「かめはめ……波ぁ!!!!」
この叫び声が、戦の終焉を告げる合図であった。
瞬間。青白く光る生命力の波が、雪崩のように群がってくるゴブリンどもへと放たれ、奴らを包み込み、跡形もなく消し去ってしまったのである。
戦場にいた誰もが、強者の存在を自覚し、一点へと視線を向けた。
その先にいたのは、月明かりを背負って立つ、一人の冒険者。
山吹色の道着と、朱色の細棒。首から下げるは黒曜の認識票。オールラウンダーである。
彼は、背負った朱色の棒を引き抜き、これを地面へと突き刺し、掴むと、
「のびろ、如意棒!」
と号令をかけた。
棒はそれに従い、ぐんぐんと背を伸ばし、雲を突き抜けるかと思われるほどまで上昇していく。
棒の先端に掴まっていたオールラウンダーは、ぐるりと下方を見渡した。
闇夜に慣れた彼の目には、唖然として自分のことを見上げている同業者の姿しか見えない。どうやら、ゴブリンどもは一匹残らず殲滅できたようだ。
「おっ?」
オールラウンダーの視線に、ふと映り込む二つの人影があった。
草原の左手に広がる森から出てきたその者たちを、彼はよく知っている。
「スッチャンたちだ!」
そう言うや、オールラウンダーは棒から手を離し、
「よう!」
何事もなかったかのように着地するや、ゴブリンスレイヤーと、それを支えるようにして歩く女神官へと声をかけた。
「うひゃっ!?」
上空からの突然の飛来者に驚いた女神官は、あわやバランスを崩し、ゴブリンスレイヤーともども倒れそうになる。
これを、背後に回って支えてやったオールラウンダーは、
「おめえたち、どこいってたんだ?」
その問いかけに答えたのはゴブリンスレイヤーで、
「……薄汚いゴブリンの一匹を、殺してきただけだ」
淡々と告げる。
「ふぅん」
オールラウンダーもオールラウンダーで、あっさりとその言葉を呑み込む。
しかし、女神官は知っていた。
彼のいう「薄汚いゴブリンの一匹」が、大軍を率いた王であったことを。
それとの戦いにより、一ヶ月の空白期のあった体へ、深手を負ってしまったことを。
だが、女神官は遂に黙っていた。
それをいちいち口にして誰かに告げることが、何やらゴブリンスレイヤーへの冒涜のように感じたからだ。
無論、彼はそんなこと、露ほどにも思っていないだろうが……。
かくして、戦いは終わった。
王をはじめとするゴブリンの大軍は、一匹残らず全滅。対して冒険者側は、負傷者が何名もいたが、奇跡的に死者は無かった。
小鬼側の呪文遣いが早々に消えたこと、駆け出しの冒険者たちもすでに十分な経験を積んでおり、それらが徒党を組んで戦っていたこと、ゴブリンライダーの跨る山犬どもが冒険者側へと寝返ったこと、そして何より、とある一名の快進撃によって、無限とも思えるゴブリンどもが瞬く間に数を減らしたことが、無死者達成の要因であった。
返り血に塗れた冒険者たちを迎えたギルド職員たちは、この報告を聞いて大層驚いたらしい。
……果たして。
「それじゃあ、かんぱーい!」
ギルド内の設けられた酒場。その中央にある丸机の上にて。
行儀悪く乗りあがった妖精弓手が、酒の入った杯を掲げ、音頭をとる。
しかし、それはすぐに怒号へと変わる。
「あっ、おい! てめぇばっかガツガツ食うんじゃねぇよ!」
「そうだ、そうだ! 一瞬で食い物が無くなるだろうが!」
そう言って冒険者が詰め寄ったのは、オールラウンダーだ。
彼のゴブリン討伐数が、冒険者の中で群を抜いて一番であることは、ギルド内の誰もが目撃し、承知していること。
故に、報酬である「ゴブリンスレイヤーの全て」を一番多く使役できるのは、彼というわけ。
果たしてオールラウンダーが望んだのは、
「腹いっぱい、メシがくいたい」
であった。
こうしてオールラウンダーは、今
「なんだよ。スッチャンがくれる、っていったんだぞ」
両頬を肉で満たしながら、文字通り「膨れた」オールラウンダーは、壁際の長椅子を指さす。
そこには、いつものようにゴブリンスレイヤーが座っていた。
違う点があるとすれば、その左腕を肩から吊るしていることぐらいであろうか。
その横では、彼の肩に頭を寄せて眠っている女神官と、その髪を撫でている牛飼娘の姿もある。
すると、今度は血相を変えた冒険者たちが、ゴブリンスレイヤーへ報酬のつり上げを交渉に行く。
しかし、
「報酬は、報酬だ。依頼の達成後に変更することなど無い」
きっぱりと言われ、彼らは悔し涙を飲んだ。
その騒動を耳にし、疲れ切っていた女神官は慌てたように目覚め、そんな彼女とゴブリンスレイヤーへ、
「今日はごゆっくり」
牛飼娘は茶目っ気を込めて声をかけて立ち上がる。
次に彼女が来たのは、オールラウンダーの座る大きなテーブルであった。
「今日は、本当にありがとうね」
牛飼娘に声をかけられ、オールラウンダーは食の手を止める。
「ん?」
「彼の依頼を請けてくれて」
「オラだけじゃねえぞ」
「……そうだけどさ。君が、一番最初に引き受けてくれたんでしょ?」
「おう」
「だから、ありがとう、なの」
にこやかに、そして瞳から歓喜の涙を流した牛飼娘へ、口の中の肉を一気に呑み込んだオールラウンダーは一言。
「あたりまえだ。スッチャンもねえちゃんも、ともだちだもんな」
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