延々と続く階段を下り終えると、それまでの臭気漂う狭苦しい水路から一変し、床を大理石で埋め尽くした、開放感ある空間が一行の前に出現した。
その天井も奥行きも、暗闇によって果てが見えないほどである。もしかすると、その高さは地上に至るほどまでかもしれない。
かくして少し前を行った所では、酒場の店主と浮浪者……もとい、邪教の使徒二人組が、仁王立ちとなって冒険者たちを待ち構えていた。
「観念なさい!」
空間にあるやもしれぬ罠を充分に警戒しつつ、貴族令嬢が叫んだ。
すると、先までは慌てふためいていた二人の男どもは、にやりにやりと笑みを浮かべ、
「馬鹿め。追い詰められたのは貴様らの方よ」
酒場の店主を偽っていた男が、不敵に言うや、ぱちりと指を鳴らした。
途端、ぐらぐらと地面が揺れたかと思うや、白色の床が盛り上がり、これがうねうねと蠢いたかと思うや、やがて二足の巨兵へと変貌したのだ。
「やれっ! ゴーレム!」
店主の叫びとともに、床石と粘土とで形成された巨兵……ゴーレムが、不気味に光る眼差しを貴族令嬢たちへ向け、その巨腕を振り下ろした。
「あぶねぇっ!」
オールラウンダーが叫ぶと同時に、三名の冒険者たちはそれぞれ別の方角へ跳ぶ。
何もない床を叩くだけに終わったゴーレムの一撃だが、それによって生じた衝撃波が、三方向へ散った冒険者たちを追いかける。
「やべっ!」
オールラウンダーは着地と同時に再び床を蹴り、衝撃波が迫る前に上空へ舞い上がり、これを躱した。
だが……。
「……あ、がぁっ!」
「あっ……うああっ……!」
彼ほどの異常な身体能力を有していない貴族令嬢と僧侶は、まともにこれを喰らって、床に倒れ伏す。
「ねえちゃん!」
宙に浮いたまま、貴族令嬢たちへと意識の逸れたオールラウンダーを、ゴーレムの巨腕が再び襲った。
「しまっ」
叫ぶ間に殴り飛ばされたオールラウンダーは、そのまま白壁へと叩きつけられ、
「くっ……」
しかし、すぐさま立ち上がることが出来たのは、流石であった。
これを見たゴーレムは、ずんずんと地を揺らしながら迫ってくる。
だが、オールラウンダーの視線はゴーレムでなく、その遥か後方で、
「か、はっ……」
「……」
血反吐を吐きながらなんとか立とうとする貴族令嬢と、あまりの痛みに気を失っている僧侶に向けられていた。
「まってろ、ねえちゃんたち! 今、こいつをやっつけるからな!」
オールラウンダーの叫びに、店主の男の嘲る声が返ってくる。
「愚かな! やっつける、だと? 倒せるはずがあるまい! 例えお前が、化け物じみた力を持っていようがな!」
「やってみなけりゃわかんねぇさ!」
言うや、疾風の如く駆けたオールラウンダーは、ゴーレムの足元まで瞬く間に距離を詰め、
「だりゃっ!」
横殴りに、巨兵の右足を撃った。
たちまち拉(ひしゃ)げ、砕け散ったゴーレムの右足だったが、
「えっ!?」
飛び散った土くれが、瞬時にゴーレムの欠損部分へと結合していく。なんとも驚くべき再生力であった。
「だから言ったろう。倒せるはずがない、とな!」
店主が叫ぶや、復活した右足を以て、ゴーレムがオールラウンダーを蹴り上げた。
果たして蹴り上げたオールラウンダーを追いかけるようにして、ゴーレムが身を屈め、足の発条(バネ)の力を利用して跳躍する。
僅かに追い越したゴーレムは、組んだ両腕を振り下ろし、オールラウンダーを地面へ叩きつけた。
「ぎゃっ!」
二度、三度と地面を跳ねたオールラウンダーは、期せずして貴族令嬢たちの元へと戻って来た。
「ソ、ソンさん……」
鉛のように重たい体を引きずりながら、それでもなんとか起き上がった貴族令嬢が、オールラウンダーへと歩み寄る。
オールラウンダーもまた、
「ち、ちきしょう……」
呟きつつも、ゆっくりと立ち上がる。
……と。
二人の戦士の体が、淡い光に包まれた。
背後を見やると、息も絶え絶えの僧侶が杖を支えに、懸命に地母神へ奇跡の嘆願を行っていたのだ。
完全回復とまではいかないが、戦士たちは体が幾ばくか軽くなったのを感じた。
「よかった……」
力なく笑った僧侶が、ぐらりと倒れそうになるのへ、貴族令嬢が支えてやる。
「……大丈夫。気を失っているだけです」
心配するオールラウンダーへそう言った貴族令嬢は、僧侶の体を背に負い、
(どうする……?)
今も迫りくる強大な敵を見て、考えを巡らせた。
が、打開策が浮かんでこない。
僧侶はダウンし、奇跡は使えない。
血反吐吐く中で、ゴーレムの再生力の前には、オールラウンダーの膂力も無意味なことが分かった。
(どうする……? どうする……!?)
焦るあまりに考えの纏まらない貴族令嬢の横で、
「そうだっ!」
オールラウンダーが、
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