「ああ、もう! 今回もハズレかぁ……」
広々とした空間に、圃人斥候無念の声が響く。
彼女の目の前には、錆びた金貨の詰まった宝箱。
何かと物入りの冒険者にとって、これほど心強いものもないのだが、いま彼女たちが欲しているのは金ではない。
「まぁ、そう簡単に《
圃人斥候の肩へ手をかけた森人魔術師が、励ましの言葉を贈る。
そのすぐ後ろでは、
「しっかし、こうしてるとブルマたちとドラゴンボール探ししてた時を思い出すなぁ」
などと、手を頭の後ろで組んで呑気に呟く少年……オールラウンダーと、
「本人がこの様子ですからねぇ」
只人僧侶が、呆れたように笑った。
圃人斥候は、背にした革袋へ金貨を詰めつつ、
「自分のことなのに危機感がないって、どういうことよ」
口を尖らせ、
「ねぇ、頭?」
次いで一党の頭目である貴族令嬢へ、同意を求めた。
「そうですねぇ……」
果たして貴族令嬢は、ぐるりと周囲を見回し、空返事。
ここは、辺境の街から北西へ歩いて三日ほどの所にある古代の遺跡。その最奥。
内装からして、恐らく礼拝堂。
左右の壁には、健やかな顔をした女神の彫刻が飾られているが、それへ蔦が絡みつき、文明の痕跡と自然の浸食とが、得も言われぬ美しさを表現している。
暫くそれに見とれていた貴族令嬢は、
「ねぇ、聞いてる?」
袋へ金貨を詰め終えた圃人が、ぐいと顔を近づけたのに驚いて、
「うぇっ!?」
いつにもなく情けない、そしてどこか幼い声を上げた。
それを見た一党が、からからと笑う。
紅潮した貴族令嬢だったが、やがて彼女の中でもおかしさが湧き、仲間の笑いに続いた。
さて、それから三日後の昼下がりである。
遺跡探索の結果をギルドへ報告していた一党であったが、どこか受付嬢の顔に翳りがある。
本人は、営業用の笑顔を張り付けているつもりであったが、傍から見て無理をしていることが在り在りとしていた。
そんな彼女へ、
「どうしたんだ? くらいカオして」
オールラウンダーが、直球をぶつける。
受付嬢は、どきりと目を丸くしたが、やがて負けを認めたように情けなく笑うと、
「実は……」
と切り出した。
それは、二日前の事。
例によってゴブリン退治に出向いていたゴブリンスレイヤーが、酷い有様で帰って来たのだ。
薄汚い革鎧はひしゃげて壊れ、常備している中途半端な長さの剣は折れかけていたそうな。
聞けば、潜入した遺跡の中で、ゴブリンスレイヤーとその一党は、オーガと交戦したのだという。
「おおが、ってなんだ?」
オールラウンダーが尋ねるのへ、
「強固な盾を持つ騎士ならば、その盾ごと叩き潰し……数多くの術を会得した魔術師ならば、それを凌駕する数の術を以て焼き殺す。その実力は、冒険者等級第三位の銀等級ですら、立ち向かうことに恐れをなす強敵。それがオーガだ」
森人魔術師が答える。
「すげえ強い、ってことか」
「そんな言葉では表現できないほどに、な」
「へぇ」
話を聞いたオールラウンダーは、
「そんなつええ奴がいるのか……」
と、どこか嬉しそうに呟いた後で、
「でも、スッチャンは勝ったんだろ?」
受付嬢へ問うた。
因みに、ゴブリンスレイヤーのことを「ゴッチャン」から「スッチャン」と呼び改めているのは、
「その、ゴッチャンというのはやめろ」
とゴブリンスレイヤー本人から、以前に言われたからである。
「じゃあ、スッチャンならいいか?」
オールラウンダーの問いかけに、ゴブリンスレイヤーは頷くでも首を振るでもなかった。
オールラウンダーは、これを肯定と解釈したのだ。
さて、話を戻そう。
オールラウンダーの問いかけに、
「ええ。斃したことは斃したのですが……酷いケガを負ったらしくて……」
それでも、彼はしっかりとした歩調で受付まで歩き、いつものように依頼完了の報告を行った。
どうやら女神官の他に、彼は三名の仲間を引き連れていたようで、そのうちの一人が授けた《
しかし、彼に圧し掛かった疲労はすさまじく、帰還してから今日までの二日間、彼は近くの牧場に籠ったまま、街にも姿を見せていないそうな。
これを聞いたオールラウンダーは、
「なぁ。スッチャンの見舞いに行ってもいいか?」
頭目の貴族令嬢へ尋ねた。
これを断る理由を、彼女は持ち合わせていない。
「勿論、いいですけど……」
彼女が言い終えるか否かというところで、
「サンキュー!」
風のようにギルドを駆け出していった。
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