R-15な異世界(仮)   作:KWNKN

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※バーの関係者は不在回


閑話:多分ギルド職員になる少年のお話

 剣と魔法はあるが……勇者が普通に戦略兵器過ぎて、戦場に混じる気が失せる世界。

 

 異世界に行くことを勧められた時、「とりあえず主人公的活躍」か「適度にモテること」を目標にその世界に行けばいいことはわかった。「冒険投げ捨てた普通の生活」とか考えている奴は異世界生活に向いていない……こともないか。バーのマスターがその成功例みたいなもんだし。

 

 俺は、できれば「活躍してモテたい」……と考えて、ちゃんとそこで一回立ち止まった。転生者が複数いることや、勇者魔王の世界観であること、俺の向こうでの社会的立ち位置はどうなるのとかをちゃんと確認してから、俺はスキル選択をすることにした。

 

 説明聞いてて思ったんだが……催眠スキルとか強そうだなって思った。

 状況次第なところはあるが、効きさえすれば戦闘に勝利できる勝ち確スキルでもあり、エロいことへの応用は留まるところを知らない同人誌御用達スキルでもある。

 

 特典のリストにざっと目を通したあと、リスト以外にも洗脳スキルかが無いか訊いてみたが、答えは「それを渡すことは現在できない」だった。

 

 ない、じゃなくて、できない?

 

 老人の姿した神様が語ってくれたところによると、以前、それを手にした転生者がちょっと()()()()()らしい。

 やらかしたって言ってもな……特典の類を一通り見せてもらったが、MMORPGであれば1個突っ込むだけでメタ環境塗り替えるレベルのバランスブレイカーもチラホラ混じっていた。

 剣術強化とかめっちゃ強いじゃん。これ広域火力以外になら無敵なのに、これがありで個人で悪用するに留まるレベルの洗脳が駄目なのはどうしてだ?

 素直な疑問を口にしたところ、老人は渋々と言った様子で「自分の過去の失敗」について語ってくれた。

 

 どんな相手にでも、どんな要求でも『1回に限り』必ず通す特典は確かにあった。

 絶世の美女に求婚すれば、その男は世界で一番の幸せものになれるであろうし、魔王に使えば、世界の半分を手に入れるも同然のスキルであった。

 冒険の初期に使えばろくに恩恵を得られず、しかして可能性は無限大にも等しい。1回だけ、という制限をつけたことでバランスを保っていた()()()()()()

 

 苦虫を噛み潰したような表情で老人が吐き捨てる。

 

「……よりにもよって、『勇者』の奴は、それをわしに使って、特典のことごとくを強奪していったのだ!」

 

 普通は、枯れた老人に『洗脳』をかけようとか思わないし、特に思春期真っ只中のはずの15の少年がそれをやるとは誰が予想できるだろうか。

 勇者の『偉業』に、ヒュー、と思わず口笛を吹いてしまう。 

 神様から貰った力で神様を出し抜く。ギリシャ神話でそういうの読んだことあるな。

 

「……悪用するのはかまわんが、『打ち出の小槌』みたいになりそうなものは最初から外してある」

 

 そう言われてリストに目を通してみたが……確かにそんな感じのラインナップだった。

 うわー、今どれを選んでも勇者の下位互換にしかならないのか……。

 

 急にチートの類が全部馬鹿馬鹿しいものに成り下がった気がして……せめて、勇者と被らないように老人に確認を取りつつ、俺は、『偽証(ウソ)焼却機』というスキルを選択した。

 俺が口にした質問に、相手は絶対に嘘で返すことができなくなる、耐性突破の洗脳系スキル。一応、言葉を返さないなどの対策があるため、『初見殺し』の限定用途スキルだ。別に殺さないけど。

 割とやけっぱち気味に選んだけど、結構強い気はする。情報が武器になる基盤さえあれば、人の命さえ奪いかねないスキル。まぁ、一番危険なのは余計な真実知ってしまう俺なんだが。

 誰かしら権力者に取り入り、ファンタジー世界観無視の政治ゲーにでもなればいいなー程度のフワフワした想定で俺は世界に降り立った。正直、戦争の方は勇者に任せた。

 

 ……そして俺は、異世界に降りて速攻で妖怪ババアに捕まった。

 

 ○

 

 俺は何をしてしまったかと言えば、何も悪いことをしていない。

 セオリーとしてギルドに立ち寄り、女性職員にバストサイズを吐かせることでスキルを証明してみせた、ただそれだけなのだ。

 

 担当の女性職員は、ちょっと赤面しながら、『特定分野のスキル保持者が登録に来た場合のガイドライン』とやらに従って、俺をギルドの奥の部屋に案内した。

 

「あの……これから会う方には、失礼のないようにお願いします」

 

 女性職員は俺にそう釘を刺してくる。

 

「この扉の先に居られるのは……ギルドマスターです」

 

 そう言われて、通された先にいたのが妖怪ババアだった。

 10歳前後の見た目。ピシッとした黒スーツ。銀髪。髪の間から覗く一対の白い狐耳。属性の塊みたいな見た目だが……お約束通りなら幼女ではありえない。

 挨拶もそこそこに、実際何歳なんですか? なんて質問を投げかけてみた。完全に不意打ちだったのだろう。

 

