悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の五

 それから暫くして。

 街の衛視たちを引き連れて戦場に駆け付けた圃人と森人は、その壮絶なる戦いの爪痕を目にして目を見開いたものの、くたびれ果てて床に胡坐をかいているオールラウンダーの姿を見て、

 

(ゴクウがやったんだ!)

 

 と、すぐさま大方の事情を呑み込んだようだった。

 かくして生き残りの邪教使徒は捕縛され、その場において簡単な尋問がなされた。

 オールラウンダーの規格外の強さを目の当たりにし、すっかり気力の失せた使徒は、意外なほど素直に尋問に応じた。

 それによれば、彼や酒場の店主は、十年前に剣の乙女とその一党によって滅ぼされた魔神の残党であり、件の酒場を街の潜伏先として、魔神の復活を目論んでいたらしい。

 魔神復活のためには多くの贄が必要となる。地下水道に蔓延るゴブリンは、それを収集するための尖兵であったのだ。

 しかし、一人だけ例外がいた。

 それは、路地裏で骸となって発見された侍祭の娘。あれは、剣の乙女への宣戦布告のために殺したものであった。

 

(なるほど)

 

 貴族令嬢は得心がいった。

 残酷だが臆病なゴブリンが、夜中とはいえわざわざ人の領域で殺人を犯すわけがないのだ。

 奴らは、巣の最奥へ得物を引き攫い、そこで充分に蹂躙を楽しんだ後に殺す。

 あわや自分たちも同じような末路を辿りそうになったからこそ、貴族令嬢は侍祭の娘殺害のやりくちに疑問を感じていたのだが、これでようやっとそれも晴れたようだった。

 だが、そうなると新たな疑問が浮かび上がる。

 剣の乙女は、侍祭の娘の殺害も、ゴブリンがやったものだと考えていたようだった。

 

(自分へ向けられた宣戦布告の印を、剣の乙女様は見逃していたということになる……)

 

 このことである。

 実際に対面してまだ日は浅いが、貴族令嬢は剣の乙女に対して、聡明だという印象を抱いていた。

 そんな彼女が、自分へ向けられた敵意をむざむざと見逃すものだろうか。かつては魔神を滅ぼした金等級の冒険者が、である。

 しかしながら、その疑問を否と片づけると、新たな問題が浮かび上がる。

 すなわち、剣の乙女は魔神の残党の暗躍を知りながらもその事実を伏せ、水の街で起こる事件の全てをゴブリンの仕業だと片付けてしまった……ということになるではないか。

 全貌を公表すれば、街の住民たちが混乱状態に包まれる……というのならば、話は分かる。

 しかし彼女は、たまたま法の神殿に出た貴族令嬢たちだけでなく、自分から指名したゴブリンスレイヤー一党にも、真実を伏せて依頼内容を話していた。

 これが、貴族令嬢にとっては気に入らなかった。

 冒険者である以上、行動の一つ一つに誠実さを示さなければならない。それなくば、ただの無頼漢と何ら変わりがなくなってしまうからだ。

 一方で、依頼者にも同じことが言える。

 冒険者の誠実な行動に対して、彼・彼女らも嘘偽りなく依頼内容を伝え、きっちりと報酬を払う必要がある。

 これがなければ、彼らは冒険者を「罠に嵌めた」ことになり、理由はどうあれ、その行いは祈らぬ者(ノンプレイヤー)とみなされても仕方がないからだ。

 まさかに、剣の乙女に悪意があったとは思えないが、

 

(これは、詳しいことを本人から聞いて、その真意を質さなくては……)

 

 貴族令嬢の決意は、ここに固まった。

 して……。

 だいたいの尋問が終わり、衛視によって連行されようとする邪教の使徒を、

 

「あっ、ちょっと待って」

 

 と圃人が呼び止めた。

 

「あんたたちが魔神を復活させようとして、その手先にゴブリンを選んだのは分かったよ。でも、どうやってあいつらをこの地下水道へ運んできたのさ?」

 

 圃人の問いに、もはや崇める神の復活が水泡に帰したことで抗う気の失せた邪教の使徒は、

 

「古代の遺物……《転移(ゲート)》の鏡を使った」

 

 ぼそりと呟くように答えた。

 

「《転移(ゲート)》の鏡……?」

 

 圃人の聞き返しに、こっくりと頷いた使徒は、

 

「ここからじゃ到達できないが、水の街の地下水道……それを更に奥へ行ったところに、地下墓地(カタコンベ)へと繋がる階段が隠されている。それを下って更に奥へ進めば、礼拝堂に出る。鏡は、そこで守られている」

 

 淡々と情報を提示した後に、やがて衛視たちによって、今度こそ連行されていった。

 これを見送った後で、

 

「《転移(ゲート)》の鏡……」

 

 圃人はそう呟き、オールラウンダーを見るや、

 

「ゴクウ! もしかしたら、ゴクウの世界に帰れるかもよ!」

 

 と手を握った。

 

「ほんとか?」

 

 オールラウンダーも、にんまりとして手を握り返す。

 貴族令嬢も、

 

(よかった……)

 

 と思う反面、剣の乙女への疑念を考えると、どうも心から笑うことは出来なかった。

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