それから一週間の時が経ち……。
未だ建設途中ではあるが、試験的に訓練場が運用されることになった。
「辺境最強」である槍使いや、「辺境最高」の
意外なことに、訓練場にはゴブリンスレイヤーの姿もあった。
彼は、特に非力な神官職や魔法使いといった役職の娘たちへ、
そんな上級の戦士たちに混じり、他の冒険者へと稽古をつけている者が一人。オールラウンダーである。
彼は、同じく武道を志す女武闘家と、己が与する一党の頭である貴族令嬢から「かめはめ波」の撃ち方を教わりたいと懇願され、一度は断ろうとも思ったのだが、
「小僧。他人に技を教えることも立派な修行よ」
ふと歩み寄ってきた鉱人道士にそう諭され、漸くに首を縦に振ったのである。
……と、ここまではよかったのだが。
そもそもオールラウンダー、かめはめ波を呼吸するがごとくの意識で放っている節があり、技発生のプロセスをうまく言語化することが出来ないのである。
「……ゴクウの師匠は、どうやって教えてくれたの?」
女武闘家が助け舟を出してみたが、
「亀仙人のじっちゃん、べつにかめはめ波を教えてくれたわけじゃねぇからなぁ……。じっちゃんが山の火を消したときに、見よう見まねでやったらできるようになっただけで……」
見事に船は沈没してしまった。
感覚派天才の悲しき定めか。これでは修行も何もない。
そこに、再び鉱人道士が現れた。
「なんじゃい。早くも行き詰まりかい」
日も高くから酒瓶を飲み明かしている彼は、赤ら顔でオールラウンダーに歩み寄る。
「じっちゃん。オラ、教えるっていっても、どうやって教えればいいのかわからねぇんだ」
「……? わからねぇって……そのカメなんちゃらを出してる時の感覚を教えてやるだけじゃねぇか」
「それがわかんねぇ」
「……」
さすがに閉口してしまう鉱人道士であったが、そこで次の提案が浮かぶのが年の功といったところか。
「だったら、やることは一つだな」
「……なにすりゃいいんだ?」
「決まってらぁ。説明できるまで、カメなんちゃらを撃ち続けるんだよ」
「ええっ?!」
「単に撃ちまくるんじゃねぇぞ。一発一発、ちゃんと自分の中身を見つめて、意識して撃つんだ。そうすりゃ、嫌でも言葉にして話したくなるさ」
「そんなことやってたら日が暮れちゃうよ!」
「バッキャロウ。人に教えるための基本が出来てねぇんだ。一からやるしかねぇだろ。日が暮れるだけなら可愛い方だ。一生出来ねぇかもしれねぇんだからな」
そういい終えると、鉱人道士はまたふらふらと別の場所へと歩いて行ってしまう。
オールラウンダーはぽかんと口を開けてその様子を眺めていたが、
「……ま、やるしかねぇか」
いつものようにケロリと表情を変えると、
「わるいけど、かめはめ波を教えるのはまた今度な。オラ、一から鍛えなおす」
言うや、
「波ぁっ!」
手始めに一発、かめはめ波を空に向かって放ち始めた。周囲に撃てば他の冒険者に支障が出る……という考えのもとである。
取り残された女武闘家と貴族令嬢は、
「……ゴクウが教えられるようになるまで、誰か他の人に別のこと教えてもらった方が良さそうですね……」
「……そ、そうですね……」
時間を無駄にするわけにもいかず、未だ駆け出しの冒険者たちを相手に怒涛の勢いで「指導」をしている、辺境の「最もたる」者たちへと歩を向けていった。
……それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
空はすっかり夕焼けに染まり、他の冒険者たちは帰りの身支度を整えている。
「はぁっ……はぁっ……!」
オールラウンダーは息を切らし、それでもなおかめはめ波を撃とうと構える。最早、これまでに放った数は優に百を超えるだろう。
「こ、こんな修行……亀仙人のじっちゃんのとこじゃしたことなかったや……」
その時。両の足が急にがくがくと震えたかと思うに、オールラウンダーはその場に倒れ込んでしまったのである。
「り、
これまでにしたことのない力の使い方をし続けていた故に、自分の気力が枯れてしまったことに気が付けなかったらしい。気が付いたときにはもう遅く、指の一本も動かせないでいた。
(ま、まいったな……)
内心で苦笑を浮かべた……その様子を、少し離れたところから見つめている人影があった。
慣れないような、おっかなびっくりの動きだ。
かくして彼は、危なげな足取りで辺境の街へと続く道を歩いて行く。
「へへっ……。すまねぇ……」
背中越しに、オールラウンダーが礼を述べる。
大人の背中にしては小さく、足取りもどこかゆったりとしていて、不安定。
彼は息を切らしており、どことなく汗臭く、
「……ったく。なんで俺が……」
悪態をついたものだが、その頃にはすでにオールラウンダーは眠りの中に落ちてしまっていた。
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