悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の三

 延々と続く階段を下り終えると、それまでの臭気漂う狭苦しい水路から一変し、床を大理石で埋め尽くした、開放感ある空間が一行の前に出現した。

 その天井も奥行きも、暗闇によって果てが見えないほどである。もしかすると、その高さは地上に至るほどまでかもしれない。

 かくして少し前を行った所では、酒場の店主と浮浪者……もとい、邪教の使徒二人組が、仁王立ちとなって冒険者たちを待ち構えていた。

 

「観念なさい!」

 

 空間にあるやもしれぬ罠を充分に警戒しつつ、貴族令嬢が叫んだ。

 すると、先までは慌てふためいていた二人の男どもは、にやりにやりと笑みを浮かべ、

 

「馬鹿め。追い詰められたのは貴様らの方よ」

 

 酒場の店主を偽っていた男が、不敵に言うや、ぱちりと指を鳴らした。

 途端、ぐらぐらと地面が揺れたかと思うや、白色の床が盛り上がり、これがうねうねと蠢いたかと思うや、やがて二足の巨兵へと変貌したのだ。

 

「やれっ! ゴーレム!」

 

 店主の叫びとともに、床石と粘土とで形成された巨兵……ゴーレムが、不気味に光る眼差しを貴族令嬢たちへ向け、その巨腕を振り下ろした。

 

「あぶねぇっ!」

 

 オールラウンダーが叫ぶと同時に、三名の冒険者たちはそれぞれ別の方角へ跳ぶ。

 何もない床を叩くだけに終わったゴーレムの一撃だが、それによって生じた衝撃波が、三方向へ散った冒険者たちを追いかける。

 

「やべっ!」

 

 オールラウンダーは着地と同時に再び床を蹴り、衝撃波が迫る前に上空へ舞い上がり、これを躱した。

 だが……。

 

「……あ、がぁっ!」

「あっ……うああっ……!」

 

 彼ほどの異常な身体能力を有していない貴族令嬢と僧侶は、まともにこれを喰らって、床に倒れ伏す。

 

「ねえちゃん!」

 

 宙に浮いたまま、貴族令嬢たちへと意識の逸れたオールラウンダーを、ゴーレムの巨腕が再び襲った。

 

「しまっ」

 

 叫ぶ間に殴り飛ばされたオールラウンダーは、そのまま白壁へと叩きつけられ、

 

「くっ……」

 

 しかし、すぐさま立ち上がることが出来たのは、流石であった。

 これを見たゴーレムは、ずんずんと地を揺らしながら迫ってくる。

 だが、オールラウンダーの視線はゴーレムでなく、その遥か後方で、

 

「か、はっ……」

「……」

 

 血反吐を吐きながらなんとか立とうとする貴族令嬢と、あまりの痛みに気を失っている僧侶に向けられていた。

 

「まってろ、ねえちゃんたち! 今、こいつをやっつけるからな!」

 

 オールラウンダーの叫びに、店主の男の嘲る声が返ってくる。

 

「愚かな! やっつける、だと? 倒せるはずがあるまい! 例えお前が、化け物じみた力を持っていようがな!」

「やってみなけりゃわかんねぇさ!」

 

 言うや、疾風の如く駆けたオールラウンダーは、ゴーレムの足元まで瞬く間に距離を詰め、

 

「だりゃっ!」

 

 横殴りに、巨兵の右足を撃った。

 たちまち拉(ひしゃ)げ、砕け散ったゴーレムの右足だったが、

 

「えっ!?」

 

 飛び散った土くれが、瞬時にゴーレムの欠損部分へと結合していく。なんとも驚くべき再生力であった。

 

「だから言ったろう。倒せるはずがない、とな!」

 

 店主が叫ぶや、復活した右足を以て、ゴーレムがオールラウンダーを蹴り上げた。

 果たして蹴り上げたオールラウンダーを追いかけるようにして、ゴーレムが身を屈め、足の発条(バネ)の力を利用して跳躍する。

 僅かに追い越したゴーレムは、組んだ両腕を振り下ろし、オールラウンダーを地面へ叩きつけた。

 

「ぎゃっ!」

 

 二度、三度と地面を跳ねたオールラウンダーは、期せずして貴族令嬢たちの元へと戻って来た。

 

「ソ、ソンさん……」

 

 鉛のように重たい体を引きずりながら、それでもなんとか起き上がった貴族令嬢が、オールラウンダーへと歩み寄る。

 オールラウンダーもまた、

 

「ち、ちきしょう……」

 

 呟きつつも、ゆっくりと立ち上がる。

 ……と。

 二人の戦士の体が、淡い光に包まれた。

 背後を見やると、息も絶え絶えの僧侶が杖を支えに、懸命に地母神へ奇跡の嘆願を行っていたのだ。

 完全回復とまではいかないが、戦士たちは体が幾ばくか軽くなったのを感じた。

 

「よかった……」

 

 力なく笑った僧侶が、ぐらりと倒れそうになるのへ、貴族令嬢が支えてやる。

 

「……大丈夫。気を失っているだけです」

 

 心配するオールラウンダーへそう言った貴族令嬢は、僧侶の体を背に負い、

 

(どうする……?)

 

 今も迫りくる強大な敵を見て、考えを巡らせた。

 が、打開策が浮かんでこない。

 僧侶はダウンし、奇跡は使えない。

 血反吐吐く中で、ゴーレムの再生力の前には、オールラウンダーの膂力も無意味なことが分かった。

 

(どうする……? どうする……!?)

 

 焦るあまりに考えの纏まらない貴族令嬢の横で、

 

「そうだっ!」

 

 オールラウンダーが、()()と手を打った。

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