悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の六

 翌日の昼過ぎになって。

 法の神殿最奥の礼拝堂へ、例によってずかずかと無作法な足音を響かせて入って来た者がいる。

 ゴブリンスレイヤーである。

 彼の後ろには、女神官や妖精弓手、鉱人に蜥蜴僧侶という、すっかり馴染んだ一党もいた。

 果たして彼らを最初に向かえたのは、

 

「よう!」

 

 それまで退屈気に、礼拝堂の円柱から円柱へと飛び移って暇を持て余していたオールラウンダーであった。

 

「ひゃあっ!」

 

 突然に空から飛来した、しかも見知った顔の登場に、女神官が可愛らしい驚きの声を上げる。

 

「なんじゃい。指名の依頼と聞いていたが……坊主たちも剣の乙女とやらから名指しされておったか」

 

 鉱人道士が、その白い髭を扱きながら言うのへ、

 

「オラたちはたまたまだ」

 

 オールラウンダーが答える。

 

「……たまたまって……なにがどうたまたま運んだら、ここにいるのよ」

 

 そんな彼を、妖精弓手は呆れたように見やった。

 聖域の静寂を取り払うかのように賑やかとなったその場を、

 

「こほん」

 

 咳払いが一つ。すると、再びしんと辺りが静まり返る。

 一同の視点が、祭壇の前に立つ剣の乙女へと向いた。

 果たして彼女は、にこやかに口元を緩めると、

 

「ようこそ、頼もしい冒険者よ。歓迎いたしますわ」

 

 と、新たな訪問者たちを迎え入れる。

 しかしゴブリンスレイヤーは、

 

「能書きはいい」

 

 と一蹴するや、

 

「ゴブリンはどこにいる?」

 

 剣の乙女へと問うた。

 これに代わりに答えたのはオールラウンダーで、

 

「あいつらなら、下にいたぞ」

 

 と足元を指す。

 彼の言葉を補うように、

 

「私たち、昨日地下水道に潜ったんです。ゴブリン退治とは別件だったんですけど……でも、そこでゴブリンの群れに遭遇したんです」

 

 貴族令嬢が言うのへ、「なるほど」と蜥蜴僧侶は頷いた後で、

 

「かような古都の地下ともあらば、それは遺跡か迷宮も同然。小鬼どもが潜むには、うってつけでしょうな」

 

 しゅるしゅると舌を出し入れしながら、推察を述べた。

 ゴブリンスレイヤーも、これに同意を示す頷きをした後で、

 

「奴らは、いつから地下にいる?」

 

 剣の乙女へ問いを投げた。

 彼女はゆっくりと頭を振り、

 

「正確なことは分かりません……」

 

 申し訳なさそうに首を垂れた後で、

 

「ですが……本格的な動きが見られたのは、一ヶ月前のことでしたわ」

 

 ひと月前。夜分遅くに使いに出した侍祭の娘が、翌朝になって、路地裏で遺体となって発見された。

 発見者によると、娘は生きながらに体を切り刻まれたらしい。

 すぐさま街の衛視たちが捜索に乗り出したが、全く手掛かりを掴むことが出来ぬ。

 そうこうしているうちに、物取りや通り魔、引き攫いといった犯罪は増えていった。

 ……で、手がかりが掴めぬのならば、現場を押さえるしかない。というので、衛視だけでなく冒険者も加え、街では大掛かりな巡回が行われた。

 して、これが功を奏した。

 とある冒険者の一党が、女性を襲う小さな影を斬り伏せたところ、それがゴブリンだったのである。

 様々な考察がなされた末、一連の事件は、街の地下に巣食ったゴブリンどもの仕業だろうということになった。

 すぐさま、討伐の依頼が出され、冒険者たちが向かったものだが、彼らは帰って来なかった。

 そんな折、剣の乙女は辺境の勇士であるゴブリンスレイヤーの歌を聞いた。

 一縷の望みをかけて彼女は指名の依頼を出し、そして現在に至る。

 

「どうか、わたくしどもの街を救っては頂けないでしょうか」

 

 全てを話した後で、剣の乙女は深く頭を下げた。

 これに対してゴブリンスレイヤーは、

 

「救えるかは分からん。だが、ゴブリンどもは殺そう」

 

 淡々とした態度で応える。

 これへ、深く溜息を吐いた妖精弓手は、

 

「あんたたちも、一緒に来るでしょ?」

 

 とオールラウンダーたちを見やる。

 

「おう」

 

 オールラウンダーが言いかけるのを止めた貴族令嬢は、

 

「私たちは……少し確かめたいことがあるのです」

「……確かめたいこと?」

「はい。……そもそも、私たちがこの街に来たのも、指名の依頼を請けたからなんです」

「それって、オルクボルグみたいに?」

「ええ。ですが、ゴブリン退治ではなく、下水道の掃除と、そこに巣食う別の怪物退治という名目で」

「別の怪物……?」

 

 気になる単語に、妖精弓手の長い耳がピクリと動いた。

 

「その怪物って?」

「白くて巨大な、沼竜でした。ですが、それは依頼で聞くよりもずっと温厚で……現に、私たちがこうして神殿に来られたのも、沼竜が案内をしてくれたからなんです」

「……まるで、のっぽが好みそうなおとぎ話じゃな」

 

 鉱人道士は、言葉こそ囃しているようにも思えるが、真剣そのものの表情で貴族令嬢の話に耳を傾けている。

 

「して、何が気になるのかね」

 

 腕を組んだ蜥蜴僧侶が促すと、令嬢はこくりと頷いた後で、

 

「私たちは廃屋の石井戸から地下へと降りたのですが……その入り口を塞いだ者がいるのです。私たちはその犯人が、依頼を寄こした者たちであると踏んでいます」

「はて……? 依頼をしておきながら、冒険者を罠にはめたということですかな?」

「……恐らく。その真偽を確かめた上で、事実ならその真意を問いただしたいのです」

「なるほど」

 

 ぎょろり。大きな目を貴族令嬢一党へ向けた後で蜥蜴僧侶は、

 

「しからば、別行動ですな」

 

 そんな彼の言葉を、

 

「関係ない」

 

 ぴしゃりと閉じたゴブリンスレイヤーは、

 

「俺たちは俺たちで、ゴブリンを殺すだけだ」

 

 全く芯の揺れないその発言に、彼の率いる一党は呆れを通り越し、くすくすと笑い合った。

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