悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の四

 けたたましいオールラウンダーの叫びによって、一斉に跳ね起きたゴブリンどもは、罵声と共に彼へと殺到する。

 

「ああ、もう……!」

 

 覚悟を決めた貴族令嬢は、腰元から剣を引き抜きつつ、

 

「《聖光(ホーリーライト)》で光源を確保! 呪文と奇跡で援護してください!」

 

 僧侶と魔術師へ呼びかける。

 

「あたしは、弓矢でってね!」

 

 圃人が矢をつがえるのへ、貴族令嬢は力強く頷いた。

 果たして、遅れて広間に飛び出した貴族令嬢は、なるべく声を出さず、少年へ夢中となっているゴブリンどもの不意を突いていった。

 しかし、斃す数が多くなると、それだけ血脂で剣が鈍る。

 無論、拭っている暇などない。

 手早く長剣を鞘へ納めると、傍らの骸から棍棒をひったくり、これを振るう。

 二匹の頭蓋を砕いたところで、棍棒も限界を迎える。

 ならば、今度は石斧で……。

 次々に得物を変えていく貴族令嬢。その僅かな隙を補うのは、後方からの支援。

 只人僧侶が灯した明かりを頼りに、圃人斥候が矢を放ち、それでも貴族令嬢へ襲い掛かる影があるなら、森人魔術師が術を放つ。

 ゴブリンどもとて、その三名を無視するわけがないが、それへ向かおうとすると、今度は貴族令嬢が襲い掛かってくる。

 だが、数で押しきれば……。

 ちっぽけな頭でそんなことを思考していたゴブリンどもへ、檄を飛ばす存在が。

 広間の奥で眠っていた、大柄のゴブリン……奴らの中での白金級。英雄(チャンピオン)である。

 頭の叱咤を受け、ゴブリンどもは死に物狂いで迫ってくる。

 さすがに息を切らせた貴族令嬢へ、後方の支援をも掻い潜ったゴブリンが飛びついてきた。

 

「ぐっ……」

 

 一匹に手間取ると、あとは一気に迫ってくる。

 殴りつけられ、装備を剥がされようとする貴族令嬢だったが、

 

「こんにゃろ!」

 

 割り込んできたオールラウンダーが、群がるゴブリンどもを蹴散らしていく。

 

「おい。だいじょうぶか」

 

 差し出されたオールラウンダーの手を、

 

「あなたが突然飛び出したりするから……」

 

 愚痴をこぼしながら、貴族令嬢は掴む。

 その間にも、未だ数の上で有利を誇るゴブリンどもが殺到する。

 すると、何を思ったかオールラウンダーが、

 

「こっちだ!」

 

 貴族令嬢の手を引き、圃人たちのいる方へと駆けだした。

 

(確かに、今は撤退した方がいい……)

 

 無数のゴブリンがいることは覚悟していたが、あの大柄種はいかなオールラウンダーといえども手に負えそうにない。

 洞窟を出て、一旦立て直しを……。

 そのうち、圃人たちをも連れて、オールラウンダーは先の三方の分岐点まで引き返し、

 

「よし!」

 

 頷くや、くるりと後方を見た。

 せっかくの獲物を、取り逃がすゴブリンどもではない。

 それに、オールラウンダーが背を向け走り出したのを、自分たちに恐れをなしたと勘違いしているのである。

 

「に、逃げるなら早くしようよ!」

 

 焦る圃人には答えず、オールラウンダーは徐に両手を前に突き出し、

 

「か……」

 

 小さく呟く。

 

(何かの呪文……?)

 

 貴族令嬢が訝しんでいる間に、オールラウンダーは突き出した両手を重ねるようにして、腰元へ引き寄せつつ、

 

「め……」

 

 またもや呟く。

 瞬転。彼の掌に、青白い炎が灯った。

 

(なんだ……この力は……?)

 

 見たこともない術に戸惑う森人を他所に、

 

「は……」

 

 少年が力を込めて呟くと、青い炎は更に激しさを増していく。

 僧侶は、生命力あふれるその炎に見惚れ、ゴブリンが迫るのも忘れていた。

 

「め……」

 

 果たして、ゴブリンどもが眼前に迫ったところで、

 

「波ぁ!!」

 

 少年が勢いよく腕を突き出した。

 それと同時に、青い炎が尾を引いてゴブリンどもへ向かって行く。

 激しい生命力の波が、瞬く間にゴブリンどもを呑み込み、骨すら残すことなく、消し去ってしまった。

 

「どうだっ! これでけっこうやっつけただろ」

 

 得意げになった少年は、再び背中の棒を引き抜き、

 

「よしっ! 突撃だ!」

 

 一党へ発破をかけると、またしても奥の広間へと向かって行く。

 

「……わ、私たちも行きましょう、か……」

 

 貴族令嬢が呟くのへ、かろうじて頷いた三名もまた、洞穴の奥へと進んでいった。

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