悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の二

 店主の男は、

 

「冗談だろ?」

 

 と言わんばかりにオールラウンダーを見やった。

 無理もない話である。

 カウンター席に座る少年は、とても岩を砕く拳も、山を吹き飛ばす魔術も持ち合わせているようには見えないのだ。

 すると、店主の気持ちを代弁するように、

 

「そんなら、是非ともオールラウンダー様のお力を拝見したいもんだねぇ」

 

 などと、酔い潰れの浮浪者がせせら笑う。

 

「ゴクウ。やっちゃいなよ」

 

 言ったのは、圃人野伏。浮浪者のいやらしい視線に最も不快感を表していたのだ。

 名を呼ばれたオールラウンダーは、

 

「いいのか?」

 

 少しばかり躊躇うように、圃人野伏を見やる。

 

「いいって、いいって。そちらさんは力を見たいようだし?」

 

 圃人は、挑発するように店主と浮浪者とを見た。

 

「お、俺は別に、そんな……」

 

 不安げに言葉を濁す店主に対して、

 

「おうおう。やれやれ!」

 

 浮浪者の男は、すっかり嘘っぱちだと思っているらしく、はやし立てるばかり。

 やがて、オールラウンダーは店内を見回した後で、

 

「なぁ、おっちゃん。あれつかってもいいか?」

 

 そう指さしたのは、店内の隅っこに置かれていた酒樽。

 といっても、中身はすでに空けており、いつか処分しようと思って、遂に今まで放置されていたものだ。

 

「別に、構わんが……」

 

 承諾を受けたオールラウンダーは、さっと腰元に両手を引き寄せて重ねると、

 

「波っ!」

 

 勢いよく腕を樽へ向けて突き出した。

 瞬間。ぼうっと火が灯るような音とともに、彼の両手から青白い光弾が飛び出し、これが樽へとぶち当たり、木っ端みじんと相成った。

 店主は勿論、それまで馬鹿のように笑っていた浮浪者も、二日酔いが瞬時に引くほどに、驚愕のあまり目を見張った。

 これを見た圃人野伏は得意げに、

 

「これでもゴクウは手加減してる方だけどね。信じられないなら、この店吹っ飛ばすくらいの力でやってみようか?」

 

 彼女のその言葉に、

 

「い、いえ……結構です……」

 

 店主は、冷や汗掻きつつ首を振ったものである。

 かくして一党は、借りてきた猫のような浮浪者の案内を受けて、街の郊外にぽつりとある、寂れた石造り(この街の建物は例外なく石造りだが)の建物へとやってきた。

 曰く、この建物は混沌勢力との戦によって親を亡くした子供……すなわち戦争孤児を引き取るための施設であったらしいが、どうしたわけか子供の失踪事件が相次いで発生し、これを不気味がった周辺住民の要望もあって、閉鎖になったらしい。

 

「そんな曰く付きなら、さっさと取り壊しちゃえばいいのに」

 

 圃人の言葉に、

 

「簡単に言うが、建物一つを壊すのにも金がかかるからな。この施設を動かしてた奴らはいつの間にか夜逃げしちまって、そうなると街が金を払うことになる。しかし、まさかこんな小汚ぇ小屋のために、大事な大事な金を使うのも憚られる。そうしているうちにどんどんとほったらかしにされ、今となってはろくでもねぇ奴の温床みたいになっちまってるよ」

 

 俺みたいにな、と締めくくった浮浪者は自嘲の笑みを浮かべつつ、一党を施設中庭にある井戸の前へと誘った。

 

「用水路からも行けることは行けるが……街の管理者たちが目を光らせてるからな。まさかに、こんな薄汚ぇ親仁の依頼を請けて下水道を探索に来た、なんてのが通じるわけもねぇ。するってぇと、こういう人んちの井戸やらが、地下水道への侵入経路となるわけさ」

 

 その言葉を最後に、案内を終えた浮浪者は去っていく。

 これを見送った一党は、

 

「さて……」

 

 と、井戸の中を覗き込んだ。

 貴族令嬢が、足元にあった小石を拾い上げて、これを落としてみると、

 

「こつん」

 

 という音が返ってくる。やはり、水は枯れているようだ。

 井戸内側の側面には、底へと続く梯子が設けられている。

 これを最初に下ったのは、オールラウンダーであった。

 

「うわっ。くせぇ」

 

 降りるにつれて、彼の声は徐々に共鳴していく。

 暫くすると、

 

「おぉい。おりてこいよ! 大丈夫みてぇだ」

 

 反響するオールラウンダーの声。

 頷き合った一党は、一人また一人と地下水道へ下っていった。

 彼女たちをまず襲ったのは、臭気。ゴミやら排泄物が集結する地下水道は、鼻が曲がるほどに臭う。

 一番に苦しがっていたのはオールラウンダーで、

 

「まえに、すごいクサいやつが天下一武道会にいたけど……そいつとおなじくらいくせぇ」

 

 今までで一番に苦しそうな表情を見せたものである。

 だが、平穏なる街の下へ胡坐をかく化け物を前に、臭気ごときで退散するわけにもいかない。

 僧侶の《聖光(ホーリーライト)》を頼りに、まるで迷宮の如く進んでいく貴族令嬢一党を次に襲ったのは、

 

「GYA!!」

 

 右手の脇道から、突然に飛び出してきた小さな影。それも十。

 醜悪な面をした緑肌のそ奴らを、一党は飽きるほどに見ていた。

 

「ゴブリン……!」

 

 よもやこんなところで遭遇するとは。

 圃人は矢の代わりに短剣を、貴族令嬢が長剣を引き抜き、森人が杖を構えるその僅かな隙を、

 

「だりゃっ!」

 

 徒手空拳で飛び出したオールラウンダーが補い、瞬く間に二匹の小鬼どもを、脇にある汚水流れる水路へと落としていく。

 

「光源は絶やさず! 挟み撃ちも考えられますので、後ろにも十分な警戒を!」

 

 手早く命じた貴族令嬢は、オールラウンダーに続いてゴブリンの群れへと勇躍した。

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