○○○○(ピーーー)歳じゃが……ハッ、貴様!」

 

 なんだ、ババァか。

 ……口には出していなかったはずなのに、何故か青筋立てた偽証ロリの魔法で()巻きにされていた。

 

 さすがに女性に年齢訊いたのは悪かったと思い、床に転がって一応謝りはしたのだが……正直、頭の中では「○○○○歳なのに大人げないな」とか、「ロリに偽装すると、かえって歳を気にしていることがまるわかりなのでは?」とか、余計なことばかり考えてしまう。

 

「……覚えておけ、小童(こわっぱ)。魔法耐性が皆無な今の貴様の頭の中は、全て(わし)に筒抜けじゃ」

 

 マジか。

 

「いずれわかることじゃから、先に教えておいてやろうかの。

 賭け事も、色恋も、(まつりごと)も、高度な駆け引きとなると、この世界では魔法の存在を前提として行われておる。

 公的な場での発言は、必ず魔法に対するジャミングを事前に敷いてから行うのが常じゃ。

 ……お前の()()は、儂の耐性を突破しおった。最高峰の自白強要魔法じゃ。

 用途は限定的じゃが、事前情報無しでは対策できない、鬼札も鬼札よ。

 日本人は火力を尊ぶところがあるからのう……お主と似たような能力を持ったものは、儂が知る限り、過去に()()しかおらんかったよ。

 さぁ、貴様はここに来るまでに何人にその術を開示して来たのじゃ?」

 

 まだ、さっきの女性と、目の前のアンタにしか……。

 そう俺が口にする前から、偽証ロリは喋りだす。

 

「……ほう? まだあの女子(おなご)と儂にしか使っておらんか。

 よしよし。あとであの娘には、『胸囲を聞き出すだけ』のしみったれた能力じゃと暗示を掛けておこうかの」

 

 目の前の偽証ロリが、さらっと物騒なことを言い出した。

 え? 日本人のチート持ちじゃなくて、アンタが洗脳術を使うのかよ。

 

「安心せい、お主には使わんよ。スキルの精度は精神と肉体の影響をもろに受けるからのう。珠玉のスキルに万一でも傷をつけたくないでな。

 ……言われずとも、あの娘にも手荒な真似はせんし、むしろ暗示を掛けない方が危険なのじゃぞ?」

 

 偽装ロリが小首を傾げながら、説明を続ける。 

 

「だってのう? 

 お主のそれは……どう考えても貴族を失脚させるためにあるスキルじゃろうて」

 

 それから後の具体的な説明に、「あ、これ俺もやらかしたっぽい」とようやく気がつく。

 

 スキルで貴族の悪事を暴く→口頭質問でしか効果を発揮しないスキルなので、質問した下手人として認知され恨みを買う→ジ・エンド

 

「お主のそれは……自身を守ってくれる後ろ盾があってはじめて意味を成すスキルであり、使いすぎては意味がないスキルであり、なのに、現実的にはそのスキルで成りあがる前に消されるのがオチじゃろうて。

 ……よく考えずにそのスキルを選んだことがバレバレじゃ」

 

 ああ、全くもってそのとおりだ。

 ……ちなみに、俺と似たような能力を持ってたって人はどうなりました?

 

()()()()()。おっと……貴様はもう喋るな。

 貴様に質問をされるとぼかすことができんのでな」

 

 魔法でさらに猿ぐつわを噛まされる。

 

「何。あのときに比べて儂ももう少し気をつけるようにはなった」

 

 最悪だ。その言い方だと、そいつはアンタのせいで死んだっぽいな。

 俺の非難を……俺の頭の中を読めていると言っているくせに、無視して偽証ロリは続ける。 

 

「喜べ小童。時期が来るまでは儂が飼うてやろうぞ」

 

 靴を脱いで、裸足で俺の頭を踏みつけてくる。

 

「ようやく、あやつの仇をとれるのじゃな。ああ、首を洗って待っておれ……」

 

 どこか陶酔した様子で……俺の知らない敵相手に呪詛を吐く、偽証ロリ。

 誰の仇をとるかは知らんが……俺を巻き込まないでくれ。

 

「……それはできない相談じゃ」

 

 俺の『思考』に反応した偽証ロリが、俺の頭の上で足をグリグリとしてきた。

 

「ああ、精々可愛がってやるとも……五十と幾年かぶりの自白術士じゃ。

 貴重なことはよくわかっておる。ああ、わかっておるとも。

 例え、開幕でレディの(よわい)を尋ねてくるような不届き者でも、殺しはせんとも」

 

 殺しはしない……そう言われて、俺は少しだけ強気に出ることにした。

 

 ご褒美のつもりか? ババアに踏まれて喜ぶ趣味は無いんだが、思い上がるなよ……そう頭の中で罵倒する。

 

 次の瞬間、思いっきり側頭部を蹴りぬかれて、俺の意識は闇に落ちた。


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