空に、じんわりと夕焼けがかかってきた。
ベルを鳴らし、辺境の街の冒険者ギルドへオールラウンダーが入った時、
「あっ、ソンさん!」
二階へと続く階段から、とたとたと駆け下りて来る者がいた。
女神官である。
「ひさしぶりだな!」
「はい」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げた女神官の首から、黒曜の小板がかかっているのを見たオールラウンダーは、
「あっ! おめえも黒くなったんだな!」
彼女の認識票を指さして言った。
「はいっ!」
顔を上げた女神官が、少しばかり頬を染めながら頷く。
して、彼女もまた、オールラウンダーの首に下がった黒曜の認識票を見るや、
「ソンさんも、黒曜になられていたんですね」
「ん? ああ、これか。へへっ。でっかい緑のバケモノやっつけたらさ、これになったんだ」
久方ぶりの再会と、互いの昇級に喜びを分かち合っている二人の元へ、
「お友達?」
凛とした声音が割り込んできた。
見ると、そこには三者三様の冒険者が。
一人は、長身痩躯、容姿端麗な
比べて、その横にいる老爺は、オールラウンダーと頭一つ分しか違わぬ背丈をしている。恐らくは
かくして二人の背後には、巌のような巨躯を誇る
「はい。ソンゴクウさんといって、同じ日に冒険者になった人なんです」
女神官の紹介を聞いた妖精弓手は、まじまじとオールラウンダーを見つめた後で、
「へぇ。こんな小さな子がねぇ……」
そう言うと、隣の鉱人へと悪戯っぽい視線を送る。
これへ、
「ふん」
と鼻を鳴らした鉱人は、
「これだから長耳は……見た目だけで相手を判断するなどと……よくもそれで銀等級までいけたもんだわえ」
そう言ってから、やはりオールラウンダーを見やった後で、
「『
「本当かしら? 鉱人の目は、宝石しか鑑定できないと思ったけど」
「なにおうっ!?」
妖精弓手に食って掛かる鉱人。
すると、背後にいた蜥蜴人がぎょろりと目を向け、
「双方、喧嘩をするなら外で」
静かに言った後で、
「騒がしくしてしまい、申し訳ない。許されよ」
奇妙な合掌を以て、オールラウンダーへと頭を垂れた。
「なぁ。おめえの仲間か?」
騒がしく奇妙な取り合わせの三名を指し、オールラウンダーが女神官へ問う。
「ええ。つい最近、ですけど……」
「へぇ。おもしろいやつらだな」
ああだこうだと言い争う妖精弓手と鉱人。それを呆れたように見つめる蜥蜴人。
彼らの様子を暫く見ていた後で、
「そうだ。スッチャンにあってきたぞ」
オールラウンダーのその言葉に、女神官はぴくりと反応する。
彼女は、「スッチャン」が誰を指しているのかを理解していた。
「どう、でした?」
「げんきだった。あしたには街にくるってさ」
これを聞き、女神官は安堵の溜息をもらす。
すると、これを聞いていた妖精弓手が、
「ねぇ。スッチャンって?」
と尋ねて来る。
答えたのは、女神官だった。
「ゴブリンスレイヤーさんのことです。『スレイヤー』の『ス』をとって、スッチャン」
「ああ、なるほど」
妖精弓手は二度、三度を頷いた後で、
「あいつが、『スッチャン』ねぇ」
呟くと、堪らず吹き出した。
「随分と、可愛らしい渾名ですな」
蜥蜴人も、にんまりと顔を綻ばせている。
「しかし、かみきり丸もよくそんな渾名を許したのう」
鉱人が、白く長い顎鬚を扱きながら呟くのへ、
「はじめはさ。ゴッチャンってよんでたんだ。そしたら、それはやめろ、ってあいつがいうから。だから、スッチャンにした」
真面目なオールラウンダーの説明が、更におかしかったのだろう。妖精弓手はとうとう声を上げて笑い始める。
「野伏殿」
そこへ、ぴしゃりと蜥蜴人が諫めの声を放った。
果たして彼は、ぎょろりとオールラウンダーへ目を向けると、
「武術家殿は、
問うたものだが、
「そろ、ってなんだ?」
横文字が苦手なオールラウンダーは首を傾げるばかり。
これへ、
「一人で冒険している人のことですよ」
女神官が耳打ちで教えてやると、
「そういうことか! だったら、他にも友達がいるぞ!」
オールラウンダーはそう言った後で、
「一人は、ねえちゃんみたいに耳が長いな」
妖精弓手を指さす。
これへ、
「おい。小僧。こいつはな、見た目の割に歳を喰ってる。敬ったほうがいいぞ」
鉱人が、にやにやと笑いながら囁いた。
「へぇ。何歳なんだ?」
「優に二千は越えているんだったよなぁ?」
鉱人が言うので、
「そうだけど……」
彼の考えが読めぬ妖精弓手は、曖昧に頷く。
すると……
「ひゃあっ! おめえ、すげえばあちゃんなんだな!」
目を見開いたオールラウンダーが、思わず大声を上げた。
これを聞いた周囲の冒険者たちが、一斉に視線を向けてくる。
「ばっ、ばあちゃん……!?」
この言葉に、顔を茹蛸のように真っ赤にした妖精弓手は、
「失礼ね! 只人から見れば、まだまだ少女の年齢なんだから!」
そこへ、
「ほうほう。ならば、いつしかわしと歳の比べをして自慢げになっていたあの態度を、改めねばなるまいなぁ」
鉱人が、したり顔で追撃してくる。
「生きてる年数はこっちの方が上、ってだけよ!」
そこは譲らぬ妖精弓手だったが、
「やっぱりばあちゃんじゃねぇか」
オールラウンダーの言葉に、
「ああっ!! あんたは黙ってて!!」
妖精弓手が、またもや怒鳴った。
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