悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の一

「ああ、もう! 今回もハズレかぁ……」

 

 広々とした空間に、圃人斥候無念の声が響く。

 彼女の目の前には、錆びた金貨の詰まった宝箱。

 何かと物入りの冒険者にとって、これほど心強いものもないのだが、いま彼女たちが欲しているのは金ではない。

 

「まぁ、そう簡単に《転移(ゲート)》の巻物は見つからない、ということさ」

 

 圃人斥候の肩へ手をかけた森人魔術師が、励ましの言葉を贈る。

 そのすぐ後ろでは、

 

「しっかし、こうしてるとブルマたちとドラゴンボール探ししてた時を思い出すなぁ」

 

 などと、手を頭の後ろで組んで呑気に呟く少年……オールラウンダーと、

 

「本人がこの様子ですからねぇ」

 

 只人僧侶が、呆れたように笑った。

 圃人斥候は、背にした革袋へ金貨を詰めつつ、

 

「自分のことなのに危機感がないって、どういうことよ」

 

 口を尖らせ、

 

「ねぇ、頭?」

 

 次いで一党の頭目である貴族令嬢へ、同意を求めた。

 

「そうですねぇ……」

 

 果たして貴族令嬢は、ぐるりと周囲を見回し、空返事。

 ここは、辺境の街から北西へ歩いて三日ほどの所にある古代の遺跡。その最奥。

 内装からして、恐らく礼拝堂。

 左右の壁には、健やかな顔をした女神の彫刻が飾られているが、それへ蔦が絡みつき、文明の痕跡と自然の浸食とが、得も言われぬ美しさを表現している。

 暫くそれに見とれていた貴族令嬢は、

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

 袋へ金貨を詰め終えた圃人が、ぐいと顔を近づけたのに驚いて、

 

「うぇっ!?」

 

 いつにもなく情けない、そしてどこか幼い声を上げた。

 それを見た一党が、からからと笑う。

 紅潮した貴族令嬢だったが、やがて彼女の中でもおかしさが湧き、仲間の笑いに続いた。

 さて、それから三日後の昼下がりである。

 遺跡探索の結果をギルドへ報告していた一党であったが、どこか受付嬢の顔に翳りがある。

 本人は、営業用の笑顔を張り付けているつもりであったが、傍から見て無理をしていることが在り在りとしていた。

 そんな彼女へ、

 

「どうしたんだ? くらいカオして」

 

 オールラウンダーが、直球をぶつける。

 受付嬢は、どきりと目を丸くしたが、やがて負けを認めたように情けなく笑うと、

 

「実は……」

 

 と切り出した。

 それは、二日前の事。

 例によってゴブリン退治に出向いていたゴブリンスレイヤーが、酷い有様で帰って来たのだ。

 薄汚い革鎧はひしゃげて壊れ、常備している中途半端な長さの剣は折れかけていたそうな。

 聞けば、潜入した遺跡の中で、ゴブリンスレイヤーとその一党は、オーガと交戦したのだという。

 

「おおが、ってなんだ?」

 

 オールラウンダーが尋ねるのへ、

 

「強固な盾を持つ騎士ならば、その盾ごと叩き潰し……数多くの術を会得した魔術師ならば、それを凌駕する数の術を以て焼き殺す。その実力は、冒険者等級第三位の銀等級ですら、立ち向かうことに恐れをなす強敵。それがオーガだ」

 

 森人魔術師が答える。

 

「すげえ強い、ってことか」

「そんな言葉では表現できないほどに、な」

「へぇ」

 

 話を聞いたオールラウンダーは、

 

「そんなつええ奴がいるのか……」

 

 と、どこか嬉しそうに呟いた後で、

 

「でも、スッチャンは勝ったんだろ?」

 

 受付嬢へ問うた。

 因みに、ゴブリンスレイヤーのことを「ゴッチャン」から「スッチャン」と呼び改めているのは、

 

「その、ゴッチャンというのはやめろ」

 

 とゴブリンスレイヤー本人から、以前に言われたからである。

 

「じゃあ、スッチャンならいいか?」

 

 オールラウンダーの問いかけに、ゴブリンスレイヤーは頷くでも首を振るでもなかった。

 オールラウンダーは、これを肯定と解釈したのだ。

 さて、話を戻そう。

 オールラウンダーの問いかけに、

 

「ええ。斃したことは斃したのですが……酷いケガを負ったらしくて……」

 

 それでも、彼はしっかりとした歩調で受付まで歩き、いつものように依頼完了の報告を行った。

 どうやら女神官の他に、彼は三名の仲間を引き連れていたようで、そのうちの一人が授けた《治療(リフレッシュ)》によって、身体の傷はとうに癒えていたのだという。

 しかし、彼に圧し掛かった疲労はすさまじく、帰還してから今日までの二日間、彼は近くの牧場に籠ったまま、街にも姿を見せていないそうな。

 これを聞いたオールラウンダーは、

 

「なぁ。スッチャンの見舞いに行ってもいいか?」

 

 頭目の貴族令嬢へ尋ねた。

 これを断る理由を、彼女は持ち合わせていない。

 

「勿論、いいですけど……」

 

 彼女が言い終えるか否かというところで、

 

「サンキュー!」

 

 風のようにギルドを駆け出していった。

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