悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の五

「かめはめ……波ぁ!!!!」

 

 この叫び声が、戦の終焉を告げる合図であった。

 瞬間。青白く光る生命力の波が、雪崩のように群がってくるゴブリンどもへと放たれ、奴らを包み込み、跡形もなく消し去ってしまったのである。

 戦場にいた誰もが、強者の存在を自覚し、一点へと視線を向けた。

 その先にいたのは、月明かりを背負って立つ、一人の冒険者。

 山吹色の道着と、朱色の細棒。首から下げるは黒曜の認識票。オールラウンダーである。

 彼は、背負った朱色の棒を引き抜き、これを地面へと突き刺し、掴むと、

 

「のびろ、如意棒!」

 

 と号令をかけた。

 棒はそれに従い、ぐんぐんと背を伸ばし、雲を突き抜けるかと思われるほどまで上昇していく。

 棒の先端に掴まっていたオールラウンダーは、ぐるりと下方を見渡した。

 闇夜に慣れた彼の目には、唖然として自分のことを見上げている同業者の姿しか見えない。どうやら、ゴブリンどもは一匹残らず殲滅できたようだ。

 

「おっ?」

 

 オールラウンダーの視線に、ふと映り込む二つの人影があった。

 草原の左手に広がる森から出てきたその者たちを、彼はよく知っている。

 

「スッチャンたちだ!」

 

 そう言うや、オールラウンダーは棒から手を離し、巨人(トロル)の巨躯より何倍もある高度から平然として飛び降り、

 

「よう!」

 

 何事もなかったかのように着地するや、ゴブリンスレイヤーと、それを支えるようにして歩く女神官へと声をかけた。

 

「うひゃっ!?」

 

 上空からの突然の飛来者に驚いた女神官は、あわやバランスを崩し、ゴブリンスレイヤーともども倒れそうになる。

 これを、背後に回って支えてやったオールラウンダーは、

 

「おめえたち、どこいってたんだ?」

 

 その問いかけに答えたのはゴブリンスレイヤーで、

 

「……薄汚いゴブリンの一匹を、殺してきただけだ」

 

 淡々と告げる。

 

「ふぅん」

 

 オールラウンダーもオールラウンダーで、あっさりとその言葉を呑み込む。

 しかし、女神官は知っていた。

 彼のいう「薄汚いゴブリンの一匹」が、大軍を率いた王であったことを。

 それとの戦いにより、一ヶ月の空白期のあった体へ、深手を負ってしまったことを。

 だが、女神官は遂に黙っていた。

 それをいちいち口にして誰かに告げることが、何やらゴブリンスレイヤーへの冒涜のように感じたからだ。

 無論、彼はそんなこと、露ほどにも思っていないだろうが……。

 かくして、戦いは終わった。

 王をはじめとするゴブリンの大軍は、一匹残らず全滅。対して冒険者側は、負傷者が何名もいたが、奇跡的に死者は無かった。

 小鬼側の呪文遣いが早々に消えたこと、駆け出しの冒険者たちもすでに十分な経験を積んでおり、それらが徒党を組んで戦っていたこと、ゴブリンライダーの跨る山犬どもが冒険者側へと寝返ったこと、そして何より、とある一名の快進撃によって、無限とも思えるゴブリンどもが瞬く間に数を減らしたことが、無死者達成の要因であった。

 返り血に塗れた冒険者たちを迎えたギルド職員たちは、この報告を聞いて大層驚いたらしい。

 ……果たして。

 

「それじゃあ、かんぱーい!」

 

 ギルド内の設けられた酒場。その中央にある丸机の上にて。

 行儀悪く乗りあがった妖精弓手が、酒の入った杯を掲げ、音頭をとる。

 しかし、それはすぐに怒号へと変わる。

 

「あっ、おい! てめぇばっかガツガツ食うんじゃねぇよ!」

「そうだ、そうだ! 一瞬で食い物が無くなるだろうが!」

 

 そう言って冒険者が詰め寄ったのは、オールラウンダーだ。

 彼のゴブリン討伐数が、冒険者の中で群を抜いて一番であることは、ギルド内の誰もが目撃し、承知していること。

 故に、報酬である「ゴブリンスレイヤーの全て」を一番多く使役できるのは、彼というわけ。

 果たしてオールラウンダーが望んだのは、

 

「腹いっぱい、メシがくいたい」

 

 であった。

 こうしてオールラウンダーは、今()()()()の霜降り肉を堪能しているところなのである。

 

「なんだよ。スッチャンがくれる、っていったんだぞ」

 

 両頬を肉で満たしながら、文字通り「膨れた」オールラウンダーは、壁際の長椅子を指さす。

 そこには、いつものようにゴブリンスレイヤーが座っていた。

 違う点があるとすれば、その左腕を肩から吊るしていることぐらいであろうか。

 その横では、彼の肩に頭を寄せて眠っている女神官と、その髪を撫でている牛飼娘の姿もある。

 すると、今度は血相を変えた冒険者たちが、ゴブリンスレイヤーへ報酬のつり上げを交渉に行く。

 しかし、

 

「報酬は、報酬だ。依頼の達成後に変更することなど無い」

 

 きっぱりと言われ、彼らは悔し涙を飲んだ。

 その騒動を耳にし、疲れ切っていた女神官は慌てたように目覚め、そんな彼女とゴブリンスレイヤーへ、

 

「今日はごゆっくり」

 

 牛飼娘は茶目っ気を込めて声をかけて立ち上がる。

 次に彼女が来たのは、オールラウンダーの座る大きなテーブルであった。

 

「今日は、本当にありがとうね」

 

 牛飼娘に声をかけられ、オールラウンダーは食の手を止める。

 

「ん?」

「彼の依頼を請けてくれて」

「オラだけじゃねえぞ」

「……そうだけどさ。君が、一番最初に引き受けてくれたんでしょ?」

「おう」

「だから、ありがとう、なの」

 

 にこやかに、そして瞳から歓喜の涙を流した牛飼娘へ、口の中の肉を一気に呑み込んだオールラウンダーは一言。

 

「あたりまえだ。スッチャンもねえちゃんも、ともだちだもんな」

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