街の人達の想いが。気持ちが。暖かな光となって満ちている世界。
その中で、黒く渦を巻いた嵐が、だんだんと人の形を作っていく。
……いや、やっぱり前言撤回。人って、あんな横からわらわらと腕が突き出るような姿してないもん。なに、あれ? ムカデ人間? でも、ムカデだって足は百本だって聞くよ? どうみたってあのでっかいの、手が千本は生えてるんだけど……。
「あれが
いや、説明はありがたいんだけどさ。なんで冷静でいられるわけ? っていうか名前を付けた人もさ、手抜きしちゃだめだよ。いくら数えるのが面倒だからって。百本と千本の違いは目に見えて分かるでしょ?
なんなの? あの託宣ってば、実は混沌側の神さまのお告げだったりするわけ? だよね? どうみたってボクを殺す勢いの化け物だもんね?
……まぁ、深く考えても仕方ないや。こうして
ボクの右手には、魂で繋がった聖剣がある。そして、隣には二人の頼もしい仲間がいる。負ける気がしない理由は、それだけで充分。こんな優しい光でいっぱいになってるあの街を、こんなデカブツに滅茶苦茶にさせるわけにはいかない。
一つ息を深く吸って、吐く。
さぁ、いくぞ。戦いにおいて最も大事なのは、口上だ。それをきっちり決めないと、なんか力入らないし。
「勇者、推さ――」
その時だった。
また、新しい黒い竜巻。それが、ボクとデカブツとの間に割って入る。
やっぱり竜巻は人の形を成していくんだけど……いや、さっきから「人の形」って言ってる割には、二足歩行なとこが同じなだけで、背丈は全く違う。新手の奴は、デカブツと同じくらいデカブツだった。
「語彙力貧弱」
うるさいよ、さっきから! この世界嫌い! ボクの思ってること、みんなに筒抜けなんだもん。
……で、新しい方のデカブツは、やっぱり人間じゃなかった。
猿だよ、猿。でっかい猿の化け物。毛むくじゃらで、目を真っ赤にして。それであのムカデのデカブツを睨みつけてる。
「ムカデじゃなくて、
いちいち突っ込まなくてもよくない? ってか、なんでみんなそんなに冷静なの? 見たところお友達にはなってくれなさそうななのがもう一匹増えたんだけど。
そうこうしているうちに、猿の化け物が鳴いた。魂だけのこの状態でも、なんだか肉体がぶるぶる震える感覚がする。……ちょっとちびっちゃったかも。
まぁ、そんなことはどうでもよくて。まるで今ボクがしようとしてた口上みたいに、一鳴きした猿の怪物が、ぽっかりと口を開いた。
初めはボク、あの猿がムカデ巨人を食べようとしてるのかと思った。でも違った。
猿の口に、光が集まってく。この世界の光とはまた違う、どこか怖い感じのする光。
それが、ムカデのデカブツに向かって飛んだ。《
前にも見たことがある。
魔神と戦おうとした時、どこからともなく現れた不思議な二人組。片っぽは背の高くて、やたら頭のよさそうなゴブリン。もう片っぽが、ボクより一回り背の低い、針鼠みたいな髪型をした男の子。
その男の子が、
「
とか言ってぶっ放してたっけ。
光の大砲は、あっという間にデカブツを呑み込んで、綺麗さっぱり消しちゃった。
いつもクールぶってる賢者ちゃんも、流石にこれにはびっくりしたみたいで、口をパクパクしてる。
ボクだって、同じ気分だよ。あのデカブツをやっつけてくれたのはいいけど、この大猿もボクたちの敵になりそうだし。
そう思ってると、ゆっくりゆっくり猿がこっちを振り向いた。
なんだろう。さっきのムカデデカブツは行ける感じがしたけど、このおっきな猿は分からない。
そもそもこいつ、聖剣の
それでも逃げるわけにはいかない。さっきの奴を簡単に斃した化け物なんだ。こんな奴があの街へ降り立ったら、それこそ一巻の終わり。
改めて剣を構えた時、また猿が吼えた。……あ、だめ。完全にちびった。
……と思ったら、猿が動きを止めて、わなわなと体を震わせる。
やがて体がどんどん小さくなって、それと同時に光の粒に変わっていって……。ついにはどっかへ消えちゃった。
「な、なんなのでしょう……。今のは……」
ボクに聞かれても、分かるわけがない。とにかく、現世に戻らなきゃ! あの猿の怪物が街へ降り立ったらヤバいことになる!
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