真っ直ぐにギルドの裏手に出たオールラウンダーは、果たしてお目当ての人物を見つけた。
訓練場にて、剣士の投げた小石を軽い身のこなしで躱す、女武闘家。
オールラウンダーの接近に気が付いたのは彼女ではなく、同じ一党の女魔術師であった。
「ソンが来たわ」
それまで読んでいた魔導書を閉じ、女魔術師が静かに言うと、剣士と武闘家が動きを止める。
「ゴクウ!」
「久しぶりだな!」
「へへっ。おっす!」
と挨拶もそこそこに、オールラウンダーは早速本題を持ち出した。
「なぁ、おめえ。天下一武道会に出場しねぇか?」
唐突にオールラウンダーから切り出された女武闘家は、
「テ、テンカイチブドウカイ……?」
聞き慣れぬ単語に戸惑った様子であったが、
「天下で一番つええ奴を決める大会なんだ。受付のねえちゃんが、シューカクサイとかいう祭りで開いてくれるんだと」
という説明を受ければ、その目も輝きに溢れるというもの。
「天下で一番強い奴……」
その響きに、女武闘家は武者震いが止まらなかった。
無論にこれは、自分が天下一を勝ち取った未来の姿を想像して舞い上がっているわけではない。
収穫祭の一部企画とはいえ、集う強者たち……とりわけ、秘かに待ち望んでいたオールラウンダーとの試合が実現できるかもしれない、という可能性を見出して、心が弾んで仕方がなかったのだ。
かくして、
「でるだろ?」
オールラウンダーの誘いに、
「もちろん!」
女武闘家は力強く頷いた。
これで、あと三人。
「おめえたちはどうする?」
オールラウンダーは、剣士と魔術師も誘ってみたが、
「お、俺は見物してるよ。正直、ゴクウたちと戦える自信ないし」
「私も。そもそもが魔術専門だし。肉弾戦なんて不利でしかないもの」
二人は参加をパス。
さて、残りをどうするかというところで、
「げっ、オールラウンダー……」
ばつの悪そうな声とともに近づいてきたのは、無精ひげを蓄えた、戦斧装備の中年男。
その首からは、銅の認識票がぶら下がっている。
「おめえ……だれ?」
オールラウンダーがきょとんとして誰何するのへ、青筋浮かべつつ、がくりと崩れ落ちそうになった男は、
「俺だよ、俺! いつかてめぇと食べ比べをして負けた……」
「あぁ」
さして興味もなさそうに、オールラウンダーは思い出した。
オールラウンダーと食べ比べをして、完膚なきまでに敗北した銅等級の冒険者。
負けた罰として六十人前の食事代を一人で払う羽目になり、それが出来ぬ罰として、借金の返済が完了するまでの間、冒険で得た報酬を全てギルドに献上することになった銅等級の冒険者。
新米冒険者たちがドブさらいや巨大鼠退治へ本格的に取り組むようになった、陰の立役者とも呼べる存在だ。
依然として、彼の借金は返済されずにいる。
(このままじゃ、とても返しきれない……)
というところで組合から提案されたのは、
「新人の教育係というのはどうでしょう」
これであった。
こうして、銅等級は若き剣士一党を引き連れ、冒険に出ているというわけ。
依頼達成の報酬に加え、
「教育料」
ということでボーナスも発生し、以前よりは借金の返済がスムーズになっていた。
銅等級にとって、決して悪くはない話だったのだ。
さて……。
そんな銅等級へ、
「先生! 先生も、テンカイチブドウカイに出てみてくださいよ!」
と提案したのは、鉢巻の剣士。その横で、女武闘家も「うんうん」と頷いている。
「なんだ、そりゃ?」
首を傾げた銅等級は、剣士たちから概要を聞くや、
「冗談じゃねえ」
呆れたように首を振る。
「辺境最強だったりオールラウンダーだったりが出るんだろ? おまけに武器も駄目とくりゃ、俺が勝てる見込みがねぇだろ」
そこへ、
「この子に負けるのが怖いんじゃ?」
女魔術師が、武闘家を顎でしゃくって見せた。
銅等級はすぐさま反応し、
「んなこたぁねぇよ!」
茹蛸のように赤くなり、
「上等だ。指導してる娘っ子に負けて堪るもんかえ。おい、オールラウンダー。俺も出るぜ」
武道大会開催に必要な人員。これを拒むオールラウンダーではない。
「よしっ! あと二人だ!」
兎も角、新たな二人の参加選手を伝えようとギルドへ戻ってみると、
「そうですか。これで開催決定ですね!」
受付嬢が、表情を明るくした。
「へ? あと二人たんねぇんだろ?」
ぽかんとするオールラウンダーへ、貴族令嬢が事情を聞かせてやる。
オールラウンダーが女武闘家を誘いに行っていた頃、ギルドへ二人の冒険者が訪れた。
二人とも、外套をすっぽりと覆って詳しい身なりは分からなかったが、
「片方は、私と同じ背丈だったよ」
圃人野伏が言うのだから、一人の外套は圃人と見て間違いないだろう。
して、その二人はロビーで残りの参加選手について悩む受付嬢たちへ、
「ほう。面白い催しをしているのですね」
ずいと近寄るや、
「他方から来た者でも、参加できるものでしょうか?」
と尋ねてきた。
これを逃さぬ手はない。
「はいっ!」
受付嬢が頷くのへ、
「きっと、面白いですよ!」
オールラウンダーの楽しみを実現させてやりたいと、貴族令嬢が援護する。
彼女たちの熱意が伝わったものか。
「では、参加しましょう」
二人の外套は、首から下げた鋼鉄の認識票をそれぞれ差し出した。
これを参加者名簿へしたためた受付嬢が、
「是非、お待ちしております!」
と言うのへ、
「こいつも、楽しみだと申しておりますよ」
外套の片方が、小さい相方の頭へ手を置きながら応え、やがてギルドを後にしたという。
「ふぅん」
これを聞いたオールラウンダーは、一つ頷いた後で、
「でも、これで決まりだな!」
眩しく笑って見せた。
「拙僧、武道家殿と拳を交えるのは初めて故、楽しみ、楽しみ」
蜥蜴僧侶が、にんまりと笑って舌を出し入れするのへ、
「オラだって、楽しみだ」
オールラウンダーが応え、
「おいおい。俺とやるのは楽しみじゃねぇのかよ」
槍遣いが割って入ると、
「んなことねぇよ。オラ、なんだかワクワクしてきてんだ!」
間近に迫った武道大会に思いを馳せ、声を弾ませた。
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