けたたましいオールラウンダーの叫びによって、一斉に跳ね起きたゴブリンどもは、罵声と共に彼へと殺到する。
「ああ、もう……!」
覚悟を決めた貴族令嬢は、腰元から剣を引き抜きつつ、
「《
僧侶と魔術師へ呼びかける。
「あたしは、弓矢でってね!」
圃人が矢をつがえるのへ、貴族令嬢は力強く頷いた。
果たして、遅れて広間に飛び出した貴族令嬢は、なるべく声を出さず、少年へ夢中となっているゴブリンどもの不意を突いていった。
しかし、斃す数が多くなると、それだけ血脂で剣が鈍る。
無論、拭っている暇などない。
手早く長剣を鞘へ納めると、傍らの骸から棍棒をひったくり、これを振るう。
二匹の頭蓋を砕いたところで、棍棒も限界を迎える。
ならば、今度は石斧で……。
次々に得物を変えていく貴族令嬢。その僅かな隙を補うのは、後方からの支援。
只人僧侶が灯した明かりを頼りに、圃人斥候が矢を放ち、それでも貴族令嬢へ襲い掛かる影があるなら、森人魔術師が術を放つ。
ゴブリンどもとて、その三名を無視するわけがないが、それへ向かおうとすると、今度は貴族令嬢が襲い掛かってくる。
だが、数で押しきれば……。
ちっぽけな頭でそんなことを思考していたゴブリンどもへ、檄を飛ばす存在が。
広間の奥で眠っていた、大柄のゴブリン……奴らの中での白金級。
頭の叱咤を受け、ゴブリンどもは死に物狂いで迫ってくる。
さすがに息を切らせた貴族令嬢へ、後方の支援をも掻い潜ったゴブリンが飛びついてきた。
「ぐっ……」
一匹に手間取ると、あとは一気に迫ってくる。
殴りつけられ、装備を剥がされようとする貴族令嬢だったが、
「こんにゃろ!」
割り込んできたオールラウンダーが、群がるゴブリンどもを蹴散らしていく。
「おい。だいじょうぶか」
差し出されたオールラウンダーの手を、
「あなたが突然飛び出したりするから……」
愚痴をこぼしながら、貴族令嬢は掴む。
その間にも、未だ数の上で有利を誇るゴブリンどもが殺到する。
すると、何を思ったかオールラウンダーが、
「こっちだ!」
貴族令嬢の手を引き、圃人たちのいる方へと駆けだした。
(確かに、今は撤退した方がいい……)
無数のゴブリンがいることは覚悟していたが、あの大柄種はいかなオールラウンダーといえども手に負えそうにない。
洞窟を出て、一旦立て直しを……。
そのうち、圃人たちをも連れて、オールラウンダーは先の三方の分岐点まで引き返し、
「よし!」
頷くや、くるりと後方を見た。
せっかくの獲物を、取り逃がすゴブリンどもではない。
それに、オールラウンダーが背を向け走り出したのを、自分たちに恐れをなしたと勘違いしているのである。
「に、逃げるなら早くしようよ!」
焦る圃人には答えず、オールラウンダーは徐に両手を前に突き出し、
「か……」
小さく呟く。
(何かの呪文……?)
貴族令嬢が訝しんでいる間に、オールラウンダーは突き出した両手を重ねるようにして、腰元へ引き寄せつつ、
「め……」
またもや呟く。
瞬転。彼の掌に、青白い炎が灯った。
(なんだ……この力は……?)
見たこともない術に戸惑う森人を他所に、
「は……」
少年が力を込めて呟くと、青い炎は更に激しさを増していく。
僧侶は、生命力あふれるその炎に見惚れ、ゴブリンが迫るのも忘れていた。
「め……」
果たして、ゴブリンどもが眼前に迫ったところで、
「波ぁ!!」
少年が勢いよく腕を突き出した。
それと同時に、青い炎が尾を引いてゴブリンどもへ向かって行く。
激しい生命力の波が、瞬く間にゴブリンどもを呑み込み、骨すら残すことなく、消し去ってしまった。
「どうだっ! これでけっこうやっつけただろ」
得意げになった少年は、再び背中の棒を引き抜き、
「よしっ! 突撃だ!」
一党へ発破をかけると、またしても奥の広間へと向かって行く。
「……わ、私たちも行きましょう、か……」
貴族令嬢が呟くのへ、かろうじて頷いた三名もまた、洞穴の奥へと進んでいった。
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