小さな街に蔓延っていた邪教団が殲滅されてより五日後。
依頼の報告を終えた貴族令嬢たちへ、受付嬢が一枚の広告を差し出してきた。
「収穫祭特別企画……テンカイチブドウカイ?」
見慣れぬ単語に貴族令嬢が首を傾げる横で、
「天下一武道会!?」
驚きと喜びの大声を上げたのは、オールラウンダーであった。
受付嬢としては予想通りなのだろう。少年の反応を見て、優しく目を細めている。
「なんだ、そのテンカイチブドウカイとやらは」
耳をピクリと上下させ、森人魔術師が問うてくるのへ、
「すごくでっかい武道大会だ」
オールラウンダーが至極簡潔に説明してやった。
「……なるほど」
参考になったかならなかったか。ともかく森人魔術師は、それ以上の問いを諦めたようである。
さて、発言の流れは再び受付嬢に移る。
「収穫に対する感謝の念を神々へ送る一環として、オールラウンダーさんから前に聞いたテンカイチブドウカイのことを思い出したんです」
でも。
受付嬢は少しばかり困った顔をして、
「その……こちらで選出した八人の冒険者さんたちに出場してもらうはずだったのですが……殆どの人が、その……予定があるみたいで。選手がなかなか集まらないんです」
オールラウンダーに対して、申し訳なさそうに言ったものである。
『あぁ……』
少年を除いた一党の女性陣が、一様に頷いた。
依頼を終えて辺境の街に戻って来てから、ギルドへ往く道中だけでも、
「な、なぁ……お、お前は……その……収穫祭を見て廻ろうとは思わないのか?」
と、仲間の重戦士へ尋ねる女騎士であったり、
「馬鹿! お洒落をするとは言ったけど、祭祀の衣装は着ないってば!」
顔を赤らめ、見習聖女が新米戦士の背中を強く叩く姿を見ることが出来た。
なるほど。彼・彼女らが『冒険の仲間』から『親しき男女』として日常を楽しむことが出来る時間は、収穫祭以外にないのかもしれない。
その意図を無視して、
「武道大会を開くから出てくれ」
などとは、とても受付嬢からは言えなかったのであろう。
彼女もまた、浮足立っている冒険者たちの気持ちが分かる立場にあるからだ。
「まぁ、出てくれる人はいることにはいるんですが……」
受付嬢は、困ったように笑った後で、テンカイチブドウカイの出場者名簿を内緒で見せてくれた。
そこには、特別枠としてオールラウンダーの名前と、『辺境最強』である槍遣いの名前が記載されているのみ。
これも、貴族令嬢たちの中では得心がいった。
槍遣いが受付嬢に向ける好意が並々でないことは、傍から見ても分かるというもの。
おおかた、
「お嬢さんのためなら、この辺境最強の槍遣い、是非とも出場しますとも!」
などと、張り切って参加を申し出たに違いない。
「あと六人、か……」
出場者名簿へ暫く目を落としていた貴族令嬢は、やがて何かの決心をしたらしく、
「あの……私も、出場することは出来ますか?」
凛とした声で、武道大会への参加を表明した。
これを歓迎しない受付嬢ではない。
「はい、喜んで!」
いそいそと名簿に貴族令嬢の名を記したものの、それでもあと五人足りない。
どうしたものか。
悩みの沈黙を続けている一同へ、
「どうなされた」
と声を掛けてきたのは、蜥蜴僧侶。その後ろには、例によって鉱人道士と妖精弓手。そして珍しい組み合わせとして、槍遣いと魔女の姿もある。
実のところ彼ら、一党を組んでとある依頼をこなしてきたばかりなのであった。
「おっ。なんとか武道会のことか」
ひょいを受付の机を覗き込んだ槍遣いが言うのへ、
「ほう。武道大会とな」
蜥蜴僧侶の目が、ぎょろりと開かれる。
彼は、
「失礼」
と一言置いてから、貴族令嬢が持っていた広告を受け取り、目を通した後で、
「ふむ。己の肉体一つを以て、真に強きものを決める……というわけですな」
興味深そうに呟いた。
かと思うや、まるで勝鬨を上げるように、
「しからば、拙僧も出場させていただこう!」
大声と共に、力強く拳を天へ突きあげた。
僧侶職とはいえ、生粋の戦士である蜥蜴人。天下一の強者を決めるとあらば、黙っていられないのだろう。
これで、後四人。
「なぁ、スッチャンは……」
オールラウンダーが、候補者の一人の名を上げたものだが、
「あいつは出んだろうよ」
鉱人道士に一蹴されてしまう。
因みに言うと、彼や妖精弓手、森人魔術師も出場するつもりはない。
これが単なる武道大会ならば別やも知れぬが、
「戦いを神々に献上する」
という開催理由が、
「神々と共にある」
の精神である鉱人や森人にとって、解釈違いとなっているからだ。
彼らは神々を尊んではいるが、やたらと崇めることをしないのである。
ともあれ、あと四人。
「じゃあ、オトメのねえちゃんは?」
水の街における英雄の名前を口にしたオールラウンダーへ、
「もっと難しいですよ……」
呆れ果てるように、貴族令嬢がツッコミを入れる。
そこへ、圃人野伏が思い出したように、
「ねぇ、ゴクウ。あの娘は?」
と言い出した。
「へ? 誰?」
「ほら。ゴクウが最初の冒険で一緒だったっていう、武闘家の女の子」
その娘には、貴族令嬢も覚えがあった。
春における、ゴブリンの大軍からの牧場防衛戦。
貴族令嬢は、例の女武闘家と若い剣士を引き連れ、ともに死線を潜り抜けたのである。
なるほど。彼女ならば、『武道大会』にはうってつけかもしれない。
聞けば、このところは己で考え出したオリジナルの鍛錬方法に精を出しているらしいではないか。
銀等級の槍遣いや、規格外のオールラウンダーがいるために、優勝こそ難しいかもしれないが、神々へ献上するに値する試合をしてくれることは確かである。
「そっか! じゃ、オラたしかめてくる!」
言うが早いか、オールラウンダーは疾風の如くギルドを飛び出してしまった。
「あいつ、その娘がどこにいるか分かってるのかね」
槍遣いが、ぽりぽりと頭を掻きながら呟いた。
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