壊れた武舞台を修復するのは、鉱人道士の仕事となった。
「なぁに。腕利きの大工の様にはいかんがな。元に戻すくらいなら、訳もねぇ事さ」
そういうことらしい。
だが、舞台の修繕を待った上でゴブリンスレイヤーと受付嬢の護衛には行けないということで、妖精弓手は代わりに圃人野伏を連れていくことにした。
「一党の斥候役が二人もいるんだもの。人混みに紛れて奇襲しようにも、上手くいかないわよ」
と、妖精弓手は自信満々たる態度で言ったものである。
圃人野伏もまた、
「同族のせいで、圃人全体に悪い印象を持たれても困るからね。ここは一丁、名誉挽回、汚名返上のために働いちゃうよ」
にんまりと笑い、腕を捲る仕草を見せた。
勿論の事だが、この快活なる圃人の少女を疑いの目で見る者など、この場にはいない。
かといって、同情や憐みの目を向ける者もいない。
ただただ、『頼もしい圃人の斥候』なのである。
さて……。
妖精弓手たちが会場を離れると、後に残るは舞台の修復に励む鉱人道士の他に、ギルドの監督官と、その護衛役である四人の只人。すなわち僧侶と令嬢、魔術師に魔女。そして、準決勝へと駒を進めた四人の戦士たち。
「小鬼殺し殿たちは、すでに人混みの中かと思われる故に仕方もないが、こちらはうかうかと祭りの渦中に飛び込むわけにも参りますまい。ちと寂しいが、この会場で昼食としましょうか」
蜥蜴僧侶の提案に反対意見はなかったが、
「それでも、年に一度の収穫祭だ。成人迎えたばかりのガキどもは祭り見物に行ってもいいんだぜ」
槍使いが、一応は気を利かせたつもりで言ってみた。
これに、女魔術師と女武闘家は「子ども扱いするな」と膨れてみせたものだが、
「オラ、どんなメシがあるかみてくる」
オールラウンダーだけは、硬貨の詰まった革袋を貴族令嬢から受け取るや、出店の並ぶ街の中へと繰り出していった。
冒険者。街の住民。祭り目的の観光客。通りすがりの冒険者。多種多様な人々が行き交う街の中に、多種多様な食べ物の匂いが漂っている。
さて、どれから手をつけようか。
迷い、きょろきょろと出店を見比べていたオールラウンダーの視線に、見知った人影。
「あっ。牧場のねえちゃん!」
声を掛けて駆け寄ってみると、果たして人影……牛飼娘は、
「あっ。オールラウンダーさん!」
弾けんばかりの笑顔を以て、彼を迎えた。
「なんだ。今日はハデな服きてるんだな」
オールラウンダーが言うように、牛飼娘はいつもの作業着ではなく、鮮やかな青に染められたドレスと、大きなリボンのついた鍔の広い帽子という、ともすればどこかの令嬢のような出で立ちであった。
「そういうオールラウンダーさんは、いつもの格好なんだね」
「うん。武道大会があるからな」
「ブドウタイカイ……?」
「うん。天下一武道会。天下で一番つええやつをきめる大会」
「へぇ」
自然に、並んで歩きながら言葉を交わす二人。
そこへ、竜の鳴き声の如きオールラウンダーの腹の音。
「いけね。昼メシ食いにきたんだった」
すっかりへこんだ腹を擦りながらオールラウンダーが言うのへ、くすりと笑った牛飼娘は、
「それだったら、私が美味しいお店いろいろ教えてあげるよ」
そう言って、ぐいと少年の手を引く。
少年もまた、遠慮することなく、
「サンキュー」
と応えた。
(彼だって、今頃は受付さんと一緒だもんね。……それに、これはデートじゃないし。多分)
牛飼娘は、心の中でそんなことを呟き、茶目っ気たっぷりに舌を出した。
清楚なドレス姿の娘と、それに手を引かれる道着姿の少年。果たして彼らの姿が、他の者たちからどう映ったものか。
ともかく二人は、様々な店を見て廻った。
串に刺した林檎へ、水飴を絡めた菓子。
川魚を塩焼きにしたもの。
店主曰く、「遥か遠方より取り寄せた」という、不思議な形と模様をした果実。
どこかの飯屋の親仁が、「時間内に完食できたらお代無用」とする豚の姿焼きも、オールラウンダーにかかれば「あっ……」と言う間に胃袋の中。
「ほんと、よく食べるね」
顔を綻ばせる牛飼娘へ、
「へへ」
オールラウンダーは、頬に肉の欠片をつけたまま、笑い返す。
さて、次はどの店を見ようか。
『彼』との祭り見物が終わってから、少しずつ晴れていった胸のもやもや。
笑顔戻りつつあった牛飼娘の悲鳴が、賑わう街中へ木霊したのは、あまりにも突然のことであった。
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