悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の二

 剣士たちとの組手を終え、ギルドのロビーへと入って来たオールラウンダーを呼び止めたのは受付嬢であった。

 彼女は一枚の羊皮紙を差し出すと、

 

「水の街の方から、直々に名指しで依頼が来てますよ。凄いじゃないですか! 有名人ですね」

 

 嬉しそうに言葉を弾ませる。

 実年齢十二歳である少年を冒険者にしてしまった罪悪感が消えぬではないが、このところの受付嬢は、オールラウンダーのことを辺境の街を代表する冒険者の一人として、誇らしく思っていた。

 常識の範疇を超えた力量に加え、底抜けに明るく素直な性格は、間違いなく他の冒険者たち……殊に駆け出しの者たちへと良い変化をもたらしている。

 現に彼らは、あれほど遠ざけていた「ドブさらい」や「巨大鼠(ジャイアント・ラット)退治」などに加え、近くの牧場の牛乳配達や、畑の耕し、農作物の収穫などの依頼を素直に請けてくれるのである。

 全ては、

 

「オールラウンダーのようになるため……」

 

 なのである。

 それが上手くいくかは別として、そうして経験を多く積めば、()()()()()()()退()()()()()から彼らが生きて還って来てくれる可能性が上がるわけだ。

 これを、受付嬢が歓迎しないわけがない。

 ……尤も、それで「彼」への思いが揺らぐかといえば、別の話だが。

 さて。

 指名の依頼書を受け取ったオールラウンダーは、これへすらすらと目を通していく。

 初めの頃……それこそ冒険者登録をした時などは、登録用紙の文字を読むことが出来ずにいた彼だが、受付嬢や槍遣いの手ほどきのおかげで、人並みに文字の読み書きをすることができるまでに至っている。

 しかし、依頼書の書き方が堅苦しかったとみえ、

 

「よくわかんねえ」

 

 眉を顰めたオールラウンダーは、困ったように受付嬢を見た。

 彼女もまた、

 

「しょうがないですねぇ」

 

 言いつつ、大仰に肩を竦めると、オールラウンダーから依頼書を受け取って目を通し、その内容をかみ砕いて説明してやる。

 傍から見ると、まるで仲のいい姉弟のようである。

 

「つまりはですね。地下の水道に怪物が出たのでやっつけてほしい。これが一つ目の依頼。そして二つ目が、化け物を退治した後で下水道を掃除してほしい、ということですね」

 

 受付嬢の簡易な説明を聞いたオールラウンダーは、

 

「それならわかった」

 

 顔を明るくし、頷く。

 これを見て、受付嬢も自然と朗らかな笑みを浮かべるが、やがて首を傾げ、

 

「でも、本当にオールラウンダーさんは有名人ですね。ご一緒している令嬢さんたちのことも書かれてますよ」

 

 いまいちど依頼書へ目を通した。

 確かに、依頼書の初めは、

 

「オールラウンダー様()()へ」

 

 と始まっており、本文の中にも、たびたび貴族令嬢たちを示唆するような部分が存在している。

 この依頼書が送られたのは、辺境の街から広野を東へ二日ばかり行ったところにある、水の街。

 つまりはそれほどに距離があるということで、そんな場所にいてオールラウンダー一党の内訳を把握している依頼書の送り主が、不気味と言えば不気味であった。

 しかし、オールラウンダー本人は、例の如く深く考えず、

 

「ま、いってみりゃわかるだろ」

 

 そう言うと、受付嬢から依頼書を受け取るや、

 

「じゃ、ねえちゃんたちさがしてくる!」

 

 そう言って、ギルドを後にした。

 これに、笑顔で手を振って応えた受付嬢は、その姿が完全に見えなくなったところで、深い溜息を吐いた。

 営業的笑顔に疲れたわけではない。オールラウンダーへ向けていたものは、「彼」に向けるものとほぼ同質のものである。

 では、溜め息の要因はなにか。

 それは、明日に迫った昇級審査についてのこと。

 これを受けるは、とある一党で、全員が鋼鉄級から青玉級……つまりは、八位から七位への昇級がかかっているわけである。

 単刀直入に言えば、彼らの昇級は叶うことになる。……ただ一人を除いて。

 その一人というのは、一党の中の圃人斥候であった。無論、これはオールラウンダーと組んでいる女圃人とは別人である。

 して、その斥候が何故に昇級できぬのかといえば、それは簡単。冒険の際に潜入した遺跡において、発見した財宝をそっくりそのまま我が物としてしまっている……可能性があるのだ。

 「可能性」にとどめているのは、「圃人斥候の羽振りが急に良くなった」という状況証拠しか揃っていないから。

 明日の昇級審査では、至高神の司祭である監督官も同席する。

 彼女の扱う《看破(センス・ライ)》によって、状況証拠も確かなものとなるだろう。

 問題は、それから。

 冒険者とは、所詮は無頼漢に他ならない。

 そんな彼らへ、国営のギルドの一員として、罰するべき点は毅然とした態度で追及しなければならない。

 彼らの目には、お役所仕事をしている者の説教など、偉ぶったものにしか聞こえないだろう。

 そうなると、どんな逆恨みを買うことになるか……。

 尤も、審査に同席する『立会人』には、受付嬢が最も信頼を寄せている人物を選出しているが……。

 

「彼、引き受けてくれるかなぁ……」

 

 色んな意味で、彼女にはそれが気がかりであった。

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