しをしてきて、俺は苦笑せざるを得なかった。
何がどうなったらそう見えるのか、今度こっそり聞かせてもらいたいものだ。
ハーレム築きあげるのに失敗して、せめてもと思い、店の娘たちに
「そういうことだから……マスター、アタシは大将について行く。
少しだけど世話になったことは感謝してる。姉さんにそう伝えといてくれ」
……俺には? 俺には感謝してねーの?
ああ、まぁうん。俺は何もしてねーな、と心のなか自分で自分にツッコみつつ、俺はラスト・サムライと生意気な少女のコンビを見送った。
それからというもの、月に一度か二度、この二人連れは食事をするためにこの店に立ち寄ることがある。
少女の方が、ウチのメイド達と話をするのが気恥ずかしいのだろう……テーブル席ではなく、必ずカウンター席に座って注文をしてくる。
それで店に二人が来るたび少女の方とは、なんとはなしに喋るようになって今に至る。
○
蜂蜜葡萄にありつけなかったことが相当不満だったのだろう。狼少女はヒートアップしていた。
「だから、ボトルに札を掛けておいてくれよ! うちの大将の名前でさ!」
いや、この店ではボトルに予約とか入れられないから。早いもの勝ちだから。
「この店、ボトル一本で焦げ付くほど零細じゃないだろ、どう見てもよぉ! ああ、もう!
じゃあ、前金置いていけばいいんだろ!? そうなんだよな!」
……えー、現物と即引き換えじゃなきゃ、あとでトラブルになりそうだからやだ。
「
カウンターテーブルをバンバン叩いて抗議する少女。
おっと、この話はそこまでだ。
俺は人差し指を口に当てて、狼少女に黙るようにジェスチャーで指示を出す。
「うーん? ツケをしているお客さんがいるクマー」
ツケ、というワードを聞きつけて、三女がひょこっと話に混じってくる。
「狼ちゃんご無沙汰クマー。……それでお父様、そんなお客様が?」
俺は首を横に振って、それを否定する。
そんなお客様はいないよ。安心していい。
「そうですか。それを聞いて安心しました。」
ああ、だからお仕事に戻りなさい。
「失礼しました。……狼ちゃんも、またね、クマー」
一礼すると、三女は鼻歌を歌いながらテーブルを拭く作業へと戻っていった。
「ツケは良くないクマー♪ ツケ撲滅運動推進中クマー♪」
……うん、まぁ、知らぬは本人ばかりというやつだ。
狼少女がジトッとした視線を俺に向けてくる。
「なぁ、マスター。
……おいおい、俺にそんな目で見られて喜ぶ趣味は無いんだが。
気まずいのを誤魔化して、冗談を口にする。
「
俺の冗談は狼少女を煽る結果にしかならなかった。
背後の三女を親指でクイクイと指さして、俺に脅しを掛けてくる。
えー……俺に小さい女の子にいじめられて喜ぶ趣味は無いんだが……。
流石にこれは口にしなかった。目がマジだったからな。
仕方なく、『蜂蜜と搾りたて黄金葡萄』のボトルを取り置きしておくことを約束させられ、ラスト・サムライと少女は帰っていった。
そういや、ラスト・サムライ……終始空気だったな。俺と少女の遣り取りを微笑して見ていたが……見てないで止めてくれよ保護者さんよぉ……。
※多分書くことはないですが、盗まれるのを警戒して刀を抱いて寝ている男と、寝ているときなら油断しているに違いないとベッドに潜り込む少女……多分夜這いにしか見えないんですよね、とくだらないことを考えたりします。