悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の一

「街は救われたからいいものの……小僧には災難だったわなぁ」

 

 円卓を囲んで向かい側に座った鉱人道士が、骨付き肉へかぶりつきながら言うのへ、

 

「なんでだ?」

 

 パンを頬張ったオールラウンダーが、不思議そうに首を傾げた。

 ここは、水の街の一隅にある酒場。

 街の水夫やら冒険者やらで賑わう店内の片隅で、オールラウンダーは鉱人道士や蜥蜴僧侶とともに、昼餉を共にしている。

 因みに言うと、ゴブリンスレイヤーは、

 

「確認したいことがある」

 

 と言って法の神殿へ留まり、女性陣は装飾品やら肌着やらを見たいということで、意気投合し街へ繰り出している。

 さて、酒場の様子へ話を戻そう。

 《転移(ゲート)》の鏡を目の前で失い、少しばかりは落ち込むであろうと思われたオールラウンダーは、相も変わらずケロリとしている。

 その様子を見て、鉱人道士は呆れを表す溜息を吐いた。

 

「お前なぁ。自分の住んでる土地へ戻れなくなったんだぞ?」

「また、巻物をさがせばいいじゃん」

「簡単に言うがなぁ……」

 

 果たしてこの様子を見ていた蜥蜴僧侶は、くつくつと笑いながら、

 

「武道家殿は、まるで空か海のように大らかな精神でありますなぁ」

 

 そう言って、少しばかり熱でとろけたチーズへかぶりつく。

 

「なんも考えてないだけかねぇか……?」

 

 ドワーフは訝し気な目をオールラウンダーへ向けつつ、火酒を煽った。

 その時である。

 

「よう」

 

 三人の座る席へ、そう言って声を掛けてきた者がいる。

 自他ともに『辺境最強』と認める槍遣いと、その仲間である魔女だった。

 

「あれ? おめえたちもこっちにきてたのか」

 

 パンを呑み込み、スープへ手を付けながら、オールラウンダーは意外な顔見知りの登場に顔を綻ばせる。

 

「ったく。無駄足もいいとこだったけどな」

 

 槍遣いは、ふんすと鼻息荒くして椅子に腰かけた。

 その隣へ、煙管を吹かした魔女も座る。

 

「なんじゃい。無駄足ってのは、どういうこった?」

 

 鉱人道士が自然に差し出したジョッキを、これも自然に受け取った槍遣いが、

 

「おたくらの頭目に、使い走りを頼まれたのさ」

「使い走りとな?」

「何に使うか知らねぇが、小麦粉を持ってきてくれ……だなんてよ。わざわざ手紙の配達まで依頼して、俺に言ってきやがった。んで、遠路はるばる来たと思ったら」

 

 今まさに語気が最高潮へ達しようとした槍遣いの言葉を、

 

「助かったが、今、使う、機会は、なくなった、ですって」

 

 魔女が、妖艶な笑みを浮かべて続けた。

 ぐぬぬ。言葉を奪われた槍遣いが、行き場のない怒りをどうにかして発散しようと、ジョッキに注がれた酒を飲み干す。

 

「小麦? はて、なんに使うのでありましょうや?」

「知らねぇよ。おたくの頭に聞いてくれ」

「ふむ」

 

 ふと湧いた疑問も、濃厚な味を奏でるチーズの前では泡のように、すぐ弾けてしまう。

 

「うむ。甘露、甘露」

 

 これを横目に見た鉱人道士が、

 

「ま、あいつが頼んだ以上、もう使わない……ってこたぁ無いだろうよ。お前さんが運んできた小麦やらも、いつかは使う時が来るだろうて」

 

 と慰めたが、

 

「水の街で、急ぎで使うからってんで、遠路はるばる来たんだ。それをよぅ……」

 

 槍遣いはがっくりと肩を落としたものである。

 

「ふふふ……」

 

 その様子をさも可笑し気に見やった後で、

 

「この、街でも、お手柄、だった、みたいね」

 

 魔女は、ゆったりとした口調でオールラウンダーへ話しかけてきた。

 ここまでの道中で、彼とその仲間が邪教の使徒を追い詰めたという話を聞いたのであろう。

 すると横にいた鉱人道士が、

 

「おまけに、混沌の眷属も単独(ソロ)で斃しちまった。街へ戻れば、また昇級するんじゃねぇか?」

 

 言うのへ、

 

「じゃあ、またメンセツってのをやるのか。オラ、あれニガテなんだよなぁ」

 

 オールラウンダーが眉を顰めてぼやく。

 これを聞いた鉱人道士は愉快気に笑い、

 

「面接なんてなぁ、『はい』と『いいえ』を繰り返して、適当に頷いときゃいいのさ」

 

 そう言って、火酒を一気に飲み干した。

 隣にいた蜥蜴僧侶が、そんな道士へぎょろりと目を向ける。

 

「術師殿。冒険者は誠実な態度と信頼が命。あまり適当を吹き込むのは感心しませんな」

「馬鹿。冗談だよ」

「武道家殿は純粋無垢の塊のようなお人。それへ冗談を吹き込むのは……」

「へいへい。気を付けるよ」

 

 こうして酒場での酒食と談笑が終わったのは、夜も更けようかという頃であった。

 やけ酒を飲んだ槍遣いはすっかり泥酔し、これを蜥蜴僧侶が背中へ負い、

 

「今日のところは、ご一緒に神殿へ参りましょうぞ」

 

 彼の誘いを受け、魔女も共に法の神殿へと赴いたのである。

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