悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の三

 法の神殿へ戻り、裏庭の井戸へ向かってみると、そこには先客がいた。

 ゴブリンスレイヤーの一党である、妖精弓手・鉱人道士・蜥蜴僧侶の三名である。

 

「なんじゃい。お前たちも今から探索か」

 

 鉱人道士が言うのへ頷いた後で、

 

「あの、ゴブリンスレイヤーさんたちは?」

 

 貴族令嬢は、不在であるゴブリンスレイヤーと女神官の行方を問うた。

 すると、鉱人道士はくつくつと笑った後で、

 

「二人仲良く、物買いよ」

 

 さも愉快気に言うのである。

 

「へぇ……」

 

 ()()()()()が大好きな圃人野伏が、これまたにやにやと笑って呟いた。

 しかし、彼女たちは知らなかった。

 昨日のうちに、その二名が重傷を負って神殿に担ぎ込まれて来たのを。

 幸いにして命を取り留めた二人が装備を整えている間に、この三名が地下水道の探索を担ったというわけである。

 その訳を貴族令嬢一党へ話さなかったのは、

 

(こやつらも、かみきり丸とは浅からぬ縁がある。今は二人も元気になったことだし、心配させるだけ損じゃとて)

 

 という鉱人道士の考えがあったからだ。

 

「時に……一昨日はご活躍でしたな」

 

 ぎょろり。大きな目をオールラウンダーへ向けた蜥蜴僧侶が、優しい笑みを浮かべてそう言った。

 邪教使徒捕縛の報せは、無論の事に彼らの耳にも入っている。

 ここだけの話だが、巨大なゴーレムを跡形もなく吹き飛ばしたことも。

 

「まぁ、あんただったらもう何をしても驚かないわよ」

 

 妖精弓手は呆れたように言った後で、

 

「でも……まさかあなたたちを嵌めようとしてた依頼者が邪教の一味だったとはね。なに? あなたたち、奴らに喧嘩を売るようなことでもしたの?」

 

 貴族令嬢へ尋ねた。

 貴族令嬢は首を振り、

 

「正直、誰でもよかったそうです」

 

 そう言い、ぽつりと語り始めた。

 実のところ、彼女は昨日のうちに、牢獄へ送られた邪教使徒を訪ね、そもそも何故に自分たちを罠に嵌めたのかを問いただしていた。

 使徒が言うことには、魔神復活の贄にしようとしたということらしい。

 初めこそ、ゴブリンを使役して娘を攫い、贄を集めていたのだが、これを剣の乙女が嗅ぎ付けて、街中を衛視と冒険者が巡回するようになった。

 

(これはいかぬ……)

 

 敵陣にて見つかったゴブリンが、冒険者たちに敵うわけもない。

 更なることには、どうやら地下水道には白き沼竜が潜んでいて、これもゴブリンどもを喰らっているという。

 そこで使徒たちが耳にしたのが、吟遊詩人のとある歌であった。

 それは「オールラウンダー」なる冒険者を歌ったもので、

 

「一度拳を振るえば人喰い鬼は弾け飛び、奇怪なる魔術を放てば山一つが消える」

 

 などという。

 

(これだ!)

 

 使徒に妙案が浮かんだ。

 歌の内容が多少の誇張を含んでいると考えても、歌の題材とするほどなのだから、それなりに実力はあるはず。

 そのオールラウンダーとやらが、沼竜とどっこいの実力とみて、

 

(上手くぶつければ、相打ちに出来る……)

 

 使徒はそう考えたのだ。

 更に嬉しいことには、そのオールラウンダーなる冒険者は女の仲間を四人も連れているという。

 男の冒険者ならその場で殺してしまうゴブリンだが、女ともなれば生きたまま巣に連れ込んでくる。

 邪魔な沼竜を排除しつつ、生きのいい贄が四人も手に入る。これ以上のことはあるまい。

 こうしたわけで、使徒はオールラウンダーへの指名依頼を送ったのだ。

 彼らの最大の誤算は、オールラウンダーの実力が吟遊詩人の歌う通りそのままだった……ということに尽きるだろう。

 

「なるほどねぇ」

 

 全てを聞き終えた妖精弓手は、ちらとオールラウンダーを見やって、

 

「そりゃ、ご愁傷様ね」

 

 邪教へ、さすがに同情の念を以てそう呟いた。

 話が一区切りしたところで、

 

「御一同も、今日はこちらで、小鬼どもの討伐をしてくださるのかな?」

 

 蜥蜴僧侶が、舌をチロチロと出しながら尋ねてきた。

 

「それもありますが……」

 

 貴族令嬢は、捕縛した際に邪教の使徒が言っていたことを、蜥蜴僧侶たちへ教えてやった。

 

「ふむ。異なる地へ繋がる鏡……」

 

 顎へ手をやり蜥蜴僧侶が呟いた後で、

 

「っていうか、この子が違う世界から来た……っていうのも初耳よ」

 

 妖精弓手が、その長くて鋭い耳をぴくりぴくりと動かしながら言った。

 その横で、

 

「となると、小僧と顔を合わせるのもこれが最後となるわけか」

 

 鉱人道士が、白くて長い髭を撫でつつ呟いた後で、

 

「かみきり丸や娘っ子には、そのことを?」

 

 尋ねたものだが、

 

「いってねぇ」

 

 彼は、はっきりと言った後で、

 

「別に、もうあえなくなるわけじゃねぇし」

 

 この言葉を聞き、

 

「あんたねぇ。こっちに来られる保証だってないじゃない」

 

 妖精弓手が呆れたように言ったものだが、

 

「その鏡ってやつを使えば、いつでもこれるじゃねぇか」

 

 そう言われると、後はもうなにも口から出てこない。

 かくして、話は終わった。

 

「ともすれば、今回はこの八名で地下水道を……共同戦線というわけですな」

「狭苦しい地下では、ちと騒がしすぎると思うがのう」

「いいんじゃないの? オルクボルグたちが休んでる間に、ぱぱっとオルクたちをやっつけて、驚かせちゃいましょうよ」

 

 ここに、貴族令嬢たち五名と妖精弓手たち三名とによる一時的な一党が出来上がったのである。

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