無事に準決勝戦へ進出する選手も決まり、さて昼食と休憩を兼ねたインターバルへ移ろうかという時に、
「大会の中止を検討した方が良いのでは?」
組合の方で、そのような提案が浮かび上がった。
尤もな事である。
先の第四試合において、辺境の街を追われたはずの圃人斥候が、自身の審査に立ち会ったギルド職員と冒険者の復讐を企てていたことが判明したのだ。
とするならば、圃人斥候と共にいたもう一方の外套冒険者も、同じような思惑をもって動いているとみて良い。
しかし、奴めはすでに会場から姿を消し、依然として行方が掴めていない。
「ゴクウ。あいつの臭い、分からないの?」
こちらは貴族令嬢の一党で、やましいところなど一つもない圃人野伏がオールラウンダーへ尋ねてみたが、
「そんなに気にしてなかったからなぁ……」
ということで、結局は手がかりを掴めなかった。
ところが、である。
「いえ。大会は続けましょう」
そう言い出たのは、なんと復讐対象に含まれている監督官本人であった。
彼女は、午後の闘いへ駒を進めた四人の選手をぐるりと見た後で、
「彼らの目的の一人が私なら、ここで大会を進行していれば必ず戻ってくるはず。そこを捕えましょう」
「しかし、奴めは我らの顔を知っているが、我らは奴めの顔を知らぬ。奇襲の優位性はあちらにありますぞ。相手もまさかに、拳一つで乗り込んでくるわけでもあるまいに……」
蜥蜴僧侶が顎を撫しつつ言うのへ、
「それなら、お任せください!」
張り切って申し出たのは、令嬢一党の只人僧侶。
「私の《
「……なるほど。あえて遠方からの攻撃を誘発し、その軌道から位置を割り出す……」
ふむ。一息ついた蜥蜴僧侶は、ちらと監督官へ視線を向け、
「危険な目に遭わせてしまいますが、信用してくださいますかな?」
問うた。
監督官はにんまりとして、
「勿論。冒険者さんたちは信頼が商売道具。それを信じないで、ギルドの職員なんて務まりません」
堂々と答えた。
かくして、方向性は決まった。
午後からの試合も予定通りに開催し、その上で奇襲者をおびき寄せる。
だが、何も相手の狙いは監督官だけではあるまい。
圃人斥候の審査には、受付嬢とゴブリンスレイヤーも立ち会っている。
「それはこっちに任せて」
無い胸を張って申し出たのは、妖精弓手。
彼女は長くて鋭い耳をひょこひょこと上下させ、
「オルクボルグと受付の子は、午後からデートすることになってるの。見張るなら丁度いいわ」
何やら楽しそうに、鼻息を一つして見せた。
横にいた鉱人道士が、
「お前。あいつらの逢引の様子を見たいだけなんじゃねぇのか?」
呆れた目つきで言う。
これへ妖精弓手は、
「何よ。文句あるの? こっちは命を守ってやるのよ。デートの様子くらい見たって罰は当たらないわよ」
むしろ開き直って言ったものである。
しかし、流石に妖精弓手と鉱人道士だけでは手が足りぬ。
そこで、ゴブリンスレイヤーと受付嬢の秘かなお守りに、令嬢一党の森人魔術師と、女武闘家の同郷である若き剣士も参加することとなった。
因みに言うと、剣士一党の女魔術師は会場に残っての警戒と護衛役。
「私だって、補助魔法の一つや二つ持ってるのよ」
彼女は眼鏡をくいと上げ、得意げに言ったものである。
「では、昼食と休憩を挟んで午後の部へ……と言いたいところなんですが……」
監督官は、ちらと舞台上を見やった。
白石を敷き詰めた床の一部が、見事に砕けて欠損している。
先の試合でオールラウンダーが放った「かめはめ波」による被害だ。
「舞台の修復に時間がかかりそうなので、ちょっと長めに休憩を取りましょうか」
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