「誰も死んでねぇんだからよかったじゃねぇか」
オールラウンダーにそう励まされても……いや、オールラウンダーにそう言われたからこそ、少年は気落ちするばかりであった。
夜。辺境の街の冒険者ギルト……その内の酒場において、依頼を達成した小さな冒険者一党は祝杯をあげていた。しかし、その中で女神官と少年魔術師の二名は、どこか浮かない顔つきなのである。
二人の意気消沈の理由は、能天気な態度ながら目元を包帯ですっかり隠してしまっているオールラウンダーにあった。
戦場において小鬼の卑劣な罠にかかったオールラウンダーは、街医者の見立てで完治するまでにひと月の後遺症を目に受けてしまったのである。冒険者にとってこれはかなりの痛手ではあるのだが、
「いやいや。普通なら失明しててもおかしくはないですよ。ゴブリンの使う毒は調合が滅茶苦茶なのだが、それ故に厄介なところもありますからね」
と、診察した医者はむしろオールラウンダーが完全に視力を失っていないことに驚いていた。
実際のところ、このさき一生の失明を避けられたことは幸運なことであるのだが、オールラウンダーの姿を見るたびに女神官は、
(もっと皆の行動を把握できていれば……そして、もっと的確に指示を出せていれば……)
己の不甲斐なさを終わりなく悔いてしまうし、本来毒を浴びるはずであった少年魔術師も、
(俺があの時、勝手に動いてなければ……)
最初の頃とは打って変わり、勝気な態度は鳴りを潜め、言葉数も少なくなっていた。
妖精弓手をはじめとした熟練の冒険者たちも、まさかに初めから完璧に依頼をこなせるとは思っていなかったのだが、よりによって一大戦力であるオールラウンダーだけが傷を負ってしまったことが意外であったし、それがしばらくの日常生活に支障をきたすものであっただけに、下手に励ますこともできなかった。
「ねぇ、ゴクウ。無理しなくてもいいんだよ……?」
圃人野伏がオールラウンダーの傍に来て、そう囁いた。
しかし、オールラウンダーにそのつもりはなかった。事実、今回の依頼では誰も死んではいないことだし、自分の目にしても一生光を奪われたわけではないのだ。いや、仮にそうなってしまったとしても、多少なりとも悔しがったり残念がったりはするだろうが、
「ま、いっか」
の一言で後腐れなく済ませそうなのがオールラウンダーであった。
「べつにオラ、ムリなんかしてねぇ。目だっていつかなおるんだし」
匂いを頼りに料理を引き寄せては手づかみで頬張るオールラウンダーが楽天的にそういった時、対面にいた少年魔術師が手元のテールをぐいと飲み干し、
「なんでだよ!」
そう叫ぶや、いきなり円卓を叩いて立ち上がった。
その目は鋭いが、どこか悲しそうにオールラウンダーを見つめている。
「いっそ強く言ってくれればいいじゃねぇか! 『お前のせいで目が見えなくなった』って! なのに……なんでそんなに明るいんだよ!」
そこまで言った後、少年は荒い呼吸をそのままに、逃げるように酒場を後にしてしまう。
「ちょっと!」
姉である女魔術師がその後を追いかけていき、残された一同には重い沈黙がのしかかってきた。
(まぁ、若いうちはそんなもんじゃろうて)
経験豊富な鉱人道士は、なにとなく少年の胸の内を察していた。
罪悪感にとらわれている彼は、いつか来るかもしれない、
「お前のせいだ」
という非難の声を恐れ、びくつき、しかし誰も自分を責めない現状に焦らされ、しびれを切らせてしまったのだ。
己の過失が目に見えていて、なおかつそれが誰かを傷つけたものであったのならば、彼の胸中も少しは理解できようというものであった。
しかし、
「……なんであいつ怒ってんだ?」
オールラウンダーは心底不思議そうに首を傾げるより他になかった。
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